Special Talk | 特別対談

マッチングのその先へ!
エンジニアのキャリアパスを描き出すAI開発秘話

※文中の会社名は、掲載当時の情報です。

大手企業が書類選考をAIで行うことを発表して以降、多くの企業が「AIを活用したマッチング」を検討・導入を開始して大きな注目を集めています。

エンジニアの人材派遣を行うパーソルテクノロジースタッフ株式会社も、2019年2月に独自開発AIの導入を発表。これまでアドバイザーは、企業に人材を紹介する際に「マッチングする求人のリストアップ」や「希望条件・経験職種の確認」といった業務に多くの時間を割いていました。特にエンジニア領域の求人は、日進月歩のテクノロジーとともに求められるスキルも多様化。加えて、エンジニアのキャリアも日々アップデートしているため、アドバイザー業務も肥大化しています。

このような課題を早期に解決すべく当社は、オーダーメイドによる最先端人工知能・機械学習技術の開発・導入支援などを行う株式会社Laboro.AIと協力し、独自開発AIを用いたマッチングを開発しました。「エンジニア×人材派遣」領域での、AI導入のきっかけや目的、ブレークスルーとは?

開発を担当した株式会社Laboro.AIの代表取締役CEOである椎橋徹夫さんをお迎えし、パーソルテクノロジースタッフ株式会社 人材開発部 部長の遠山菜美さんとともに、お話をおうかがいしました。

エンジニアの未来を創るための独自AI開発

  • ── 近年、採用市場ではAIツールを使った採用が一般的になりつつあります。このタイミングでAIマッチングの導入を決めた理由や背景は?

    遠山菜美さん(以下、遠山) :「これまで人材業界のアドバイザーは、自分の知見と経験によって紹介を行うことが一般的でした。しかし、登録されているエンジニアにはさまざまな経験を持つ方がいますし、希望条件も多種多様です。多様化するニーズに応え、多くの方へベストなキャリアを提案したいという思いがあったことと、『マッチングの網羅性とスピードはAIにより格段に向上する』という意見は以前から耳にしていたので、AI導入を検討し始めました」

  • ──より生産性をあげていきたかった、ということでしょうか。

    遠山 :「生産性を上げたくてAI導入の検討を始めた、というよりマッチングをAIにお願いし、アドバイザーには、私たちが取り組んでいる「成長プロデュース」の一環として、エンジニアの方のキャリアプランや志向性、将来を一緒に考えることに時間を割いてもらえたらという思いですね。結果的にそれが生産性になるのかもしれませんが、マッチングよりも、アドバイザーがエンジニアの方に最適なお仕事情報、未来に繋がる仕事の提案に時間を充てたかったんです」

  • ──数多くの開発ベンダーがあるなか、株式会社Laboro.AIを選んだ理由はなんでしょう。

    遠山 :「ひとつは人材業界の知見をお持ちであり、開発のご経験をされている点です。椎橋さんのご理解の早さ、的確さも判断ポイントで、他のベンダーと比べて短納期で、当社のビジネスのスピードに合わせた開発が可能なのではないか、という期待がありました。また他の人材紹介や転職とは異なり、当社はエンジニアの人材派遣を行っています。エンジニアの方が就業後に新しいスキルや経験を得てきますので、スキル習得のサイクルが非常に早いこともご理解いただけたことも決め手になりました」

  • ──椎橋さんは、遠山さんから内容や仕事依頼の内容についてお話をいただいたとき、どのような印象を持ちましたか。

    椎橋徹夫さん(以下、椎橋) :「当社は、採用・転職業界でのマッチングエンジンを使った経験があったので、ベースの技術や知見は持っていました。実際にお話をいただいたのは2018年3月頃でしたので、かなり期間を凝縮してプロジェクトを進めてきました。それだけに期待感の高さが感じられましたし、遠山さんとのお話を通して、非常に重要な取り組みだという気持ちも伝わってきました」

アドバイザーへのヒアリングで得られた、新たな発見

  • ──エンジニア向けのマッチングを行ううえで、技術的な難しさなどはありましたか。

    椎橋 :「エンジニアのマッチングは、紹介や事務派遣とも大きく異なる領域です。スキル要件のマッチのほか、登録者の希望、案件が提供できる経験は、一般的な派遣と比べても奥行きがあります。そのため、高次元のマッチングが求められる点はかなり難しかったですね。今回は過去60万件以上のデータをもとにマッチングの最適化を目的としていますが、単発の取り組みとしてとらえていません」

  • ──どういうことでしょうか?

    椎橋 :「今回はあくまで一歩目。むしろ最終的にAIの育成を見据えた大きな構想として考えています。継続的に学習していくことがAIの最大の利点であるので、今後AIとアドバイザーの方がコミュニケーションを取っていくことでAIはどんどんと進化していきます」

  • ──AI導入は、アドバイザー側、登録ユーザー(エンジニア)側と両方の視点があると思いますが、開発において特に意識した点は?

