超多国籍チーム!資産管理アプリMoneytree開発者に聞いた「エンジニアとしてグローバルに生きるには」

いつからか聞かれるようになった「FinTech」という言葉。「金融」を意味するFinanceと「技術」を意味するTechnologyを合わせた造語です。近年、IT企業による金融サービスの提供は盛況を博し、FinTech企業こそ次代の成長企業だと叫ばれています。

そんなFinTech企業の一つが、東京・原宿に本社を置くマネーツリー株式会社です。銀行やクレジットカードの情報を一括で管理し、簡単に自分の資産状況を確認できるアプリを開発・運用しています。2013年のリリース後、「App Store Best of 2013、2014」を連続受賞。アップルが公認する全てのアプリで、2年間にわたり最高の評価を獲得したのです。

急成長を遂げるマネーツリーですが、実はある強烈な個性を持った企業なのです。それは、日本発のスタートアップでありながら、外国人によって設立され、現在も社員の半数以上を外国人が占める多国籍集団であること。

同社CTOのロス・シャロットさん、エンジニアのアンドリュー・ライトさんにお話を伺いました。

日本でエンジニアやテクノロジーに関わる仕事をしたい。もし、見つからなくても英語教師をすればいい

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▲開発責任者のアンドリュー氏(写真左)と同社CTOのロス氏(写真右)

―はじめまして!まずはロスさんに伺います。単刀直入に、なぜ今こうして日本で働いているのでしょうか。経緯を教えてください。

ロス:はい。元々、アメリカのニュージャージ大学で政治を勉強していました。大学生の時から「海外留学したい」と思っていたのですが、卒業するまでできなかった。卒業後、海外で英語を教えるような仕事を探していたら、日本の英会話講師の仕事を見つけたんです。

1年ちょっと日本で過ごして、ニュージャージに帰りました。大学時代にインターンで働いていたWeb開発会社に入ったのですが、再び日本に戻りたいと思ったのです。東京で、今度はエンジニアやテクノロジーに関わる仕事に就いてみたいと。もし、見つからなくても英語の先生をすればいいと思っていましたね。

―これが2度目の来日ですね。マネーツリー創業まではどんな歩みがあったのですか。

ロス:まずは人材紹介会社のWeb開発の仕事に就くことができました。この会社でマネーツリーの創業者のポール・チャップマンと出会ったのです。当時はちょうどiOSが出てきた時代でしたが、2人で一緒にアプリを開発したのです。それをきっかけにモバイルアプリ開発とコンサルティングの会社を立ち上げることになりました。

―その後、マネーツリーを立ち上げた?

ロス:はい。モバイルアプリがやっぱり面白そうだ、という話になり、いろんなアイディアを出していって、マネーツリーを創業しました。2012年ですね。

―そもそもになりますが、エンジニアを志したのはいつ頃なのでしょうか。

ロス:大学の時ですかね。ちょうどWebテクノロジーが人気になってきた時代でしたから、インターンとして始めたのが最初ですね。子どもの時からパソコンを触るのは楽しかったので、新しいテクノロジーを使うのが楽しいと感じましたね。マネーツリーができてからも、会社のためにどんなテクノロジーが役に立つかを考え、会社のためになるテクノロジーを学んできたように思います。

日本では困難に思えた“資産を扱う”分野での挑戦。しかし「サービスが目に見えれば理解される」という信念があった。

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▲ホワイトボートに書かれた“User-Friendly”の文字。「使いやすさ」へのこだわりを感じさせる。

―マネーツリーは日本で生まれたビジネスなんですよね。勉強不足で恐縮ですが、外資系というか、元々は海外のサービスなのかと思っていました。

ロス:まさしく、日本発のスタートアップなんです。よく誤解を受けますね。「本社はどこですか?」って。「ここです。原宿です」って答えます(笑)。

―そういう認識はやはり多そうですね。日本で会社を立ち上げ、特に「お金」を扱うサービスをするには、日本人の性格や文化まで理解する必要があるように感じますが。

ロス:はい。日本の金融機関でのイノベーションは非常に難しく感じました。法律とルールがしっかりあって、新しいサービスを作りたいと思っても、まずは大体の人が「ダメ」と言う(笑)。だからこそですが、日本の銀行のテクノロジーには“古い”印象がありました。当時は2012年でしたが、まだFinTechに対する日本での理解は薄かったと思います。

マネーツリーとはまた違いますが、海外には、銀行やクレジットカードの情報が一つの場所で見えるようなアグリゲーション(集約)サービスがありました。「日本でも」と考えてアイディアを出していった。エンジニアは難しい問題が好きなのかもしれません(笑)。

―なるほど(笑)。実際には、どのように理解させていったのですか?

