10年後の当たり前を作り出す!TISが考えるヒトとロボットの共生社会とは!?

今やロボット・テクノロジーは私たちの生活に入り込み、なくてはならないものになりつつあります。そうした時代の流れの中で「人とロボットが共存する世界」を目指し、研究開発を行っているのが大手SIerであるTIS株式会社の技術部門『戦略技術センター』です。

同センターの掲げる未来は昨年発表された観光案内ロボット『町のコンシェルジュ』として、1つのサンプルが提示されています。企業の基幹システムなどの設計、構築、運営を手掛ける同社が何故ロボットの開発を進めるのか?

ロボット・テクノロジーがもたらす未来像と可能性をTIS 戦略技術センター AI技術推進室で最先端の研究開発を行っている白石康司さん(上写真右)と久保隆宏さん(上写真左)に語っていただきました。

SIerにとって今後重要性が高まってくるロボット・テクノロジー

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―そもそも、TISの戦略技術センターはどのような思想の元に設立されたのでしょうか。

白石:戦略技術センター自体は15年ほど前に設立され、当初は技術部門として現場支援のほか、生産性向上のためにフレームワークを調査したり、オープンソースを検証したりといったことを行っていました。

その後これから取り込むべき技術として、機械学習、自然言語処理、IoT、SDI&オーケストレーション、ネットワークロボティクスの5つのテーマ領域に絞り、戦略技術センターの中にAI技術推進室を2015年11月に新設しました。私はこのAI技術推進室で、主にPepperなどのロボット向けアプリケーションの研究開発や、特定のシーンでロボットと人間とが効果的なコミュニケーションを実現するためのサービスの企画などを行っています。

―ロボット向けアプリケーションの開発とはPepperが中心なのでしょうか?

白石:Pepperに特化したアプリを作っているわけではなく、今後登場するロボットもふまえて、機械学習技術や自然言語処理技術を使って人とロボットのコミュニケーションをいかに実現させるかというところを研究しています。

久保:戦略技術センターでは、「今後こうしたビジネスや技術が必要とされる」といった仮説を立てながら、実際にプロトタイプを作り、実証実験をしながら評価を行っています。

Pepperでの開発以外にも、自然言語処理や機械学習の技術を使ったプロトタイプがいくつかあります。薬剤師の代わりに症状に合った薬をアドバイスしてくれる『薬コンシェルジュ』や、会議室に設置して参加者の会話や表情、雰囲気などを察知し、第三者的な評価をしてくれる『会議診断士』などです。会議診断士は「参加者が集中していないので、この会議は無駄だと思います。」といった具合に、人には言いにくい指摘をし会議の運営を見直すきっかけをつくるサービスです。

言いにくいこともロボットなら許される?導入事例で分かった意外な事実

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―昨年はPepperの導入を行われたそうですが、反響はいかがでしたか。

久保:東急カード株式会社様と共同で行った導入事例なのですが、二子玉川駅でTOKYU CARDの入会案内をPepperにやらせるというものを行いました。導入後、「以前より数倍という単位でカードの入会数が伸びた」という評価が出て、集客業務はロボットが有効に機能する一つの領域との知見が得られました。当然、Pepperの知名度あってのものですが、それを差し引いても有効な適用方法と感じています。

白石:この案件ではお客様の要望であえて「ダダをこねる」というジェスチャーをPepperに入れました。入会を渋るお客様がいたら、Pepperは「何で入ってくれないの?」と言う仕組みです(笑)。

このジェスチャーが効果を発揮するかどうかは、導入前は懐疑的な意見もありました。しかし、お客様からは「かわいい」と好評で、「Pepperによる入会案内は有効な方法である」という効果が出た事例になりました。

久保:ロボットの行動に対する人間の反応は想像以上に予測できないということもこの案件から分かってきた事です。そのため、現在はできるだけプロトタイプを作り、頭の中でなく実際に試すようにしています。

―今開発されている「町のコンシェルジュ」とはどんなロボットですか?

