ヒト

撮影、改造、レース……飛ばすだけじゃない「ドローン沼」の正体を、ドローンレーサー・白石麻衣さんに聞いた

日本でも少しずつ、広がりを見せている「ドローン」。近年では、防災や農業などの幅広い分野でも活用され始めてきました。

そんななか、最近SNSでかっこいいドローン映像を発見したので、とりあえず見て欲しい。

まるで鳥のようにあちこち飛び回り、いつもの景色が違って見えませんか? ドローンの映像は何度か見たことはありましたが、ここまで見入ったのは初めてです。

調べてみたところ、こちらの映像を撮影しているのは、ドローンパイロットの白石麻衣さん。なんでも、ドローン撮影を行うカメラマンでありながら、ドローンの世界大会に女性パイロットとして参加しているらしい。……是非、お会いしてみたい!

白石さんいわく、ドローンに夢中になることを「ドローン沼にはまる」というそう。というわけで、今回はドローン飛行場で実際にドローンを飛ばしながら、白石さんにドローンの魅力について聞いてみました。

※ 新型コロナウイルス感染症の拡大防止策として、会場は十分に換気し手指を消毒した上で、適度な距離をとってインタビューを実施しました。

ドローンレースは、男女年齢問わず皆が競い合う世界

▲ドローン沼にハマっているという、白石麻衣さん

——白石さんがドローンに興味を持ったきっかけを教えてください。

テレビやインターネットでドローンの空撮映像が流行り始めたころ、世界一周の新婚旅行をドローンで撮影していた夫婦がいたんです。それが、2人の寄りからどんどんとカメラが引いていって、夫婦の後ろに絶景が現れていく……という映像で。

それまでにもドローンに興味はありましたが、「欲しい!」と思ったのはその時ですね。

——はじめに購入したのはどんなドローンでしたか?

「DJI Mavic Pro」です。操作は思ったよりも簡単で、ゲーム感覚で飛ばせて楽しかったです。真冬の誰もいないビーチに行って現在の夫と私を撮影したんですが……「自分のカメラで撮っているんだ」という高揚感と、画面に映った「海と私と家族」を見たときは最高でしたね。

——そこからドローンの魅力に開眼し、今では仕事にまでなっている、と。どんな依頼が多いのでしょうか?

元々の仕事である3Dのグラフィックデザイナーの仕事をやりながらなのですが、ドローンレースや、ドローンカメラマンをやっています。まだドローンレーサーとしての賞金収入はないのですが、招待されたイベントでお話をすることもあります。

——撮影だけでなく、レースに出場するほどハマってしまったわけですね。

レーシング用のドローンがアクロバティックな映像を撮影する「フリースタイル」というジャンルがあって、その映像に衝撃を受けたんですよ。それで、「今すぐ私もこれを撮りたい!」と。

▲白石さんによる、フリースタイルの映像

とはいえ、そんな映像を撮れるドローンはどこで買えるのかすらわからなかったし、レース用の機体は自分で組み立てなければいけないことすら知りませんでした。

なので、ドローンレーサーとして活躍しながら情報発信をされている方に連絡を取って、少しずつ知識を増やしていきました。その後に縁あって2017年に開催されたインターナショナルなドローンレース大会に、通訳スタッフとして帯同することになったんです。

——行動力がすごい!

実際に選手と話しながら、操縦を間近で見れたのは貴重な体験でした。それ以上に刺激を受けたのは、レースに女性が参加していたこと。しかも、綺麗で、上手で、格好良くて。

——それで、自分でもやってみたくなった……?

