「気がついたらCTOになっていた」遊びマッチングサービス『asoview!』を3か月で作った江部隼矢に聞くエンジニアのネクストキャリア

「今度の週末どこかに行きたいな」「旅行先で何かアクティビティをしたい」と思った時、ドンピシャのプランが見つかる『asoview!(アソビュー)』。アウトドアのレジャーからアート系ワークショップまで、全国1万3000件以上のプランから予約ができるサービスです。

アソビュー株式会社が2012年夏にリリースして以降、「遊び・体験」のオンライン・プラットフォームとして急成長を遂げ、現在は経済産業省の運営するデータベースに情報提供するほどのサービスとなったasoview!。そんなasoview!もリリース当社はたった数十件ほどのプランからスタートしたといいます。

asoview!の立ち上げから関わり、システム開発を1人で担当し、たった3カ月でローンチまで漕ぎ付けたというアソビューCTOの江部隼矢さんにasoview!の開発秘話から今後の展望までをお聞きしてみました。

自分たちで作るワクワク感があった~『asoview!』リリースまでの開発秘話

aso_0002

—そもそも江部さんがasoview!の立ち上げに関わることになったいきさつは何だったんでしょうか。

アソビューの前身であるカタリズムという会社がasoview!の原型となるサービスを立ち上げようとしていた際、創業者である山野(現・アソビュー代表取締役社長の山野智久氏)から一緒にやろうと誘われたのがきっかけでした。

—asoview!のサービスは、どのようにして生まれたのですか。

カタリズム創業時から「いかに日本の経済の活性化に貢献できるか」という思いがあり、どういった領域でアプローチできるかと考えた時、当時の成長産業として福祉、エネルギー、旅行、ITという分野が挙がり、その中で自分たちに実現できそうなことが、「旅行とIT」でした。それでこの2つを軸にやっていくことになりました。

asoview!を考えたきっかけは、アクティビティやレジャーは当時プレイヤーがそんなにいなかった領域で、事前調査でも旅行先や余暇で何を過ごすかに悩みを持っていることがわかっていました。旅行中、宿は決まっているけれど、何をして遊べばいいのか分からない。そこでこの領域の課題解決をしたら良いサービスになるのではと考えたのです。

—その時、新しいものを作るワクワク感はありましたか。

ありましたね。前職のSIer時代はお客様のものを作って納品する仕事でした。しかし私は、自分たちで考え、作ったプロダクトを通して世の中に価値貢献したいと考えていました。それが、前職を辞めて、新しいサービスを作ろうと思った一番のモチベーションでした。

—その分、苦労があり、労力もかかったわけですよね。

ええ、事業オーナーであるか、SIerやコンサルのポジションにいるかによって、事業に対する責任は変わってきます。また、正解のない新しい領域で始めようとしていたので、細かい意思決定は非常に苦労しました。いわば「一寸先は闇」の中でやっていました(笑)。

—なぜ開発3カ月という限定された期間だったのですか。

レジャー関連のサービスは夏が繁忙期です。一方、開発に着手したのは4月でした。3カ月で作って夏に間に合わせて、スタートの手ごたえを確認したかったのです。開発のスケジュールはないに等しかったですね(笑)。

システムの開発は私1人で担当し、情報収集はアルバイトで参加してくれた仲間にお願いしました。代表の山野は各地を訪問し、サービスに共感していただける掲載パートナーの皆様との関係構築を担っていました。

asoview

▲現在のasoview!には掲載サービスは13,000件以上。ローンチ初期と比較すると、その差は圧倒的。

—リリース当時と今では、asoview!の内容はまったく違っていたのですか?

今でこそasoview!は掲載パートナー様も増えて、ほとんどのコンテンツが予約できるようになっていますが、リリース当時は30社ほどの契約から始まり、予約できるプランは数十程度でした。今の「あそレポ」のような機能もなく、webで集めてきた情報を掲載するリンク集のようなスタイルでした。

最初は山野がエクセルで作成したコンテンツを、私が手動で取り込むという作業をずっとやっていました(笑)。そして、サイトから予約が入ると、弊社とパートナー企業、ゲストにメールがそれぞれ届く、というシンプルなシステムでした。ですから、予約が入ったらパートナー企業様に電話して「うれしくて電話しちゃいました! ……で、予約は大丈夫ですか?」とその都度確認をしていました。

—そんな立ち上げ当初のasoview!は、思い描いていたものの何割ぐらいを実現していましたか?

