テクノロジー

ビッグデータがあなたのファッションセンスを丸裸にする!ファッションアプリiQONを駆動させる最新データサイエンスの世界

人気のファッションアイテムやお洒落なコーディネート、そして人気ファッション誌のトレンド記事まで、ファッションに関する情報を網羅的に得ることができるアプリ“iQON”。ファッションアプリとしては世界で唯一、Apple、そしてGoogleが選ぶベストアプリの両方に選出されるなど、国内外で高い評価を得ています。

実はこのiQONのテクノロジーを支えているのは、データサイエンティストと呼ばれるデータ解析の専門家です。その仕事は、データ分析や統計学、コンピュータサイエンスの技法を用いて、企業が持つ膨大なデータ(ビッグデータ)を構造化していくこと。これによって収集・整理された情報は、iQONユーザーへの商品のレコメンド機能、そしてアプリ管理者向けのダッシュボード機能など、様々な機能に反映されています。

ファッション“センス”という言葉が示すように、“感覚”が重要な要素であると考えられているファッションという分野。その屋台骨を、エンジニアリングという“理論”の力はどのように支えているのでしょうか?

iQONを開発・運営する株式会社VASILYで、取締役CTOを務める今村雅幸さん(写真左)、そしてデータサイエンティストの中村拓磨さん(写真中央)と後藤亮介さん(写真右)にお話を伺いました。

雑多に散らばるデータを整理し可視化することで、はじめてスタート地点に立つことができる

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―VASILYでは、データサイエンスの専任担当者をいち早く、それも複数採用していらっしゃいます。これはどうしてなのでしょうか?

今村:その理由は、iQONというアプリにおいて“データ分析”をすごく重要視しているからです。実は元々このアプリは「日本で一番大きなファッションデータベースを作る」というコンセプトからスタートしました。そのため、日本中のファッションブランドと提携したり、1,000万点を超えるファッションアイテムの情報を集めたり、そしてユーザー行動のログを取ったりして、データを膨大に蓄積していたんです。けれど、それが「使える状態になっていない」というのが当初の大きな課題でした。

―使える状態になっていないとは、どういうことでしょうか?

後藤:ユーザー行動のログデータは、何も処理していない状態だと単なる数字や文字列の羅列にすぎません。それを見ただけでは、何がなんだか分からないですよね。そこで、その情報を整理してあげること、そして人間が見て分かる状態にしてあげることが必要なんです。

中村:情報って、整理してあげることで初めて仮説が立てられる状態になるんです。たとえば、大量のレシートがあったとして、それが乱雑に散らばっていたら何の役にも立たないですよね?けれど、家計簿をつけてそれを整理してあげれば「○○にお金を使いすぎている」とか「これは切り詰められる」と分析できるようになります。それと同じことがデータ分析にも言えるんです。

―情報を集めるだけでは不十分で、それを整理・利用できる状態に変えてあげることが必要なのですね。

今村:その通りです。そうした背景があり、「大量のデータを整理するためには、データサイエンスの専門家を雇うべきだ」という考えに至りました。

これが実を結んだ例としては、最近リリースした“for You”という機能が挙げられます。これは、ユーザーの好みに合わせたアイテムをレコメンドしてあげるというもの。この機能を実現するために、ユーザーがどういうアイテムを観たか、Like(自分が気に入ったものを評価)したか、購入したかという、ありとあらゆる情報を解析しているんです。これはまさに、データサイエンティストなくしては実現できなかった機能ですね。

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▲VASILYのデータサイエンスへの積極的なアプローチは、すでに”機能”として結実している。iQON内の『for You』という機能は、ユーザーのアプリ内での行動履歴に応じて、そのユーザーが好むファッションアイテムをレコメンドしてくれる。膨大なアイテムを構造化データへと整理した賜物だ。

正答率99.5%を、限りなく100%に近づけていく姿勢

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▲データサイエンスにおいては、まずデータを構造化する、つまり分析や活用に耐えうる状態に整理することが不可欠だと強調する。データの収集モジュールに関してはエンジニアが構築し、そこからはき出されるデータを分析する。いわばチームワークによってデータは”生きた”情報へと加工されるのだ。

―ファッションのデータを整理・分析する際に、具体的にはどのようなことが大変でしたか?

後藤:データサイエンティストに就任したばかりの頃のエピソードを話すと…。iQONに登録されている画像データには、「どのブランドのアイテムか」「アイテムの種類や色は何か」などを表すタグが付けられているんですが、その間違いを修正していく作業が大変でした。タグは自社の自動タグ付けシステムによって付与されているのですが、何らかの理由でこれが誤っていることがあるんです。その割合は1,000個のうち5個くらい。一見大した数ではなさそうですが、実はこれがけっこう大きな割合でして。

―えっ、99.5%も合っているのに、それでも誤りが多いのでしょうか?

