初心者必見!電子工作で作れるものづくり入門

エンジニアと聞くと、最新のガジェットや複雑な技術が詰まったものづくりをイメージする人が多いのではないでしょうか。そんななか、エンジニア界隈であるツイートが話題になりました。

それが「必要最小限の電子工作」です。


ツイートしたのは、メディアアーティストであり長岡造形大学准教授の真壁友さん。真壁さんが作ったのは、コイン電池と抵抗、LEDだけで作られたライトでした。なぜこんなにも話題になったのか?

「必要最小限の電子工作」を深掘りしていくと、エンジニアが参考にしたい、ものづくりに対する心構え・本質が見えてきました。

真壁 友さん
メディアアーティスト、エンジニア/長岡造形大学 准教授
東北学院大学大学院応用物理学専攻修了。アートとエンジニアリングの中間でキネティックアート、デバイスアート、メディアアートなどの分野で制作、研究を続けている。2005年『UV-graph』でせんだいアートアニュアル中谷日出賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品。2010年、NIIGATA オフィス・アート・ストリート審査員特別賞受賞。2006年よりアーティスト集団「C-DEPOT」のメンバーとして活動中。
https://www.mkbtm.jp/
https://twitter.com/mkbtm/

「必要最小限の電子工作」を作った理由

――はじめに、真壁さんの活動内容やプロフィールを教えてください。

私はもともと工学部出身で、大学卒業後はITエンジニアとしてキャリアをスタートしました。社会人になってからはWebのシステム実装やデザイン関連の仕事をしていました。その後、メディアアートの世界に出会って、自分の作品を作りはじめましたね。

――メディアアーティストとは、具体的にどういった活動をしているのですか?

メディアアーティストとは、アートとテクノロジーを融合させ、新しいコンテンツやサービスを制作・発表を行う人のこと。私は機械系の作品を中心に作っており、電子部品やAIなどの最新のテクノロジーは使わず、歯車やゼンマイなど、古くからあるテクノロジーを使ったものづくりが好きです。

真壁さんの作品「えんぴつ曲げマシーン」

メインの仕事は長岡造形大学・視覚デザイン学科の准教授です。学生にものづくりを教える傍ら、自分でも作品を作り続けている、そんなポジションですね。

――“古くからあるテクノロジーの活用”という視点はとても面白いですね! 今回Twitterで発信されていたLEDライトは、どういうきっかけで作ったのでしょうか。

ある日の夜、暗闇の家の中を歩いていたとき、寝室のドアが半開きになっていて、額をガーンとぶつけたことがあったんです(笑)。そこで、寝室のドアにライト(ドアが開いていると点灯して知らせてくれる)を取り付けようと考えました。

最初は蓄光テープを貼ろうと思ったのですが、日が当たらない場所なのであまり効かないだろうなと思い、ライトを光らせようと考えました。「ドアなので電源コードを引くのは嫌だな、じゃあコイン電池かな」「光らせるならLEDで」という感じで、とりあえずサクッと作りたいな、と。しっかり設計してデザインするより、まずは試してみたかった。いわゆるラピッドプロトタイピング(試作品を短時間で製造すること)です。

――なぜ、この形状になったのでしょうか?

使用部品は、LED電球(抵抗をハンダ付けしています)、コイン電池、輪ゴム

私自身、ものづくりをする際に、最小の「部品」単位から組み立てていくことを意識しています。LEDとコイン電池の組み合わせは一番ミニマムで、これ以上そぎ落としのしようがない状態ですよね。完成されたLEDライトを購入して取り付けることもできますが、最小単位に遡ることで、新しい発見・アイデアが生まれてくる可能性があるんです。

――Twitterでは「ゴムが絶縁の役割を果たしている?」「机と連動している?」といった反応がありましたが……。

さまざまな推測の声をいただきましたが、輪ゴムはLEDの端子とコイン電池をただ押さえているだけで、とくに深い意味はありません。机も連動しているわけではなく、LEDを電池のプラスとマイナスで挟んでいるだけですよ。

――このツイートに多くの人が反応した理由をどう捉えていますか?

「これでいいんだ」「マネできそう」と思われたのかもしれません。普通にLEDを光らせようとすると、専用のドライバとか電流を制御する仕組みを考えますが、コイン電池だと電流が流れすぎない。LEDの端子で挟めばコンパクトに収まって、ちょうどいいサイズなんですよね。これなら誰でもマネできますから。

最小単位から進化するLEDライト

――真壁さんが作成したLEDライトをもとに、ものづくりの進化の過程を見ていきたいと思います。この最小限の電子工作を進化させる場合に、どんな工夫をしますか?

