VRで“触り心地”を再現!?EXOSが生み出す触覚デバイスの近未来

「VR(Virtual Reality)」という言葉を聞いたとき、「見て楽しむもの」をイメージする方がほとんどでしょう。しかし近年、視覚のみならず「触覚」と連動させることのできるVRデバイスを開発したベンチャー企業が登場したことをご存知でしょうか?

その企業とは、イクシー株式会社(exiii Inc.)。同社が開発した外骨格型の力触覚提示デバイスEXOS(エクソス)は、CG(コンピュータグラフィックス)に触感の情報を追加してデバイスと連動させることで、VR空間の中にある物の“触り心地”を感じたり、物を掴んだり投げたりといったことが可能になります。

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▲手前にあるのがEXOS。奥にあるゴーグルとともに使用することで、人間の持つ五感のうち「触覚」と「視覚」の2つをハックし、圧倒的な没入感を実現する。

EXOSはどのようにして生まれ、どんな未来を実現しようとしているのか。exiiiのCEO 山浦博志さんに聞きました。彼の言葉からは、心からものづくりを楽しむエンジニアの姿が見えてきたのです。

筋電義手からVRデバイスへ、大きく舵を切ったexiii

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――どのような経緯を経て、VRで「触覚」を再現するEXOSの開発に至ったのでしょうか?

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山浦:もともとexiiiは、3Dプリンタを活用して低コストに製造できる筋電義手を開発していたんです。これは、腕の筋肉を検知することで物をつかんだり触れたりできる義手。GUGENやジェームズ・ダイソン・アワード、iFデザインアワードなど国内外のコンペで賞をいただいていました。

でも、そもそも義手を利用される方があまり多くないので、ビジネスとして考えたときに、筋電義手の開発を続けていくのが難しいと判断したんです。けれど幸いなことに、筋電義手プロジェクトに賛同してくださるNPOが現れたので、そのプロジェクト自体はNPOに移管しました。

その際に、3人の創業者のうち1人が筋電義手とともにNPOへ移り、私を含めて残った2人は新しい取り組みをしよう、という話になったんです。

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▲こちらがその筋電義手。150万から1000万円ほどもする筋電義手が、たった3万円程度の原価で製造できるとして大きな注目を集めた。

――会社が大きく変わる瞬間があったんですね。

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山浦:そうなんです。そこで、これまで培ってきた技術とVR技術を組み合わせたら、「VRデバイスを用いて疑似的に触感を作り出すことができそうだ」という結論に至って。その当時、VRのブームが来ていたこともあり、きっと事業化できると考えて開発に着手しました。

――以前からVRには興味を持っていましたか?

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山浦:はい。実は僕、大学院生のときにロボット工学を研究していたんです。そのときから新しいもの好きだったんですけど、その中でもVRは「今後、さまざまなプロダクトに応用できそうな技術だな」と思っていました。

山ほどの失敗も楽しめるのは、ものづくりへの好奇心ゆえ

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▲VR体験中の筆者。画面内に映し出されている手とデバイスを持つ手の動きが連動しており、ブロックをつかむとその感触がデバイスから伝わってくる。

――とはいえ、EXOSが動くようになるまでには失敗もたくさん経験したのでは?

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山浦:いやー、そうなんです(笑)。EXOSが今のレベルに達するまでには、約9か月もかかりました。ベンチャー企業のスピード感だと、もっと速く開発したかったんですけどね。

現在のEXOSに至るまでに、実は4つか5つほどのプロトタイプが存在しています。それらを作っては動かし、「やっぱ、これじゃない」と思ってゼロから作り直す毎日。細かいパーツの修正なども含めると、いったいどれくらい試作を重ねたのか数え切れないですね。

――気が遠くなりそうですね……。それだけ失敗が多いと、ものづくりが嫌になったりしませんか?

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山浦:嫌になることは全くないですね。たぶん僕は、根っからものづくりが好きな人間なんです。物心ついたときから、ずっと機械や工作に夢中になっていたような気がします。

――幼い頃のエピソードとか、覚えていますか?

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山浦:覚えています。祖父が材木工場をやっていたんですけど、大きな丸太が皮をむかれてスライスされていくのを僕はずっと見ていて「機械ってすごい!」と幼心ながらに感じていました(笑)。その気持ちのまま、大人になったような気がします。

失敗が続いても嫌になるどころか、朝起きるとワクワクするんです。「今日はどんなものを作ろうかな」とか「どうすれば上手くいくかな」と考えているときが一番楽しいですね。

VR触覚デバイスを開発していて一番やりがいを感じるのは、頭の中で思い描いたものがきちんと形になって、プロダクトとして完成したとき。実現できるかわからなかったイメージが、デバイスとソフトウェアを作りこんでいく過程で徐々に形にしていくのは本当にワクワクします。

――まさに、今の仕事は天職なんですね。EXOSが動くようになったときには、喜びもひとしおだったのでは?

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山浦:そうですね。開発メンバーみんな、すごくテンションが上がっていたのを覚えています。開発用のデバイスは1セットしかなく1人ずつしか体験できなかったので、みんな「早く代わって!」と言いながら我先にEXOSを体験していました(笑)。

EXOSが体験できる「触覚」は開発初期の頃はあまり精度が良くなくて、VR内のボールをつかんでも「ここにあると思う?」「いや、ないかも……」という状態だったんです。それが徐々に改良されていって「それっぽい!」「これは、ある!」という感触に至ったのは感慨深かったですね。

EXOS関連のソフトを“開発してもらいやすい”環境をつくる

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――最後に、EXOS のこれからについて教えてください。

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山浦:今後、多くの人にEXOSで遊んでもらうために、ゲーム開発者を巻き込んでいきたいと思っています。なぜなら、EXOSで遊べるコンテンツがないと、そもそもEXOSを買おうと思ってもらえないですから。なので、使ってくれる人を増やすだけではなく、開発者が使いやすくなための取り組みにも力を注いでいくつもりです。

――具体的には、どのようにして参入のハードルを下げるのでしょうか?

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山浦:“触覚のデータ”ってこれまでに存在しないものだったので、その情報を開発者がゼロから作り上げるのは大変な根気と時間が必要になります。でも、その触覚データを集約するようなプラットフォームを設置し、誰もが利用できるようにしておけば、開発者の作業量を減らすことができます。結果的に、EXOSを用いた新しいサービスが生まれやすくなると考えています。

――開発に必要なライブラリを用意するわけですね。

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山浦:EXOSを使ったゲームなどのコンテンツ開発ができる仕組みを整えて、EXOSに携わる人を増やしていきたい。触覚デバイスの“コミュニティ”を作っていきたい、と思っています。

――そうなれば、「みんなが当たり前のようにVRに触れる未来」が実現できそうですね。想像するだけでワクワクします。今回はありがとうございました!

取材協力:イクシー株式会社(exiii Inc.)

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