後藤:はい。このたった0.5%の誤りが、データ分析では大きなノイズとなってしまうんです。そこでノイズを除去するために何をやったかというと、10万枚くらいの商品画像とそれに付与されたタグを全て目視でチェックして、誤りが無いかどうかを延々と確認していましたね。

―作業量が膨大すぎますね!気が遠くなりそうです。

今村:そう言えば、当時は仕事中に後藤君の方を向いたら、ブラジャーの画像ばっかり観ていたよね(笑)。

後藤:いやいや、それはたまたまブラジャーもチェックしていただけですよ!それ以外のアイテムもたくさん観ていましたから!

今村:冗談です(笑)。もちろん、画像を全て目視でチェックしていたのは最初期のころで、現在ではデータサイエンティストの2人がより精度を上げてくれたタグ付けの仕組みによって、誤りはほとんどなくなり、作業はほぼ完全に自動化されています。けれど、その「データの精度を限りなく100%に上げていく」という姿勢が、データを扱うエンジニアには重要だと思うんです。

ファッションには、データサイエンスの面白さが凝縮されている

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▲アプリ管理者向けのダッシュボード機能。データのカテゴリーや集計方法ごとに分類されたグラフは数百種類にも及ぶ。

―ファッションという分野をデータサイエンスで分析することの醍醐味って、どういった部分にあるのでしょうか?

中村:実はファッションには、データサイエンスの面白さがたくさん詰まっているんです。見た目に関する部分だったら画像データ解析。服装のトレンドの移り変わりだったら時系列解析。加えて、100人ユーザーがいれば100人とも趣味嗜好だって違いますから、それをどのようにクラスター(ひとかたまりの集団)に分けていくかという面白さもあります。

今村:ファッションって、ユーザーごとに本当に趣味嗜好が違うじゃないですか。たとえばこれが“食”というジャンルだったら、Aさんがあるカツ丼を食べて「美味しい」と感じたら、Bさんも高い確率で、「美味しい」と感じるでしょう。けれどファッションはそうではない。AさんがあるTシャツを見てオシャレだと思ったとしても、Bさんはそう思わないということが頻繁に起こる。加えて、ファッションにおいてはユーザーの“コンテキスト(出来事にかかわる事情や背後関係)”が非常に重要だったりします。

たとえば、自分では「似合ってないな」と思っていた服装でも、他の人から「それ素敵ですね」と言われると、急に良く思えてきたりするでしょう?つまり、同じユーザーであっても、その人が置かれている状況によって考え方が変わったりするんです。そういった不確定な要素を含んでいるからこそ、データを解析することにすごく面白味がありますよね。

後藤:私たちのやっていることって、「世の中そのものを理解していく」という面があると思うんです。実は私はもともと大学院で宇宙に関するデータの分析を専門にやっていたのですが、どこか「実生活の役には立たない」という思いがありました。

だからこそ、VASILYで働き始めてから、現実世界のデータや社会に関わりのあるデータを分析することにものすごくやりがいを感じたんです。だって、その分析が実際に自分たちの住んでいる世界や、人間の行動を解き明かしてくれるんですから。

人間の行動の裏にあるロジックを、データサイエンスが解き明かす

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▲壁にはVASILY社の技術顧問である、「Ruby」の生みの親まつもとゆきひろ氏のサインが。技術を重要視する同社の姿勢を象徴しているようだ。

―データサイエンスを極めることは、人間の感覚や行動そのものを理解することにも繋がっているのですね!

後藤:ファッションには、その人の好みのスタイルがあります。たとえば原宿っぽいスタイルの好きな人もいますし、青山っぽいスタイルの好きな人もいます。これは、その人たちが趣味嗜好に基づいて“感覚的”にその系統のファッションを選んでいるからです。

これが、iQONのユーザーの行動データを分析すると、「このユーザーはこういう嗜好のパターンを持っている。だからこそ、このアイテムにLikeをしたり、購入したりしている」ということがだんだんと明らかになってくるんです。これまで正体のなかった“感覚”というものが、定量データとしてきちんと現れてくる実感がありますね。

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▲データサイエンティストになるには、数学的素養があるといい、と後藤さんは言う。

中村:ファッションって、理論化しにくい抽象的な分野だと思われています。けれど人間の行動の背景には、必ず何かの仕組みがあるはずなんです。だからこそ、私たちはそこに数理的モデルを導入し、ロジックを可視化していきたい。まだそれを実現している人たちはほとんどいないからこそ、大きな意義があると信じているんです。

ファッションの未来を、IT技術がアップデートしていく

言葉だけを聞くと、どこかとっつきにくい印象を受ける“データサイエンス”というフレーズ。しかし、それを用いてVASILY社が解き明かそうとしているのは、人間の感覚や行動という、私たちにとって非常に親しみのあるテーマでした。

私たちが「オシャレだな」とか「可愛いな」と感じる理由を、コンピューターが教えてくれる。そして、好みに合ったファッションアイテムを自動的に届けてくれる。そんな夢のような未来は、きっと私たちのすぐ目の前まで来ているのではないでしょうか。

取材協力:株式会社VASILY

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