そうですね。こんな工夫はどうでしょうか?

コイン電池とLEDの端子部分の間に輪ゴムを挟み込むことで、別の機能が追加されます。

LEDの端子の端をつまむと光る。とても単純な作りですが、スイッチの機能が追加されました。

――なるほど! スイッチなどの部品を追加することなく、今ある部品をアレンジすると別の機能が追加されるんですね。

輪ゴムの結び方を変えるだけなので、誰でも真似できますね。このままでも使用できますが、3Dプリンターで部品を出力することで、さらに“デザイン”が追加されます。

グレーの部品が3Dプリンタで作ったもの

部品はこれだけ。グレーの部品にコイン電池とLEDをはめこみます。LEDの端子を少し曲げて、グレーの部品の溝にハマるような形にしました。指で押せば光る仕様で、明るさを調整する機能はいらないかなと考え、抵抗はナシにしています。

――輪ゴムを専用部品に変えたことで、100円ショップなどで見かける光るキーホルダーになりました。

まさにそれです。デザインが追加されたことで、製品のイメージに近づきました。

3Dプリンターを使うと、お店で売っているものを自分で作れる楽しさがあります。100円ショップに行って「これ便利そう」と思っても、普通の人は買って終わりでしょう。しかし、お店で商品を見て頭の中で記憶し、「家で作ろう」と考え、最小単位まで遡ることで、ものの仕組みが見えてくるんです。

――一度遡ってから改めて自分で作ってみると、そこから新しい発見がありそうですね。

そうですね。実際にお店で見たものを、再現するために作ってみると「理由があってこういう形状になっているのか」、「この寸法になってるのは、このネジを入れるためなのか」と発見があって面白いですよ。設計者と対話しているような感覚になります。既製品を最小単位まで遡ると、さまざまな学びが得られます。

今、完全なオリジナル製品を作る機会って、ほぼ無いでしょう? 何かに影響を受けて作るケースが圧倒的に多い。既製品をよく観察することはとても大事だし、ものづくりをするうえで避けて通れないですよね。

――この後、さらに進化させるとどうなりますか?

先ほどの懐中電灯をリアルな世界に落とし込むことができます。

これは、自宅の寝室のドア部分を模型で表現したもの。指で抑えている部分がドアになります。LEDの端子と電池の間にストッパーがはさまっていて、スイッチの役割を果たしています。

ドアが開いたときに、ストッパーが外れ、LEDが点灯。逆に、扉を閉じればストッパーがかかり、消える仕様です。

今までは手動で点灯・消灯を切り替えていましたが、“自動化”されました。最小単位に遡ることで、自分自身で機能を追加し、理想の形に進化させることができるんです。この仕組みを使えば、暗闇の家の中でドアに額をぶつけることもなくなるでしょう(笑)。

部品単位に戻ることで、新しいアイデアが実現できる

――真壁さんはいつも、最小単位や原点まで遡ってものづくりをしているのでしょうか?

何かを作るとき、使う材料に対して「部品」という捉え方ができないと嫌なんです。最近だとマイコンモジュールが人気ですが、すでに「製品」として機能を備えているので、作品に組み込むのは抵抗があるんですよね。自分の著作物のなかに他人が作った製品が入り込んでいる状況は、気持ち悪いというか。

また、“再現性”という視点でも「部品」から作ることは重要だと思います。もし3年後、5年後に「また同じものを作りたい」となったとき、同じモジュールが発売されていないと作れないかもしれない。なるべく入手しやすい部品を使うことで、再現できるんです。

――そのような考えは、メディアアーティストとして活動していることが影響しているのでしょうか。

大学では毎年学生が新しい作品を制作していますが、必ずしも未来で再現できるとは限りません。例えば、WebのFlashで作った作品はもう見れなくなっていますよね。「古いパソコンを引っ張り出してこないと動かない」という状況です。メディアアートの宿命かもしれませんが、自分が作ったものが一過性のものになり、再現できなくなる。それがとても嫌だなと。

だったら、再生環境をすべて自分の手で作ってしまった方が確実です。そんな思いが「部品単位で使いたい」という行動に繋がっているのかもしれません。

――部品単位から考えることで、ツイートのような「必要最小限のLEDライト」を思い付くきっかけになるのかな、と話を聞いて思いました。

テーマを設定してものづくりをするとき、歴史を調べたり、根っこがどこにあるのかを探したりする考え方があります。どんどん遡っていくと、部品や機械的な要素に辿り着くことが多いですね。

――すでに効率的なやり方があるのに、原点に戻って仕組みから作っていくのは時間がかかりますよね。仕組みを理解して作ることに楽しさを感じるのでしょうか?

