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コミュニケーションの境界を「大喜利」で探す 株式会社わたしはが目指す、世界をカオスにするAI

新型コロナウイルスの感染者予測や、「AI搭載」を謳う家電など、今や幅広い分野で用いられている「AI」。そのAIに、大喜利をやらせてしまう会社がいます。その名も「株式会社わたしは」

2016年に開発した「大喜利AI」は、Twitter上でユーザから与えられたお題に的確なボケを返すことで話題に。現在はLINEアカウント「大喜利人工知能」に場所を移し、「写真で一言」や「ガヤ・ツッコミ」までAIが自動で返します。過去にはNHKの番組で芸人の「弟子AI」を育成し、大喜利で対決させたことも。

▲LINEアカウント「大喜利人工知能」。お題を投げるとボケを返してくれる。写真を送ると一言を返してくれる機能も

実はかつては大喜利をたしなんでいた時期がある筆者。AIによる大喜利を初めて見たときは、その精度に驚いたことを覚えています。「大喜利AI」はなぜ作られ、どういう進化を遂げてきたのか。巷の「AI」と何が違うのか——。

……と、いうことを同社の代表取締役、竹之内大輔さんに聞きにいくと、AIがもたらす未来の話を教えてくれました。「世界を整理するのではなく、もっとカオスにさせたい」と、竹之内さんは言うのです。

※ 新型コロナウイルス感染症の拡大防止策として、会場は十分に換気し手指を消毒した上で、適度な距離をとってインタビューを実施しました。

「AIの良さを全く理解していない仕事はお断りしています」

——「大喜利AI」の登場は衝撃的でした。AIが大喜利をする、しかもちゃんと面白い、という。

最初にプロトタイプ版を公開したのが2016年4月ですから、もう4年半ほど経ちますね。でもまぁ、そろそろ「大喜利AI」はいいだろうというか(笑)

——え! その話を聞きに来たんですが……。

いや、もちろんうちのコアプロダクトなので開発は継続しています。でも、僕らとしては次のフェーズに入っているんですね。

▲株式会社わたしは 代表取締役 竹之内大輔さん

——確かに「株式会社わたしは」のサイトには、大喜利AI以外のプロダクトも多数載っています。

“ネクスト大喜利AI”として、言語系サービスのひとつの柱になっているのは『PeCha KuCha(ペチャクチャ)』ですね。キャラクター同士のしょうもないおしゃべりを自動生成するプロダクトです。「大喜利AIのキャラクター化」を進化させて、大喜利以外の対話もできるようにしました。

もうひとつ、非言語系サービスとしては『ドリアン』があります。スマホに入ってるしょうもない写真や動画をアップすると、AIが自動でBGMの追加や、エフェクト、カット割りなどの動画編集を行って、しょうもない動画を作ります。

——しょうもない動画から、別のしょうもない動画ができちゃうという。

あとは、キャラクターとの恋愛を妄想する「夢女子」に向けた占い『YumeJyo♥Uranai(夢女子占い)』や、株式チャートを音声合成で実況する『イタ実況メーカー』、世の中のあらゆる文章から自動で英語のテストを作る『まるまる英語』とか。この3つは最近ベータ版を出せたので、これから磨くところです。

——こうしてうかがうと、ジャンルもやっていることもバラバラのように見えますが……。

いえ、共通点はあって。僕らは「言語と隣り合わせになっている領域」に興味があるんです。大喜利なんてまさにそうですし、音声合成も「言語」と「音」が対になったもの。動画生成も、裏では「セマンティック(意味)」を扱うことで実現しています。

弊社は基本的に業務委託を請けていないので、純粋に自分たちの興味があるものを追及している感じですね。

▲用意されているものからキャラクターを2人選択すると、LINE風の画面で勝手におしゃべりをはじまる『PeCha KuCha』。ユーザが台詞を変えると、その後の会話も変化する。画面は歴史的な某俳諧と作曲家風のキャラクターをお喋りさせてみた様子

——ブームが落ち着いたとはいえ、まだまだAIはトレンドでもありますし、「こんなAIを開発しませんか」という依頼も多いんじゃないですか?

