テクノロジー

【エンビジ!】 エンジニアが宇宙に転職する日(後編)

※この「エンビジ!」では、エンジニアに役立つであろうビジネス書をご紹介しつつ、著者の方にもお話を聞いていきます。



さて、今回のテーマは「ITと宇宙」です。ITと宇宙にはどのような繋がりがあるのか、そして私たちの転職先・就職先が宇宙になる日が来るのでしょうか。

『宇宙ビジネスの衝撃』という本の著者でもある、宇宙ビジネスコンサルタントの大貫美鈴さんにお話しを伺っていきます。


「宇宙ビジネスの衝撃」(ダイヤモンド社)


――大貫さん、引き続きよろしくお願いします。

はい、よろしくお願いします。

――前回は宇宙に舞台を広げたIT起業家のプレイヤーを一人ずつ取り上げてご説明いただきました。

そうでしたね。イーロン・マスク、アマゾン、グーグル、フェイスブック、マイクロソフトなどの話をしたかと思います。


――各社、各人とも色々な角度から宇宙に向かっていることが分かりましたが、共通する部分はあるのでしょうか。

それは、一言で表すなら“情報”でしょうね。

――情報?


宇宙を「情報」として見て、「データ王」を目指している

ええ、マイクロソフトはソフトウェアの会社なのでアプローチが少し異なりますが、アマゾンにしてもグーグルにしても、「インターネットの延長」として宇宙を見ていることがお分かりかと思います。

――「インターネットの延長」として宇宙を見ている、ですか。

そうです。宇宙ではなく「情報」として見ているからこそIT起業家たちは現在のビジネスの延長として入りやすいわけです。宇宙にネットワークを張り巡らせることで、地球のデータが集まります。

――いわゆる「ビッグデータ」、ですか。

ええ、「ビッグデータ」を集める手段として“宇宙を活用できる”と考えているのです。

――それは具体的にどんな点から分かりますか?

実際、アメリカの調査会社の宇宙関連企業のランキングによると宇宙データを活用するデータ会社に投資が集まっていることがわかりますし、そもそもそういった企業が多いことも感じます。

――データ会社に投資が集まっている、と。

ご存知の通りアマゾンにもデータ活用を行うAWSという子会社がありますが、そもそも「宇宙から多くのデータを収集するためには衛星が必要だ。じゃあその衛星も飛ばそう」という風に考えてロケットを作っているのがスペースXとアマゾンのブルーオリジンです。そしてさらに衛星までも自分で作ったのがスペースX。地上局を整備して衛星データのパイプラインビジネスをしているのがアマゾンです。

――なるほど。どちらの会社もデータの流れまで設計している、と。

グーグルやフェイスブックは打ち上げ自体をやっていませんが、衛星を自分たちで持つか、もしくは通信回線を借りるか、衛星データを利用するかといった動きをしています。

――まあ、衛星を持つとか飛ばすと簡単に言っても、結構お金が掛かりますよね。

ええ、衛星を打ち上げる場合でも、いわゆる「ライドシェア」をしています。専用のロケットを打ち上げるのではなく、他の衛星と一緒にロケットに載せて打ち上げてもらう、と。そうやってコストを下げて宇宙への垣根を低くしているんです。

――「ついでに乗せてってよ」と。

そう、そもそもロケットという手段を低価格で使う、という考え方を持ち込んだのはイーロン・マスクなんですよね。“ロケットの価格破壊”と言われ、世界の宇宙産業の構造を変えました。従来は、政府の作った高いロケットしかありませんでした。「無いのであればまずは自分たちで作ろう」と考えたわけです。


NASAで会見をするイーロン・マスク(提供:NASA)


宇宙で再び起きている「ゴールドラッシュ」

――ただ、イーロン・マスクの目的はロケットを作ることではない、と。

ええ、ロケットはあくまでも手段です。目的は宇宙から多くの情報を収集すること。ただ、手段がなければ情報も取れませんし、火星にも行けません。

――目的を達成するための道具がロケットや衛星だということなんですね。

その昔、まさにゴールドラッシュの時代には金を掘りやすくするために道路がつくられたり、人が移動しやすいように鉄道ができたり、掘削の道具を作るために鉄鋼が盛んになりました。そのなかで、『鉄道王』や『鉄鋼王』と呼ばれる人も生まれました。

