市場動向レポート

新型コロナウイルスの影響により、様々な場面で変化が求められてきた昨今。社会全体の意識・行動が見直され、新たな経済活動への移行が進んできました。一部の企業は過去最高益をマークするなど、コロナ禍以前の状況を取り戻しつつあります。

個人単位でも変革が求められる今、エンジニアは社会とどのように共存しキャリアを築いていけば良いのでしょうか。昨今の変化と今後のキャリア形成におけるヒントを紹介していきます。

  • 調査対象:パーソルクロステクノロジーの求人情報
  • 調査期間:2019年1月1日~2021年9月30日
  • 取材協力:日本機械学会

失われた20年からデジタルツインへ

日本は、1990年ごろから20年以上にわたり経済の停滞が続いたため、2010年代半ば以前までは大きな技術トピックが生まれにくい状況でした。いわゆる、失われた20年です。ところがそのような状況にも、ようやく光が差し込んできました。それが、“デジタル”の台頭による変化です。

これまでのように、オフィスでデスクに向かい設計業務を1人で行うのではなく、離れた場所にいるメンバーと、クラウドやバーチャルで設計空間を共有する。チームで連携してものづくりを行うような流れが、主流になりつつあります。バーチャル空間に実際のプロダクトはもちろん、生産ラインや工場までを再現し、デジタル空間内でシミュレーションや故障予知などを行う。いわゆるデジタルツインなどです。

このようなトレンドから昨今の機電エンジニアには、デジタル・シミュレーションソフトウエアの技術はもちろん、オペレーションまで含めた設計を考えることが求められてきました。

生産拠点が海外から日本に回帰

そんなデジタルによる変革が見え始めた矢先に、新型コロナウイルスの感染拡大が世界を覆っていきました。

私たちは対応方法を模索しながら、まずは“外へ出る”ことを自粛しました。海外での事業も同様で、その結果、生産・需要ともに全体のボリュームが大幅に減少、設備投資も一時期ストップしました。しかし、しばらくすると、可能な限りオンラインで業務を行うように工夫したり、現場で働く技術者もコロナ禍対応を行いながら、以前のように働く姿が戻ってきました。そのような取り組みの結果、生産も含め事業活動はデジタルへの対応を一層加速させました。

一方で、新たな問題も出てきました。サプライヤーの多くが拠点を構える海外で作られた部品などが、思ったように輸入されてこなかったことです。作りたくても作れない。実際、半導体不足は大きなニュースとして取り上げられ、多くのメーカーが影響を受けています。

マーケットも含め、海外に拠点を展開する経営判断は、ビジネスにおけるリスクヘッジとして、これまでは当然の考えでした。しかし、コロナ禍となった今では逆に、その考えがカントリーリスクとなってしまっているようです。その結果、多くの製造業者が生産拠点を日本に回帰する傾向にあります。

これまでは、賃金の安い海外で生産することが主流でした。しかし、日本の労働賃金はグローバルと比べ高いと言えない近年の状況も、日本回帰のトレンド要因のひとつになっています。また、日本は、業界内における国内競争がグローバルと比べ活発であり、多くのメーカーが各地に点在することから、結果として疫病・災害時のリスクヘッジになっています。この点も、海外から日本に生産拠点を回帰する動きの要因のひとつになっており、今後もこの流れは続くでしょう。

【2022年3月】機電系エンジニアの市場動向

コロナで一時は求人が激減するも、回復傾向へ

機電エンジニア 2019年・2020年・2021年の求人数増減比

▲機電エンジニア 2019年・2020年・2021年の求人数増減比

ここからは求人数の推移に注目していきます。

近年、機電エンジニア全体の求人数は上昇傾向にあり、採用活動が定期採用から流動化していることが影響していました。しかし、2020年の春に一時的な新型コロナウイルスによる激減が見られます。当時、企業は事業を継続していたことを踏まえ、本来であれば求人を出したかった。しかし、採用側も外へ出ることを控えていたことが影響しています。

※各比較値について、2020年は2019年との比較、2021年は2020年との比較になります。(以降のグラフも同様)

