SDGsをはじめとする社会課題に挑む最新技術のデータセンター、―IIJ白井データキャンパスに行ってみた

コロナ禍によって、多くの企業や生活者がオンラインのサービスを利用するようになりました。各サービスのインフラはデータセンターにあるシステムによって成り立っています。まさに、未来の私たちにとって欠かせない存在です。最近よく耳にするSDGs(持続可能な開発目標)の目標にはエネルギー問題や技術革新があります。多くのコンピュータが動作しているデータセンターの歴史そのものが、省エネルギーへの挑戦の歴史だということをみなさんはご存知ですか? そこで、データセンターがサステナブルな社会のための重要拠点と考え、株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)が運営する白井データセンターキャンパスに伺い、お話をお聞きしました。


白井データセンターキャンパスは、千葉県白井市に位置する

グリーン成長戦略でデータセンターに課せられた課題とは

IIJは、1993年に日本初の商用インターネット接続サービスを開始した企業。ネットワーク事業やデータセンター事業、システムインテグレーション事業などを展開しながら、2008年にはMVNO(仮想移動体通信事業者)事業を開始するなど、技術革新を絶え間なく続け、インターネット業界を牽引してきました。サステナビリティ方針(※1)としては、気候変動への対応やダイバーシティ・ワークライフバランスの推進、セキュリティとプライバシーの保護などをはじめとする8つのテーマを特定しています。

※1:IIJ:サスティナビリティ

IIJのデータセンターは国内16箇所にあり、自社のクラウドやモバイルサービスを展開するための拠点として、また顧客のIT機器を収納する拠点として使われています。白井データセンターキャンパスは、今後の需要拡大を予測して4万m2を取得、2019年5月1日、令和元年初日にサービスを開始した最新のデータセンターです。自社および顧客のデジタルトランスフォーメーションを推進しながらも、省エネルギーや技術革新、社員の労働環境改善へ寄与するため、さまざまなテクノロジーが導入されています。立ち上げと運営に関わった、堤さんと三村さんに概要を伺いました。


IIJ 基礎エンジニアリング本部 基盤技術部 データセンター基盤技術課 課長 堤 優介 氏

――堤さん、三村さんは、普段はどのような業務を担当されていますか?

堤さん:データセンターの設計構築や利用する技術の開発を担当しています。電力利用の効率化や運用の自動化を進めています。三村は、島根県の松江データセンターパークでの勤務経験があり、今は白井に勤務し、運営の現場も熟知しています。


IIJ 基礎エンジニアリング本部 基盤技術部 データセンター基盤技術課 リードエンジニア 三村 恭弘 氏

――デジタル活用が進み、データセンターの需要は高まっています。一方で世界的に脱炭素や再生可能エネルギー活用といった動きもあります。データセンター業界としては、どのような課題をお持ちですか?

堤さん:国内のデータセンター市場は、政府が発表している「グリーン成長戦略(※2)」によると2019年は1.5兆円、2030年には3.3兆円と2.2倍になると言われています。この市場拡大において課題が2つあると考えています。1つは電力、もう1つは労働環境です。SDGsの17の目標では7番目のエネルギー関連と8番目の働きがいのある仕事、13番目の気候変動に具体的な対策の推進などが当てはまります。

※2:経済産業省:2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を策定しました

まず電力ですが、普通のオフィスでは床面積1平米あたり50から100Wを消費していると言われています。データセンターの中で、サーバはラックというキャビネットの中に設置されており、そのラックの設置面積は1平米程度なのですが、2000Wから3000W、最近のクラウド向けサーバーだと設置の仕方にもよりますが、6000Wから8000Wと非常に多くの電力を使います。そしてサーバーは熱を持つことから、冷却のための空調の電力も必要になります。データセンターは、オフィスでの利用に比べると数十倍の電力がかかります。今後需要が高まることを考えると、データセンター運営にかかる電力は大きな課題であると認識され始めています。

