オモシロ

おならで発電できる? メタンガス発電でシミュレーションしてみた

みなさんは「メタンガス」をご存知でしょうか。
身近なところで家庭ごみや牛のおならやゲップからも発生するなど、自然界の様々な環境に存在しています。

現在、このメタンガスは地球温暖化の原因として問題視されています。一方で、メタンガスを利用した発電も行われるなど、いろいろな観点から注目を集めるガスなのです。

でも、ちょっと待ってください!

温暖化の原因であるメタンガスを活用して発電できるということは……
もしかすると、おならを集めて発電できたら、温暖化問題とエネルギー問題が一気に解決できるかもしれません!

そこで、おならでメタンガス発電ができるのかを調査してみました!

メタンガスの基礎知識

まずは、そもそも「メタンガス」とは何か、ということについてご説明します。

メタンガスとは

有機物の腐敗や発酵、燃焼過程で発生するガスに含まれます。温室効果ガスとして知られ、地球温暖化の原因の1つとなるため、その影響にも繋がっています。

メタンガスの発生源

草食動物のおなら・ゲップ・糞尿、虫、湿原、水田、化石燃料の採掘、森林火災、火山、温泉、人間のおなら・ゲップ・糞尿、トイレや風呂などの排水処理、廃棄物処理過程……など。
※人によって、メタンガスを排出する人と排出しない人がいます。欧米人は多く、アジア人は少ないなど、人種によっても異なるようです。

メタンガスが発生する仕組み

メタンガスは、ある種類の微生物が有機物を利用する際に発生するメタン発酵や、物が燃えるときの不完全燃焼で発生するなど、様々な発生源があります。
メタン発酵は、胃の中で牧草などの植物を発酵させて分解する能力を持っている草食動物に多く見られます。特に牛は、体も大きく、食べる量も多いため、多くのメタンガスを排出することで有名。そのほかにも、メタンガスを多く発生している生物として、シロアリも注目されています。シロアリは木材や枯れ葉や植物の根っこを食べて分解する過程でメタンガスを排出しており、しかも熱帯地方を中心に相当数存在するため、地球全体でみると多くの量が排出されています。

メタンガス発電とは?

今回は、メタンガス発電を事業として行っている株式会社ヴァイオスの助野さんに取材。和歌山に本社を構える同社は京都大学と一緒に研究事業も行い、新たなバイオガスの可能性を追求しています。

助野 彰昭さん
株式会社ヴァイオス 研究開発課
2013年より株式会社ヴァイオスに勤務。新事業推進課の一員として地球にやさしい再生可能エネルギーである「メタンガス発電プラント」の運転・管理業務に携わる。プラントの全都道府県での設置に向け邁進中。
https://vioce.jp/

——本日はよろしくお願いします。取材依頼で「おならで発電できますか?」なんて質問を投げかけてしまってすみません!

助野:いえ、おもしろいし、興味深いテーマだと思いましたよ(笑)。私たちは普段、1トン単位でメタンガスを扱っているので、身近なおならには発想がいかなかったです。

——そう言っていただけると気持ちがラクになります(笑)。メタンガス発電の仕組みについて伺う前に、まずはヴァイオスさんの事業について教えていただけますか。

助野:弊社の主要事業は、廃棄物の処理です。1日に100トンの廃棄物を処理できる工場を和歌山県の桃山に持っています。もともとは浄化槽の清掃業務からスタートした会社なのですが、そこから事業拡大し、し尿処理施設や有機系廃棄物の収集運搬と処理などを行うようになりました。2011年の東日本大震災以降、再生可能エネルギーに注力する流れが政府主導で起こったことをきっかけに、私たちもメタンガス発電を行う小型のバイオマスプラント事業に進出したのです。

——なぜメタンガス発電に進出されたのですか?

助野:廃棄物処理もメタンガス発電も有機系の廃棄物を扱うという点では共通していますから、畑違いの分野というわけではないのです。もともとノウハウも持っていましたし、人材もいました。また、弊社の企業理念は「資源循環のループを構築し、地域と共に歩む水再生企業となる」ことです。その意味でも環境にやさしい再生可能エネルギーであるメタンガス発電事業への進出は、自然な流れでした。

——メタンガス発電はヴァイオスさんの技術力を生かせる事業だったというわけですね。では、その仕組みについて教えていただけますか?

株式会社ヴァイオスが開発した小型メタンガス発電プラント。

助野:弊社が開発した小型メタンガス発電プラント(メタン発酵システムによって、エネルギーを生成する機械)を採用いただいているカット野菜工場を例に挙げてご説明します。

カット野菜工場では、毎日多くの廃棄物が出ます。たとえば野菜の芯やネギの硬い部分、かぼちゃの皮などは食べられませんから、カットした後は廃棄するしかありません。廃棄する際に費用がかかりますが、弊社のプラントを使うことで廃棄費用を低減し、さらに発電することで工場のエネルギーにも使えるというメリットがあるのです。

——メタンガスは野菜のゴミからも発生するのですね。

助野:はい。有機物の腐敗や発酵で発生しますから。

——有機物の腐敗や発酵……あっ! おならもそうですね!