設計(機械)の2019年・2020年・2021年の求人数増減比

▲設計(機械)の2019年・2020年・2021年の求人数増減比

設計(電気・電子)の2019年・2020年・2021年の求人数増減比

▲設計(電気・電子)の2019年・2020年・2021年の求人数増減比

職種別に見ると、設計(機械)・設計(電気・電子)エンジニアはコロナ渦以前の状態への回復途中ではあるものの、採用や労働の体制変化も見えてきています。企業は、時代の変化のなかで同じプロダクトを作り続けるのでは、事業が維持できなくなってきています。そこで、新たなものづくりに取り組む(新事業の)ために、適切な人材を求める動きが活発になってきました。定期採用・終身雇用ではなく、ジョブに必要な人材を流動的に外部に求める傾向に変わりつつあるのです。

設計(機械)は、昔から変わらずプロダクト全体を把握する役目を担っています。ものづくりにおける総合的な理解が求められる職種であり、どこの分野でも継続的に求められている人材です。その役割が大きく変化していないため、今後も一定のニーズがあり続けるでしょう。

設計(電気・電子)領域は、従来からの電気回路の設計・開発、配電盤や制御盤の設計業務はありつつも、一部業界では設計のパターン化が進んでいるようです。そのため、人材流入のハードルが下がっている一面もあるでしょう。

設計(組込み)の2019年・2020年・2021年の求人数増減比

▲設計(組込み)の2019年・2020年・2021年の求人数増減比

一方、設計(組み込み)エンジニアの回復は顕著に見られます。ITやソフトウエアエンジニアの求人数の増加に伴い、その影響が、組み込みエンジニアの求人数増加にも影響を及ぼしているのでしょう。ファームウェア開発に必要なプログラミングスキルを持っている人材の流入があるためです。今後もこの流れは継続していくでしょう。

そして、他分野出身者の挑戦には基礎知識の習得が求められます。スキルがあっても、現場での臨機応変の対応や作業予測が立てづらくなるからです。基礎力の習得が活躍のポイントになっていくでしょう。

スキルに対する投資は上昇傾向へ

機電エンジニア 2019年・2020年・2021年の賃金分布図

▲機電エンジニア 2019年・2020年・2021年の賃金分布図

次に、年度別賃金分布データを見ると、雇用が激減した2020年は、2,000円未満のボリュームゾーンがわずかに増加。しかし、2021年は2019年の水準に戻りつつも、2,500円以上のボリュームゾーンが増加していることがわかります。

現在、機電エンジニアの採用活動は、おおよそ2通りの人材が求められています。ものづくりの流れを活性化させるための人材と、特別なスキルを持った人材。前者は、なるべく賃金を抑えて採用する傾向にありますが、後者は違います。ジョブ型採用の流れも影響し、特別なスキルを持っている人材に対しては企業は積極的に投資をしているのです。その流れは顕著に見られ、2021年の分布に現れているのでしょう。

また、特別なスキルや経験を持っているシニア世代への注目も高まっています。特定領域では、設計そのものが難しい技術領域もあるため、対応できる特別なスキルを持っている人材が求められます。また、ひとつのプロジェクトが10~20年以上と長いため、最初から最後まで携わっている人材も同様に貴重であり、同じ水準の知見を持っていればシニア人材であっても企業から求められています。

スキルアップに貪欲かつ“力”を証明できるエンジニアが求められる

これからは、単にジョブをこなすのではなく、キラリと光る特別なスキルや経験を持っていることがポイントになってきます。

ジョブ型採用が浸透するように、企業の採用スタイルも、ピンポイントのジョブを遂行できるエンジニアを求めるフローや体制に、変わっていくでしょう。つまり、外部エンジニア市場の活性化ならびに流動化は、より活発になっていくとが予想されます。

そして、このような人材マーケットで必要されるためには、いま持っている技術力を高めることはもちろん、プラスアルファのスキルや経験を身につけることが重要です。たとえば、機械系エンジニアであっても、IoT業務で必須となる通信やIT、プログラミングスキルを身につける。特にプログラミングや、AI、ディープラーニングなどは、身に付けておくことで活躍の幅が一層広がっていくでしょう。