オンライン会議は発言しにくい?発言できない空気を解決する仕組み

コロナ禍をきっかけに一気に世の中に浸透していった、Zoom等のWeb会議システム。場所を問わず会議に参加できて便利ではあるものの、対面のコミュニケーションと比べるとどうしても「参加者からの発言が少なく、盛り上がりに欠ける」印象を感じている人も少なくないかもしれません。

他にも「なんとなく発言しにくい」「いくら会話しても物足りない」など、私達がWeb会議システムを通じたコミュニケーションになんとなく違和感を持ってしまうのはどうしてなのでしょうか? そして、その違和感を克服して、「前向きに発言が飛び交うWeb会議」はどうすれば成立するのか。

企業向けの講師やイベント司会を行う、“オンラインファシリテーター”小澤美佳さんにそんな相談をしたところ、どうやらWeb会議ツールを用いたコミュニケーションでは「インタラクティブ性」が重要とのこと。いったいどんなアプローチをすれば、「Web会議で話しにくい」問題が解決できるのでしょうか?


小澤美佳(こざわ・みか)さん
株式会社ニット・広報担当。同社の業務と並行してリモートワーク導入にむけた講演活動や、大学での非常勤講師も。近年は「オンラインファシリテーター」として、Web会議ツールを活用したイベントの司会を担当している。

Web会議が盛り上がらないのは、テレビ視聴と同じだから

——小澤さんが研修を行ったり、イベントのファシリテーションを担当したりする中で「Web会議システムを使ったコミュニケーションの難しさ」を感じるのはどんなときですか?

小澤さん:やはり一番はイベントのファシリテーションをやるときでしょうか。オンラインでは、イベントならではの「場の空気」を作るのが難しいんですよ。その結果として「参加した満足感が得られない」「参加したけど、今ひとつ楽しめなかった」という気持ちになってしまうのも少なくないのかな、と。

よく考えたら、モニター越しでイベントを観ているのってテレビでバラエティ番組を観ているのとほぼ同じ感覚じゃないですか

▲ファシリテーターとしてのイベント登壇だけでなく、企業向けの研修や大学生向けのキャリア研修の講師も行う(写真提供:小澤さん)

小澤さん:もしリアルのイベントだったら、ドキドキしながら会場に向かったりとか、隣の人と会話したりとか、登壇している人の熱量とか、イベントの内容だけでない体験がたくさんできます。そこで参加者のテンションも少しずつ上がっていくものなんですが、自宅のモニターの前で「楽しんでね!」と言われても……という。

——確かに。イベントならではの「非日常感」はなかなか得られないですからね。

小澤さん一方的な配信を聞いている状態で、集中力が続くのはがんばっても15分程度だと思うんですよね。それ以上は並行して別のことをやっているか、ひどいときには聞いていない、という状態になりがちです。

イベントで喋っている側からすると、参加者がカメラをオフにしたら反応がわからないし、もはや裏で何をやっているかわからないじゃないですか。以前オンラインの研修を行ったとき、「今日はこれで終わります」とWeb会議を閉じようとしたらカメラオフの参加者でなかなか退出しない人が数人……ということがあって

——システム上では参加しているのに、実際はモニターの前にいない……!?

小澤さん:さすがに離席しているわけではないと信じたいですが……受け身で参加するWeb配信のイベントや研修で集中力が続かないことはある意味「しょうがない」と思っているんですよ。

——百歩譲ってイベントなら「聞き専」で大丈夫な場合もありますが、会議となると、受け身のままでいられるのはちょっと困りますね。

小澤さん:そうですね。なので、Web会議をやるうえでも大切なのが「インタラクティブ(相互)性」。参加者を受け身にさせず、自ら発信したくなるような「参加できるための仕組みを整える」ことをいつも意識しています。

“発言しにくい”空気は、仕組みやツールで解決できる

——そもそも、会議やイベントの場における「ファシリテーション」って、どのような役割があるのでしょう。

小澤さん:とてもシンプルにいうと「場のゴールを意識して、コミュニケーションを円滑に進めるための手引をする」役割だと思っています。「タイムキーパー」とか「参加者全員からまんべんなく話を聞く人」だと考える人もいると思うんですが、全くもってそんなことはなく。