助野:まさに、その通りです。人間は食べ物を咀嚼し、体内で消化してエネルギーを取り出します。その際にメタンガスが発生し、おならとして排出されるわけです。メタンガス発電の原理も実はおならに似ているんです。
カット野菜工場で出た野菜ゴミ(残さ)は、まず破砕機にかけられ1cm以下に破砕されます。破砕されていないと後から分解するのが難しいからです。これは人間がものを食べるときに咀嚼して細かくするのと同じです。(図①)

助野:次に破砕された野菜ゴミは調整槽に送られます。調整槽では撹拌機がぐるぐる回っており、ここで野菜ゴミの状態を均一にします(図②)。そして、チューブポンプで発酵槽に送ります。発酵槽でも撹拌機と循環ポンプを使うことで状態を一定に保ちます。この発酵槽で野菜ゴミは発酵し、メタンガスが発生するのです(図③)

——発酵するための条件はあるのでしょうか?

助野:ポイントは温度です。メタンガスが発生しやすい温度は2段階あって、1つは36〜38℃くらいの中温。そして、53〜55℃くらいの高温です。メタンガス発電を行っている会社によっても異なりますが、弊社は高温での発酵を採用しています。高温発酵は制御が難しいのですが、メタンガスの発生量が多くなるからです。

——36〜38℃というと人間の体温と近いですね。……だから人間の体内ではおならが発生しやすいのでしょうか!?

助野:関連しているかもしれませんね(笑)。メタンガスが発生した後は、液フローとガスフローに分かれます。メタンガス回収後の消化液は液肥やたい肥になったり(図④)、水処理施設で処理されたりします。弊社はもともと水処理が基幹事業ですから、ここで本来の技術が生きてくるわけです。

一方、取り出されたメタンガスはガスバッグに送られ、たまっていきます。ある程度たまったところで、ガスタンクへと送られ、熱エネルギーや電力として利用されるのです(図⑤)

——ヴァイオスさんならではの特徴や技術などはありますか?

助野:先ほども申し上げたように、メタンガスを効率よく発生させるには温度管理が重要です。1℃変わるだけでも発生するガス量はかなり変わってきます。そこで弊社では二重配管という独自の配管を活用して、原料の温度を常に53〜55℃に保つ技術を開発し、特許も取得しています。

本当におならで発電できる!?

——発電の流れがよくわかりました!  では、ここからは、おならをはじめとする身近なメタンガスでどれくらい発電できるのかを教えてください。まずは、人間のおならから。

※1(出典は文末に記載しています)

助野:計算式としては、メタンガスの量を体積に換算し、熱量を算出します。その熱量を電気量に換算し、最終的に発電機の効率を踏まえたうえで発電量を導き出すことができます。 おおよそ、人間1人の1回あたりのおならには、0.002499ℓのメタンガスが含まれているようなので、発電機の効率にもよりますが、0.000008kwh(0.008wh)の電気をつくることができるでしょう。

※kwh(キロワットアワー)、wh(ワットアワー)…1時間あたりの電気使用量の単位。1000wh=1kwh。
※人間は、メタンガスを生成する人としない人がいるため、仮説を踏まえた話になります。

——数字が小さすぎてよくわからないのですが、身近な電気量と比べるとどうですか?

助野:例えば一般的なLED豆電球の消費電力が約0.5whなので、本当にごくわずかですね。
もう少し量を増やしてみましょうか。人間1人の1日分のおならであれば、0.035ℓのメタンガスが含まれているようなので、0.0001kwh(0.1wh)発電できます。

——だんだん数字のイメージがわいてきましたが、まだまだ豆電球にも及びませんね……。

助野:道は遠いですね。でも、1人の人間のおならを1年分集めると、ようやく実用的な数値がでてきましたよ。

助野:1年間のおならに含まれるメタンガスの量は12.775ℓなので、発電量は0.04kwh(40wh)になります。なんと、40wの電球が1時間点灯します!

——おぉ……。1年分のおならが1時間の光になるとは(笑)!

助野:ちなみに、環境省によると、家庭でのエネルギー消費量は1世帯あたり年間平均4322kwh、1日の電気使用量は11.8kwh※2となります。つまり1世帯が1日で使う電力使用量(11.8kwh)を、仮に1人で発電しようと思ったら、295年間分のおならが必要ということですね。

——295年間!? 人間のおならってはかないんですね……。
ならば、自然界のメタンガスの王である牛のおならはどうでしょうか? 温暖化の原因として問題視されていますね。

助野:はい。問題視されているだけあって、人間とは比較にならない量を発生しているので、発電量も桁違いでした。牛1頭の1日のおならに含まれるメタンガス量は24ℓ。

助野:発電量は0.1kwh(100w)となります。40wの電球が2.5時間点灯しますね。

——人間のおならの1000倍じゃないですか! 人間が1年間がんばって貯めたおならが、牛の1日にも及ばないとは……。

助野:もっと驚くのは牛のゲップです。

助野:牛のゲップ1日ぶんのメタンガス量は216ℓで、発電量は0.7kwh(700w)。人間の1日のおならの7000倍です。

——牛のゲップ、恐るべし。

世界のおならで発電してみたら?

