3種のワイヤレスイヤホンを分解! 20倍の価格差の裏にあった、作り手のこだわり・思想の違い

近年、ワイヤレスイヤホンを装着しながら歩いている人をよく見かけるようになりました。最近では低価格から高価格商品まで、ラインナップの幅が広がっています。しかし「いろんな種類があるけど、いったい何が違うの?」と疑問に思っている人も多いのではないでしょうか。

そこで、価格が異なる3種類のワイヤレスイヤホンを分解して、中身の違いを調べてみました。分解するのは、『「100円ショップ」のガジェットを分解してみる!』の著者である「ThousanDIY」こと山崎雅夫さん。分解によって見えてきた3種の製品の特徴やモノづくりに対する思想の違い、今後の市場の変化とは?

ThousanDIY 山崎雅夫さん
電子回路設計エンジニア。現在は某半導体設計会社で、機能評価と製品解析を担当。2016年ごろから電子工作サイト「ThousanDIY」を運営。月刊I/Oでの連載およびnoteにて「100円ショップのガジェットを分解してみる」を公開している。新刊書籍「100円ショップの「ガジェット」を分解してみる!Part3」発売中。
https://twitter.com/tomorrow56
https://thousandiy.wordpress.com/

ワイヤレスイヤホンの進化と普及の背景

――本日はよろしくお願いします。分解比較シリーズ、第4回目はワイヤレスイヤホンを取り上げます。最近ワイヤレスイヤホンをよく見かけるようになりましたが、いつ・どのように普及してきたのでしょうか?

Bluetoothのイヤホンは2014年頃からありましたが、初期の製品は高価だし音が不安定だったんですよね。その後、2017年ぐらいから徐々に広まってきました。

当初は主に家電量販店で販売されていたのが、2019年頃から100円ショップでも見かけるように。片耳タイプから始まり、両耳が繋がっているステレオタイプへ進化し、音質も良くなっていきました。

2021年には、100円ショップから1,100円の完全ワイヤレスイヤホンが発売されました。それまでは高級オーディオのイメージが強く、大手メーカーで1~2万円、海外製品でも4~5千円だったので驚きましたね。その後ドラッグストアや書店からも発売され、一気に普及しました。

――音質についてはいかがでしょうか?

ここ1~2年でかなり向上しました。最近は安い製品でも普通に音楽が楽しめるレベルになっています。
スピーカー部分にある磁石が強力になった、イヤホンの外装がきちんと密閉されている、といった理由によると思います。「安いワイヤレスイヤホン=音が不安定なのでは? と思っていたけど、買ってみたら普通に聴ける」と使っている人が多いですね。

――安いものと高価なものは、音質に違いがあるのでしょうか?

聴き比べると違いは分かると思います。ただシチュエーションによりますね。例えば家と電車の中では、聴こえ方に差が出るはずです。

「とりあえず音楽が聴ければOK」「散歩やジョギング中に落としてもいい」と割り切って使うのであれば、安価なものでも問題ありません。メーカー側も「このぐらいの音質であればいいだろう」と考えて設計、製造している気がしますね。

もちろん、聴く人によって音のこだわりや好き嫌いはあると思いますが、そこまで大きな差は無くなってきているのではないでしょうか。

外観から見た3つのイヤホンの違い

――今回は、価格の異なる3種類のワイヤレスイヤホンを分解していただきました。まずは仕様や機能の違いを教えてください。

今回選んだのは下記の3つです。

(左より)※価格はすべて税込み
A社(100円ショップ)…1,100円
B社(充電関連商品を数多く出している中国の人気メーカー)…5,490円
C社(アメリカの大手メーカー)…23,800円

イヤホンの形状は3社バラバラで、充電端子の位置もそれぞれ異なり、充電ケースの形状や収納方法にも影響しています。A社とB社は、本体にボタンが付いており、それを押すことで再生や音量の調節が可能。C社はボタンではなくタッチセンサーなので、対象部分に触れることで操作します。