ロス:最初に「そんなことできるの?」って思われるのは予想していました。でも、実際にモノを作り、アプリとして「リアルタイムで確認できる体験」があれば、インパクトを残せるはずだという思いがありました。あとは、アップルがアプリを評価してくれた(「App Store Best of 2013、2014」受賞)。そういう後ろ盾も味方して、皆さんが使い始めてくれたと思います。

―アプリを開発する上で、日本人に合う「使いやすさ」なども考えましたか。

ロス:デザインの設計は日本人とスウェーデン出身のデザイナーの2人で行いました。心がけたのは、とにかくシンプルにすること。私自身、日本には細かい操作が必要なサービスが多いように感じていました。一つの例ですが、iPhoneが日本で売り出された時、「ガラケーの方がいろんな機能があるし、iPhoneって絵文字がないし……」って言われていましたよね。だけど、シンプルなものが徐々に受け入れられていった。

だから、私や社長のポールで何度も「もっとイージーに、もっとシンプルにしよう」と言い続けて、修正を繰り返しました。

超多国籍!東京・原宿の本社には、シリコンバレーの企業文化が溢れる

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▲マネーツリーのエンジニアが集う執務室。「日本で働きたい」という思いを持つ、優秀なエンジニアたちが席を並べている。

―開発の話を聞いていても、やはり多国籍チームであることが伺えますね。現在は、何カ国ぐらいの社員がいるのですか?

ロス:日本を含めて7カ国ですね。非常にインターナショナルですね。

―すごい!多国籍であることのメリットはありますか?

ロス:レベルの高いエンジニアが集まってくれますね。例えばシリコンバレーでは、エンジニアの給料がすごく高い。でも、「日本で働きたい」という外国人は結構いて「日本でなら、給料がダウンしても働きたい」と言って、高いスキルを持ったエンジニアがマネーツリーに来てくれるケースも多いのです。

―へえ!そういう人材を採用するのは賢い手段ですね!逆に、日本人の方はどのようなマインドを持って参加しているんでしょうか。

ロス:日本人に関しては、我々がイベントなどに行って声をかけたり、SNSで探したりもしますが、会社に直接メールが来ることが一番多いですね。「外資系やシリコンバレーっぽいチームで働きたい」という考えを持っています。環境としては確かに特別ですし、今はエンジニアも英語力を求められるので、そこをトレーニングできると考えれば、非常に良い環境なのかもしれませんね。

―今、言葉の話が出ましたが、やはりエンジニアにも語学力は必要だと思いますか?

ロス:はい。英語が喋れない、読めない日本人のエンジニアは、新しいテクノロジーでも一つ前のバージョンを使っていたりしているのを見ます。というのも、新しいものはまず英語でリリースされますからね。だから、少しでもいいから英語を理解できるエンジニアの方が有利だと思います。あと単純にグローバルに働きたいなら、英語は必要ですね。“ホウ・レン・ソウ”したくない人も必要かもしれません。

―ホウ・レン・ソウ(笑)。ロスさんは必要ないという考えですか?

ロス:過度なホウ・レン・ソウはいらないですね。マネーツリーでは常にコミュニケーションが取られているし、そこに時間はかけません。「ホウ・レン・ソウが好きです!」っていう人は聞いたことがないですね。例えば「自分は多くの時間をプログラミングに使いたい」って人が、スタートアップとか小さい会社に興味あるんじゃないですか。

日本人エンジニアの仕事は正確で素晴らしい。だけど、問題解決の前に答えを求めてしまう“癖”がある。

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―続いてアンドリューさんに、現場で働いているからこそ見えてくる、日本人のエンジニアの特徴などを伺いたいと思います。今はどんな業務を担当されているのですか?