——人間1人だけのおならからは、光が生まれにくいことがわかりました。では、世界のみんなで力を合わせてみてはどうでしょうか?

※「人間のおなら」について、世界中の人のおならにメタンガスが含まれていると仮定したシュミレーションとなります。

助野:世界で協力したら、やっと希望が持てる数字が見えてきましたよ。世界人口約78億7500万人※3の1日のおならをかき集めれば、877100kwhの発電が可能なんです!

助野:これは日本の202世帯の年間電気使用量をまかなえますよ!

——グローバルにおならを集めたら、ようやく光が見えてきましたね。

助野:はい(笑)。
続いて、世界中の牛※4の1日のおならに含まれるメタンガスで計算してみたところ……

なんと、日本の26,506世帯の年間電気使用料をまかなえるんです!

——牛のおならに対しての見る目が変わってきました。その他に地球上で、大きな発生源として注目されている生物や自然環境はありますか?

助野:牛以外では、シロアリもメタンガスの発生源として見逃せません。世界全体のシロアリが1年間で排出するメタンガスは約28兆112億ℓほどと言われており、それを発電に利用すれば891億3787万kwhの電気を生み出すことができます。
また、動物以外では水田もメタンガス発生源としてよく知られています。世界の水田から1年間に排出されているメタン量は約5252億と言われており、16億7133万kwhの発電が可能です。

ーー世界基準で年単位の排出量を見ると桁が違いますね。ところで、おならでも相当の電気がつくれるということは、発電が実用化される日は近いのではないでしょうか?

助野:数字としてはものすごく大きいのですが、実際に発電に活用できるかというと難しいでしょうね。メタン菌は嫌気性の菌で、酸素を嫌うんです。メタンガスは酸素と混合されると濃度が薄くなるため、酸素に触れないよう閉じ込めないといけません。弊社のプラントも完全に発酵槽を密閉して制御しています。

——ということは、おならのメタンガスを集めるのも難しいのでしょうか?

助野:うーん……正直、現実的ではないですね。酸素に触れないようにするためには、まず肛門から出た瞬間に密閉した容器に閉じ込める必要があります。肛門にチューブをつけて容器に送るとしても、嫌がる人も多そうですし、そもそもそんなタイミングよくおならが出てくれないでしょうし……。

メタンガス発電の可能性

——真面目に悩ませてしまってすみません。

助野:でも、こんな方法なら可能性があるかもしれません。
各家庭に「おならタンク」を設置し、おならがしたくなるとチューブのようなものをお尻にあて、おならを「おならタンク」にためていきます。そして、バキュームカーのような、おなら回収車が各家庭を周り、各家庭の「おならタンク」に吸引ホースを接続し、おならを回収していく。

助野:さらに、おならの回収した量に応じて、環境ポイントのようなものが付いたり、電気料金から割引されたら各家庭の協力が得られるかもしれません。

——おならをすれば、ポイントもたまって、環境にも優しい。まさに一石二鳥ですね!

助野:はい(笑)。おならの発電はまだまだ実現には程遠いですが、最近はホームバイオガスという取り組みもあって、家庭の生ゴミを処理しながら発電もできないかという試みも始まっています。廃水処理のコストなど課題も多く、まだこれからの分野ではありますが、今後もしかすると一般的になっていくかもしれません。

——ヴァイオスさんが取り組まれている発電は様々な可能性を秘めているんですね。最後に、今回シュミレーションしてみた感想を聞かせてください!

助野:選挙の投票もそうですが、一人ひとりの力は小さくても、みんなの力を合わせると大きな力になると改めて感じました。おならだって、世界のすべての人が力を合わせれば、202世帯の年間電気量はまかなえるわけですから。小さな積み重ねが大きな環境問題の解決につながっているんですね。

——きれいにまとめていただいてありがとうございました!

出典

※1
https://www.oddee.com/item_98612.aspx
https://ideas.ted.com/methane-isnt-just-cow-farts-its-also-cow-burps-and-other-weird-facts-you-didnt-know-about-this-potent-greenhouse-gas/
https://www.wired.co.uk/article/the-strange-war-against-cow-farts

※2 https://www.env.go.jp/earth/ondanka/kateico2tokei/2017/result3/detail1/index.html

※3https://tokyo.unfpa.org/ja/SWOP2021#4

※4https://www.globalnote.jp/post-15229.html

イラスト ただまひろ
取材・文 山田井 ユウキ
取材協力(「メタンガスの基礎」) 国立研究開発法人国立環境研究所

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