そうですね……。メディアからお声がけいただく企画は、生で芸人さんの振る舞いを勉強できる絶好の機会なので、お引き受けすることが多いです。新しいことにチャレンジできるなら、なお嬉しい。

一方、企業系の案件で多いのが「AIの良さを全く理解していない企画」で、こちらはお断りするようにしているんですよ。

——AIの良さを全く理解していない企画とは……?

たとえば「コピーライターのAIを作ってほしい」とか「著名な画家風の絵が描けるAIを」とかですね。こうした企画は、AIがどう進化していくかを考えたうえで設計されていないんじゃないか、と思っちゃうんです。

AIはユーザに使ってもらうことで発展するもの。フィードバックを取り込んで変化して、それをユーザに使ってもらってまた変化して……という体験が、AIの全てなんですよ。それができないなら、会社として取り組む意味はないなと。

——『PeCha KuCha』や『ドリアン』も、ユーザに使ってもらって成長しているわけですか。

そうですね。『PeCha KuCha』なら、どのペアをどういう文脈でしゃべらせたか、どの会話をいじって、最後にシェアしたかどうか、ログデータからそういう動きを学習しています。確率モデルをいじるような大きな調整は人間がやって、微調整はAI自身がやる感じですね。

でも、なかには思いもよらない使い方をする人もいるんですよ。喋るキャラクターを両方とも同じ文豪にして「自問自答」って会話を作った人がいて(笑)

▲両方を太宰治(風のキャラクター)にすると自問自答をはじめてしまう

——ただでさえ内向的な文豪が、自分で自分に問いかけている(笑)

そうやって内省している様子を「陰キャ」として作る人も出てきた。こんなの僕らは全く想定してなくて。やっぱり、イノベーションは作り手が意図して起こすものではなく、ユーザの創意工夫があってこそ生まれるんだと思いましたね。

大喜利でコミュニケーションの「境界線」を探る

——実は僕も、大喜利をがんばっていた時期があって……。NHKの『着信御礼!ケータイ大喜利』(※)という番組に投稿していたんです。

※ 視聴者参加型のお笑い番組。発表された大喜利のネタに対して視聴者は携帯端末から回答を送信、生放送中に発表するシステム。ネタの審査は、スタジオの芸人によって行われる

あぁ! 『ケータイ大喜利』ですか。「大喜利AI」もいちど番組に出させていただきましたよ。投稿、採用されましたか?

——レジェンド(※)まではいきまして……。

レジェンド!? それはすごい!

※(編集注)番組における、当時の最高段位。竹之内さんへのインタビューを担当し、この記事を執筆しているライター井上マサキさんは、投稿者名「INO」で、同番組のレジェンドオオギリーガー14号となっています

——なので、大喜利AIを作るうえで、どんなデータを集められたのか気になったんです。実際に大喜利のライブにも出演されていましたよね?

そうですね、創業期は大喜利を実際にやられる方に直接会いに行ってました。それこそ、ケータイ大喜利のレジェンドに会うために鹿児島まで行きましたよ。データ収集というよりは、基本的な考え方やパターンを学ぶためですね。

——大喜利のパターン、気になります……! 何かヒントは得られたんでしょうか?

いや、結局「わからない」という結論になりました。法則やパターンを見出すのは無理だと。

そもそも、芸事を言語化して分析した文献自体が少ないんですよね。聞くのも書くのも野暮、という文化でもありますし。だから「芸事という“アウトプット“から見ていくしかない」という方針に変えました。

——そもそもの話になりますが、大喜利AIを作ろうと思ったのは、やはり純粋に大喜利に興味があったからでしょうか?

