実務未経験からITエンジニアへ ジョブチェンジを実現させる、タイプ別ロードマップ

ITエンジニアの需要が高まっている昨今。

多くの現場がエンジニア不足の課題を抱え、未経験者の採用を積極的に行なっている企業もあるようです。そのような状況から学生・社会人問わず、実務未経験からジョブチェンジを目指す人が増えています。

しかし、多くの人が
「実務未経験の状態からどうやって学習すればいいのかわからない」
「独学でプログラミングを学習しているけれど、今の方法で良いのだろうか」
など、さまざまな悩みを抱えているようです。

そこで、自身も実務未経験からキャリアを築き、現在はジョブチェンジを目指す人たちのサポートをしている勝又健太さんへインタビュー。未経験から効率的かつ短期間で、ITエンジニアになるポイントを聞きました。

勝又健太
早稲田大学政治経済学部経済学科出身。プログラミングに関する知識がゼロの状態から開発エンジニアへジョブチェンジ。小規模なSIer系企業・SES系企業・Web制作会社・Web系メガベンチャー、スタートアップ企業等、多種多様な企業での勤務経験後、独立。現在は、雑食系エンジニアサロンYouTubenoteなどでの発信を通じて、実務未経験からのITエンジニア転職をサポートしている。

ITエンジニアになるための才能や資質、向き・不向きはほとんどない

――本日はよろしくお願いします。今回、勝又さん自身の経験や普段転職サポートをしている立場から、お話を伺えればと思います。昨今は、ITエンジニアになりたい人が特に増えているようですが、その理由はなぜでしょうか。

2020年度から小学校でプログラミング教育が必修化されたことが大きな理由の1つだと思います。必修化の背景には、ハイレベルなITサービスの開発を行える高度IT人材の深刻な不足という大きな問題があります。その結果として、プログラミングに興味がなかった層にも、ITエンジニアの存在が知られるようになりました。また、今後もITエンジニアの需要がさらに高まっていくことが予想されているため、長期的にお金を稼ぐことができる就職・転職先としても、人気が高まったと考えられます。

――たしかに、義務教育で必修科されたことで、社会の注目度は高まりましたね。

はい。そのほかにも、ワークスタイルの大きな変化も影響していると思います。コロナ禍によりリモートワークが一般化しましたし、パソコンひとつあれば会社に行くことなく自宅やバカンス先でも、仕事ができますからね。実際、私が運営しているサロンにも、地方で子育てをしながら働ける仕事を求めて、ITエンジニアを目指している人がいます。

私自身も過去に夜遊びにハマっていた時期があり、正社員で働きながら深夜に遊んで、午前中は寝てお昼から仕事をするというライフスタイルを実践していました。ITエンジニアはそういった働き方を実現しやすい職業ですね。

――プライベートとの両立ですね。

加えて、良質な情報が得やすくなったことも大きいと思います。

実際に現場でITエンジニアとしてキャリアを積んだ人が、さまざまな方法でノウハウを発信しています。以前はブログやTwitterなどテキストでの情報発信が一般的でしたが、最近は動画などで非エンジニアにも分かりやすいコンテンツが発信されるようになりました。2019年から2020年にかけては特に盛り上がり、僕が運営しているYou Tubeチャンネルの登録者数も5万人を突破しました。その登録者の多くが、プログラミング未経験者の方たちだったと思われます。

――勝又さんは、今までさまざまな未経験者の姿を見てきていると思いますが、ITエンジニアになりたい人の意識や思考に変化はありますか。

当初は、簡単にジョブチェンジが実現できるだろうと考え、多くのライト層の人たちがプログラミング学習に取り組み始めました。「ITエンジニアになれば、すぐに理想の給与と自由なワークスタイルを手に入れることができるだろう」と思われていたようですが、現在は、それを実現するには相応の努力をしなければならないことがしっかり認識されてきました。

恵まれた環境の開発企業への転職にはハイレベルなポートフォリオ(転職用の成果物)を作り切る必要があるのですが、多くの人は途中であきらめてしまう。結果、ITエンジニアという職種ながら、コードを書くこともなく、開発実務の経験を積むこともできない企業に転職する人もいます。

――需要は高まっているけれど、諦める人も多くなっているのでしょうか?

エンジニア転職に本格的に挑戦する人は一時のブームの頃よりも少なくなっていると思います。プログラミングを「想像以上に簡単だと思ってしまっている人」、その逆に「想像以上に難しいと思い込んでしまっている人」、両極端な意識の人たちが挫折しやすいという印象ですね。

ITエンジニアになるために特殊な才能や資質は全く必要ありません。正しいロードマップをもとに“努力”さえすれば、未経験からでもITエンジニアになることは可能です。実際、私が運営するサロンやYouTubeの視聴者さんの中にも、アパレル、消防士、医療といった全くITと関係のない業界から、エンジニアにジョブチェンジした人が多くいらっしゃいます。

基礎学習は長くても2ヶ月、早く手を動かす

――未経験者がITエンジニアを目指す背景がとてもよくわかりました。では、実際に動き出す際には何から始めれば良いのでしょうか?