はい。一緒に、ドローンのコミュニティが素敵だな、と思うようになって。

ドローンレースって、年齢の壁がないんですよ。インターナショナルな大会ということもあり、海外の方との交流はもちろん、10代から50代までのドローン好きの方々が楽しんでいる様子に感動したんです。

——2017年11月にはご自身でもドローンコミュニティ「 WTW(Wednesday Tokyo Whoopers) 」 を発足されていますよね。

ドローンは1人で操縦するので、練習中はとにかく孤独なんですよ。だから仲間が欲しかったのと、ドローンに興味を持っても、以前の私のように操作や組み立て方が分からず困っている人をサポートしたいという思いもありました。当時、地方や郊外にはコミュニティがあっても、東京にはなかったと思います。

▲WTWのWebサイト。ちなみに、取材時の白石さんが着用しているのは同コミュニティのパーカーとのこと

そこでWTWを作ったところ、1回目から15人ほどが集まりました。現在も様々な世代の方が参加してくれています。

——情報交換もできるし、互いに切磋琢磨して腕も磨かれそうです。

私自身も、みなさんのおかげで技術や知識が向上したと思います。最初は自由に飛び回れるだけで嬉しかったんですが、イベントを重ねるごとにもっと上手に飛ばせるようになりたいと思うようになりました。最近では、街を散歩しながら「あの隙間なら通れる。あの輪っかは潜れる」「この空間でドローンを飛ばしてみたい」みたいな視点を持つようになりました(笑)。

白石さんにドローン撮影をお願い。「股抜け」をやってもらいました

——実はこの前、友人の結婚式で流す映像をドローンで撮影してほしいと頼まれたのですが、なかなか上手くいかなくて……。初心者にオススメの機体や練習方法はありますか?

撮影用であれば、風に影響されにくく機体が安定するドローンが良いと思います。練習方法は、まずはまっすぐ前に飛ばして、少しずつ方向転換していきましょう。慣れてきたら、丸を描くように、8の字飛行にも挑戦してみてください。

▲せっかくなので、ドローンを飛ばしながら操縦の上達方法を伺いました

——自動車教習所の練習みたいですね。

あ、操縦中にスマホ画面(※)だけを見ていると危ないですよ。カメラでは目の前に壁が来ているように見えても、実際の距離はけっこう離れていたりするんですよ。カメラの映像だけでなくて、機体の位置を目視で常にチェックする癖をつけておきましょう。

※ 体験で筆者の使用した機体(DJI Mavic Pro)は、コントローラーにスマートフォンを接続することで、ドローンに内蔵されたカメラの映像をリアルタイムで確認可能。これを使用すれば「ドローンの目線」で操作することができる

▲画面から目を上げたら、ドローンがかなり高いところまで上昇していた

——確かに、画面だけ見ていると機体をどこかに激突させてしまいそうです。

あとは、ドローンのカメラの向きにも注意してください。自分の進行方向とドローンのカメラの向きを揃えると、操縦しやすいですよ。丸もスムーズに描けると思います。

▲筆者がドローン操作中に撮影した映像。ドローンでも、カメラを向けられたらやっぱり手を振りたくなる

▲ゆっくり横に旋回して……

▲身長180cm以上のカメラマンさんの頭上を悠々と通過していきます

——ドローンレーサーや上級者はゴーグル(※)をつけていますけど、あれもカッコイイですよね。

※ ドローンの機能によっては、機体のカメラで撮影した映像を専用のゴーグルやヘッドマウントディスプレイを使いリアルタイムで確認しながら、「ドローン目線」でのフライトが可能。「FPV(First Point View)ドローン」とも呼ばれており、操縦にはアマチュア無線の免許が必要

ですよね! 私もカッコイイと思ってます(笑)

▲ドローン操縦のため、ヘッドマウントディスプレイを装着している白石さん

——これは目視での操縦と、どう違うんでしょうか?