    遠山 :「登録者の方がサービスを利用するタイミングは、お昼の休憩時間や帰宅時、通勤電車を待っている間など、本当にわずかな時間です。その短い時間により多くの情報を提示できるようなスピード感、そしてUIの使いやすさにこだわりました」

    椎橋 :「そこは、我々としても嬉しかったです。エンジンの精度を測るとき、実際にマッチしたか否かを軸にしたのですが、データではマッチしなかったのにエンジンではマッチする、という事例が結構ありました。改めてその結果をアドバイザーの方に見ていただいたら『以前はマッチしないと思っていたけど、いま確認するとマッチできたかもしれない』と。これこそマッチングエンジンを入れるひとつの大きな価値です。新しい気づきが生まれて、可能性が広がるのは我々にとっても嬉しいところです」

長く使えば使うほど、AIとユーザーの信頼関係が構築される

  • ──新しい気づきがある一方で、マッチング精度で苦労した点はありますか?

    椎橋 :「マッチングに使いうる定形項目を洗い出したところ、最終的に1,000個の項目から絞り込むこととなりました。というのも『過去の案件と持っているスキルが一致するかどうか』という完全一致の視点で見てしまうと広がりがなくなってしまいます。そのため、キャリアなどエンジニアがフリーフォーマットで記載している部分も含めると変数は1万以上。そこを補完・補充するイメージで機械学習を進めていきました」

    遠山 :「基本的に定形フォーマットに書けないことをフリーフォーマットに書きますので、意外と重要なことが記載されているケースが多い。今回はそこをカバーできたのは大きかったですね。以前に比べ、マーケットから求められるスキル・経験はシームレスになりつつあります」

  • ──長く使っていくことによって、AIが学習してマッチング精度が高くなるという認識で問題ないでしょうか?

    椎橋 :「精度そのものは常に改善していますが、現時点では発展途上と言えます。ただアドバイザーの方が気づかなかったマッチングができている他、チューニングの過程で違和感のあるものは排除できているのを実感しています。エンジンとアドバイザーの信頼関係が加われば、より精度があがっていくでしょう。そこの入り口には立てているように思います」

    遠山 :「1回目のプロトタイプのときは感触が良かった一方で、違和感のあるデータも多くありました。しかし、回数を重ねるうちに、徐々にズレはなくなってきています。あとは常にチューニングが求められるので、アドバイザーと一緒に育てていきながら、精度を高めていきたいですね」

  • ──では最後に、今後の展望やAI採用の未来についてお願いします。

    椎橋 :「今回のプロジェクトは、単発的なマッチングから『エンジニアの成長』『エンジニアのキャリアの伸展』を前提としたマッチングに変化していく第一歩なんじゃないかと思っています。人材の業界自体がそう進化している中で、マッチングに機械学習やAIがフィットし、アドバイザー自身は人と人が接するところに時間を割いていくことが理想です」

    遠山 :「エンジニア派遣のマーケットでは、これまでにも『こういうスキル・経験を身に付けましょう』という話はできていました。しかし、今後はスキル・経験を身につけた先の未来やキャリアパスの描き方まで会話できるようになると思います。またサービスと技術革新が速いエンジニア領域で、時代に求められる技術への提案がスムーズに行える点にも期待しています。新しい技術が出てきても、その技術を使える人はすぐに見つかりません。しかし、『こんな似た経験の人だったら活躍している』ということをしっかりと提案していくと、エンジニアにとっても新技術に携わる経験が得られるし、企業側にとってもポテンシャルを秘めている方を紹介できます。そのため、新たなマーケット創造をしていくことに対してもAIの期待値は高いと思っています」

※本文中に記載の社名・部署名等は取材時点のものです(2019年3月11日時点)

  • 株式会社Laboro.AI
    代表取締役 CEO

    椎橋 徹夫

    米国州立テキサス大学 理学部 物理学/数学二重専攻卒業。2008年、ボストンコンサルティンググループに入社。東京オフィス、ワシントンDCオフィスにてデジタル・アナリティクス領域を専門に国内外のプロジェクトに多数携わる。2014年、東京大学 工学系研究科 松尾豊研究室にて産学連携・データサイエンス領域の教育・企業連携の仕組みづくりに従事。同時に東大発AIスタートアップの創業に参画。2016年、株式会社Laboro.AIを創業。代表取締役CEO就任。 c株式会社 Laboro.AI

  • パーソルテクノロジースタッフ株式会社
    人材開発部 部長

    遠山 菜美

    2008年 インテリジェンス(現パーソルテクノロジースタッフ)に入社。事務派遣領域におけるキャリアアドバイザーとしてキャリア支援に携わった後、マッチング専門部隊の立ち上げ、業界初となるオンライン登録導入などに携わる。2015年、ITエンジニア領域に異動後、キャリアコンサルタントの育成、キャリア提案の仕組みづくりに従事。2017年、経営統合によりパーソルテクノロジースタッフへ社名変更を経て、2018年、人材開発部 部長就任。