お笑いが好きなのはひとつのきっかけではあるんですが、もう少し戦略的な意図もあります。AI上にコミュニケーションの「境界線」を作りたかったんです

人間のコミュニケーションって、ひとつの問いに対する正解が、必ずしもひとつとは限らないじゃないですか。回答には必ずある程度の幅があって、「ここまでは意味が通じるけど、ここから先は意味が通じない」という、見えない境界線がありますよね。

——なんとなくわかります。「明日の天気は?」と聞かれたときに、「晴れです」も「傘いらないかな」も「死ぬほど寒いレベル」も会話として成立しているけど、「俺はカレーがいい」までいくと通じない、みたいな。

まさに、一般的なAIがやっているのは「晴れです」だけをピンポイントで答えることなんですよ。「おすすめの曲」をリコメンドするために、いろんな条件を元に1曲を絞り込むような。いかに正確にひとつの答えを出すか、というゲームをしている。

でも、本来のコミュニケーションはそうじゃない。そこで、「意味が通じるギリギリ」である境界線がわかれば、より豊かに会話をコントロールできるはず。そこで、僕らは「境界線上にはユーモアを含んだコミュニケーションがある」という仮説を立てたんです。

意味が通じれば笑えるけど、意味が通じなかったらナンセンス。そこがギリギリの境界になるはずだ、と。

——なるほど、さっきの「明日の天気は?」に、どこまで成立するボケを返せるか、ってことですね。意味をズラさないと笑いは起きないけど、ズラしすぎるとわけがわからなくなる……。これってまさに大喜利そのものじゃないですか。

そうなんです。笑いを含む、最もマイクロなコミュニケーションこそ「大喜利」。会社を作る前から「大喜利のAIを作ろう」と決めてましたね。

▲大喜利AIに「明日の天気は?」と聞いてみた答えがこれ。ちゃんとボケてる……!

世界をもっとカオスに! 「Googleと真逆」のアプローチ

——では境界線が「ここだ!」と決まったとして、次になにが起こるのでしょうか?

あ、境界線は「ここだ!」と一つに決まるわけではありません。文脈によってOKとNGが変わるように、境界線も揺らぎ続けます。「常に真ん中からズレ続けるもの」をAIの数理モデルでどう表現するか?というのがポイントなんです。

大喜利でも、ひとつのボケにどんどんボケが重なると、最初の状態からどんどん離れていきますよね。それに近いところを意図して作っています。従来の対話型AIが答えに向かって「収束」するものなら、僕らが作るAIは「拡散」するものですね。

——もはや「最適化」や「効率化」という言葉と、全く反対のところにいるAIですよね。

Google的なアプローチのAIって「世界の情報をもっと整理整頓する」「誰でも情報を取り出しやすくする」だと思うんです。

でも僕らのアプローチは逆で、「世界の情報をもっとカオスにする」「情報をインフレーションさせる」こと。Googleが世界を整理するスピードより速く情報を増やして、世界を混沌とさせたい(笑)。だってGoogleと同じ土俵で戦っても、勝ち目はないじゃないですか。

▲同社の本棚。エンジニアリング関連書籍と一緒に、お笑いや大喜利の書籍が並ぶ

——「情報をインフレーションさせる」とは、具体的にはどういうことなのでしょうか?

イメージに近いのは、いわゆる「二次創作コンテンツ」です。

以前、NHKで『AI育成お笑いバトル 師匠×弟子』という番組に関わりました。千原ジュニアさんやみちょぱさんが「弟子AI」を育成して、最後に弟子同士が大喜利対決をするんです。つまり、千原ジュニアさんの「弟子AI」には、千原ジュニアさんの芸風が乗り移っている。

——確かに、育てた人のセンスやクセがAIに反映されているでしょうね。

これがまさにAIの本質で、AIは「コンテンツからパーツを取り出すツール」になるんですよ。番組中で2人分の芸風は取り出せたので、千原ジュニアさんの芸風と、みちょぱさんのセンスを取り出して、足して2で割ったら「渋谷のギャルにうける大喜利」ができるかもしれないじゃないですか

▲本棚のなかには2冊の『ドラえもん ひみつ道具大辞典』が。「ひみつ道具から新しいプロダクトの着想を得ることもある」(竹之内さん)のだそう

——パーツ同士を組み合わせて、新しいものを生み出せるようになる……。だから「二次創作コンテンツ」なんですね。

そうです。お笑いだけでなく、音楽や絵画でも同じように、「◯◯っぽい」と感じられるようなパーツを取り出せます。取り外した部品はユーザが自由に組み合わせていい。東スポの紙面を学習させて「東スポっぽいブログ」を作ってもいいし、自分が書いたリリックでラッパーAI同士を戦わせてもいい

