PowerAppsでできることは?活用事例と業務改善のポイントを紹介

近年、非エンジニアでもアプリケーションが作れると注目を集め始めているノーコード/ローコード開発ツール。業界内でエンジニア不足が続いていることも、これらツールの普及につながっているようです。特にマイクロソフトが2015年に発表した Power Apps は、さまざまな企業で用いられ、現場の課題解決・業務改善に活用されています。

そこで今回は、自身も「 Power Apps がきっかけで人生が変わった」というマイクロソフトの吉田大貴さんにインタビュー。吉田さんは、以前はユーザーとして Power Apps を利用し、現在では同サービスの開発に携わっています。

非エンジニアが数週間でアプリを開発した企業や業務システムの内製化に成功した企業などさまざまな事例を通じて、 Power Apps を活用するためのポイントや今後エンジニアが果たすべき役割について伺いました。

吉田大貴さん
マイクロソフトコーポレーション カスタマーアドバイザリーチーム シニアプログラムマネージャー 1990年大阪府豊中市生まれ。イギリス・キングスカレッジトーントンスクール卒業。帰国後高卒のままマクドナルドでアルバイトを開始。その後、地元工業団地で派遣社員として勤務した後、システム会社やコンサルティングファームのEYなどを経て、2018年1月にマイクロソフトへ入社。
https://twitter.com/TaikiYoshidaJP

Power Platformのひとつ「 Power Apps 」とは?

――本日はよろしくお願いします。最近、非エンジニアの方が Power Apps を使ってアプリ開発するというケースもあり、企業でも積極的に活用が進んでいるようですね。そもそも、 Power Apps とは、どのようなものなのでしょうか。

吉田大貴さん(以下、吉田): Microsoft Power Platform の中のひとつで、我々は「世界で最も完成度の高いローコードアプリケーション開発プラットフォーム」と呼んでいます。

Microsoft Power Platform は4つのサービスから成り立つ

非エンジニアの方でも、簡単にアプリケーションを作ることができますし、プロのエンジニアの方でもあまりコードを書かなくても、開発できることが特徴です。

iPhoneやAndroid、WindowsなどのOSに対しても互換性を意識する必要もありませんし、コネクタという概念により、600以上のサービスや自社開発したサービスやサイトとも接続できます。また、 Office 365 を使っているなら、同じログイン情報を使って、部署単位でアクセス制御を行うことも可能です。

―― Power Apps 用の言語には、どのようなものが用意されているのですか。

吉田:C言語やJavaといったプログラミング言語で書いていくのではなく、用意されたパーツを貼り付けて、 Power Fx という関数を使い処理を命令する仕組みになっています。

Power Apps で使う関数は、 Excel の関数とおよそ54%の互換性があるので、 Excel をよく使う方なら、そこまで勉強しなくてもパーツが作れるようになっています。

――非エンジニアにとっても、とっつきやすそうです。 Office 365 のユーザー以外でも使用できますか。

吉田:はい。 Office 365 や Dynamics 365 の場合は限定的な機能のみで、それらサービスの拡張や利活用推進が主な目的となります。全部の機能を使いたい場合は、単体で購入できるライセンスがおすすめです。

また、セキュリティ面においては、 Power Apps は Office 365 や Microsoft Azure と同じID/パスワードでログインできるため、部署ごとにアクセスを制限することも可能です。特定の位置、特定の端末からといった細かなアクセス制限も簡単にかけることができます。

――どういった人たちに利用されていますか。

吉田:現在では、世界80カ国で利用されており、多種多様な企業・業界で利用されています。もちろん、個人で利用する方もいます。私は最近双子が生まれて、空き時間を利用して授乳時間や体重などを記録するアプリを作りました。こういった個人的なアプリも作ることもできます。

非エンジニアでも短期間でリリース。開発規模別 Power Apps 事例

Power Apps の基礎情報を伺ったところで、ここから先はさまざまな企業の活用事例に注目。実際に現場で抱えていた課題に対して、 Power Apps を用いてどのように解決していったのか。開発規模別に紹介していきます。

1. 業務の現場でアプリを構築:中小企業の管理部門担当者が自分たちだけで開発をするケース

わずか3時間でリリース。「新型コロナウイルス:STAYSAFE アプリ」

吉田:ひとつ目は、アメリカの企業のケースです。この企業は世界中に80ほどの拠点を構えており、コロナ禍が始まったとき、スピーディに情報展開できないことが課題となっていました。