――「ゴールドラッシュ」って聞いたことがありますが、そんなことがあったんですね。

そう、ロケットの打ち上げも同じことで、「情報」という名の“金”を目指して人類が発展していくために「まずはロケットを作ろう」という考え方なのです。そして今まさに『データ王』が生まれようとしているのかな、とそんな気がしています。

――先ほども仰っていた「ロケットを低価格で使える」というのが重要になりそうですよね。

ええ、日本でも昔、インターネットがなかなか普及しなかったダイヤルアップの時代にソフトバンクの孫正義社長がものすごい価格破壊を起こしました。夜間の電話を無料にしたり、モデムを無料配布したり、と。

――ありましたね。路上でモデムを貰いましたよ。

そういった動きからインターネットの普及率も急上昇していったと思います。イーロン・マスクがやっていることは、まさにそんな動きのように思うんです。どこかで急激に宇宙が身近になるタイミングが来るのではないでしょうか。

――なるほど、今のプレイヤーは皆そういう考え方で動いているわけですか。

いえ、宇宙ビジネスに携わるすべての人が同じ考え方というわけではありません。例えばヴァージングループの創業者であるリチャード・ブランソンは動機付けが異なります。


ヴァージングループの創業者リチャード・ブランソン(提供:NASA)


――どんな動機なんでしょうか。

彼は「自分が宇宙に行きたい」人なんです。目的が宇宙に行くことそのものであり、宇宙旅行をビジネスにしようとする経営者だというわけです。

――「行きたい人」と「手段を作りたい人」で考え方が二分しているんですね。

そうですね。イーロン・マスクやジェフ・ベゾスは「自分が作ったロケットで宇宙に経済圏を拡大したい」「複数惑星に人類が住む」「宇宙に百万人が住んで働く」というビジョンを持っています。

――いずれにしても、宇宙に行くって夢のある話ですよね。


宇宙でビジネスを進めるリスク

ただ、新しいことをやっているわけですから当然ながらリスクもあります。例えば2014年10月31日、ヴァージン・ギャラクティック社のロケット「スペースシップ2」が事故を起こし、パイロットが亡くなってしまいました。一般的なニュース番組ではあまり報じられないものの、有人・無人に関わらずこういった事故は起きています。

――そうなんですね。やはり事故は起きていますか。

リスクというのは人命などに限った話だけではありません。例えば、2016年9月1日にスペースXの打ち上げロケット「ファルコン9」がフロリダ州の発射場で打ち上げ前の試験中に爆発しました。

――発射場で爆発しちゃったんですね。

ええ。けが人はなかったものの、約200億円をかけた人工衛星を失いました。

1分10秒過ぎ、大爆発するファルコン9の映像



――に、200億!痛すぎますね。

フェイスブック社はこの衛星で、アフリカでのインターネット接続サービスを計画していたのです。

――200億の損失で、プロジェクトも頓挫!

それだけではありません。こうした損害に備えてロケット打ち上げには通常、保険をかけています。保険料率というのは打ち上げをする企業ごとの成功率や、どのような部品を使っているか、技術の信頼性がどの程度あるのか、などに応じて細かく変わってきます。

――あ、打ち上げに失敗したということは……

そう、その保険料率が上がってしまうんです。そうすると、保険料を含む全体のコストが上昇しますから、企業の競争力にも影響してくるわけです。また、当然ながらロケットの受注自体も鈍ってしまうかもしれません。

――わあ……、色んな影響があるんですね。

打ち上げ費用の安さで後発ながらシェアを拡大しているスペースXですが、失敗が続いてしまえばそのコスト競争力も揺らいでしまいます。彼らは多くのリスクと戦いながら、それでもスピードを緩めることなく宇宙を目指しているのです。この爆発の時もすぐに原因をつきとめて改良を行い、6か月後には打ち上げを再開していました。

――6か月後には再開って、早いですね。変化が起きまくっているんですねえ、宇宙のビジネスは。

ええ、宇宙ビジネスの世界でも「パラダイムシフトが起きている」とよく言われています。どういうことかと言うと、ひと昔前はビジネスの構図が「G to G」、つまり「政府対政府」だったわけです。