例えば、研修なら「参加者全員が、テーマを8割方理解した状態を作る」とか、会議なら「各部署からの報告を受けて、来期の方針を決定する」など、その場のゴールを理解したうえで、そこに向かうために、コミュニケーションの中で起きることに対してどのように臨機応変に対応できるか、ということが重要です。

——では、研修と会議だと「参加者に求めるコミュニケーションの質や内容」もだいぶ変わりますね。それぞれ、どのような「インタラクティブな仕組み」を作っているのでしょう。

小澤さん:研修の場だと、私の方から参加者を指名して発言してもらったり、Zoomのブレイクアウトルームの機能を使って、3人1組を作りディスカッションの場を設けたりすることも多いですね。社内会議の場でも、やはりこのような「当事者意識をもって参加する仕組み」を設けるのが一番かな、と。

会議の場でやりやすいのは、参加者に手を動かして、何かしらの発言してもらうことでしょうか。オンラインで議事録を共有して考えていることを自由に書き込んでもらったり、Web会議ツールのチャットで投稿してもらったりとか。何かしらの発信を求めれば、参加者は否応無しに能動的に動かなければいけなくなるので。

——大人数がいる場で声を出すことは難しくても、「自分のタイミングでここに書き込んで」だったら発信のハードルが一気に下がりますね。こういった仕組みを設けることで、ようやく相互的な発信が成立する、と。

小澤さん:あとは、ファシリテーションの基本的なこととして「発言してくれた人の意見を否定しない」。皆の意見をポジティブに受け取るのはもちろんですし、議論が目的からずれてしまったときは「話題を戻してくれそうな人を指名して、発言を求める」というテクニックもあります。

——では、会議をやるときは「場を作ったうえで、指名して発言をうながす」のが基本になるのでしょうか。

小澤さんいい発言がポンポン飛び出すのがもちろん理想ですが……オンライン・オフラインに限らず、今の時代はそういう会議もなかなか無いと思うんですよ。とはいえ、会議に参加している以上すべての参加者に何かしらの役割があるはずですし、「考えていることはあるけど、なんとなく言い辛い」人が大半なんだと思うんです。

であれば、ファシリテーションする側がどんどん当てていくのがいいんじゃないかな、と。指名すれば何かしらの発言はしてくれるだろうし、それが今に合ったやり方だと思っています。

——その「発言をプッシュする」役割や責任をファシリテーターが担う、ということですね。

小澤さん:これはWeb会議に限らずですが、会議でもイベントでも「その場の空気」がとにかく大事なんですよ。でも、先にお伝えしたようにWeb会議は参加者のテンションや温度感が伝わりづらい。例えば「Web会議で延々と喋ってしまう」なんてことが起きてしまうのも、この空気を共有しづらい特性の影響だと思っています。

私はよく、「Webの研修やミーティングは、普段よりテンション1.8倍」「イベントでは、2.8倍」と言っているんですが。とにかく声を張って、相当なテンションの高さで行かないと、観ている側も「参加する」気持ちになれないんだと思います。

——それだけしないと喋り手のテンションが伝わらない。オンラインは厳しいんですね……。

参加者がほぼカメラオフの研修で「心が折れそうになった」

——そこまでやるとなると、ファシリテーター側にもかなりの「メンタルの強さ」が求められますよね。会議で同僚にカメラオンとか発言を求めたら、「余計なことするなよ」と思われた……なんてこともあるかな、と思ったのですが。

小澤さんそうなんですよ! 大学生向けにやっているオンライン授業なんて特に大変で。

——ぜひ、詳しく聞かせてください。

小澤さん:まず、最初からカメラオンで参加している学生さんが本当に少ない。私は参加者の顔や様子を見たいので「カメラオンで参加してほしい」と呼びかけたのですが……それでもぽつぽつとしか出てこない状況で。