0.1%くらいでしょうか(笑)。まずはサービスを始めるのが重要でしたので。できた時は到達感と同時に、「これからどうするんだっけ」という思いが襲ってきました。ローンチ後の方向性を明確に定めていなかったので、右往左往した時期もあります。色々と模索した結果、やはり「売るもの、つまりコンテンツ量が増えないとダメだ」ということになり、そのためにはどうすればいいかを考え始めましたんです。

ローンチ後も暗中模索。とにかく時間を差し出して前進する

aso_0001

—リリースした直後、一番の課題点と考えていたところはどこだったのでしょうか。

今後の展望が見えなかった、に尽きます(笑)。お金も人もないという状況でした。メディアは成長していくためには時間が必要ですし、その間の資金調達も必要です。株主でもある現Yahoo!執行役員の小澤さんに相談した際、「何かで日本で一番になって実績を作るべきだ」というアドバイスを受けたんです。

そこで、取り扱い商品数で1位を目指すことにしました。しかし当時は、資金も物資もなかったので、時間の使い方を工夫するしかありませんでした。インターンを採用し、お給料が十分でない代わりに一生懸命教育をし、山野が持っていたビジネスのノウハウを伝授して、彼らの成長にコミットすることで共に作りあげていきました。

私自身は、みんなが開拓してくれたコンテンツをスムーズに管理できるようにと、入稿管理システムを開発しました。

—現在の開発部署は何人ぐらいいらっしゃるのですか。

正社員・業務委託を含めて、現在は15名程になりました。これまではエンジニアとデザイナーが一緒になって、プロダクト部という1つの部署を形成していましたが、最近はエンジニアも事業部に属し、ユーザー価値にフォーカスする体制に移行しました。会社のフェーズとしても今は事業を伸ばしていく段階で、エンジニアもプロダクトだけではなく事業をビジネスとして成長させていくことに興味を持ってもらいたいと考えています。

—エンジニアはビジネスに取り組んでいくというより、モノを作るのが好きな印象を受けるのですが、そういう新組織を作っていく上でハレーションみたいなものはなかったんですか。

弊社はサービス志向なエンジニアが多く、techie(テッキー:技術屋気質)な人もいますが「モノを作る」こともビジネスを伸ばしていくための手段の一つという捉え方をしているので問題はありませんでした。

—江部さんご自身が作ったサービスにエンジニアが集まり、今度はマネージメントをする立場になったわけですが、「コードに触れる」という仕事から離れることに抵抗はなかったですか。

最初はありました。やはり好きな仕事なので。しかし、自分で手を動かさない方が、組織としてはパフォーマンスが上がるという事実もありますし、マネジメントをして、すべき仕事をすべきだと考えています。ただ、人数が少ない中でそれなりの規模のものを作り上げていく必要があるので、今でも現場で技術に触れる機会はあります。

aso_0004

—最初は1人で作り上げたサービスを、人に渡していく作業は難しかったのでは?

いえ、意外とスムーズでした。周りのエンジニアがきちんとシステムやサービスを理解してくれていたこともあり、私がイメージしていた改善の方向へ動いてくれたので、大変なことはありませんでした。むしろ、突貫工事で作ったものをそのまま渡してしまって申し訳ないという思いが強かったですね(笑)。

—ご自身が作った初期のコアみたいなものは、今もasoview!の中に色濃く残っているんでしょうね。

残っていますね。良い部分も、悪い部分も(笑)。

—では、現在のasoview!は、理想の何割を実現していますか?当初は0.1%とおっしゃってましたが。

2割くらいでしょうか。当社は単一サービスを運営していますが、事業としては企業向け、行政向けのソリューション事業など、どんどん幅が広くなってきています。私たちは余暇の課題解決をしたいのであって、体験予約するシステムを作ること自体が目的ではありません。本来の目的にもっと寄与できるシステムとして考えた時、今のサービスの完成度は、せいぜい2割くらいだと思っています。それに、日々理想は高くなっていくものなのでずっと追いかけていくのだと考えています。

そして技術屋は新米CTOになった

IMG_4244

—前職ではマネージメントの経験はあったのですか。

今回が初めてでした。だから、手探りな部分もあります。本来、私はどちらかというと、もの作り志向の人間で、マネージメントを真剣に考えたことは前職まではあまりありませんでした。