没入感が増して、より集中できます。最初は自分がどこを飛んでいるのかさえもわからなかったですけど、慣れていくうちに本当に鳥になったような気分になりました。ちなみに、夏場にずっとゴーグルをしているとアイメイクやまゆげがなくなるので、女性は気をつけてください。

——今日は白石さんの機体を持ってきていただいたんですよね。

はい。レース用と撮影用マイクロドローンの2台を持ってきました。

▲レース用機体は飛行時間はおよそ3分で重量350g程度、最高速度は時速160kmにもなるのだとか。「ゆっくり操縦すれば5分くらいは飛ぶが、あまりそういう飛ばし方はしない」(白石さん)とのこと

——かわいい! ちなみに、ちょっと飛ばしてもらったり……?

もちろん! では、普段撮影に使っているマイクロドローンで、「股抜け」をやってみましょうか。ちょっと、離れた場所で足を開いて立っていてもらえますか?

——ありがとうございます!(股抜け……?)

▲白石さんが小型ドローンで撮影した映像 (フルサイズ・高画質版はこちら)

▲モデルが開いた足をドローンが通り抜けていくのが「股抜け」。撮影では比較的よくやるそう

▲こんな狭い隙間を抜けて……

▲最後には筆者のまわりをぐるぐると。ミュージックビデオみたい

ドローンを飛ばすだけではない、カスタマイズする楽しみ

——たくさん飛ばしていただきありがとうございました! もっとデリケートに扱うものだと思っていたら、想像以上にガンガン飛ばしていてびっくりしました。気をつけないと壊してしまいそう……。

私もはじめはそう思って、慎重に丁寧に扱っていたんですよ。でも、よく考えたらレース用のドローンって最速180kmで飛ぶんですよね。そのスピードで障害物や壁にぶつかっていくものなのに、恐る恐る扱っていても意味ないな、と。それからは、剥き出しのままトートバックに入れたりして運んでいます。

——いま使用している機体は、どういう理由で選んだのでしょう?

完成品を購入してから、それぞれのパーツを自分好みのものに取り替えていって今の形になりました。

ドローンって、性能にこだわる人はプロペラを回すモーターを変えたり、ボディの外装を好きな形にしてみたりと、機体を自分好みにカスタマイズできます。そして、それに使う新しいパーツはものすごい頻度で販売されるんですよ。

——こだわり出したらキリがなさそうですね。

購入して組み立てて飛ばす日には、もう最新バージョンが販売されていることもあるくらいで……。モノづくりが好きな方やガジェットオタクで、毎回のように新しいパーツを購入している人もいます。

カメラだって、以前は「640×480」の画質でしか撮れなかったのが、最近では高精細の4K撮影まで可能になりましたからね。全てのパーツが、どんどん進化しているんです。

——ドローンの「飛ぶ性能」は、パーツによってそんなに違いが出るものなんですか?

全く違いますよ。たとえばモーターのパワーが足りないと、ターンをする際に少し高度が落ちちゃうんですよ。そこで、軽い上にパワーもあるモーターに変えたら、スムーズに切り返せるようになったり。

▲先ほどの映像撮影に使用した、白石さん所有のマイクロドローン(重量は110g程度)。小型で屋内でも飛ばせるので、自室で仕事中の旦那さんに、ドローンでちょっかいを出すこともあるのだとか

——素人目線だと「機体をとにかく軽くして、スピードが出るようにすればいい」とか考えてしまいそうですが。

間違いではないんですが、軽すぎると今度は強度が落ちます。また、軽いと動きが速くなるため、そのぶん精密で素早い操作が必要になるんですよ。

——飛ばす楽しさだけでなく、カスタマイズする楽しさもある、と。思った以上に奥が深い……!

上達するまでは、落としても大丈夫なように強度の高い機体で練習したほうがいいと思います。ちなみに、私の場合は軽さより強度重視です。子育てでメンテナンスや修理の時間がなかなか取れないので、絶対に壊したくないんですよ(笑)

——僕も自分の機体が欲しくなってきました。初心者にオススメのドローンはありますか?

