ディスクメディアだって劣化する!? 大事なデータを無くさないため、外部記録媒体はどう扱うべきか、メーカーに聞いた

記念日や、学生時代の思い出深い写真が保存されているCD-R、旅行の様子や録画したテレビ番組が保存されているDVD。「iCloud」や「Google Drive」などのクラウドストレージサービスが便利とはいえ、皆さんの手元にも、大切なデータが保存されたディスクメディアが眠っているのではないだろうか。

デジタルデータは、複製しても、時間が経っても劣化することがない。圧縮など取り扱いによる劣化はあれど、適切な環境で管理さえできれば、理論上は10年間も20年間も、大事な写真をきれいなまま保管できる。

そのため、思い出のデータはCD-Rで取っておけば安心……と思ってしまいそうになるが、実はそんな簡単な話ではないのである。デジタルデータ自体は劣化しないものの、CD-RやDVD、Blu-rayディスクといったデジタルデータを保存する記録媒体は、保管の環境で劣化し、データを取り出せなくなってしまうことも

大切なディスクメディアを長期的に、かつ安全に保管するためにはどうすればいいのだろう。デジタル記録媒体はもちろん、家電製品やヘルスケア機器、法人向けの精密機器など、幅広い電子機器の製造・販売を手掛けるマクセル株式会社に聞いた。

回線状況やサービス内容に左右されない、ディスクメディアの強み

とはいえ、私たちが現在日常的にディスクメディアを活用しているかというと、「そういえば?」となってしまうのが正直なところ。確かにここ数年は音楽CDを買うことも減ったし、なんなら筆者がふだん使っているノートPCにはディスクドライブがついていない。

そのうえ便利なクラウドストレージサービスがいくらでも使える状況というのも、ディスクメディアにとっては逆風だ。10ギガ程度の容量であれば無料で確保できるこの時代。あえてディスクメディアを使ってデータを保管するメリットって、いったいなんなのでしょう?

「クラウドのサービスは便利ですが、どうしてもネットワークありきなので。自宅にインターネット回線が引かれていなかったり、ITが苦手だったりする人はサービス自体を使いこなせない場合があるんですよ。誰かに管理をお願いするのではなく、『自分の目で見て、自分のデータを管理できる』のが、いまディスクを使用する大きな利点になるのかな、と」(中原さん)

そう答えてくれたのは、マクセル株式会社・ライフソリューション事業本部の中原繁治さん。

▲マクセル株式会社・ライフソリューション事業本部、事業企画部の中原繁治さん

よく考えれば、ディスクメディアに限らず外部の記録媒体は「それぞれの媒体からデータを読み込む」だけでなく、使用にあたって「周辺機器を用意して、PCと接続する」段取りが必要になる。一方のクラウドストレージサービスは「ネットワークから該当のページにアクセスすれば、すぐにデータを読み込める」強みがあり、使い勝手やスピードではどうしてもかなわない。

しかしこの俊敏性は、使っているネットワークの速度や、サービス自体の使い勝手に大きく左右される。そのうえ近年は、2021年5月の「Google フォト」の例(※)など、提供者側のルール変更で個人が使用できる記録容量が削減されたり、サービス自体がなくなってしまったりするケースもあると聞く。

※ 2021年5月31日をもって、写真クラウドサービス「Googleフォト」が、写真の無制限アップロードを終了。「Gooleフォト」サービスへの写真アップロードも、個人のGoogleアカウントに与えられたドライブの空き容量内で行われるように変更された

そういった外部サービス活用による不確定要素までを考慮すると、「多少不便はあるものの、ある程度は手元で対処できる」シンプルな仕組みのディスクメディアは、有事に強い記録媒体といえるのかもしれない。

堅牢なDVDと大量記憶のBlu-rayディスク、高温多湿に弱いのは同じ

そんなディスクメディアであっても、「いちど保存すれば、半永久的にデータを取っておける」かというと、そんな訳はない。保存されているデジタルデータこそ心配は不要だが、ディスクが物理的に劣化・破損してしまうと、データが取り出せなくなってしまうのだ

メーカー側が推奨しているディスクメディアの寿命を伺うと、「一概にいうのは難しいが、およそ10年くらい」(中原さん)とのこと。

「CD-RとDVDは素材の性質から、どうしても日光に弱いんです。一方のBlu-rayディスクは、データはたくさん記録できてもCD-RやDVDよりも小さな傷が致命傷になる場合がある。種類を問わず、ディスクメディアは『高温多湿と直射日光』で劣化するので注意してください」(中原さん)

CD-Rは、とてもシンプルに説明すると、ポリカーボネート(プラスチックの一種)製の基盤をベースとして、その表面にアルミニウム製の記録層(反射層、またはデータ層とも呼ぶ)があり、記録層をポリカーボネート製の保護膜でコーティングする、といった構造をしている。