ITエンジニアに限ったことではありませんが、何かを成し遂げるには“目的”を明確にすることが重要です。多くの人は「付加価値の高い開発実務を早い段階で経験して人材価値を効率よく高めること」が目的だと思いますが、それを実現する上では自社開発企業 or 受託開発企業への転職が有効です。

自社開発企業は、自社でWebサービスやスマホアプリを作り、そこから主な収益を得ています。受託や請負ではなく自分たちでプロジェクトを持っているため、実務経験を積める可能性が高いという大きなメリットがあります。

受託開発企業は、自社でサービスを持っていないというデメリットがありますが、持ち帰りの請負案件が中心のため、実務経験を積める可能性があるというメリットがあります。

そして、そういった企業への転職を成功するために必須なのが「ポートフォリオ」です。ここで言うポートフォリオとは、アプリやWebサービスなどのプロトタイプを制作し、自身のスキルを可視化するものになります。

――採用に値するだけのエビデンスが必要ということですね。ただ実務未経験者がゼロから、アプリ開発をできるものでしょうか?

はい、ただし、そのためには圧倒的に努力をすることが必要です。具体的なロードマップがこちらです。

※自社開発企業 or 受託開発企業を目指すことを前提としたロードマップになります

このロードマップは、実務未経験からITエンジニアを目指すためのベースとなるものであり、年齢やその他の条件に応じて、更なる学習や工夫が必要になります。

まず、基礎学習は長くても2ヶ月以内に終わらせ、学習内容の①〜⑧を一通り学んだら、すぐにポートフォリオ作りに進みましょう。そして、ポートフォリオの制作を進めていくうえで分からないことが出てきたら、改めて基礎学習に戻り確認する。このサイクルを繰り返し行うことが重要です。

基礎学習、ポートフォリオ制作ともにマイペースにやるのではなく、とにかく短期間でやりきること。勢いを止めない、余計な予定は入れない。1日でも遊んでしまうとペースが一気に崩れてしまうので、本当に大事な予定以外は全て断るぐらいの覚悟が必要です。夜遅くの飲み会等は基本的に全てNGですね。

――じっくりと基礎学習するのはよくないのでしょうか。

はい、スポーツに例えると分かりやすいと思います。ルールブックや動画を見るなどして基礎的な技術を机上でいくら学んでも、実戦形式で練習試合等をしてみないと全く上達しませんよね。それと同じことです。実際に、2週間ほどで基礎学習を終わらせてしまって、すぐにポートフォリオづくりに入ってしまう人もいます。

努力や気合は長続きしにくいので、学習のための習慣化や仕組み作りが重要です。まずは学習に充てる時間をしっかりと確保すること。期間としては、基礎学習に2ヶ月、ポートフォリオ制作に4ヶ月、トータルで半年がひとつの目安となります。それ以上長い期間、マイペースに学習しても挫折確率が高まるだけですし、非常に効率が悪いのでお薦めしません。

――なるほど。短期集中が大切なんですね。ポートフォリオ制作におけるポイントはありますか。

ポートフォリオのテーマが、世の中のなんらかの課題を解決するためのサービスであること。そして、その解決しようとしている課題が、自分の人生やキャリアと重なっていることが望ましいです。つまり自身の思考や課題意識とポートフォリオのテーマに一貫性があることがポイントです。

事例を紹介すると、私のサロンの参加者さんの中に医療従事者の方がいました。その方は医療関係の情報や良書がまとまっているサイトがないことを以前から課題と感じていて、自らがITエンジニアとなり開発して解決しようと決意されたそうです。そして医療に関する書籍や良書の口コミサービスを、ポートフォリオとして制作して、モダンなWeb系自社開発企業へのジョブチェンジを実現されました。

――その人ならではのオリジナリティを表現することが重要だと。しかし、半年間学習を続けるにはモチベーション維持も重要だと思います。

一人ではモチベーション維持が難しいと思う人は、仲間をつくることをおすすめします。SNSで同じ境遇の人たちとつながったり、コミュニティに参加することで、情報交換や励まし合い、ときには競争心が生まれるでしょう。