――デジタル化で便利になる一方で、消費電力も増えていくのですね。

堤さん:資源エネルギー庁の資料(※3)によると、国内のデータセンターやネットワーク機器は、2017年時点で国内の消費電力(9,639億kWh)の4%を占めていましたが、このまま省エネ化が進まないと、2030年には10%以上になると指摘されています。先に挙げた政府のグリーン成長戦略では、2030年時点で新設データセンターを30%省エネ化と、使用電力の一部の再エネ化が目標として示され、2040年にはカーボンニュートラルを目指すとされています。

※3:資源エネルギー庁:2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討

デジタルインフラとなるデータセンターの利用が進むことは、社会全体での省エネに寄与するものですが、そのインフラ自体のエネルギー利用について考える必要があるのです。サプライチェーンやインフラの調達要件に環境対応を求める顧客も増えていくと想定されますので、インフラ提供事業者としてデータセンターの省エネ化への取り組みを進めてきました。

――もう一つの課題、労働環境についてお聞かせください。

堤さん:データセンターの需要が増えて大規模化していますので、運用業務も拡大していきます。ケーブルの抜き挿しや記録テープの入れ替え、監視アラートへの対応などをするのですが、対応の遅れやミスによってはお客様の環境に大きな影響を与えます。一方で国内の労働人口が減少するなかで、人材を確保することが難しくなっているため、運用業務の自動化にも取り組んでいます。従業員はより価値を生み出す業務を担えるよう、設備の巡回にロボットを使ったり、業務システムも自動処理したりして省力化を図っています。

三村さん:白井データセンターキャンパスは、「究極の自律データセンター」を目指しています。ロボットやセンサー、ビッグデータなどの先端の技術を導入して、運用の自動化、省人化を目指すものです。ALSOKさんとの巡回ロボットの実証実験に加えて、ソフトウェアによる自動化ロボットの利用も推進しています。入退館の受付業務の自動化も目指していて、お客様が入館する際に、スタッフが対面で受付して、サーバ室内のIT機器のところまで案内するのではなく、お客様がセルフサービスで入退館できるようにしたいと考えています。


テクノロジーの活用で運用負荷の低減と品質の向上の両立を目指す

データセンターの電力消費を抑えるさまざまな工夫

――省エネ対策について教えてください。データセンターの電力使用効率を表すPUE(Power Usage Effectiveness)という指標があると聞きました。これはどのようなものでしょうか?

三村さん: PUEは、データセンターの電力使用効率を表す指標です。データセンターで消費している電力のうち、サーバーやネットワークなどのIT機器と、それ以外の空調など付帯設備でどれくらいの電力を使っているかを表します。

PUEは1が最も良い値になりますが、空調や照明なども使用しているため、1になることはありません。1世代前のデータセンターのPUEは2程度でしたが、白井データセンターキャンパスの場合は設計値でPUE 1.2台となっており、非常に省エネルギーな施設と言えます。

――すごいですね。省エネのためにどんな工夫をしているのですか?

三村さん: まずは、松江データセンターパークから採用している配電方法があります。従来は三相3線式という方法を使っていたのですが、2013年に三相4線式(※4)を採用しました。

三相3線式の場合は、配電用の400VからIT機器が動作する電圧帯(200V程度)に変圧する必要があります。三相4線式だと、変圧しなくても230 Vで取り出すことができるのです。変圧による電力損失や送電電流の低減により、理論値として損失が約25%低減できるようになりました。


三相3線式(上)と三相4線式(下)。変圧器が必要なく電力の損失が少ない

※4:三相4線式を使った配電方式

IIJは、この方式を国内のデータセンターで先がけて導入し、今では三相4線式を採用するデータセンターも増えてきています。当時は対応しているメーカーが少なく苦労しました。

――三相4線式にして、電力の損失を減らして効率よくなったんですね。ほかに省エネの工夫はありますか?