付属品にも違いがあります。A社はイヤーピースが1つだけですが、B社は4種類入っていました。C社はインイヤータイプではないので、イヤーピースは付いていません。また、C社は付属品が見えないようシンプルなパッケージ仕様になっていることからも、デザインへのこだわりが伺えます。

仕様を比較したのが上の表です。通信方式は3社ともBluetooth 5.0で、通信距離はA社とB社が見通し10m、C社は記載がありませんでした。

――3社を比較した際に特筆すべき機能の違いはありますか。

対応コーデック(音質と遅延にかかわる音声圧縮の方式)に違いがありますね。SBCがスタンダードの方式で3社共通、それに加えてB社とC社は高音質・低遅延のAACをサポートしています。B社はさらに遅延の少ないaptXにも対応しており、動画視聴やゲームで使う場合は効果を発揮します。あとC社だけワイヤレス充電に対応しており、専用充電器が使えます。

分解したら見えてきた 3社3様のモノづくり

――さて、いよいよ分解ですね。

まずはイヤホン部分から、1社ずつ解説していきます。

A社


A社は基板が1枚入っていました。バッテリーはリチウムポリマー電池で50mAhです。基板からリード線が出ていて、スピーカーと充電端子に繋がっています。

スピーカー部分は、直径8ミリの薄型。マグネットがかなり強力で、音がそれなりに良くなっているのかなと感じました。磁力が強いと震えやすくなり、音質が向上するんです。

――磁力によって音が変わるのですね。B社はどうでしょうか?

B社



バッテリーはリチウムイオン充電池で、55mAh。リチウムイオン電池の裏側にはスピーカーが付属。直径6ミリで、やや厚みがあります。

外装から部品を取り出すと、曲げられるフレキシブル基板(以下、フレキ基板)で繋がっており、充電端子の裏側にアンテナ端子があります。

――ワイヤレスイヤホンの棒状になっている箇所はアンテナになっているのですね。最後にC社はどうでしょうか。

C社


C社はより複雑な仕様になっています。 バッテリーはリチウムイオン充電池で、36.2mAhです。バッテリーの裏側にはフレキ基板が付いていて、外から音をとるマイクが隠れていました。

スピーカーの周辺にもいろいろな部品が付いていました。スピーカーはオーディオ用と同じような形をしていて、直径10ミリ。かなり良い音が出ます。

3つの基板を広げて並べてみると、違いがよく分かります。A社は基板1枚でシンプルな構造。B社はやや複雑ですが、外装からイメージしやすい作りですね。
一方、C社はフレキ基板にたくさん部品を載せており、高度な実装です。とにかく部品が多く、折り曲げて詰め込んでありました。

――C社はかなり複雑ですね! 小さいサイズにこんな部品が入っているとは! これを手作業で詰め込んでいるのでしょうか?

おそらく手作業だと思います。A社・B社も手作業は入っていますが、順番に難易度が高くなっていますね。A社は外装に入れて接着すれば済むけど、C社は極端すぎる。僕なら「もうちょっと作りやすい設計にしてよ」と思ってしまいます(笑)。ちなみに、3社ともメイドインチャイナです。

――中国製でも、こんなに違いが出てくるのですね!

そもそも各メーカーの設計思想が異なりますからね。C社は業界内でも先駆けといわれているメーカーですので、事情を理解している信頼のある工場で作っているのでしょう。普通の会社がこのような構造の設計を持っていっても、作ってくれる工場はないと思います。きっと日本では無理でしょう。

――では、主要部品について解説をお願いします。

A社

A社はヘッドホン用ICが1個付いています。その他に、安いコンデンサマイクが1つとBluetoothアンテナ。感度はとくに問題ありませんでした。

B社

B社はMEMSマイクが上下2つ付いています。外の音を検出するマイクですが、ノイズキャンセリングではなく、外からの話し声を明瞭にするために使っていると思われます。あとは、耳にはめたことをチェックする照度センサーや水晶振動子、フラッシュメモリなど。メインプロセッサはQUALCOMMのBluetoothオーディオ用ICです。

――A社と比べると、ユーザーに配慮したさまざまな機能が付いているのですね。

C社

C社はメインプロセッサが専用のもので、この部品は分解できませんでした。話し声や外の環境音を検出するMEMSマイクが3個、装着したかどうかを検出するフォトリフレクタ、充電制御ICなど。

――3個のマイクは、それぞれ役割が違う?