――国同士のやり取り。

そうですね。各国政府が宇宙開発をしていくという世界だったわけです。しかし、民間の宇宙事業が盛んになっていきました。

――国家だけでは開発ができない、と。

そうして「B to G」、民間の宇宙事業が政府の宇宙計画にも携わるようになりました。民間のロケット打ち上げサービスや、民間の衛星データを国が購入するようになったんです。

――「B to G」ってあまり聞き慣れないですけどね。

ええ、さらに最近になって「B to B」が活発になってきました。

――われわれにも馴染みのある“企業間取引”ですね。


宇宙ビジネスの世界も、いよいよ「B to B」が活発に

そうです。宇宙産業に多くの企業が参入してきたことで、地上でのビジネスと同様に「B to B」が当然の流れになってきたのです。最近は低軌道領域での「B to B」が進んでいったことで、宇宙旅行に代表されるように「to C」にまで届くようになってきました。

――確かに、宇宙旅行とか月旅行ってチラホラ聞くようになりましたもんね。

衛星情報がスマホを通じて個人の手のひらに届くようになってきたというのも「to C」の代表的な動きだと思います。

――そうか、スマホのGPSも宇宙からの情報ですものね。

大学でもキューブサットと呼ばれる小型衛星を開発して利用しています。「to C」の領域もこれからどんどん広がっていくと思います。


小型衛星は無数に宇宙を漂っている(提供:NASA)


――おお、すごく身近に感じてきましたね。宇宙が。

特に大きくパラダイムシフトが起きているのは「B to G」なんです。政府の予算で民間からデータやサービスを買ってくれるようになりましたから。

――民間企業のサービスを政府が買ってくれるんですか。

ええ、政府がイチ顧客となって民間からサービスやデータを購入するわけです。この構造的変化が特にパラダイムシフトだといわれています。

――これ、何をきっかけに変化していったんでしょうか。

特に2009年にオバマ政権になりましたが、オバマ大統領は「あらゆる業種において民間から買えるものは買おう」という政策を打ち出したんです。この“新国家宇宙政策”は2010年に出ましたが、宇宙以外の他の業界でも同じ構造転換が図られていました。

――そこから宇宙産業でも民間企業にお金が流れ始めたと。

そう、気象データも地球観測データも民間から買おうという方針で段階的に実施されてきました。スペースシャトルに代わる有人宇宙機も新しく作らず、スペースXやボーイングといった民間の有人機の飛行サービスを政府が買う、と。

――政府がそんな判断をしてくれたら、ベンチャー企業も活発になりますよね。

民間企業が勢いよく伸びてきたという背景もありましたが、それだけでなく政府主導でさまざまな政策で宇宙開発の商業化を進めてきた側面もあったわけです。

――では日本はどうなんでしょう?

「宇宙分野を柱の1つとして推進しよう」という総理の指示を踏まえて、宇宙2法をはじめ、宇宙産業を振興する施策が出ています。新たなエコシステムが作られているのを感じますね。

――エコシステム、といいますと。

政府主導で宇宙計画を進めていくことに加え、宇宙ベンチャー・非宇宙企業・投資家・法律家・他産業のエキスパートなども加わって宇宙事業を進めていくんです。これによって商業宇宙開発などの新たな市場が急激に拡大していますね。


   宇宙ビジネス エコシステム(提供:スペースアクセス)


――なるほど、そうすると私たちエンジニアも宇宙事業に携わる機会は大いに増えていきますね。

ええ、仰る通りです。宇宙産業ではエンジニア業界で当たり前に行われてきた“アジャイル開発”などの革新的な手法やアイディアが求められています。エンジニアの皆さんも宇宙事業で大いに活躍できるでしょうね。

――じゃあ、宇宙に転職する日も近いですかね。

宇宙はもはや、特別な場所ではなくなっていて“ビジネスチャンスを拡大する場所”になっています。いつの日か、皆さんが宇宙空間でアジャイル開発をする時が来るかも知れませんね。


宇宙空間でアジャイル開発!夢がありますね~
大貫さん、ありがとうございました!



取材協力:大貫美鈴・NASA
取材+文:プラスドライブ

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