結局はそのままの状態で授業をやったのですが、これが本当に孤独なんです。1人で壁に向かって話しているみたいになるんですよ

——考えただけで恐ろしくなります。大人数が参加するWeb会議などでもたまに起きる光景ですが、孤独感のレベルが違いそう。

小澤さん:企業向けの研修でも参加者全員がカメラオフだったりすることがあるんです。思ったことがあったらチャットに投稿するように呼びかけたらきちんと反応が得られて、「あ、きちんと参加してくれているな」と安心したりしていました。それを繰り返して慣れていった、という感じですね。

——会社によっては、社内ルールでカメラオフが推奨されていたりする場合もあるようですね。一方的に話す側の小澤さんは辛いと思いますが……。

小澤さん働きかける側も、本音を言うとすごく不安なんですよね。「本当にみんなに伝わっているかな」と思いながら喋っているので、チャットでも議事録の書き込みでも、何かしらのリアクションが得られたときは本当に安心します。

——空気が重たい会議だと「場を回したり、せっかく発言した人が“浮く”」現象も起きがちですから。「内容に関わらず、発言した人はエラい」「ファシリテーターだって、鋼のメンタルではない」ということは皆さんにも知ってもらいたいですね。

リアルの代替は無理だが、そこに近づくことはできる

——Web会議のコミュニケーションのあり方については現在進行系でいろいろ模索されていますが、これからどのような扱いになっていくと思いますか?

小澤さん:うーん。Web会議ツールもかなり浸透してきましたが、私としては、やっぱり飲み会はオンラインよりリアルの方が楽しいと思っているんですよ(笑)。酔っ払った同僚の様子が見れたり、あっちとこっちの席で違う話題で話していたり。

上役のなんだかよくわからない話を聞くのもそれはそれで楽しいですし。自宅のパソコンの前で、飲み会のように盛り上がれ、っていうのも無理な話じゃないですか。

——そうですね。同じ場を共有することで生まれる空気のようなものもあるでしょうし。

小澤さん:以前に会社のメンバーで、現地オフィスがある長野にワーケーションで出かけたことがあるんです。そこで普段は直接顔をあわせる機会がない現地のメンバーと会食をしたのですが、会の終わり際に社員の1人が「やっと社長に言いたいことを言えた」と言っていたんですよ

その社員と社長は常日頃、Web会議でよく喋っているはずなんですが……。コミュニケーションがWeb会議ばかりだと、「ここがよくわかんないんだけど」とか「これ、おかしくない?」みたいなことを伝える機会が無くなってしまうんですよね

——なんだかわかる気がします。仕事の中でふと頭に浮かんだ「ぼやき」のようなものが共有できない、ということでしょうか。

小澤さん:そうなんですよ。他にも「決定事項に対して『わかりました』と言ったはずなのに、なんだかその人の表情が曇っている」とか、「上長との1on1面談の後に、席に戻ってきた社員の表情が暗い」みたいなケースも起きているかもしれません。

そういったコミュニケーションのノンバーバル(非言語)的な部分は、Web会議では見落しがちになってしまいますよね。

——そうなると、やはりWeb会議のなかでそこにアプローチしていくのは難しいのでしょうか。

小澤さん:同じことをやるのは難しくても、そこに近づいていく工夫はできると思っています。結局は、「会話するときはなるべくカメラオンで」や「オンラインで雑談の時間を作ろう」みたいな働きかけがやはり大事なのかな、と。

でも、Web会議の普及はポジティブな影響のほうが大きいと思いますよ。イベントは、オンラインでやるようになって、他の予定で忙しい人や地方にお住まいの人でも参加できるようになりました。会議も研修も、オンラインにはオンラインの強みがあります。

なので、これから大人数で集まれるようになったら、イベントはオンラインとオフラインで並行して行い、そのなかで「オンラインのプレミアム感が高い」状況になっていくんじゃないかな、と。やっぱり人って人とふれあいたい生き物なので、「直接人に会って、体験する」ことはこれからも大切であり続けると思いますよ。

——特性をあらためて知って、それぞれを良い形で使いこなせるようになりたいですね。本日はありがとうございました!

文=伊藤 駿/図版とイラスト=藤田倫央/編集=ノオト

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