外からの声を聴こえやすくしたり、環境によって音質を変えたりしているようです。ただしC社は、具体的にどういう機能があるのか明示していません。メインプロセッサの仕様も謎ですね。

主要部品の比較をまとめました。半導体の数は、A社が1個、B社が4個、C社が6個。マイクはA社からC社にかけて1個ずつ増えています。スピーカーサイズはC社が一番大きく10mm。C社は、充電池の容量が少ないわりに再生時間が長いので、省電力の制御をしているはずです。

充電ケースにも表れる各社のモノづくり

――今回は充電ケース側も分解していただきました。

A社

A社の充電ケースは、はめ込み式なので、隙間のツメを外して簡単に開封できました。中身はシンプルな設計で、主に基板とバッテリーで構成されています。バッテリーは、リチウムポリマー充電池で300mAhでした。

B社

B社の充電ケースも、はめ込み式の外装で簡単に開封できました。バッテリーと基板は両面テープで付いているので、外してみました。B社には温度検出端子が付いており、温度が上がると保護する仕組みになっています。安全性にお金をかけていますね。バッテリーは700mAhと多めの容量でした。

C社

C社の充電ケースはイヤホン本体と同様に複雑な設計になっています。ケースは接着されているため、カッターでカットして開封。下側を外すと、ワイヤレス充電部とLightning端子が見えました。間はフレキ基板で繋がっています。

充電制御基板を取り出した状態が上の写真です。フレキ基板で繋がっており、奥の方にMEMSマイクがついていました。ここでケースの開閉を音で検知しており、開けるとすぐ動き出す仕様になっています。

全部引っ張り出した全体像は、こんな感じです。バッテリーはリチウムポリマー充電池で、C社専用品です。容量は350mAhでした。

充電ケースの基板を並べてみました。A社は1枚基板、B社も1枚ですがサイズが大きめ。C社は2枚構成で、各パーツ間はフレキ基板とコネクタで接続しています。

――A、Bと比べると、C社は別次元ですね! 充電ケースにもそれぞれの設計の違いが伺えます。

各社の主要部品をチェックしたところ、さらに違いが見えてきました。

A社は中国製の充電制御ICが1個付いています。あとは昇圧回路、充電状態を示すLEDなど。シンプルですね。

B社は充電制御ICと過電圧過電流保護IC、昇圧用インダクタなど。バッテリーの温度上昇を保護する端子も付いているので、安全性に力を入れているのが分かります。温度検出含め、いろいろ制御していますね。
C社はワイヤレス充電コントローラーが1個ついています。型番を探しても情報が出てこなかったので、おそらく専用のICです。そして、充電制御基板全体に、異常な数の部品が載っていました。素性が分かったのはUSB充電用のICと、バッテリーの充電や電圧を制御する専用ICくらいです。驚いたのは、半導体ICだけで16個もあり、なぜこんなに? と思うレベル。

――16個!? なぜそんなに多くのICを付けているのでしょうか。

おそらくバッテリーを長時間もたせるために、きめ細かい制御をしているのでしょう。他にも、おそらく温度検出の部品が入っていると思いますが、正確にはわかりませんでした。