三村さん:最も効果が高いのが空調です。データセンターでは、IT機器を冷却するためにチラー(冷却水循環装置)という装置を使いますが、これらの装置の電力消費が高くなると、PUE値も高まってしまいます。このため、白井データセンターキャンパスは、外気を取り込んで冷やすように建屋自体が設計されています。建物の軒下に外気取込口があって、そこから外気を取り込んで、中の空気と混ぜたあとにサーバールームに押し込み、天井から熱を排出するようになっています。消費電力の大きいチラーの使用を控え、外気の冷たい空気を使って冷却するのです。


データセンターの建物自体が外気冷却を取り入れた造りになっている

――外気が熱い夏はどうしているんですか?

堤さん:夏はIT機器の冷却にチラーを使うため電力が大きくなりますが、その際のピーク電力を抑えるためにバッテリーを使っています。夜間の電気料金が低いときにバッテリーに充電して、昼間の暑い時間帯に使うことでピーク時の電力を低減しています。2020年の夏はおよそ10%のピーク電力をカットしました。


外気が利用できない夏場は電力消費が高いため、蓄電池を利用する

堤さん:現在は夜間の電力が安くなっていますが、将来太陽光発電が普及すると昼間の電力が安くなることも考えられます。データセンター内にあるバッテリーが、送電網内における電力需給の調整力となれば、通年で昼間に蓄電して夜間に放電するといった、夏場のピークカット以外の使い方もでき、 再生可能エネルギーの利用促進という社会課題の解決にも役立ちます。

アメリカではGoogleやAmazon、Microsoft、Appleなどが再生可能エネルギー発電会社と直接契約して調達する取り組みを行っていますが、日本では送電線の容量などの課題があってすぐに同じような対応は難しく、法制度の整備も必要です。とはいえ、今後は再生可能エネルギー利用を調達要件にする顧客は増えていくと予想されます。対応していないデータセンターは選ばれにくくなくなるでしょう。たとえPUEをいくら下げても、その電力がクリーンであるかが重要な評価項目になってくるはずです。これからはエネルギーを効率良く使う「省エネ化」に加え、CO2を排出しない電力を使う「再エネ化」の取り組みが求められることになるでしょう。

――ほんとうにさまざまな工夫が必要なんですね。エネルギー削減に関して、今後はどのような改善をされていきますか?

三村さん:白井データセンターキャンパスの設計を開始した時点で、建物や設備単体での省エネ化はもう限界に近くなっていて、乾いた雑巾を絞るような状態でした。そこで、IT機器も含めたデータセンター内の様々な機器・設備を連携させることで、データセンター全体のシステムとして省エネ化を図る取り組みを行っています。多くの機器・設備がある中でそれぞれの最適な設定値を導き出すことは人間の手ではなかなか難しいため、機械学習、AIの技術を使って高度に制御していく実証を進めています。 これまでにデータが取得できる環境が整備できましたので、蓄積と解析を進めていきたいと考えています。

――データセンターの設備から運営までの技術を外部にも提供されているそうですね。

堤さん:データセンターの建設エンジニアリングソリューションは国内外に展開しています。「二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism、JCM)」という、国が進めている制度があります。これは、日本の低炭素技術を途上国に提供して、温室効果ガスの削減などの成果である二酸化炭素の排出量取引を二国間で分けあう制度です。NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)が行うJCMの実証事業として私たちの省エネデータセンター技術が採用され、ラオスにてデータセンター建設を行いました。二酸化炭素の排出量取引にも貢献しているのです。


IIJの技術提供によって造られたラオスのデータセンター

デジタル社会の技術革新の要となる無線技術の実証も可能

IIJでは、データセンター以外にも各種ネットワークに関するサービスを提供しています。MVNOとして一般向けに格安SIMなどを提供しているIIJは、ワイヤレスネットワークについても高い技術を持っており、白井データセンターキャンパスには、Wi-Fi 6やプライベートLTE、ローカル5Gなど、特定エリア内での高速通信を実現する技術の実証実験が可能な「白井ワイヤレスキャンパス」も併設されています。IIJでMVNO事業を推進してきた佐々木氏に、ワイヤレスキャンパスの取り組みや、次世代の通信が社会にもたらすメリットについてお聞きしました。


IIJ MVNO事業部 ビジネス開発部 担当部長 佐々木 太志 氏

――ワイヤレスキャンパス設置の背景をお聞かせいただけますか?