白石:「町のコンシェルジュ」は、現在Pepperを使いプロトタイプを製作しています。具体的には人間との会話の中で、その人に合ったオススメのお台場の観光情報を紹介するロボットになっています。

呼び込みモードと対話モードに切り分けて、今の状況を認識し、どちらのモードで話すべきかをロボットが理解し、ロボットが自律的に人間に対して、状況に応じたよりふさわしいアプローチをしていくものです。

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▲町のコンシェルジュは、状況、また対面する人に応じて対応を変化させる。言語はもとより、対話相手の表情など複数の情報を取得し最適と判断したコミュニケーションをとる

久保:「気が利く」と「機転が利く」の2つの意味をかけて「きが利く」ロボットとしています。人間は表情や声音など、会話以外の部分からも多くの情報を得ています。これを模し、複数の情報源からなるべく相手の意図を汲み取って適切なスポットを提案するのが「気が利く」の部分の機能です。

「機転が利く」というのは時間や天気なども考慮し、たとえば雨の日には屋内のものを紹介するといったことをさせています。

―具体的にはどのようなやりとりが生まれるのでしょうか。

久保:まずは呼び込みから始まります。そこで気になったものがありPepperに近づくと、対話モードに切り替わります。対話モードの最初の紹介では、どの呼び込みをしているときに話しかけられたのかと、相手が男性か女性か、といった状況から推定できる情報を基に一般的なレコメンドを行います。提案が否定されたら、その提案とは別の観点の観光スポットを提案していく仕組みです。

白石:観光スポットの情報は本来自動的に収集し、分類や特徴づけを行うのが理想です。ただ、まだプロトタイプの段階なので、情報は久保が調べて入力しています。

久保:おかげでお台場のデートスポットにはだいぶ詳しくなりました(笑)。

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▲ロボットにも役割分担が必要だと白石さん。Pepperと写真のSOTAもまた、できること、向いていることは異なるという。

―『戦略技術センター』で掲げている「人とロボットで共生する未来を創造する」という言葉ですが、ロボットは人間型のインターフェースに限らずということなんですか。

久保:ここでいうロボットは、物理的に人の形をしているものに限定していません。スマホの中のAIのようなエージェントも含め、目的や状況にあわせて使い分けることを想定しています。

白石:人間とロボットの役割分担があるように、ロボットとロボットにも役割分担があることがわかってきました。例えば、Pepperはその大きさや知名度の面から店頭に置いておくのに適していて、集客にもつながりやすいです。一方、対話で提案するのはSotaのような小さくてかわいいロボットの方が向いているといったように、ロボット同士の役割も今後は考えていかなければいけないと思います。

ヒトとロボットが共存するために必要なこととは?

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―ロボットと人間の共存について、人によってイメージは違うと思いますが、現在はどういう方向を目指していますか?

白石:将来的には社会にもっとロボットが普及し、ロボットに頼らざるをえない分野も出てくるでしょう。ただ、そこを目指すには今のロボットではまだ難しいです。ですから、現状のロボットが活躍できるシーンとして、今は店舗に置くようなロボットの開発に取り組みながら研究を進めています。ゆくゆくはペットや家族のような存在になる、人間とロボットがコミュニケーションを取りながら暮らしていく社会を作るような仕事ができたらと思っています。

―その状態を作り出すためにはどのような技術が必要なのでしょうか。また技術もさることながら、それを受け入れる人間にも、意識の変化が要求されるのではないでしょうか。

久保:一番の障壁は人間がAIの判断に従うことができるのかということです。役割分担の中で、人間がその「分担」を許容できるのかというのも大きいです。そのためにはAIに対する信頼の醸成、端的には十分な判断精度などが必要になると思います。人間も自分にはない観点でアドバイスしてくれる新しいシステムの形を受けて入れていく意識が重要だと考えています。

―ロボットがどんどん生活の中に浸透し始めている変革の時代の中で、エンジニアとして、「モノを作る」人たちの仕事というのはどう変わっていくと思いますか。

久保:エンジニアの仕事は、既存のシステムが消えてなくなるわけではないので、そんなに劇的には変わらないと思います。しかし、新しいエンジニアの役割として機械学習や自然言語処理を活用したAI的な機能を実装する能力が求められていくと思います。

白石:ロボットの中身にはパソコンと同様にコンピュータが入っています。そのため、基本的には今までシステムを作っていた技術がほぼ応用できます。ロボットという今後社会を変えていく可能性があるところに、エンジニアがどんどんジョインできるようになっていることはとてもいい方向に向かっていると思います。

―ロボットという形で、エンジニアの仕事はもっと人の目に触れやすくなっていくようにも感じます。

白石:個人的には、自分の子どもに「お父さんはロボットを作っているんだよ」と話せますから(笑)。身近な人たちにも分かりやすい仕事としてアウトプットすることはモチベーションにつながりますね。

久保:AIの技術を実際の業務にどう活用するか、今後SIerが果たすべき仕事だと思っています。個人的にはビジネスとしてAIをどう取り込めるかという部分にもっとシフトしていきたいですし、そのための種まきが今のミッションでもあります。

これからのエンジニアは「機械学習」を学んでおくとお得!?

