日本の情報技術インフラの進化の一翼を担ってきたシステムエンジニア 未来に続くネットワークを顧客と共に築く

毎年新しい技術が誕生するIT業界では、エンジニアも常にアップデートが求められます。IT業界でエンジニアとして活躍し、めざましい技術革新の中でスキルアップし続けるには、何をすれば良いのでしょうか?

本記事では、1980年代末に大手電機メーカーに入社後、インターネットの黎明期からシステムエンジニアとして活躍され、今なお第一線でご自身のアップデートを続けておられる入江要さんにお話をうかがいました。

入江要さん
入江 要(いりえ かなめ)さん
ITエンジニア

1980年代後半、インターネットがまだ一般的ではない時代の大手電機メーカーの通信関連システム部を振り出しに、10年間企業のネットワーク設計や公共系のネットワーク構築やサーバーシステム設計に携わる。独立後はフリーランスとして企業のIT関連全般の困りごとの解決に尽力。

 

大学の研究室の教授がきっかけでプログラマーに

――入江さんはインターネットの黎明期からエンジニアとしてお仕事をされています。もともと、ものづくりに興味があったのでしょうか。

(入江さん)プラモデルとかラジコンとか、ものづくり自体は好きでしたね。プログラミングにも興味はありました。大学は当時新しくできたばかりの工学部の応用電子工学科に進学しました。

プログラミングを始めたきっかけは、研究室の教授です。私が所属していたのはコンピューターのアーキテクチャを扱う研究室で、みんなアーキテクチャの論文を書いていました。でも私は教授に「お前、そんなによう考えられへんやろ。プログラム作ってみいひんか」って言われて。「一斉射撃」という理論があって、それを実演するプログラムを作ることになりました。

 

――大手電機メーカーに就職されてからはどのようなお仕事をされたのですか?

(入江さん)当時はまだ「システムエンジニア」という言葉はなかったんですよ。私はプログラマーとして入社しました。

入社当時は、インターネットはあっても、企業間は端末がモデムでポストコンピューターとつながっているような時代でした。電話同士もアナログの線でつながっていたので、大きい会社だと数千本ものアナログの回線を引っ張っていたんですね。

それをサービスが始まったばかりの光ケーブルに置き換える「多重化」を担当しました。交換機屋さんにはアナログとデジタルどちらで渡すのかという調整をしたり、話す時にハウリングが出ないようにレベルを調整する設計をやったりもしましたね。

 

――その後、公共系のインターネットを扱うようになったのですね。

(入江さん)当時はインターネットの走りというか、「イントラネット」と言っていて、端末の数も、自分の端末がグローバルIPとして世界でひとつしかないぐらいしかありませんでした。今はTCP/IPというプロトコルがメインですが、コンピューターをインターネットにつなごうにもプロトコルも統一されていなくて。顧客に合わせて独自のシステムを作っていましたね。

また当時はエンジニアの仕事も今ほどしっかり分類されていなくて、今でいうサービスエンジニア、セールスエンジニアの仕事も全部やっていました。

――今でいうITコンサルタントのような働き方をしていたんですね。

(入江さん)今、自分の得意分野はプラットフォーム分野だと言っています。システムの元となるサーバーの立ち上げをしたり、仮想化もしたりします。MCP(マイクロソフト認定プロフェッショナル)の資格はサーバー製品の基礎とプロフェッショナル、それからコアの基礎とプロフェッショナルの資格は全部取っていますよ。

 

体を壊し退職、独立 個人として契約しシステム構築を担当

――退職を考えたきっかけを教えてください。

(入江さん)簡単に言えば過労で体を壊してしまったんです。10年間、月曜日に仕事に行って金曜日に帰るとか、徹夜もしょっちゅう、みたいな仕事のやり方をしていました。

私はアウトドアやジェットスキー、ヨットなど体を動かすのが趣味で、そこで発散できていた頃はまだよかったんです。でも転勤して環境が変わってからそういう趣味がやりにくくなって、だんだん疲労が溜まっていきました。会社からは「配属を転勤前のところに戻そうか?」と提案もありましたが、私としてはやり切った気持ちが強かったので、辞める決意をしました。

――そこから独立までの経緯を教えてください。

(入江さん)辞めてからは1年ほどアルバイトをして過ごしました。

その頃、SOHOが流行っていたんです。あちこち登録しておいたら、ある会社からアポがありました。その会社は、パソコンが約600台、サーバーも20〜30台ほどあったんですね。情報システム部もありましたが、人手が足りず、システムに詳しい人材もいないので手伝って欲しいと。 そこで、個人として会社と契約することになりました。

 

――そこではどんなお仕事をしたのでしょうか。

(入江さん)まずシステムをリサーチして、どういう形で作られているかを全部調べました。サーバーの更新のタイミングや、「2000年問題」への対応も必要だったこともあり、新しいシステムを作ることに。前職のつてを使って相見積もりを取り、ハードは前職の大手電機メーカーが、システム構築費用はうちが手掛けることになりました。

でも、使おうとしていた製品が最新のものだったために、会社のシステムとして入れた事例がほとんどなく、知識のある人自体もすごく少なかったんです。前職の大手電機メーカーにも、その製品を知っている人は1人しかいないような状態。その人と協力しながらネットワークを組みました。

