中国版GAFA「BATH」とは?企業規模を比較|GAFAMを脅かす新勢力の実態と成長理由
昨今、中国版GAFAとして注目を集める「BATH」(読み方:バス)は、世界を牽引するアメリカの巨大IT企業に迫る勢いで破竹の急成長を遂げています。一昔前の中国企業にあった「模倣型ビジネス」のイメージを感じさせないBATHの存在は、これからのIT業界をどのように変えていくのでしょうか?
「GAFAの次に来るもの」といわれるBATHの躍進の背景について解説するとともに、今後のGAFAとBATHの関係性について考察していきます。
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GAFAの中国版といわれる“BATH”
GAFA(ガーファ)とは、アメリカの巨大IT企業の頭文字を取った造語です。
「G」はGoogle、「A」はApple、「F」はFacebook(現:Meta)、「A」はAmazon。このGAFA4社の合計時価総額はGDP世界4位のドイツをも上回る規模となっており、圧倒的な資金力を保持しています。米国のビッグテック企業の総称としても用いられており、Microsoftを加えて「GAFAM」と括られることもあります。
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こうしたアメリカの巨大IT企業に追いつく勢いで急成長を遂げているのが「中国版GAFA」ともよばれる「BATH」(バス)です。BATHも同じく、中国の巨大IT企業の頭文字を取った造語となっています。
- B:バイドゥ(Baidu/百度)
- A:アリババ(Alibaba/阿里巴巴)
- T:テンセント(Tencent/騰訊)
- H:ファーウェイ(HUAWEI/華為)
2020年11月末時点の世界時価総額ランキングでは、アリババ・テンセントともにGAFAに迫るスコアとなり、BATH4社の時価総額の合計は1兆6642億ドルにのぼります。
企業名 | 主要サービス | 時価総額 |
---|---|---|
検索エンジン | 1兆1676億ドル | |
Apple | デバイス販売 | 2兆1958億ドル |
SNS | 7872億ドル | |
Amazon | ECサイト | 1兆6064億ドル |
企業名 | 主要サービス | 時価総額 |
---|---|---|
バイドゥ | 検索エンジン | 657億ドル |
アリババ | ECサイト | 7136億ドル |
テンセント | SNS | 7172億ドル |
ファーウェイ | デバイス販売 | 1677億ドル |
出典:
ちなみに、BATHの一角であるファーウェイは、企業方針を理由に上場していないため、時価総額ランキングには掲載されませが、中国の民間シンクタンク「胡潤研究院」が2020年10月に発表した時価総額は1兆1000億元(約1677億ドル)となっています。
バイドゥやファーウェイはGAFAにまだまだ及ばないものの、アリババ・テンセントはFacebookにあと一歩のところまで肉薄している現在地が読み取れます。
バイドゥ(Baidu/百度)
バイドゥは、中国で約7割のシェアを誇る検索エンジン「Baidu」を運営する企業です。
中国政府が実施するネット検閲システム「グレートファイヤーウォ-ル」の影響でGoogleやYahoo!に接続できない中国の国内ネット事情があるなか、バイドゥは不動のシェア率を維持することで知られています。検索エンジンシェア2位のSogouが20%前後のシェア率で推移していることを考慮すると、圧倒的な存在といえるでしょう。
また、日本からみたバイドゥは、インバウンドに携わる日本企業による広告掲載・SEOの効果的な媒体として認識されている側面があり、中国に住む人々への影響力の高さがうかがえます。
近年では、自動車の自動運転技術開発にも力を入れており、2022年には世界初となる自動運転「レベル4」の市販車を発表。最新テクノロジー市場でも注目を集めている企業です。
アリババ(Alibaba/阿里巴巴)
アリババは、主にECサイト運営で覇権に迫る企業です。
BtoB向けECサイト「Alibaba.com」をはじめ、消費者向けのECサイト「淘宝網(タオバオ)」や「天猫(Tモール)」などを精力的に展開。中国のECサイト業界を牽引する存在となっています。
さらに、近年ではさまざまな事業を展開しており、オンライン決済サービス「Alipay(アリペイ)」や、近未来型ホテル「FlyZoo Hotel」などが注目を集めています。
テンセント(Tencent/騰訊)
テンセントは、主にSNSやゲーミングのジャンルで成功をおさめた企業です。
