ヒトの行動から未来を予測。得上竜一が考える「データビジネス×AI」とは?

日々さまざまなデバイスから利用されるインターネット。パソコンやスマートフォンがすっかり定着した現代、インターネット上には私たちの膨大なデータが蓄積しています。

数年前から、このようなデータの塊を「ビッグ・データ」と呼ぶようになり、データを解析・分析して企業活動に利用しようという動きが活発になりました。

一時期に比べると、少し勢いがなくなったビッグ・データですが、AIなどの言葉に変化しながら、さまざま企業がデータ×テクノロジーによるイノベーションを目指しています。

しかし、今のところどの企業も巨大なデータを扱いきれていないのが現状。私たちの生活に直接インパクトを与えるようなサービスは生まれていません。

そんな停滞を続けるこの分野でイノベーションを起こそうと目論むのが、数年前「ビッグ・データの仕掛人」として業界にあらわれた、株式会社PLAN-B得上竜一(とくがみりゅういち)さん。




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家電製品やパソコンの「自動価格収集・分析・自動価格算出システム」や国内最大級の情報サービス「オークファン」、DMPサービス「Juicer」など、長年にわたってデータやAIと向き合い続ける得上さんは、データという情報の塊をどのように認識し、利用しようとしているのでしょうか?

得上竜一とはどのような人物なのか、また、データを取り巻くテクノロジーは、今後どのように進化していくのか?詳しく伺いました。




データの向こうに見える「何か」を求めて


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得上さんがパソコンやデジタルテクノロジーに興味を持ったのは小学生時代。6年生のころに発売されたWindows95がきっかけでパソコンに興味を持ちました。中学に上がると図書館にあるパソコン雑誌からプログラミングを学び、自分の頭の中でプログラムがどう動くかを想像して遊んでいたとのこと。

高校時代には、携帯のパズルゲームを開発。そのゲームがアプリ情報サイトのダウンロードランキングで1位を記録するなど、学生時代からずば抜けた開発力の片鱗をあらわしていました。

そんな得上さんがデータと出会ったのは22歳。2005年にマイニングブラウニーを創業し、自動価格収集・分析・算出システムを開発。この世界にのめり込んでいきました。

「知り合いだった家電量販店(PCボンバー)の創業者の1人に、自動価格収集・分析・算出システムを作れないかと持ちかけられたのが最初ですね。当時ネットショップとか価格コムが出始めたころで、各店舗の価格表をネットで見られるようになったんですよ。同業者はそれを見ながら比較表を作って、競合との価格競争を行っていました。比較表の作成はすべて手作業で、とても大変だった。これを自動化するというアイデアを創業者が持っていて、僕がそれを開発したという感じです」

そして、数ヶ月PCボンバーで開発に没頭していたある日、得上さんは創業者から「独立した方が良い」というアドバイスを受けてマイニングブラウニーを設立。価格データをすべて自動で収集・分析・算出できるシステムを開発しました。
膨大なデータと向き合う開発過程で、得上さんが興味を持ったのが、データそのものではなく、データの向こう側にある人間の意図や行動。得上さんはデータという情報の塊をどのように見ていたのでしょうか?

「データというのは結果です。結果ということは、そこに至るまでに何かが起こったということですよね。僕が興味を持ったのは、その『何か』の方で、そのデータは人がどういう行動をした結果なのか?とか、なぜそういう行動を取ったのか?という部分を考えることが楽しくなってきたんです」




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得上さんがマイニングブラウニー時代に開発していたのは、クローラーでネットの上のデータを集め、その中からある傾向を見出すシステムです。
例えば、ネット上にある求人情報をかき集めて処理することで、どこにどのような募集が集まっているのか?など、必要な情報を抜き出すことができます。
このシステムを使ってネットの情報を集めることで、得上さんはあらゆる問いに答えられる全知全能のシステムを開発できるのではと考えたとのこと。

しかし、開発を進める中で、どれだけ情報をかき集めても、全知全能にはならないことに気づいたといいます。そこから得上さんは、結果ではなくネット上の人の行動を集めるというアイデアに行き着きました。なぜ得上さんは行動データに着目したのでしょうか?




「行動データを集積」記憶を作り出すシステムとは?