――現在は個人としてお仕事をされていますが、お仕事はどうやって探しているのでしょうか。

(入江さん)フリーランスエンジニアと企業を仲介する会社と契約をして、そこから仕事をもらっています。あとは異業種交流会に参加して、そこでのつながりをきっかけにお仕事をいただくことが多いですね。

――コミュニケーションの際に、気をつけていることはありますか。

(入江さん)できるだけ、どういうシステムの使い方をされているかを聞きます。あとは「楽できるのが好き」などお客様の性格も見るようにします。逆に「よくわからないからお任せします」と言われてしまうと困るので、特にお客様の方でイメージがなければ「どこまで機能を入れるか」など具体的にヒアリングするようにしています。

ほかにも、後々のメンテナンスの業務を任せてくれる人か、自分でやる人かによって、楽なシステムにするか、ちょっと複雑だけど、ある程度セキュリティがしっかりしているシステムにするかなど、構築後のことも気をつけていますね。

 

システムエンジニアになるために必要なこと

――システムエンジニアに興味のある人は、まずは何から始めたらいいでしょうか。

(入江さん)最近はどんなシステムも上に乗せるアプリとセットです。だからアプリのプログラムを組めなければいけないと思います。

またプログラムが組めるようになったら、私のようなプラットフォームエンジニアもしくはUIデザイナーと組むといいと思います。やっぱりお客さんが見るのは自分が操作する画面ですから、インターフェースを重視する方が多いと感じますね。

UIは自分で作らなくても、どこかの製品でもいいかもしれません。ただ、そうなると縛りが出てくるので自由度高く作るには、プロと組むか勉強が必要です。

――そうした努力を続けようと思えるシステムエンジニアの魅力は何ですか。

(入江さん)いろんなことができるのは魅力だと思います。ルーチンワーク的なことは少ないですね。日々いろんなことが起こるし、お客さんによっても要件が違いますからね。

 

――システムエンジニアに必要なスキルとは何でしょうか?

(入江さん)普段使っているのはMacなのですが、実際の環境はWindowsのマシンで、リモートデスクトップでつながって、事務所で動いているんですね。VPNで画面を引っ張ってきて、そのまま作業の続きができるような仕組みを作っています。自由度の高い働き方やものづくりをしたいという人は、こういった工夫ができると働きやすくなるかもしれませんね。セキュリティ上の理由から、会社によってはリモート業務が許可されていない場合もあるので、会社や業務に合わせて工夫することを大切にしてください。

――エンジニアを目指す人の中にはプログラミング言語を勉強されている方が多いと思います。

(入江さん)もちろん、RustやPythonを学ぶことは大切な一歩です。ただ、やっぱりプログラミング言語は目的のものを作るための手段ですから、学んだ言語を使って実際に何か作ってみることが大切だと思います。

大手電機メーカーに勤務していた頃は、あるシステムのメジャーバージョン、マイナーバージョン、メンテナンスバージョンなどのバージョンを一つずつ動かして評価していました。独立してからもそれは行うようにしていましたね。またVM(仮想化マシン)も自分で安いパソコンを買ってきて、組んでみたり。

――学んで終わりではなく、仕事の中で実践するサイクルを回していくわけですね。

(入江さん)エンジニアをやるなら、とにかく勉強ですね。興味の持てることをどれだけ勉強できるかです。おもしろくないと続きませんから。

 

ITコンサルタントに求められること

――入江さんはITコンサルタントとしてどんな相談を受けることが多いですか。

(入江さん)私がコンサルタントとしてかかわるのは、考え方の面です。お客様が「こういうことをやりたい」と言ったときに、今、システムはどんな状態か、時代の流れ的にはどんなことをした方がいいかをコンサルします。

そして自分でできるところはやりますし、できないところは他のところを紹介したり、製品を紹介したりします。

 

――ITコンサルタントを目指す方にアドバイスをお願いします。

(入江さん)まずは情報収集です。情報をできるだけ集めて、その信頼性を見極める力が必要です。あとは勉強。できれば自分で実際に構築してみると良いと思います。

また普段から英語に慣れておくことも大切です。私は端末の言語設定を英語にしています。システムについて調べていると、結局全部英語のサイトにリンクすることがほとんどです。例えばMicrosoftのコミュニティに質問をしても、最終的には英語のページに答えが載っていることが多いんですよね。英語に抵抗感があると、重要な情報にアクセスできなくなってしまうでしょう。ですので、できるだけ英語にも慣れておくことをお勧めします。エンジニアの仕事もしやすくなるし、幅も広がるんじゃないかな。

――最後に今後挑戦したいこと、10年後にやっていたいことを教えてください。

今、Microsoft ISVサクセスプログラムに参加して新しいプログラム開発に取り組んでいます。まずはそれを成功させたいですね。

私、独立した時、50になったら引退して、西表島で遊覧船の船長をやるつもりだったんです。昔ダイビングのツアーで行ったら、売店に「遊覧船船長募集中」って書いてあって、これをやりたいと思って(笑)。船舶試験1級も持っているので、10年後はエンジニアから遊覧船の船長に転身していたいですね。

 

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