そこで開発経験のない経営企画担当者が、体調の簡易診断や関連する社内制度などをまとめた情報アプリを、 Power Apps を使いわずか3時間で作ってリリースしたという事例です。公開直後、2日間で7,000回も起動され、利用した人は5,700人に上りました。

Power Apps は Office 365 やクラウド プラットフォームの Azure と同じクラウドを利用し、世界50以上のデータセンターで提供しています。だからこそ、新型コロナウイルスに関する情報が少ない時期でも、国境を跨いだ拠点に対して、短時間で必要な情報を配信することができたのです。

非エンジニアでも3カ月で開発。電話連絡帳アプリ

吉田:あいおいニッセイ同和損害保険株式会社では、会社に電話がかかってきたけど担当が不在だったときの引き継ぎに時間がかかることが課題でした。そこで電話連絡帳アプリを作り、これを見れば、いつ誰から電話があって、どんな用件だったか確認できるようにしたのです。

こちらも経営企画の方が1カ月ほどの期間で開発を行い、パイロット版を導入。3カ月後には本格配信できました。

このアプリにより、リアルタイムでの引き継ぎが実現し、業務プロセスが改善。また、社内でデジタルツールを使った業務変革体制の構築やITの内製化が加速していきました。

――開発経験がないにも関わらず、どちらのケースもかなりスピーディな展開ですね。

吉田:データを書き込んで保存、そして閲覧させるだけ、という基本的なものでしたら、開発経験がない人だけでも簡単に構築できます。

デザインする際も、基本的には PowerPoint と同じ感覚のドラッグ&ドロップで作れます。入門書の類いを買わなくても、最初の一歩から直感的に作ることができるようになっているのです。

2. 一歩進んだ開発レベルのアプリを構築:業務担当レベルで、閲覧だけでなく Power Apps の機能を活かしたアプリを作成し、業務改善につながったケース

3つのサービスを2カ月でリリース。神戸市の事例

吉田:コロナ禍で特別定額給付金が始まったとき、神戸市には問い合わせの電話が1日2万件もかかってきており、コールセンターを用意してもカバーしきれない状態になっていました。また、サイト管理者はコロナ関連情報を手動で更新していたこともあり、サイト内で情報が分散し、市民は目的の情報に辿り着きにくい状況でした。

そこで、 Power Apps の機能の一つである「 Power Apps ポータル」で専用Webサイト(※現在は公開を終了)を作り、コロナ関連情報を統合し、更新作業を自動化。市民はリアルタイムに必要な情報に辿り着きやすくなりました。

さらにチャットbotの導入、 Power Automate と連動させて電話がかかってきたときに自動応答するようにしたところ、コールセンターへかかってくる電話を9割削減することに成功しました。

こちらを構築したのは、元エンジニアではありますが、 Power Apps は初めてという方。それでもプロトタイプができるまで、わずか2週間。リリースまでは、たった2カ月で持っていくことができました。

――元エンジニアの方とはいえ、この事例もかなり短期間にリリースできていますね。何人で開発されたのでしょうか。

吉田:この規模の開発ですと、これまでなら6~10人は必要でしたが、今回は1人。私はアドバイスしましたが、手を動かすことはしていません。

通常、アプリ開発では費用と時間がかかるため、投資対効果を重視します。でも Power Apps は、少ない人数で短期間に低コストで作ることが可能なため、一時的なイベントや短期間だけ使うようなアプリも開発しやすいのです。

3. 統合プラットフォームでソリューションを大規模に構築: Power Apps を全社導入して、誰でもアプリを作れるようにしているケース

現場の社員が作ったアプリが500以上に!

吉田:日本たばこ産業は、営業部の人なら誰でもアプリを開発できるという環境を用意。5000人いる営業部のメンバーや営業部付の情報システム部の人たちによって、今や500以上のアプリ開発を内製化しているという事例です。喫煙所の場所を登録するアプリや顧客管理ツールなどが作られました。

このように、現場でアプリ制作を内製化することで、今までデジタル化できていなかった業務のデジタル化を目指すことができます。

――内製化を成功させるためのコツはありますか。

吉田:成功している企業ではIT部門や情報システム部が主導し、ガバナンスや運用設計をしっかりと作り、環境を整えてから運用を開始しています。その結果、課題に近い業務部門の人たちが、自らの力で課題を解決しています。

非エンジニアの人たちが作っても、IT部門が後方支援したり、承認された試験環境の中で行うため、最終的に統括されたIT主導の「Center of Excellence」が確立していくのです。