中国版Facebookとよばれる「Qzone」、中国版LINEとよばれる「WeChat」など、膨大なアクティブユーザーを抱えるSNSの運用をはじめ、世界各国のゲーム会社への出資・買収で巨額の収益を上げています。
また、近年では映画・アニメ制作に注力したり、WeChatと連携したオンライン決済サービス「WeChat Pay」をリリースしたりと、多方面にビジネスを展開しています。
ファーウェイ(HUAWEI/華為)
ファーウェイは、中国・深センに設立された従業員持株制の民間企業で、世界有数のICTソリューションプロバイダーとして知られています。
日本ではファーウェイのスマートフォンが有名ですが、他にも通信事業者向けネットワーク事業や、法人向けICTソリューション事業なども手がけており、いずれの分野においても大きな影響力を誇っています。
最近では5Gネットワーク事業に注力しており、世界の5G通信設備シェア1位(35.7%)を獲得しているなど、通信技術分野の最先端企業として注目を集めている企業です。
BATHが注目されている理由
BATHの注目度が高まっている理由は、時価総額ランキング2020にもあらわれているように、アリババ・テンセントの2社がGAFAの1つであるFacebookの時価総額に数百億円規模のところまで迫っている点です。
時価総額とは、上場企業の株価に発行済株式数を掛けたもので、単に「業績が良い」という指標ではなく、「将来への期待値」を反映した指標といえます。言い換えるならば、アリババ・テンセントはFacebookとほとんど肩を並べるくらいに、世界から高い期待を寄せられている企業であることがわかるのです。
また、時価総額のような客観的データ以外にも、BATHが注目を集める出来事がありました。それが2020年7月にアメリカで行われた「独占禁止法に関する下院公聴会」です。
独占禁止法に関する下院公聴会の内容は、国民が新型コロナウイルスに苦しむなか、「増収増益」となったGAFAのトップを糾弾するものでしたが、その際に各企業のCEOが「中国との厳しい競争にさらされている」と言及したのです。
例えば、FacebookのCEOザッカーバーグ氏は「Facebookは多くの分野で他社に遅れをとっている」と説明したうえで、急成長する中国アプリの企業を相手に苦戦していることを認めています。
BATHが急成長している理由
世界のIT業界を牽引してきたGAFAが警戒しているBATHですが、なぜここまで急成長を遂げているのでしょうか? その秘密は主に以下の3つにあります。
- 経済特区である深センに拠点を持っている
- 中国内のITへの取り組み方の変化
- イノベーティブな環境が整っている
バイドゥとアリババは、深センに本社こそ構えていないものの巨大な拠点を持っており、さまざまなIT企業が常に競争にさらされる環境で製品開発が行われている現状があります。既存のIT企業や、次々と生まれるスタートアップ企業の人材が多く集まる地域で、人材が常にクリエイティブな交流ができるような環境が整っているのです。
また、社内での競争も激しく、中国全土から集まった優秀な人材がしのぎを削っている状況が、より良いサービスを生み出す原動力になっているといわれています。
経済特区である深センに拠点を持っている
経済特区とは、外国の資本・技術の導入を目的に設けられた特別地域であり、法人税の免除や、輸出入にかかる関税の免除など、さまざまな税制優遇が受けられることで知られています。
深センは、中国に5箇所ある経済特区のなかでも特にIT産業の発展が目覚ましく、「アジアのシリコンバレー」とも呼ばれている地域です。国の強力なバックアップが受けられる深センでビジネスを展開できるからこそ、急成長が続いていると推測されます。
中国内のITへの取り組み方の変化
一昔前の中国といえば、アメリカなどのIT先進国のサービス・技術を模倣する事業展開のイメージが色濃くありました。しかし、徐々に中国内の企業の技術力が向上していくことで、いまでは他国のサービス・技術を模倣しない独自のサービスを展開することに成功しています。
それは、世界的にアクティブユーザーを抱える一大SNSに成長した「TikTok」や、5G、ドローンなど最先端プロダクトにおいて世界を牽引する企業が次々と誕生していることにあらわれています。
イノベーティブな環境が整っている
深センという特殊な環境に本社・拠点をおくBATHは、絶えずライバル企業との競争にさらされます。また、競争があるだけでなく、企業間の交流が街中のスタートアップカフェなどを通じて盛んに行われており、人材の交流が新たなアイデアを生むことにつながっています。
各社が人材レベルで互いに影響し合う環境にあえて身をおくことで、急成長がさらに加速しているのです。
日本におけるGAFAとは?