実際、僕も最初にプログラミングを学習した際は10人ほどで集団学習するという環境でしたが、いい意味で強い競争意欲が芽生えました。

【タイプ別ロードマップ】ITエンジニアになるための近道を紹介

――ここからはタイプ別にITエンジニアになるためのポイントを紹介できればと思います。

実務未経験からITエンジニアへジョブチェンジする(自社開発企業 or 受託開発企業を目指す)にあたり重要なポイントが2つあります。

まず、1つめが年齢です。学生か社会人かによって道が分かれていきます。社会人のなかでも年齢を重ねていくほど、転職へのハードルが高くなるので、よりハイレベルなポートフォリオを作りきらなければなりません。さらに、20代から30代へ世代が変わっていくと、子育てや家族の事情により時間のコントロールが難しくなったり、現在の仕事において管理職ポジションに付いているなど、学習時間の創出が難しくなるケースもあるでしょう。

2つめが、住んでいる場所です。就職・転職した後の働き方を事前に認識しておく必要があり、それは住む場所が大きく関係してきます。

近年は、コロナ禍でリモートワークが広まりはしましたが、スキルが乏しいうちのリモートワークは企業・エンジニア、どちらにとってもメリットはほとんどありません。たとえば、専門用語の意味が分からない場合に、隣の席ですぐに教えたり聞くことができるリアルの場と比べ、オンラインは効率面でかなり劣ります。そのため1年〜数年間は出社する心構えを持つ必要がありますが、自身の人材価値を効率よく高めていけばリモートワークは早期に実現できるでしょう。まずはリアルの場で働く方が、経験の浅いうちは成長スピードが圧倒的に速いというメリットもあるのです。

プログラミングの知識や経験がない大学生の場合

大学生の場合、まずは自社開発企業にインターンやアルバイトなどで潜り込んで、実務経験を積むことをおすすめします。内容の濃さ次第ではありますが、インターン経験は就職活動時にも高く評価されやすいです。しかし、より高いレベルの開発を行っているIT企業ではインターンにも競争があり、ポートフォリオの優劣により参加の合否を決められるため、ここでもやはりポートフォリオ作りがポイントとなります。

就職活動時のポートフォリオについては、理系・文系によって変わってきます。

・理系の学生の場合…自身の偏差値や目指す企業によって求められるレベルは異なりますが、最低限プログラミングができ、モダンな技術を使えることをアピールできる内容に。より高いレベルの開発現場を目指すなら、さらに高度な技術を導入するなど、より目を引く工夫が必要になります。

・文系学生の場合…自身の偏差値や目指す企業によって求められるレベルは異なりますが、高度な技術を使い、より目を引くポートフォリオを作成することで、就職に有利になってきます。

学習時間については、社会人より自由に使える時間が多いため、社会人ほど学習時間をストイックに確保する必要はありません。平日3時間・休日5時間ほどを目安としてみることをおすすめします。ポートフォリオにかける時間は、学生であろうと社会人であろうと特に変わらず、できるだけ短期間で集中して作成した方がいいと思います。いずれも偏差値や所属学部による違いはありますが、レベルの高いポートフォリオであれば、学歴よりも評価されるケースもあります。自身の思考や課題意識とポートフォリオのテーマに一貫性を持たせることで、ポテンシャルへのアピールにもつながるでしょう。

首都圏在住、20代半ば社会人の場合

20代半ばの社会人の方は、いかに学習時間を捻出するかがポイントになってきます。半年でポートフォリオを完成するためには平日で5時間、休日は8時間。最低でもこれだけの学習量が必要となってきます。つまり遊びの予定などは一切入れず、半年間は仕事以外の時間はほぼすべてプログラミング学習に充てるような意気込みが必要です。本音を言えば、休職してポートフォリオ作りに没頭するのがベストではあります。

転職活動は、ポートフォリオのレベルが高くなればなるほど有利になります。高度な技術を使いこなすことはもちろんですが、社会人としてのキャリアや過去の経験から感じた問題意識が反映された良質なポートフォリオが求められます。

首都圏に在住していることから、転職活動を通じて実際に社内の様子を目にしたり、一部企業で行っている体験入社へ参加することで、現場のイメージをいち早くつかむことができるでしょう。

地方在住30代社会人

20代と比べると更なる努力が必要になります。使える時間の全てを学習に充てることが必要です。年齢による採用枠の減少に加え、地方在住ではIT企業の数が少ないため、さらに採用母数が減少。その結果、ジョブチェンジを叶えるためには、20代の方の数倍の努力は最低限必要となってきます。

ただし、30代地方住まいの方でも、ハイレベルなポートフォリオを作成さえすれば、可能性はゼロではありません。具体的には、フロントエンド、バックエンド、インフラ領域すべての技術を十分に理解していることが伝わるポートフォリオが必要です。当然、機能もたくさん盛り込んだ方がよいでしょう。

