最先端技術で観光が変わる。 株式会社ジーンが手がける史跡観光×VR・ARとは?


歴史上の重要な建物や街などがあった場所「史跡」。
そんな史跡を、VR・AR技術を活かしてかつての姿に復元する取り組みが、大阪のゲーム開発会社の株式会社ジーンによって行われています。

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▲オフィス内に展示される株式会社ジーンの開発作品。

アーケードゲームや家庭用ゲーム、アプリゲームなど、ゲーム開発を行なっている株式会社ジーン。
そんなジーンが数年前から、新事業「史跡観光×VR・AR」に携わるようになりました。

史跡観光を担当する曽根俊則さんに、史跡観光×VR・ARをはじめたきっかけやその魅力、今後の展望について詳しく伺いました!


VR・AR技術を活かす方法

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株式会社ジーンが史跡観光×VR・ARをはじめたのは、当時まだ一般的ではなかったAR(拡張現実)が登場しはじめた5年ほど前。大阪歴史博物館が難波宮という大阪の歴史遺産を活用した活性化事業を募集しており、「難波宮跡地に、ARを使って建物を復元してみたらおもしろいのではないか」と曽根さんが考えたのがきっかけ。

曽根さんのARを使った史跡復元アプリは見事に採用され、最初の史跡観光×ARアプリ「AR難波宮」が完成。これを転機に、曽根さんは史跡観光×VR・ARのコンセプトをさまざまな自治体に提案していきました。

そして2014年、京都府向日市にある史跡「長岡宮」を復元するアプリ「AR長岡宮」を開発しました。

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▲史跡に携帯を向けると、かつての長岡宮が浮かび上がる。

長岡宮の復元模型を元にCGを作成し、ARアプリを開発しました。長岡宮跡地でアプリを起動すると、実物大の長岡宮が現れます。楽しみながら史跡の歴史を学べるアプリとして、いろいろな方々に利用されています。

「怨霊が現れる」という長岡宮の伝説をもとに「夕方4時以降にアプリで鬼門の方向を見ると、ARの怨霊が出現する」という娯楽性を追加。
小学生の間でARの怨霊と一緒に記念撮影をするという遊びが流行るなど、地域の方々に親しまれているだけでなく、向日市とその隣の長岡京市では小学校の校外学習用アプリとしても利用されています。

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▲長岡宮に現れる怨霊。

史跡観光×VR・ARは、直感的かつ楽しく歴史を学べるツールなんです。教科書などから知識として学ぶことも大切ですが、実物大の映像を現地で見ることでよりリアルに感じられます。長岡宮のアプリ以来、さまざまな自治体に興味を持っていただけるようになり、頻繁に声をかけてもらえるようになっていきました。

これまでに、さまざまな史跡観光×VR・ARを手がけてきた曽根さん。
その中でも特に思い入れがあるというのが、「よみがえる丸亀城~丸亀歴史体感アプリ~」。

「よみがえる丸亀城」とはどのようなものか?
曽根さんに詳しく伺いました。


VR・ARで再現!観光を何倍も楽しくさせる史跡観光アプリ!

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▲現在の丸亀城のペーパークラフト

丸亀城は香川県丸亀市にあるお城。
最大の魅力は、地表からの高さが日本一の石垣です。
現在の姿は石垣と天守閣を残して、ほとんど建物がない状態でした。

丸亀市から相談をいただいて、そして複数企業が提案した中から弊社を選んでいただけました。この開発は地方創生加速化交付金を利用して行われたのですが、この交付金は年度内に使い切ることを前提にしたものでした。開発がスタートしたのが1月で、納品までの時間は2ヶ月半程度しかありませんでした。

当初、開発期間に半年を想定していたと曽根さん。
しかし、その半分以下の時間で完成させなくてはなりませんでした。

このような厳しい開発環境において、最も大変だったのは「レンダリング」だったと曽根さん。
レンダリングとは、CG(コンピューターグラフィック)を画面上に表示させるための技術のこと。
復元CGのレンダリングにはプリレンダリング※とリアルタイムレンダリング※という2つの方法があり、丸亀城のアプリではリアルタイムレンダリングという方法を主に利用しています。

※プリレンダリング
すでに描画されたCGを表示させる技術。デバイスのCPUの制限を受けないため、どのデバイスでも高解像度のCGを表示できる。予め作成した画像を表示しているだけなので柔軟性がない。

