Googleが独占禁止法違反で提訴されたのはなぜ?反トラスト法違反の疑いとは
2020年10月、Googleが反トラスト法(独占禁止法)で提訴されました。論点は、『検索と広告市場における、地位と規模を利用した公正な競争の妨害』です。
本記事では、いまや私たちの生活に欠かせないサービスを提供するGoogleが、なぜ提訴されるに至ったのか、その背景を深掘りしていきます。また、提訴に対してのGoogle側の主張や、世界に与える影響についても考察します。
Contents
Googleが反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いで提訴された
2020年10月20日、米司法省と11州が、反トラスト法違反の疑いで米Googleを提訴しました。さらに12月16日には10州の司法長官が、翌日17日には38州のアメリカ司法長官が提訴に踏み切り、2021年1月現在までに3件の訴訟が発生しています。なお、反トラスト法での大型訴訟は、1998年に起きたMicrosoft事例以来となります。
訴訟が3件に分かれたのは、Googleの独占が複数市場に渡っていることが理由とされています。
- ネット検索
- 検索連動型広告
- 非検索連動型広告
この各市場における独占状態を指摘するために、訴訟を3件に分けているのです。
Google側は訴えを全面否定
訴訟の核となるのは、Googleが金銭の授受や交渉などの反競争的行為により、検索市場の独占状態を維持、競合検索エンジンの介入・定着阻止を図っているとされている点です。Google側はこの訴えを全面否定しており、「Googleが現在の地位を確保しているのは、ひとえに消費者に好まれているから」と説明しています。
政治介入・米大統領選との関わりとの憶測も
Googleの悪を暴いているようにも見える今回の訴訟ですが、反トラスト法は過去に政治的圧力を受けてきた背景があることから、今回も政治的な思惑がないとは言い切れません。実際に、直前には米大統領選挙があったこと、そして10月の提訴で名乗りを上げた司法長官が共和党系ばかりであることが指摘されています。
政治的得点を稼ぐためにふっかけられた訴訟なのではないかという憶測まで飛び交うほどに、全米が注視する大きなニューストピックスとなっています。
反トラスト法(独占禁止法)とは
反トラスト法は、単一の法律ではなく、主にシャーマン法・クレイトン法・連邦取引委員会法の3つの法律および修正法から構成されている法律の総称で、巨大独占企業を制限して、自由主義経済を維持することを目的としています。
いわゆる「アメリカ版の独占禁止法」という位置づけになります。
米司法省が問題視している点
今回の3つに分かれた訴訟では、それぞれ以下の問題点が指摘されています。
- 一般検索の独占により他検索エンジンの定着を阻む行為
- 垂直統合型検索ビジネスを冷遇しGoogle検索を促す
- デジタル広告(非検索連動型広告)の独占
論点となっているのは、Googleによる多くのデバイスにおける検索エンジン設定への介入や、アルゴリズム変更による恣意的な順位操作、広告事業の独占による手数料の搾取などです。
一般検索の独占により他検索エンジンの定着を阻む行為
GoogleはAppleなどの企業側に年間数千億ドルを支払い、PCやスマートフォンなどのデバイスにおいて、自社の検索エンジンを標準装備するように促していると指摘されています。
検索エンジン市場のシェアを抑えることができれば、検索広告からの売り上げをたやすく独占できるようになります。一方、Googleと同額もしくはそれ以上の金額を支払えない他企業の参入は容易ではなくなり、結果的にGoogleの独壇場という形にマーケットが固定化されるのです。
Googleは意図的にこの構造を作り出しているのではないかと訴えられています。
垂直統合型検索ビジネスを冷遇しGoogle検索させようとすること
2つ目は、例えば旅行検索・比較サイトの「Kayak」などのローカルビジネス、「垂直統合型検索ビジネス」ともいわれるサイトやアプリに、ユーザーが訪問しないように仕向けているという疑いです。
Google検索では、Google独自のアルゴリズムによって検索結果の順位が変動します。このアルゴリズムは定期的に変更され、変更内容に沿って検索結果の順位もアップデートされる仕組みです。Googleはこの仕組みを利用して、垂直統合型検索サイトやアプリを検索上位から除外していると申し立てられています。
検索結果の順位によって、サイトへの流入数は天と地ほども違ってきます。検索結果で1位に表示されるサイトには多くのユーザーが来訪する反面、Googleで上位表示されないサイトは存在しないサイト同然に追いやられるといって過言ではなく、中小企業への集客がままならないといった現象が指摘されています。
デジタル広告(非検索連動型広告)の独占
