【エンビジ!】 仕事をするなら“戦略”を持とう!

※この「エンビジ!」では、エンジニアに役立つであろうビジネス書をご紹介しつつ、著者の方にもお話を聞いていきます。



皆さんは「戦略」という言葉にどのようなイメージを持ちますでしょうか?

会社が考える「経営戦略」みたいな堅い印象が強いかも知れませんが、多様化する現代においては個人であっても戦略が必要ではないでしょうか。とはいえ、戦略ってどんなものかよく分かりませんよね。

ということで、つい最近、『戦略図鑑』という本を出されたビジネス戦略コンサルタントの鈴木博毅(すずきひろき)さんにお話を伺っていきたいと思います。

――こんにちは、よろしくお願いします。

はい、よろしくお願いします。鈴木博毅です。

――この「戦略図鑑」という本、堅い印象の「戦略」というものをイラスト豊富な図鑑として作られているのでとても読みやすいですね。

ありがとうございます。




戦略とは、「追いかける指標」である

――まずお伺いしたいのですが、「戦略」ってそもそも何なのでしょうか?

戦略とは、「追いかける指標」ですね。

――追いかける指標?

例えば皆さんが自動車レースに参加するとしましょう。勝つための作戦はさまざまに考えられますが、このとき「エンジンの馬力」を追求すれば「大馬力戦略」となります。

――なるほど。「大馬力戦略」。

「車体の軽量化」を追求すれば、「軽量化戦略」。「ドライバーの腕」を追求すれば、「ドライバー力量戦略」を選択していることになります。

――そうか、同じ自動車レースでも色んな戦略があるわけですね。

ええ、ここで重要なのは「追いかける」という点です。私たちは意識的に特定の戦略を選びますが、途中で「追いかける指標」を変えることもできるのです。

――なるほど、追いかける指標を変えながら戦っていくべきだ、と。

戦略はより良い状況を生み出すための「解決策」を考えるツールですから、皆さんが人生で困難な状況にぶち当たったとき、「戦略思考」は皆さんの大きな助けとなってくれるはずです。

――追いかける指標であり、解決策を考えるツールかあ。奥が深いですね。

3000年の叡智ですからね。

――では早速、この書籍に掲載されている戦略を抜粋させてもらいながら、エンジニアに当てはめるとどういうことなのか読み解いていきたいと思います。鈴木さんは最後にまたご登場ください。

分かりました。


「孫子の兵法」とは

この本で最初に紹介されているのが「孫子の兵法」です。


「戦略図鑑」P20より抜粋


これはよく目にしますよね。関連する書籍もたくさん出ていると思います。

「孫子の兵法」は、紀元前500年ごろの中国春秋時代、軍事思想家でもある著者の孫武が書いたといわれる戦略書です。

孫武は「孫子の兵法」をもとに国内での戦争の指揮をとったわけですが、敵軍から劇的な勝利をおさめることができたといいます。

≪ 戦略のポイント ≫

1つの例ですが、「孫子の兵法」の中に、次のような一文があります。

「百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり」

これは、『戦わずして勝つのが最善の策だ』ということ。

他のエンジニアとの技術コンペや、仕事を取りに行こうという時に、ライバルと正面からぶつかって戦ってしまうと、疲弊してしまうものですよね。戦わないで済む方法を考えてみましょう。


「戦略図鑑」P23より抜粋


いかに戦わずして相手が屈服するか、敵が攻撃するのに必要な基本条件を奪えないかと考えてみるのです。それはまるでオセロの4つの隅を奪うような行動とも言えるかも知れません。


マイケル・E・ポーターの「競争戦略」とは

続いてご紹介するのがマイケル・E・ポーターの「競争戦略」です。


「戦略図鑑」P52より抜粋


これも、MBAなどで必ず学ぶような有名な戦略の1つです。

競争戦略の基本動作は「防衛するか」「新規参入するか」の2つだと言われます。守るのであれば参入されないように強化していきますし、攻めるときには「相手の参入障壁を切り離す」か、「無効化する」ことを考えていくわけです。

≪ 戦略のポイント ≫

攻守だけでなく、次のような3種類の「戦略ポジショニング」を検討します。


例えば、それぞれの戦略ポジショニングに沿って「アプリの企画」をするとしましょう。

①のバラエティ・ベース・ポジショニングであれば、「様々な機能があるアプリ」でなく、「1つのサービスに特化したアプリ」を作ったほうが良い戦略である、ということになります。

②のニーズ・ベース・ポジショニングであれば、「勉強アプリ」ではなく、「私立高校受験用のアプリ」など特定の客層のニーズを満たすようなものを作ったほうが良い戦略である、ということです。

③のアクセス・ベース・ポジショニングであれば、「全国で使えるアプリ」ではなく、「電車の中だけで使えるアプリ」や「特定の自販機に対応したアプリ」などが良い戦略である、といえるでしょう。