※リアルタイムレンダリング
デバイス内で直接CGをリアルタイムに描画して表示する技術。自分との距離感や角度など、生で見る建物のように臨場感を感じられる。デバイスのCPUの制限を受けるため、CGの解像度にムラが生まれる。

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このアプリは、城内を歩き回りながら、ないはずの場所にさまざまな建物が現れるというのが醍醐味です。そのため、『自分が動けば建物との距離が変わる』『位置によって見える角度が変わる』など、まさにその場所に建物があるような演出が必要不可欠でした。そのためには、リアルタイムレンダリングが最適ですが、スマートフォンのCPUという制限があるため、CGが粗くなってしまうんです。できるかぎりCGのクオリティを下げないために、何度も現地を訪れプログラムを調整しながら、リアルタイムかつ美しいCGを目指しました」。

レンダリングの他、曽根さんがこのアプリ開発でこだわったのはエンターテイメント性。
一度利用して終わりではなく、「またこのアプリを使いたい」「このアプリで丸亀城をもっと楽しみたい」と思ってもらうためには、おもしろさや楽しさが不可欠です。

お城の復元の他、城内をめぐりながら解いていくクイズ、丸亀城にまつわる人物のAR、手のひらの上に乗る天守閣のARなど、楽しみながら丸亀城を詳しく知れる仕掛けをいくつも用意。

丸亀城の石垣には、家紋が刻印されているなどの特徴が隠されています。
「よみがえる丸亀城」には、このような特徴をわかりやすく教えてくれる機能も搭載されています。

アプリを見ながら石垣の周りを歩いていると、画面上の石垣にチェックポイントが表示されます。それをタップすると、その石垣の特徴を確認することができます。見つけにくい刻印でも、このアプリを使うことで簡単にみつけることができます。普通は気づけないお城の特徴を気軽に楽しめるようにしたのが、このアプリの魅力のひとつです。

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▲AR天守閣。

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▲石垣の画面に表示されたチェックポイント。

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▲印を押すと、画像と説明が表示される

これらの他、ヘッドマウントディスプレイで楽しめるVRも用意。
臨場感溢れるバーチャルリアリティで、江戸時代の丸亀城の全貌を体感することができます。

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▲「よみがえる丸亀城」を利用する観光客。

本当に忙しかった」と曽根さんが語るように、短期間でのハードな開発を乗り越え、期間内に見事完成。リリース後の反響は大きく、観光客や歴史ファンはもちろん、向日市の「AR長岡宮」と同じく、小学校の校外学習で子どもたちに親しまれています。


VR・ARで郷土・歴史の魅力をより多くの人に届ける

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▲長崎県松浦市のPRとして作成した「AR蒙古襲来」。

「AR難波宮」をきっかけに、現在の形にたどり着いた曽根さん。
史跡観光×VR・ARを株式会社ジーンの主幹事業のひとつになるまでに成長させてきました。

日本各地の史跡には、専門家しか知らないような情報がたくさんあります。仕事で携わっているか、歴史ファンでなければ知らない情報を、デジタル技術と組み合わせて演出することで、より多くの人に届けることができます。史跡の魅力を自分の技術で、最大限に伝えていきたいと思っています。

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▲宮城県松島町のPRとして作成した「松島ダテナビ」では、伊達政宗兜をARで着用できるように。

開発時には、「楽しく、おもしろく伝えること」を意識していると曽根さん。
そこには、子どもに楽しんでもらえるものを作りたい、という個人的な想いがあるといいます。

エンジニアとして働いていて『子どもに楽しんでもらえること』に大きな喜びを感じるんです。歴史のような固い内容を扱う場合は特に、上手く娯楽性を引き出さなければ子どもたちに楽しんでもらえません。だからこそ『おもしろく伝えること』を何よりも大切にしているんです。

大人はもちろん、子どもたちに史跡の魅力をおもしろく伝えること」にこだわりたいと曽根さん。

歴史の中に埋もれかけた文化や人の想いが詰まった場所「史跡」。
その魅力をテクノロジーによって引き出し、より多くの人に届けるために、曽根さんの活動は今後も続いていきます。

次はどのような、史跡観光×VR・ARを生み出すのか?
今後の展開に要注目です。

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