どう選べばいい? 特徴の違いと良い点、悪い点

――3社の製品を分解したなかで、山崎さんが感じたそれぞれの製品の特徴を教えていただけますか。

A社はワイヤレスイヤホンの基本機能のみで、基板やケースの構造もシンプルです。やや低音が強い印象はありますが、安価なため通勤や散歩、ジョギングなどさまざまなシーンで利用しやすいですね。紛失したり壊れたりしても諦められる価格だし、音質も通常の使用では問題ないレベルかと思います。ただイヤーピースが1サイズなので、別途購入し自分の耳に合わせて交換するのがおすすめです。

――安価だからこそ日常生活でガシガシ使えそうですね。B社はどうでしょうか。

B社は、同じレベルの他社製品と比較するとお手頃価格だと思います。コーデックはAACとaptXをサポートしており、音質はA社よりバランスがよく、解像度が高いなと感じました。ゲームや動画鑑賞など高音質・低遅延を求める人におすすめです。あと4種類のイヤーピースを付属しているのもグッドポイントです。

――A社の製品よりちょっとこだわりを持ちたいという方によさそうですね。最後にC社はいかがでしょうか。

C社はワイヤレス充電に対応するなど、非常に多機能です。構造がとにかく複雑で、部品点数も非常に多い。組立てコストがかかっており、設計から考えると23,800円でも安いと思います。バランスの良い音質ですが、B社と比べてそれほど大きな差は感じられませんでした。また耳に差し込まないタイプなので、使用中に外れて落とす可能性があります。あと、この価格でノイズキャンセルがないのは残念ですね。

3社とも音飛びはなく、受信感度も問題ありません。それぞれ値段相応ではあるものの、内部の作りで比較するとC社はちょっと複雑すぎる気がしますね。

分解から見えたモノづくりの思想と市場の変化

――価格も作り方も違う3社の製品ですが、それぞれどのような思想でモノづくりをしていると思いますか。

A社はとにかくシンプルで、製造する側にとっても無理がない構造です。1,100円で販売するために、汎用的な基板とケースを組み合わせて作りやすい構造にしているのでしょう。イヤーピースは1サイズで余分な付属品もなく、良い意味で割り切っている感があります。

B社は、ワイヤレスイヤホンとしては標準的な設計です。ミドルクラスとしてはお手本のような製品でしょう。

C社は、こだわった設計だと分かるものの、とにかく部品が多く構造が複雑です。このサイズにこれだけの部品を詰め込んでいるのは凄いですし、一般的な設計の考え方とは異なる次元でモノづくりをしている印象があります。

――C社はなぜこんなに複雑なのでしょうか?

デザインが第一優先で、そこに詰め込めるかどうかは二の次になっているのでしょう。ただ、部品点数が多いと不良率・故障率が上がるので、製品としての信頼性は下がります。

――なるほど。では今後、ワイヤレスイヤホン市場はどのように変化すると思われますか?

「数千円の低価格品」と「2万円以上の高級品」へと二極化していくのではないでしょうか。1万円台の中級品は、生き残るのが難しいと思います。

低価格品は、中国製ワンチップICの性能が上がっているので、価格を上げず機能が増えていくでしょう。すでにAACコーデックやノイズキャンセリング機能を搭載した製品が数千円で登場しています。販売チャネルも100円ショップからドラッグストア、書店へと広がっており、手軽に買える文房具のような存在になっていくのではないでしょうか。

――高級品についてはどうですか?

独自のICや新しい構造など、差別化の方向に進むと予想しています。ただ、一般に分かるレベルの音質で差別化するのは、難しいかもしれませんね。低価格品の性能がかなり良くなっているので、差をつけられる圧倒的な機能がないと厳しいでしょう。

――価格競争がより厳しくなる、と。

ワイヤレスイヤホンは、LED電球などと違って安全性や「長時間使っても壊れない」といったポイントを”売り”にしにくい。機能で差別化していくしかないのです。とにかく音にこだわって、オーディオマニア向けに出していく、とか。中途半端な製品はいずれ消えていくかもしれませんね。


取材+文:村中 貴士
編集:LIG

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