この、ディスクのメイン素材として使用されているポリカーボネートが日光の影響を受けやすいのだ。イメージとしては「プラスチック製のものを日光に当て続けたらボロボロになるのと同じ」(中原さん)とのこと。

▲各記録用ディスクの構造(図版は編集部作成)

一方のDVDは、構造自体はCD-Rと似ているものの、ディスク自体を頑丈にするために厚みが半分のディスクを2枚重ね合わせた構造をしている。また、種類によっては記録層を2重に構えているものもあり、そのぶんたくさんのデータ記録できる仕組みだ。

対してBlu-rayディスクは、CD-RやDVDよりもディスク1枚あたりの保存容量は優れているものの、記録層を保護するコーティングが薄いため、記録面への傷には他のディスクメディア以上に弱い。「記録容量を重視するならBlu-rayディスク、保存性を重視するならDVD」と覚えておこう。

そして、すべてのディスクで共通しているのは「高温多湿と直射日光に弱い」ということ。なので、より長く安全にデータを保管したいときは、電子機器の基本にならって保管するのが正しい。

ディスクは傷と“歪み”に気をつけて保管する

経年劣化のほかに、「ディスクのダメージの原因」として真っ先に思い浮かぶのが「記録面への傷」だ。はじめて触ったプレイステーション。ゲームディスクの扱いに慣れておらず、盤面に傷をつけてダメにしてしまった苦い経験があるのは筆者だけではないだろう。

しかし技術の進歩なのか、近年のディスクはちょっとした傷で再生ができなくなってしまうケースは少なくなっている気もする。ディスクもだいぶ頑丈になってきた様子ですが、これはメーカーの皆さんの努力によるものなのでしょうか?

「あれはディスク側ではなく読み取り機器側の機能改善ですよ(笑)。『エラー検出訂正機能』といって、ディスクに傷がついていて読み取れない部分があったら、その周辺から読み取れない部分の内容を補完するんです。ディスクが傷全般に弱いというのはご存じの通りですが、もっと言うと、ディスクメディアでは円盤の内周部に重要度の高い管理情報を保存しています。なので、外周部では大丈夫な傷でも、内側に傷がついてしまったらどうしようもないかもしれません」(中原さん)

▲マクセルより販売されている、CD-RおよびDVD-R。印字面を設けたものなど、記録容量や用途以外にも様々な種類が(提供:マクセル)

他にディスクのダメージの大きな原因になるのが、「ケースから取り出すときに、ディスクをしならせること」なのだとか。そう、買ったばかりのCDをケースから取り出すときに、ディスクを反らせつつケースから引き剥がす、あの動作である。

ディスクメディアは基本的に記録層にレーザーを当てて、その反射からデータの内容を読み取る。だから記録層に傷が付けば反射が乱れるし、ディスクの歪みは「レーザーが意図したとおりに反射しなくなってしまう」ことに直結する。言うまでもないが、ディスクはできるだけケースから優しく取り出すのが一番、ということになる。

「あとは、CD-Rを持ち運んだりするために不織布製の薄手の袋を使用することがありますよね。便利ではあるのですが、不織布製の袋は保管方法によってディスクに歪みが出る場合があります。より保管性能を高めるのであれば、アクリル製のハードケースを使用するほうが良いと思います」(中原さん)

外付けHDDは、接続時と取外し時に注意が必要

ディスクメディアの正しい保管方法をこれだけ聞いたあとは、当然「他の記録媒体の正しい保管・使用方法」が気になってしまう。

現在の私たちが使用する大容量の外部記録媒体といえば、外付けのハードディスクドライブ(HDD)ではないだろうか。

前提としてHDDは、機器の中で記録用のディスクが回転しており、そこにデータ情報の書き込み、読み出しをする仕組みだ。情報読み取りは、ディスクから0.01ミクロン(1ミリメートルの10万分の1)離れて浮いている磁気ヘッドが行う、言ってしまえばディスクメディアとその読み取り機器が1つになった構造をしている。

▲カセットHDDの内部構造(提供:マクセル)

人によっては命の次に大事なデータを保管しているかもしれないHDDはどのように扱えばいいのか。ディスクメディアの取材とは別に、その管理方法をマクセルのカセットハードディスクiV(アイヴィ)を記録媒体としての規格化から担当していたライフソリューション事業本部の助田裕史さんから伺った。

「ハードディスクは繊細な仕組みをしているので、ディスクと磁気ヘッドとの間に微細粒子が挟まったり、ディスクの回転中に強い衝撃がかかったりすると、磁気ヘッドがディスクに衝突(クラッシュ)してしまうことがあります。こういったクラッシュは確率的に起きる現象で、これは『平均故障間隔(=MTBF、Mean Time Between Failure)は100万時間(※)』、と表現されます。『1台のハードディスクが故障するまでの平均時間が100万時間』という意味ですね」(助田さん)

※ 100万時間は、日数に換算すると41,667日。年数に換算するとおよそ114年になる

故障までの時間が平均で100年以上。それって、滅多なことでは故障しない、ということになるのでしょうか?