クリエイティブのハードルが下がれば、ユーザによるコンテンツが増えていく。そうなれば、コンテンツを介したコミュニケーションも生まれる。僕らは、世の中をそういう方向に加速させていきたいと考えています。

AIで「名前がついてない感情」を取り出したい

——最後に、これから先の話もうかがえますか。「世界を混沌とさせる」AIは、どんな未来をもたらすのか。

今の時代、SNSごとに人格を使い分けている人も多いと思うんです。「Twitterの人格」Facebookの人格」「Instagramの人格」というように。作家の平野啓一郎さんはこれを「分人(ぶんじん ※)」と呼んでますよね。

※ 作家の平野啓一郎さんが著書『私とは何か 「個人」から「分人」へ』(講談社現代新書)で提唱した考え方。「個人」が持つさまざまな人格を、個人よりさらに小さな「分人」という単位に細分化するというもの。

▲同社の社歌(ヒップホップ調)を聞かせてくれた竹之内さん。リリックはプロのアーティストと一緒に社員で作成したとのこと

僕たちはAIを「コンテンツからパーツを取り出すツール」と考えているので、「分人」という考え方は、まさに僕らが目指す方向と同じ。「分人」をAIによって取り出して、「Twitterはこの分人AIに任せる」という時代が来てもいいじゃないですか。

——クソリプへの対処はAIに任せる、という時代が……?

さらに話を進めると、僕たちは「分人」よりもっと細かいパーツに分解したいんですよ。「怒っているときの声」とか、「悲しんでいるときの文章」とか、人格をもっと細かく刻みたい。言うなれば分人ならぬ、「粒人(りゅうじん)」です。

——粒(つぶ)のレベルまで!

人格のどこを刻むかもAIに任せるので、まだ名前がついていない行為や感情が取り出せる可能性だって十分にあります。

「AIに人間のコミュニケーションを再現させる」のではなくて、AIを通して「全く新しいコミュニケーション」を生み出したり、発見したりする。それこそが、僕らがやっている仕事なんです。

——AIって「これまでの成果を学習して未来をシミュレーションするもの」というイメージだったんです。今日のお話を聞いて、AIはもっとクリエイティブなものなんだ、と感じました。

繰り返しになりますが、そのクリエイティブにはユーザの創意工夫が欠かせません。僕たちが意図しなかった刺激を与えてもらいたいし、イノベーションが起こる確率をより高めたい。なにより、もっと『PeCha KuCh』や『ドリアン』をユーザに使ってもらいたいですね。

……そうだ、井上さんはケータイ大喜利レジェンドなんですよね。「わたしは」が『ケータイ大喜利』に出演したとき、過去のケータイ大喜利のデータをお借りして、「ケータイ大喜利の大喜利モデル」を作ったんですよ。

——え! じゃあ僕の回答がデータとしてAIに組み込まれたってことじゃないですか。

そうそう。レジェンドにまでなるなら、100通は投稿してるでしょう? それくらいあれば井上さんモデルの大喜利AIも作れますよ。ケータイ大喜利のお題に特化した仕様になりますけどね(笑)

AIの今後の進化にワクワクし続けたい

まさか「自分のAIが作れる」と言われる日が来るとは思いませんでした(ケータイ大喜利の投稿はガラケーから送信していたので、手元にデータは残っていませんでした。残念)。

「AIが仕事を奪う」という言葉に、竹之内さんは「他の会社さんが作られているAIは仕事を奪うんでしょうね」と言います。株式会社わたしはが作るAIは「ユーザが新しいコンテンツを作るための道具」とも。

人々が自由に世の中の「パーツ」を組み合わせて、見たこともないものを生み出したら、今度は「AIが仕事を生み出す」と言われるかもしれない。想像もつかない未来を、ワクワクしながら待ちたいと思いました。

大喜利AI本人は「変わらない」って言ってました。

(文=井上マサキ/編集=ノオト

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