そうですね。ユニットを買ってきて組み合わせて「はい、できあがり」というやり方もありますが、ユニットありきになってしまう。その時点で、小型化できなかったり、内部まで手を加えられなかったりする。その点は非常にもどかしい感じがあります。

――ユニットがあることで便利な反面、ある意味ものづくりのスタートが決まってしまう、と。

そうなんです。実は一時期、機械式の時計づくりをやっていました。機械式の時計ってものすごく複雑なんです。部品を作るために、まず金属の板を削らなきゃいけない。削るためには、板を治具に接着しなきゃいけない。接着するためには、板同士を歪まないように真っすぐにしなきゃいけない。そういう作業工程だけで膨大な労力を使いました。

金属を削れば歪むし、力を加えれば曲がる。やすりをかけるとき、どの程度力をかければいいか。表面を完全に綺麗な状態にするためには、どうすればいいか。部品同士の関係性を考えさせられるきっかけになりましたね。

――機械式時計って、電子工作のものづくりとは次元が違うものですか?

根本にある考え方は同じかなと思っています。電子工作だと、電池から出てきた電流がどう流れていくのか、どう働くのか、という考え方になる。時計はゼンマイやモーターがあって、その力がどう歯車に伝わっていくのか、どうやって針を動かすのかに行き着く。流れという意味では全く同じですよね。

また、電子工作の場合は制御部分を全部マイコンにおまかせで、マイコンに書き込むロジックやプログラムは、機械仕掛けになると歯車やカムに置き換わる。突き詰めると根本は同じだと思います。

――原点に戻っていくと、プログラムを可視化する作業が出てくる、と。

電子工作でも、中身をしっかり理解していないと失敗をします。よくあるのが、ライブラリについて知識のない学生が、ネット上にあるサンプルAとBを適当にコピペで繋げてしまうパターン。それじゃ動かないわけです。初心者のうちは、中身まで理解して作っていくことが必要ですね。

メーカーが用意した出来合いの機能だけを使うのであれば問題ないですが、それを超えたところで何かしたい、自分の新しいアイデアを実現したい場合は、部品単位に戻って理解しなければいけません。

デザインって、既存の機能ではなく新しい解決方法を実装していくことが必要ですよね。そのとき、少し踏み込んで中身まで理解していると実現できる。部品に対する私のこだわりは、そういうところにあるのかもしれません。

「遊び」から新しいアイデアが生まれる

――真壁さんは、「ものづくりの楽しさ」ってどこから発生すると思いますか?

まず作って動かしてみることから始めようよ、と言いたいですね。「すごいアイデアがあります」と言って作らないより、小さなアイデアでもいいから形にして、生活の中で使ってみる。すると楽しくなって、次へ繋がっていきます。

何か複雑なものを考えたときも、まず一部分だけでいいから作ってみる。次に隣の部分を作って、だんだん組み合わせて全体が出来上がっていく。そんな方法もあるのではないでしょうか。全体の設計が終わってから作り始めるより、部分的に作って試してみるほうがゴールに近くなるかな、と思います。

今は3Dプリンターもあるし、昔なら秋葉原へ行かないと買えなかった部品もネット通販で入手できる。ものづくりに対する敷居が下がっています。

――今、エンジニアとして働いている人に、何かアドバイスがあればお聞かせください。

ちょっと「遊び」も入れたらどう? と言いたいですね。

私が勤務している長岡造形大学のある新潟県長岡市は、町工場が多いんです。技術は高いのですが、自社ブランドをどうやって立ち上げるのか、新しい商品をどう作ればいいか悩んでいる会社は少なくない。そこで相談を受けることがあります。

ところが「ちょっと遊びで作ったらどうですか?」「今作っているものと全然違うことをやってみては?」と提案しても、「うちは○○専門だから他はやらないよ」と言われます。遊びで余計なもの作っている時間はない、となってしまうんです。メーカーで新商品を開発しているエンジニアは、趣味でもいろいろなことにチャレンジしてみて欲しいですね。

――高い技術力があっても、その生かし方で変わる、と。

アイデアがどこから出てくるかというと、やはり「原点に戻る」「遊び」で作ってみることからはじまるのではないでしょうか。最近よくあるスタートアップ企業は、ホビーユーザーの延長線上でものづくりをしていることが多いですよね。

みんなが欲しい商品ではなく、ニッチなものから始めてみる。ユーザーとして欲しいものを自分で作ってみる。まずはそこからスタートするのがいいと思いますよ。

取材+文:村中貴士
編集:LIG

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