「捉え方によっては『1万台のハードディスクがあれば、100時間で1台に故障が発生する』とも考えられますから。ハードディスクは通常使用ではほとんど故障しないのですが、取扱い方によっては寿命が縮まったりしますので、『ご利用期間としては5年程度を想定しています』という言い方をしています」(助田さん)

そんな「確率で起きる」クラッシュは、具体的にはどのようなタイミングやシチュエーションで起きるのだろうか。自分の大事なHDDが「1万台のうちの1台」にならないようにするため、できる限りの手は打ちたいのですが……。

「まずは、使用するときも保管するときも、有機溶剤(※)の臭いがする場所や(微細粒子が浮遊)、ちりやホコリが多く、高温多湿の環境は避けること。それ以外のケースだと、クラッシュは『ディスク回転の開始・終了時に起きやすい』とされています。そのタイミングでは、極力、本体に衝撃を与えないようにしてください」(助田さん)

※ 工業製品の製造などに使われる、化学製品の一種。灯油や塗装剤、接着剤やマニキュアなどは注意が必要

なるほど。HDDを長期的に、そして安定して使用するためには、使い始めと使い終わりが肝心なのだ。

もしかすると、PCから「正しい取り出し処理」をしないでHDDのUSBケーブルを無理やり引き抜く、あの行為が大事なデータを不要なリスクにさらしているのかもしれない。これからはきちんと取り出し処理をするようにしよう。チープなスリルに身を任せるのはもうやめにしよう

それぞれの強みを持って、記録媒体を併用する

最後に、いろいろな記録メディアをグループで取り扱うマクセル社員の皆様は、普段のデータ管理をどのように行っているのかを伺った。

「例えば子どもの写真のような大事なデータは、外付けのHDDとDVD、両方で保存しています。長期的な保管はディスクで、ちょっとしたタイミングで写真を見たくなったときはHDDから、という使い分けですね」(中原さん)

なるほど! どちらかではなく、それぞれの強みをもって併用すればいいんですね

「そうですよ! 外付けHDDは繊細な機器ではあるんですが、大容量で使い勝手もいいので、使わない手はありません。それに、無くしたくないデータは複数メディアでのバックアップが基本。いくつかにわけて保存しておけば、取り出したいときも便利ですからね」(中原さん)

▲マクセルから販売されているBlu-ray Disc(データ用)。記録容量は片面25GBと、CD-RやDVDと比較すると圧倒的な容量を持つ(提供:マクセル)

また、マクセルの広報課では大事なロゴデータや商品画像はCD-Rなど、上書きできないタイプのディスクメディアで保管しているそう。

これは「一度保存したデータであれば、削除したり、上書きしたりできない」といったディスクメディアの特性を生かしたものだ。データのリライトができないディスクで保管しておけば、大事なデータをうっかり削除してしまったり、内容を変更したまま上書き保存してしまったりする心配がない。

「あとは、10年前に保存したデータを新しいディスクに移すときは、記録容量の多いBlu-rayディスクや、丈夫なDVDなど、新しいディスクを使うといいですよ。容量が大きいディスクにすれば枚数も減るし、頑丈なものにすれば保存するのにも安心で、今後10年の管理がしやすくなります。それくらい時が経てば、ディスク側の性能も向上していますからね」(中原さん)

記録媒体で安心してデータを保管するためには、日頃の管理が重要。普段づかいでも、丁寧に扱う一工夫を意識しよう。細かいことでも、その積み重ねが大事なデータを守ることに繋がるのだと考えれば、なんとか毎日のルーティンにも取り入れられるかもしれない。

ちなみに、今回の質問にお答えいただいたマクセルでは、「片面1層・25GB」にちなんで、毎月25日を「ブルーレイの日」としている。

毎月、この日はSNSを通してHDDの整理整頓や大切なデータのバックアップについて啓発活動を行っているそうで、私たちも「毎月の給料が振り込まれたら、大事なデータのバックアップを取る」と覚えておくことにしよう。

#今日は何の日 片面1層25GBにちなんで、毎月25日は #ブルーレイの日!! マクセル公式ショップ https://item.rakuten.co.jp/maxell/c/0000000102/ HDD空き容量は大丈夫!? レコーダーに録り貯めた録画番組、ハードディスクの整理整頓、大切なデータのバックアップ、お忘れなく #maxell #ブルーレイ #レコーダー #録画

マクセル株式会社さんの投稿 2021年6月24日木曜日


皆さんも、空いた時間を使って「大事なデータの管理方法」を見直してみては? 筆者はまず、実家に帰って、学生時代の写真が保存されたCDを探すところから始めます。

文=伊藤 駿/編集=神田 匠(ノオト)/デザイン=藤田 倫央

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