佐々木さん:MVNOというと、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクなどの移動通信キャリアから回線を借りて格安SIMなどを提供する事業が有名ですが、最近では様相が変わってきました。法人のお客様が、通信キャリアとは関係なく、プライベートLTEやローカル5Gを使いたいというニーズが出てきたのです。しかし、一般のお客様には無線の専門的なノウハウがなく、またローカル5Gであっても、総務省へ申請して免許を取得することが必要になり、大きな負担がかかります。そのため、白井ワイヤレスキャンパスで実証実験ができるように設備を用意しているのです。


さまざまな無線機器が並んだ白井ワイヤレスキャンパスのショールーム

――プライベートLTEやローカル5Gというのはどんなメリットがありますか?

佐々木さん:たとえば、白井データセンターキャンパスでは、ALSOKと巡回ロボットの共同検証をしています。このロボット、通常はWi-Fiで動作するものなのですが、ここではプライベートLTEを使っています。Wi-Fiだと、あるアクセスポイントの圏外にロボットが出た場合に、他のアクセスポイントに接続し直さなければならず、その間、通信が途切れてしまうという問題があります。

それ以外にも、たとえば、このロボットがイベント会場の警備をしていて、イベント参加者が使っているたくさんのWi-Fi端末の影響を受けたら大変ですよね。プライベートLTEなら、一般の参加者の持ち込むスマートフォン等に影響を受けず、かつ複数の基地局間でのシームレスなハンドオーバーが可能です。また、ローカル5Gであれば、それに加えて高精細画像を送るなどの高速通信にも適しています。


白井データセンターキャンパスを巡回するロボット。通気口の状態確認も可能で、自ら充電も行う


LTEや5Gのアンテナが設置されており、さまざまな実証実験が可能

――接続が途切れないのはいいことですね。ワイヤレスネットワークの技術は、未来の私たちの生活にどのような恩恵をもたらすのでしょうか?

佐々木さん:SDGsの目標から例を挙げると、9番目の産業と技術革新の基盤となることはもちろん、スマートシティを目指す取り組みは11番目のまちづくりに、またリモート診療は3番目の健康と福祉に当てはまりますね。IIJのMVNO事業では、2019年には大手通信キャリアよりも先行してeSIM(遠隔から通信プロファイルを書き換えられる組み込み型SIM)を提供し始めるなど、日々技術革新を続けています。5Gの先には、6Gも控えていますので、新しいチャレンジが尽きずビジネスも拡大していくでしょう。エンジニアのみなさんにとっても非常に面白い分野だと思っています。

――三村さんと堤さんからも、エンジニアのみなさんにメッセージをいただきたいです。

三村さん:エンジニアの方ならおそらくサーバーなどを使われていると思います。省エネに貢献するという意味では、手元にハードウェアを置くよりも、省エネ設備のクラウドやデータセンターにどんどん移行していただければと思っています。

堤さん:インターネットは自律分散という基本的な考え方があり、業務もさまざまな階層に分かれています。エンジニアとしては自分の担当の階層を深掘りしていくというのもありますが、その階層が利用者や社会にどう関わっていくかを意識する必要があるでしょう。

データセンターは人の意識があまり向かない施設であるものの、デジタル社会において重要度が上がっているため、どう関わっていくべきかを私も常に考えています。日本経済の成長の軸としてデジタル化とグリーン化があり、データセンターはこの両方に関わっている業界です。社会課題の解決にも寄与するデータセンター業界へ参画したい方はぜひお待ちしております。

企画・取材・文:森 英信アンジー)/写真:大金 彰/編集:プレスラボ

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