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得上さんが注目したのは、結果ではなく人の行動。ネット上の人の行動を集積することで、「ある行動を取った人が次に起こす行動」を判断できると考えたといいます。

「僕が作りたいのは、膨大なデータから未来を判断できるシステムです。しかし、データ収集とマイニングを繰り返しても、それは未来ではなくデータから導き出した現実にすぎません。データから生まれるのはやっぱりデータなんです。ではどうすれば未来を判断するシステムが作れるのか、それには結果を導いた「人の行動」を集める必要があると思ったんです」

生まれてからずっと部屋にこもってインターネットしかしない人がいたとして、行動データが集積するとその人の記憶とほとんど同じものを生み出せると得上さん。それに機械学習の予測とマイニングを用いることで、結果ではなく人間の行動に基づいた未来の予測や傾向の把握が可能になります。

得上さんがJuicerの開発に携わるのは、Juicerがネット上の人の行動や傾向を集めるシステムだからこそ。すでに膨大な行動データを集積しており、次の行動を予測するAIの開発を計画中。導入に向けて、すでに動き始めています。

しかし、現状では市場がそれに追いついておらず、データビジネスを発展させるには、まだまだ課題が山積みとのこと。日本のデータ市場にはどのような課題があるのでしょうか?続いて、データ市場の現状と課題について伺いました。




市場規模の差は100倍以上!日本のデータ市場の現状とは?


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データを活用したビジネスを5つの市場(Collect・Store・Organize・Process・Consume)に分けて考えたとします。アメリカと日本の市場を比較すると、Store「貯める」の部分は2倍程度の差しかないのに対して、process・consume「解析・利用」の領域になると、100倍以上の差があります。日米でこれだけの差が生まれたのはなぜなのでしょうか?

「ひとつは、日本人の気質的な問題で、データに判断を委ねられないということ。もうひとつは設計が甘く、データから価値ある情報を引き出せないこと。そして、企業がデータの公表に積極的でなく、良いデータが集まりにくいこと。これら3つが大きな原因となっています」




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精神的・戦略的な問題が絡み合い、日本人はデータ活用の本来の意味や価値を理解できていない、もしくは受け入れられていません。そんな現状に対して、得上さんが提唱するのは原点回帰。まずは、流通経路を整えることが大切とのこと。

「例えば野菜の場合、農家さんがいて、農協があって、卸売市場とか加工業者がいて、小売りから消費者へ、みたいな流通経路があるじゃないですか。データもこれと同じで、流通経路を組み立てないとそれぞれのサービスが機能しないんです。今脚光を浴びているディープラーニングとかAIは、いわば中間加工業者で、分析の箇所に該当します。集めて整理整頓するとか、わかりやすくデータを可視化させるとか、その他の部分も強化しなければ、これ以上の発展は望めないでしょう」

日本がこれから伸ばすべき領域は、process・consume『解析・利用』の部分。先日、AIアルゴリズムを開発・ライセンス販売するPKSHA(パークシャー)が上場を果たしました。PER(株価収益率)が700倍近くとなるなど、この領域への期待値や注目度は年々高まっているものの、まだまだ発展途上なのが現状です。




エンジニアの役割は時代を次へと進めること


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現在、歴史上3度目のAIブームが来ているといわれており、データビジネスを促進するAI開発にお金が集まりやすい状態が続いています。
このチャンスに一気に開発を進めることで、流通経路が整っていくのはもちろん、最先端AIの開発など、イノベーションが起こる可能性があるとのこと。

現在はJuicerにおいて、ユーザーの次の行動を予測するシステムを開発していますが、将来的には「AIと友達になること」が理想と得上さん。
人間のように自由に発想しておしゃべりできる、人格や感情を持ったAIを開発したいといいます。

「今はIQの高いAIを求める向きがありますが、僕が求めているのは人格や感情といったEQ(心の知能)の部分です。マイクロソフトが開発した、おしゃべり好きの女子高生AI『りんな』がイメージとしては近いかもしれません。人間同士の会話のようにコミュニケーションが取れるAIを作ってみたいですね」

データビジネスの発展、AIの進歩など、文明をさらに一歩先に進めるような開発が世界中で行われています。
このようなテクノロジーをめぐる環境に対して、2045年問題(人工知能が人間の能力を超えるとされる年)など、テクノロジーの進歩は危険であるという議論も活発に繰り広げられています。
そんな、テクノロジーの進歩を危険視する意見に対して「縄文時代の動物を狩って食べたりどんぐりを拾って食べていた頃から、弥生時代の稲作への変化に比べたら大してことではない」と得上さん。




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「これまでの歴史を見ても、人間は技術を進歩させることで余剰時間を生み出し、その時間を使って文化を発展させてきました。日本人が稲作を覚え、狩りに行かなくなって余った時間で何をしたかというと、ツルツルの土器を作ったんですよ(笑)。縄文人からしたら、そんなものいらないですよね。でもそうやって生まれた文化が私たちの生活を豊かにしてきたのも事実です。AIが発達したら、人手がいらなくなる仕事が生まれるのも確かですが、余った時間で新しい市場が開拓される可能性もあるはず。未来には今からは想像もできない文化が生まれるのかと考えると、むしろワクワクしてきますね」

エンジニアの役割は時代を次へと進めること」と得上さん。
私たちの文化・文明をより快適に、より豊かにするべく、得上さんの開発はこれからも続いていきます。

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