また、地方での転職活動に注力するのではなく、転職後のリアルな現場で働くことのメリットを見据えて、移住が可能であれば大都市に出てくることをおすすめします。そして採用時には正社員にこだわることなく、アルバイトや業務委託も選択肢に加えて、まずはITエンジニアとして良質な実務経験を積むことを第一に考えることも必要でしょう。

――アルバイトでもいいとの話も出ましたが、採用活動でのポイントもありそうですね。

ポートフォリオが完成したら、IT系企業が多く掲載されている求人サービスに登録します。プロフィールを記載する必要がありますが、内容に自信がない場合は、外部の添削サービスを利用するといいでしょう。実際、僕のサロンでも添削サービスを提供しています。

転職活動においても、30代地方在住の方は先ほど同様、他の属性の方よりも努力する必要があります。企業数百社にエントリーシートを送るのは当然で、その先、直接採用担当者にメッセージを送ることもおすすめです。

――採用担当者はどのように知ればよいのですか?

スタートアップに特化した採用サービスなどの場合は、採用担当者のTwitterアカウントが記されている場合も多いです。そのほかにも、対象企業が開いている勉強会やイベントなどに参加し、直接コンタクトを取るような積極性も大切。そして、直接連絡を取る際にレベルの高いポートフォリオの公開URLとGitHubリポジトリのURLを添付するのです。

特に30代の方は、なぜこの年齢でITエンジニアにジョブチェンジしたいと考えたのか。どうしてその企業に入社したいのかを必ず聞かれます。その際に、ポートフォリオの内容も含め、自身の経験と社会課題を解決したいという一貫したストーリーがあると、好印象を与えることができます。

また、いくらポートフォリオがハイレベルでも面接の印象が良くないために採用されないケースが多いです。そのような方は外部の模擬面接サービスなどを活用するといいでしょう。こういったサービスは僕の運営しているサロンで提供しています。

やる奴はやる、やらない奴はやらない

――ITエンジニアになりたい人は引き続き増えているようですが、今後はどのようなトレンドになっていくと思いますか?

最近は、プログラミングスキルがなくともWebサービスやアプリの開発が可能なノーコードツールなども出てきており、非エンジニアの人でも開発できる環境が整いつつあります。

それによってITエンジニアの仕事がなくなるかというと、そういうことにはなりません。なぜならば、どんなに革命的な技術が発明されても、今度はそれを基盤にしたハイレベルな生産性競争が企業間で繰り返されるからです。なので、そういった技術革新にキャッチアップして自身のスキルをアップデートし続けられる限り、仕事を失うことはないでしょう。

逆に言うと、技術の進歩にキャッチアップできないITエンジニアは仕事を失うということでもあります。つまりITエンジニアに要求されるスキル水準は毎年どんどん高まっている。実務未経験者のポートフォリオに求められるレベルが年々高まっているのもそういった背景があります。
ITエンジニアとしてこの先キャリアを積んでいくためには、常に勉強し続ける必要があります。実務未経験からの転職時のように、プライベートを一生勉強に捧げ続ける必要はないですが、ここぞというタイミングではしっかりコストをかけて新しい技術にキャッチアップしなければなりません。そういうことができる人であれば、将来的にも第一線で活躍し続けることができると思います。

――今であれば、どのような技術の習得がおすすめですか?

言語は「Go」、インフラ領域であれば「AWS」、システムアーキテクチャは「マイクロサービス」がトレンドであり、企業からもそういった技術に精通した人材が求められています。ただし技術トレンドは時代により変わるので、常に動向をチェックしておくことが大切です。

ひとつの言語に特化しているITエンジニアも多いですが、僕はそういった選択はおすすめしません。自分のキャリアがそうでしたが、何か一つ専門分野を持ちながらも、いい意味でミーハーであり続け、その時に求められている技術に柔軟に乗り換えていく。そういった戦略の方がより安全だと思います。

――本日はありがとうございました。最後に改めて、これからITエンジニアを目指す方に、メッセージをお願いします。

「いつの時代でも、やる奴はやるのよ。やらない奴はやらない」

僕の好きなアーティスト、矢沢永吉さんのお言葉です。ITエンジニアにジョブチェンジしたい。その先も、リモートワークなど自由な環境で働き続けたい。そのような希望を持つ方の相談にこれまで多く乗ってきましたが、結局は、この言葉に集約されると感じています。やる人は特にサポートをしなくてもやりますし、やらない人はやらないですね。

本気でITエンジニアになりたいのであれば、とにかく6ヶ月間、最大限の努力を続けるしかありません。やらない奴ではなく、やる奴になってほしいなと思います。

取材+文:杉山 忠義
編集:LIG

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