アンドリュー:はい。今はロスが上司なんですが、私はアグリゲーションシステム、金融機関からデータを取得するシステムを担当しています。

―日本人エンジニアの特性、もしくは外国人エンジニアとの違いなどはあります?

アンドリュー:6、7人の日本人と働いた経験からにはなりますが、自分から問題を解決しないで僕に聞き来ることが多いように感じます。“癖”になっている。でも、その原因として、日本人の「勝手にこうしちゃっていいのか」という性格があるんだと思います。

だから「どうすればいいと思いますか?」と聞き返すと、答えは持っているし「じゃあそうしよう」ってなるのです。ウチはまだまだスタートアップなので、成果とスピードが大事。話すよりも、やろう!って気持ちがあった方がいいかもしれませんね。

ロス:あと、違いという点では、日本人は文句いわずに作業をしますね。「なぜ?」を聞いてこない。外国人の場合は「なぜ?」を聞きすぎる。何のためにこの仕事が必要なのかを知ってからじゃないと動き出さない。両方の間ぐらいがちょうどいいんですけどね(笑)。

―なるほど……。なんとなくイメージがわきますね。

アンドリュー:日本人の素晴らしいところは、仕事に対して、細かくチェックできることですね。私たちの仕事は、金融機関のデータを取得することで、正確性が重要。今いる日本人のエンジニアはものすごくしっかりチェックします。「とりあえず」がない。それはマネーツリーにとって、すごく活かされています。

社内ハッカソンで浮き彫りになった、日本人と海外人の積極性や主体性の差

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―多国籍な集団だと働き方や価値観も様々だと思うのですが、そのあたりの擦り合わせなども考えられているのですか

ロス:そういう課題に対しては、弊社では年に3、4回行う社内「ハッカソン」がうまく働いているように思います。2日間で自由な作業を行って、見せ合うのです。「なんでもいいから、会社に役立つと感じるものを開発していい」というのがテーマ。日本人の場合は、こういう風に言われることで「自分で判断する」ことに積極的になれるような印象があります。

それでも当初は、「本当にいいんですか?」という雰囲気があって、積極的に動くのは外国人の方でした。でも、作ったものが会社に評価され、その会議で外国人が「イエーイ!」となっているのを見て、2回目からは積極的になってきます。この「ハッカソン」はマーケティングチームもやっていて、多国籍なチームにおいて、お互いの価値観を解消する非常にいい取り組みだと感じています。

―マネーツリーのエンジニアに求める人材はどのようなものですか?

ロス:新しいテクノロジーに対して、積極的な人ですね。一つの課題に対して「私はこのテクノロジーを使って、こうやって取り組みます」と話せる人がいい。シリコンバレーで活躍するエンジニアを例に挙げると、「自分は何ができるのか」を常に発信しているはずです。そもそも向こうは、6ヶ月とか1年間の契約ベースで働くので、そこに違いもあります。

日本で採用の面接を行っていますが、「何か質問はありますか」と聞くと「5年後、マネーツリーはありますか」と、聞かれることがあります。海外ではまずない質問でしょう。日本では、契約ベースで毎年違う仕事に参加するケースはほとんどないですからね。シリコンバレーのようになるとしても、きっと長い時間が必要です。でも、日本もスタートアップが増えています。優秀なエンジニアの働き方はだんだん変わってくると思います。

押し寄せるグローバル化の波。世界市場で戦えるのは「自ら発信できる」エンジニア

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国内外でのエンジニアリングを経験し、日本語を流暢に操る彼らの言葉には、日本人エンジニアが海外で戦うためのヒントが散りばめられていました。「エンジニアは部屋にこもって黙々と作業をしている」。日本ではまだそんなイメージがあるように思います。ロスさんもアンドリューさんも、「マネーツリーにその姿はない」と口を揃えます。

国際社会はボーダーレス化が進み、エンジニアの世界においても、さまざまな言語圏や文化圏の人材が活躍する時代が訪れています。自身が持つ技術や知識を、自ら発信し、発揮する----。グローバルに活躍するために、そんな姿勢はもはや大前提です。

原宿の一角で切磋琢磨し働く超多国籍なエンジニアたち。今はまだ特異に映る彼らの姿は、そう遠くない未来の働き方を暗示しています。

取材協力:マネーツリー株式会社

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