ぜひ、皆さんの仕事に「戦略ポジショニング」を当てはめて考えてみましょう。


「ブルー・オーシャン戦略」とは

誰でも知っているメジャーな戦略といえば、この「ブルー・オーシャン戦略」です。


「戦略図鑑」P82より抜粋


これは、2人の専門家によって考えられたものだったんですね。

ブルー・オーシャンに対するのが「レッド・オーシャン」で、レッド・オーシャンというのは既知の市場空間を指します。つまり、多くのプレイヤーがしのぎを削っている場所ですね。そしてブルー・オーシャンというのは、まだ生まれていない市場。未知の市場空間を指すわけです。大事なのは、「これまでと違う、新しい消費者を呼び寄せて新市場を創る」という点ですね。


≪ 戦略のポイント ≫

ブルー・オーシャンを目指すうえで重要なのが次の3つの特徴です。


この3つの特徴が欠けた戦略は、月並みでパンチが弱く伝わらず、高コストになってしまうので注意が必要なのだとか。

皆さんが「ブルー・オーシャンを目指そう」と考える際には、ぜひこの3つに当てはまるかどうかを確認してみましょう。


「戦略サファリ」とは

このキーワードについては聞き慣れない人も多いのではないでしょうか。


「戦略図鑑」P128より抜粋


この「戦略サファリ」は、カナダの大学院教授であるヘンリー・ミッツバーグ氏が考えたものだそうです。

戦略論というのはたくさんあるわけですが、それらを見渡して適切な考え方を導き出そうとしているようです。具体的には、10流派を俯瞰した結果、「統合的にとらえるべきだ」と言っています。

≪ 戦略のポイント ≫

戦略論はそれぞれ違っていて、それは「盲目の人間が象を触ることに似ている」と言います。つまり、1つの面しか見えていないというわけです。


そして、「たくさんある戦略論」というのは、大きく分類すると次の5つのPになるそうです。


なるほど、世の中にある戦略論はこれら5つの分類に当てはまるんですね。これは知っているだけで賢くなった気がしますよね。

そして、最後に「行動しなければ真の戦略は浮かび上がらない」とも言っています。

戦略を持って行動し、行動したら結果が見えますから、その結果をもとにより効果的な戦略を立てる、というわけですね。


戦略を使う時は「模倣」「活用」「創造」をイメージせよ

――ということで、今回は4つだけ抜粋してみましたが、他にもあるんですよね。

ええ、就活中の大学生から新規事業の構想を得たい現役ビジネスパーソン、後悔しない人生設計のための知恵を探したい方まで、役に立つ戦略知識が満載です。

――いま数えてみましたが、38もの戦略キーマンや戦争戦略まで掲載されていますね。

はい、戦略の多面的な切り口をお見せしたくて38の戦略を集めました。戦略を使うときは、「模倣」「活用」「創造」という3つの分類をまずイメージして頂きたいです。

――「模倣」と「活用」と「創造」。

「模倣」は文字通り、誰かがやって上手くいった戦略(指標)を自分も追いかけて成功することです。

――なるほど。

2つ目の「活用」は、マネする方法を工夫する、と表現すればいいでしょうか。例えば、アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズは、コンピューター以外の産業で使われていた戦略(指標)を、コンピューター業界に初めて持ち込んで世界的な起業家として大成功しました。ジョブズがアップルに復帰したあとに生み出したiMacは、パステルカラーにスケルトンと、世界中を驚かせるデザインでした。

――あれ、私も驚きました。

しかしこれは、ファッション業界では当たり前の指標でしょう。ジョブズ以前には、パソコンの外観に、異分野であるファッション業界の戦略を採用する発想が一切なかったのです。

――なるほど、そういうことですね。

3つ目の戦略の「創造」とは、追いかけて効果のある新しい指標を発見することです。ネット通販のアマゾンは、「世界一の取り扱い書籍数」「購入者のレビューを販売力に転換する」など、これまでにない要素(指標)を追求して世界を変える巨大企業になりました。

――新しい指標を発見する。ふむふむ。

戦略とは追い掛ける指標である、という定義は、戦略の世界を極めてシンプルにしてくれます。私たちが「何を追い掛けているか」を、ふだんから意識することが戦略思考の入り口なのです。

――なるほど、戦略のことがよく分かりました。


『3000年の叡智を学べる 戦略図鑑』(かんき出版)
https://www.amazon.co.jp/dp/4761274638/


とても読みやすいですし、色々なアイデアが浮かんでくる1冊です。 皆さんもぜひ読んでみてください。


鈴木さん、ありがとうございました!


取材協力:かんき出版
イラスト:たきれい
取材+文:プラスドライブ

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