ケース別 Power Apps 導入時の注意点

1. 開発に関する知見を持っていない非エンジニアが制作する、またはエンジニアと非エンジニアが共同開発するケース

吉田:最初から大きな構想は描かず、ロンドンの事例のように、社内に対して情報を閲覧させるだけのものから着手して、少しずつできることを増やしていくことをおすすめします。エンジニアが非エンジニアと一緒に開発する場合も、最小構成から手をつけていくほうが失敗しにくいでしょう。

2. 事業部門ではないエンジニアが導入して制作するケース

吉田: Power Apps に限らないことですが、要件を固めてから取り組むことです。また、プロトタイプを作りつつ制作を進めていくことで、ミスコミュニケーションを防ぐことができます。

3. 非エンジニアが作ったものをエンジニアがメンテナンスするケース

吉田:お客様でも「運用保守ができないから利用を諦める」というケースがあります。しかし、海外ではすべてをメンテナンスするのではなく、メンテナンスをするかどうかを判断するという風潮があります。数人しか使っていないものでしたら、影響範囲が低いため、非エンジニア自身でメンテナンスしてもらうことを視野にいれる。逆に、組織をまたぐようなものならエンジニアが管理した方が安心だと思います。

―― Power Apps に向かないケースはありますか。

吉田:すでに世に出ているサービスを自社で使うために、 Power Apps であえて作るのは時間やコストがもったいないと思います。例えば、既存の営業支援ツールと同じようなものを自社で Power Apps で開発するといったケースですね。自社に特化した使い方にしたほうが効率化できるなど、新規に開発する理由がない限り、既存のサービスを使った方がいいでしょう。

――導入後、社内の人が使いたくなるような仕組みやアイデアはありますか。

吉田: Power Apps を活用している企業は「この人がこんなアプリを作った」とニュースレターを作って社内に配信したり、社長賞を設けるといった、社内で認知される取り組みを行っています。また、社内でハッカソンを開催することで、業務部門が自分の力で業務を効率化させるためのアイデアを練り、 Power Apps で開発してみたり、より中身のある業務転換を図ったりと、やりがいを持たせる動きをしているところが多いと感じますね。

これだけは押さえたい。 Power Apps の裏技

―― Power Apps を活用しようという人たちに、とっておきの裏技を教えてください。

吉田:まずは非エンジニアの方で、 Excel の関数も苦手という方におすすめしたいのが、新しい機能である Power Fx です。自然言語をAIがコードに変換するため、ノーコードでも使えるという機能です。

――これは関数苦手な人には喜ばれそうですね。エンジニアの方にオススメの裏技はありますか。

吉田:こちらも新しい機能なのですがGitによるソース管理機能です。 Power Apps について、ブラックボックス化されてコード管理ができないのではと思われがちですが、この機能をONにしておけば、非エンジニアの人たちが作ったものも自動でソースコードに変換してくれるようになります。

なので、他の方が作ったアプリを管理する際も、この機能を使えばどういうコードで書いたかわかりますし、複数の会社が同じアプリを使って開発したときもブランチを分けたり、後でマージしたりすることもできます。

エンジニアも非エンジニアも、ともに開発する世界がやってくる

―― Power Apps を導入することによるエンジニア側のメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。

吉田:今、開発者不足と言われている中で、外部へ依頼するとコストがかかりますし、投資対効果を出すというプレッシャーもあります。しかし、 Power Apps を使うことによって、技術的に難しいものもこれまでより短時間で開発することができます。

また制作の流れもこれまでと異なり、エンジニアが社内向けのコネクタを用意すれば、業務担当が非エンジニアであっても自分自身でアプリを作れます。 Excel の関数をベースにしているので、導入するにあたって、新たな言語を学ぶ必要もありません。

―― Power Apps は、誰もが開発できるものですが、今後エンジニアの役割はどのように変わっていくのでしょうか。

吉田: Power Apps の導入をしたある企業のエンジニアは「自分が主体的に動いてアプリを作り、どう業務変革を起こしていくか」というところから「業務改革を起こすための環境を用意するにはどうすべきか」というマインドセットに変わってきていました。

以前は、エンジニアというのはコードがわからないといけないというのが常識でした。しかし、ローコードが出てきたことで、非エンジニアでも「 Power Apps のエンジニア」として転職する人もいますし、海外ではそういった求人も出てきています。日本でも今後、増えてくるでしょう。

かく言う自分自身も、違う業種から Power Apps をきっかけにキャリアを変えることができました。業務からキャリアまで、人々の仕事のエクスペリエンスを Power Apps を通じて、ぜひ変革して頂きたいと思ってます。


取材+文+編集:ミノシマ タカコ
編集:LIG

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