—では、人を使う立場のエンジニアになった時、最初に取り組んだことはなんでしょうか。まず、マインドセットを変えるところからだったりしますか。

まず、自らの考えをわかりやすく言語化しなければいけないシーンが多くなりましたね。自分1人で作っている時は、誰かに大枠の方針を伝えることはあまりありませんでしたし、人数も多くなかったからコミュニケーションに大きなパワーはかかりませんでした。今は、ビジネスの上流部分に当たる抽象的な話や、それに基づく自分の考えをアウトプットするのも重要な仕事なので、より伝わりやすい方法を日頃から考えています。

—「エンジニアは35歳で引退」という説もありますよね。35歳を境にマネージメントの側にシフトするという意味もあるかと思うのですが、ご自身はいかがですか。

「35歳引退説」は世の中全てのエンジニアにおける通説ではないと思います。40代以降も活躍されている方もいますし、60歳のすばらしいエンジニアもいますよ。組織によってはそのくらいの年齢でマネージメントにシフトするかも知れませんが、事業の中でエンジニアをやっている人たちは、まったくそんなことはないと思います。35歳なんて、むしろ脂がのっている円熟期ではないかと(笑)。

—なるほど。実際にサービスを自分の手を動かして開発することと、マネージメントして組織を作ることは、また違うエキサイトメントがあると思います。チームを率いるマネージメントの魅力はなんでしょう。

より高い視点でのチャレンジができることだと思います。そして、それを通じてチームとしての成長をすごく感じられる点です。自分でずっと作ってきたので、「俺、最強!」と、自分のエンジニアリングを過大評価してしまう時期もありました。そして、その時期を過ぎて、自分一人よりもチームの方がより大きなものを生み出せるということに気付いた瞬間がありました。

自分が一行もコードを書かなくとも完成したサービスが上がってくると、組織としての成長を感じるようになる。技術者としての喜びとは少し違って、CTOとして、チームが成長している、自分だけでなく仲間の一人ひとりが考え、価値をアウトプットできているという状況がうれしい。それがマネージメントの喜びではないでしょうか。

これからのasoview!とCTOが目指すもの

IMG_4156

—最初のサービスから、次の一手が見えてきたのはどんなタイミングだったんでしょうか。

これまで取ってきた施策は、すべて本来想定していたものでした。その意味では、最初からasoview!の方向性はブレていません。2015年にリリースした在庫管理システム『satsuki』ではリアルタイムに予約ができるようにしましたが、その仕様も1年前から予定していたことです。

今後は海外展開も視野に入れ、進めていく予定です。それと同時に、技術的な改善も含めて、プランはたくさんあります。

—エンジニアという職にある人達を同じ方向へ向かせたい場合、ビジョンや技術的な部分などの共有はどのようにされているのですか。

基本的にエンジニアだからどう、ということはなく、ビジネスサイドの仲間と同じく、会社としてのビジョンやミッション、各事業ごとに目指すものを、代表や各事業部のリーダーを通じて共有しています。エンジニア達もそれに基づいて、どうしたら良いかを主体的に考えることができてきていると思います。

技術的な部分では、システム全体のアーキテクチャをどうするべきか、大枠の方向性を示しつつ意見を吸い上げています。「組織の変化に合わせてシステムも変わっていかなければいけない」ということは常々伝えていますよ。

最近は、私からは大枠の方針を共有し、各論については各チームで考えてもらう、壁にぶち当たったら一緒に考える、といったスタイルで進めています。

—ありがとうございました。エンジニアとしてのこだわりと、マネージメントいる立場としての苦労と喜び、2つの立場からのお話を聞くことができ大変参考になりました。

エンジニアだからわかる、マネージメントの役割

エンジニアからマネージメントへ。企業の中でそういったシフトを遂げていくエンジニアは少なくありません。その際、エンジニアではあまり必要とされなかった、自分の考えを言語化するシーンがマネージメントをする立場では増えてきます。

今回、話をうかがった江部さんは、CTOという立場でありながら、1人でasoview!のシステムを作り上げたのちにチームに委ね、現在はさらに大局的な技術方針を策定しています。

エンジニアから見れば、マネージメントのハードルは高いのかも知れません。しかし、自分1人で作っていたものが、チームによってより大きく進化していく様を見ることができるのは、マネージメントならではの喜びではないでしょうか。エンジニアの先にあるひとつの選択肢、そして、別種の作る喜びを得るために、マネージメントの意義やあり方を考えてみるのも必要なことかもしれません。

取材協力:アソビュー株式会社

この記事が気に入ったらいいね!しよう

いいね!するとi:Engineerの最新情報をお届けします

プライバシーマーク