日本において、GAFAに相当する企業は現状存在しません。時価総額ランキング2020においても、49位にランクインしているトヨタ自動車は2498億ドルと、BATHのアリババ・テンセントに遠く及びません。
また、GAFAやBATHのように、巨大プラットフォーム事業を展開する企業が存在しないことも、GAFAに相当する企業がないことの理由と考えられるでしょう。
巨大ITプラットフォーム規制の可能性
アメリカでは、デジタル市場における競争加速に向けた法的措置が検討されています。2020年7月の「独占禁止法に関する下院公聴会」でGAFAのCEOらが糾弾されたように、「市場独占状態が原因で、アメリカ国内のデジタル市場の競争が生まれていない」という見方があるのです。
新型コロナウイルスへの対応で影を潜めた「巨大ITプラットフォームへの規制」ですが、アメリカ大統領選挙における争点の1つになったなど、アメリカ国内では依然ホットな話題となっています。
米中関係の悪化によってGAFAとBATHは今後どうなる?
ファーウェイが世界の5G市場を牽引していくなかで、アップルは未だ5G対応のスマートフォンを販売していません。
その理由として考えられるのが、「ファーウェイ機器を通じて通信を行うことで情報漏洩リスクがある」とアメリカ政府が言及したことです。2020年8月には、「ファーウェイをはじめとした中国企業5社の製品を扱う会社との取引を禁止する」と発表していることからも、中国と5Gをめぐって激しく対立していることが分かります。
また、5Gをめぐった国家間の対立は世界各国へと拡大しており、イギリスはアメリカと同様にファーウェイ製品を5Gネットワークで使用しないことを決定しています。次いでフランスも2028年までに「ファーウェイ除外」を決定するなど、各国で情報漏洩リスクに対する警戒心があらわになっている現状があります。
一方、輸出入ともに中国が1番の貿易相手であるドイツは、「安全なネットワークとは何かを決めるのに最初から誰かを排除すべきではない」として、ファーウェイ除外に消極的な姿勢をみせています。
このことから、世界のIT事情は「GAFAとBATHの二極化」へと歩みを進めていくと推測できます。5Gネットワークの安全性をめぐって、中国のファーウェイを「利用する国」と「利用しない国」という対立が続き、経済活動にも大きな影響が出ることが懸念されます。
アメリカ国内の「巨大ITプラットフォームへの規制」がどの程度の効力を持つのかによって、GAFAとBATHの力関係は変化していくのではないでしょうか。
- 中国版GAFA「BATH」はバイドゥ・アリババ・テンセント・ファーウェイ
- なかでもアリババ・テンセントはFacebookに肉薄する勢い
- 他国技術の模倣を脱却し、独自のサービスを展開
- 経済特区である深センに拠点を構え成長力が加速
- ファーウェイの5Gネットワークの情報漏洩リスクを筆頭に、米中関係の緊張は顕在化
- アメリカ国内の「巨大ITプラットフォームへの規制」の先行きに注目が集まる