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―ロボット技術というものに取り組んでいく場合、世のエンジニアが身に着けておくべき知識や技術はなんでしょうか。

久保:一言でいえば「機械学習」です。まだプレイヤーが少ないので機械学習を身に着ければ、市場的に価値のあるエンジニアになれるチャンスです。また、これまでは画像認識と音声認識と自然言語処理というのはそれぞれ専門的な手法が必要でしたが、今は機械学習に集約されつつあるので非常に有効だと思います。

―おすすめの技術書や書籍はありますか?

久保:本ではないですが、オンライン講座『Coursera』で開講されているスタンフォード大学のアンドリュー・ング先生の講座は、機械学習の入門になっていて、初歩的な数学とプログラミングの知識があれば、誰でも入門から最後まで無料で学べるようになっています。

『戦略技術センター』に異動した時、機械学習の分野は初めてだったので、この授業を通じて基本的な部分を学びました。やりきるのは大変でしたが久々に学ぶことの楽しさも感じられたとてもよい講座です。

白石:インプットした情報を積極的に発信することも大事です。TISの『戦略技術センター』では組織としても技術情報発信に力を入れていますし、役に立つ技術情報を発信することで個人の技術者としての市場価値も高まります。発信という行為は、もはや技術者にとって不可欠だと思います。

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▲白石さんの言葉通り、戦略技術センターは発信活動も盛んだ。Tech-Sketchというブログで、積極的に技術情報を発信している。

オープンにして認められなければ技術じゃない!?

―技術情報は企業に秘匿されているものという認識があったのですが、発信するという風潮はいつ頃から起きているのでしょうか。

白石:もちろん、特許技術などは今まで通りオープンにできない部分はあります。しかし、『Qiita』という技術情報を共有するサービスサイトが登場したあたりでしょうか。blogなどで個別に発信していた技術情報がQiitaにまとまり、技術情報にアクセスしやすくなりました。さらに、評価の高いものはストックされるようになってきました。オープンにすることで第三者からのフィードバックも得られます。そういうサービスが台頭してきたことは、ひとつのきっかけだったと思います。

久保:研究分野をリーディングする企業がオープンソースにするようにしてきたのも大きいと思います。GoogleやFacebookなど、社内で使用しているフレームワークを公開するということも増えてきました。

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―現在取り組まれている仕事を通して、世界にどんなインパクトを与えたいと思いますか?

久保:業務上の課題をいかに解決するかがSIerの本分ですが、市場に合わせた予測をするといった、人間の判断をサポートするようなシステムを構築していかないと真の意味での課題改善にはならないと思っています。AIなどの先進的な技術によりこれを実現し、その解決法が世界に広がれれば、こんなにうれしいことはないですね。

白石:ブームで終わらせずロボットを社会に浸透させたいです。ロボットを扱う技術はまだ難しく、エンジニア以外の人がプログラミングして運用するというのは現実的ではありません。将来的には、誰もがロボットと友だちになれるようなサービスを作って、幅広く使ってもらえるようにしたいと思います。

―これまでにエンジニアをやっていて良かったと思える瞬間はどんな時でしたか?

久保:機械学習のフレームワークもオープンに公開されており、その仕組みを解説してくれるサイトもあります。Googleなどが使っているような最先端の技術を自分でも理解していくことは、とてもエキサイティングでエンジニアとして幸せですね。

白石:一言で言えば「プログラミングで世界を変えられる」ということです。お気に入りのパソコンさえあれば、場所を選ばず世界を変えられるきっかけが作れるので、あとは腕を磨いてプログラミングするだけ。まさにプログラマー冥利に尽きると思います。

突破する力。その先にある世界を作る

ロボット・テクノロジーを通じて、SIerとしての更なる未来を見据える白石さんと久保さん。機械学習や自然言語処理といった技術の実用化には、いくつもの大きな壁が立ちはだかっています。しかし、壁を突破し、ロボットと人間がコミュニケーションをとれる時代が、いつかやってくる。エンジニアとして、新しい時代を作る二人の試みは始まったばかりです。

機械学習の分野については、久保さんのお話にあったとおり、学ぶ意欲さえあれば学習できる環境はオープンになっています。これからのエンジニアの必須スキルとして、挑戦してみるのもよいでしょう。

取材協力:TIS株式会社

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