用途から考えるといいかもしれませんね。撮影用であればアシスト機能(※)が充実している「DJI Mavic Pro」や「DJI Mavic Mini」がおすすめです。

※ 非操作時にドローンがその場でホバリングしたり、障害物を自動で避けたりするなど、操縦者の操作をサポートする機能。レース用ドローンには、軽量化の観点やドローン上級者を操縦者として想定しているため搭載されていない。なので、「レース用機体はホバリングが難しい」(白石さん)とのこと

——まずはそこから入門して、もしレース用が欲しくなったら……?

最近は完成機でもクオリティの高いドローンが安価で販売されているので、好みでいいと思います。後から他のメーカーのパーツに替えることも可能ですから。最初は飛ばす楽しみを、慣れてきたらカスタマイズしていく楽しみを覚えていくと、ハマってしまうと思いますよ。

技術が上がれば「攻めた撮影」ができるように。感動させる映像を撮りたい

——ドローンカメラマンとしては、どういった映像を撮影されているのですか?

景色のほか、ミュージックビデオやライブ、会社の紹介映像など様々です。操作技術が上がると、撮影できる映像の幅も広がるんですよ

特に近年はマイクロドローンが流行してきて、これまでは通れなかった狭い場所の撮影も可能になりました。腕さえあれば、50cmの穴の内部に潜入するなど、より攻めた撮影ができるんです。

——これまでのリクエストで、難しかったのはどんな撮影でしょうか?

人がからむ撮影は難しいんですよ。前に「ダンサーの手と顔の間を抜けてくれ」とお願いされたことがあって。

——人がからむだけでなく、なんなら50cmより小さい隙間ですね。

正直、これは苦戦しました。ダンサーが女性だったので、ドローンに髪の毛が絡んじゃうんですよね。

あとは、スポーツ選手の撮影も大変です。その競技の知識がないと、どう動けばいい映像が撮れるのか分からないですから。とにかく、動いてるモノ・人の周りを飛ぶのは難しいです。

——上達までの道のりは険しそうですが、やっぱり「練習あるのみ」なんでしょうか。

上達のポイントは「思い切り」だと思います。怖がって飛ばすと、まるで上手くならないんですよ。なので、最初は安いドローンを買うか、超頑丈なドローンを組み立てるかして、壊れることを恐れず大胆に練習するといいと思います。私ももっと練習して、人を感動させるような映像が撮れるようになりたいですね。

——日本ではドローンに対してネガティブなイメージを持つ人もいるように思います。競技としてのドローンレースが注目されたり、その楽しさが広く浸透すれば、風向きもかわるかもしれませんね。

まずは、ドローンのその楽しさを多くの人に知ってほしいです。また、ドローンレースの知名度も上がって、ゆくゆくはスポーツ選手のようにドローンレーサーにファンがつくようになるといいですね。

ドローンレースは、せっかく年齢も性別も関係なく、みんなが同じフィールドで楽しめる競技です。これだけ楽しいんだから、もっと気軽に始められる環境が広がってほしい。そのためにも普及は大事だと考えていますし、私自身もその力になれたらと思います。

白石 麻衣(しらいし まい)さん
ドローンレーサー、ドローンカメラマン、ドローンイベントの企画運営、3DCGのデザイナー兼ディレクター。2017年11月マイクロドローンコミュニティ「WTW(Wedenesday Tokyo Whoopers)」を立ち上げ、毎週水曜日、都内近郊でマイクロドローンイベントを開催。2018年11月にはドローン選手権「FAI 1st World Drone Racing Championship in Shenzhen」にて日本代表としては初の女性パイロットに選出される。

【撮影協力】TOKYO POOL LABO( https://drone.rockinpool.com/ )
住所:東京都足立区花畑4-33-4 マイエススイミング花畑アウトプール内

(文=小野洋平(やじろべえ)/撮影=西田優太/編集=ノオト

※ ドローンを飛ばす際は、ドローン飛行場を利用するか、近隣の自治体による法律やルールを調べたうえで、安全に注意を払って飛行させてください

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