3つ目は、デジタル広告供給の一連の流れにおける複数要素の90%以上をGoogleが占めているとされる点です。そしてGoogleは独占状態を背景に、広告主や広告出稿者に対してアンフェアな条件を提示していると言われているのです。
これによりGoogleは広告事業の報酬を過剰搾取しているのではないか?と提訴されています。
Google側の主張
Google側は3つの訴訟に対して、「司法省の訴えには重大な欠点がある」と、否定の意を示しています。
ユーザーは自ら選んでGoogleを使用している
「一般検索の独占により他検索エンジンの定着を阻む行為」に対して、Googleは「検索エンジンは容易に変更できるため、標準設定はユーザーに使用を強制しているわけではない」ことを主張しています。容易に変更可能な点を踏まえ、「ユーザーは自らGoogleを選んでいる」こと、「企業間で交わした取り決めには何の違法性もない」ことを強調しています。
関連性の高い検索結果を得られるようにしている
「垂直統合型検索ビジネスを冷遇しGoogle検索させようとすること」に対しては、「ユーザーを第一に考えた結果」だと主張しています。また、クリックひとつでAmazonやエクスペディアなどのサイトへも遷移できる事実を指摘。小売店や飲食店など、ローカルビジネスの集客にも良い影響を与えていると説明しています。
また、定期的なアルゴリズム変更については、「Googleの利便性向上を図り、ユーザーニーズに対してより関連性の高い検索結果を表示すること」を目的としていることから、垂直統合型検索ビジネスを冷遇する意図はないと否定しています。
Googleが広告市場を独占している訳ではない
デジタル広告の独占については、「広告分野は競争が盛んな状態が続いており、Googleは市場を独占していない」と主張。また、広告費・広告手数料は過去10年間下落しているとして、「Googleが得ている手数料は業界の平均以下」ということも述べています。
Googleが独占禁止法で提訴されたことの影響
Googleが提訴されたことによる影響は、IT業界はもちろんのこと、他企業の動向、そして株価にまで、広範におよぶと考えられています。
実際、20年前のMicrosoftへの反トラスト法訴訟の影響は大きく、敗訴が決まってからは、「株価の暴落」「GAFA台頭のきっかけ」となった経緯があります。今回も裁判の行方によって、業界や株価に与えるインパクトは大きく変わってくるでしょう。
世界や日本などへの影響
日本でも巨大IT企業への規制強化法案が2020年5月に可決・成立するなど法整備の動きが見られており、国内外のIT業界全体に大きな影響をもたらすことが予想されます。
一方で、巨大企業が消費者の生活や中小企業にポジティブな影響を与えていること、また規制によってデジタル業界のイノベーションが停滞することなどを考慮して、過度な規制強化は望ましくないといった意見も見られます。
また、Googleの株価(※alphabetの株価)の顕著な下落傾向は現時点では見られていませんが、裁判の勝敗によって大きく変動していく可能性も考えられます。今回の訴訟は、対象がOSと検索エンジンという違いはあるものの、Microsoftの訴訟と類似点が多いからです。
MicrosoftはWindowsOSの販売が世界的に好調だったことから、提訴された当初は、株価は下がるどころか上昇していました。しかし敗訴が決まると一転して株価は暴落。最終的に和解をして、事業分割を逃れましたが、株価は下げ止まりすることとなりました。
このMicrosoftの敗訴がGAFAの台頭を招く結果になったとも言われており、Googleが敗訴することがあれば、それをきっかけに次世代IT企業が頭角を現す可能性も考えられます。そうなれば、これまでGoogleに右に倣えの体制だった世界中のIT企業にも、大きな変革をもたらすことになるでしょう。
参考:中国版GAFA「BATH」とは?米国企業を脅かす新勢力の実態と成長理由
Google以外の他企業への影響
アメリカ司法省は、GoogleだけでなくApple、Amazon、Facebookにも同時に調査のメスを入れています。独占状態を指摘する報告書も発表しており、Googleが先だって提訴されている状態です。
なお、今回の訴訟は、双方の証拠等開示手続きが2022年3月に完了、審理開始は2023年9月と予定されており、裁判は長期化する見込みです。 仮にGoogleの敗訴となれば、のちに続く裁判において甚大なプレッシャーを受けることになるでしょう。
- 2020年10月から2021年1月までにGoogleは反トラスト法違反で3件の訴訟を起こされている
- 反トラスト法とは、「シャーマン法」「クレイトン法」「連邦取引委員会法」の3法からなる「独占禁止法」のこと
- 今回の訴えの背景にはアメリカ大統領選での政治的な駆け引きも噂されている
- 争点は、検索・広告市場における「自社優遇」
- Google側は全ての訴えを否定している
- 裁判の行方によって、株価や他企業に大きな影響を与えると考えられる