【エンビジ!】 エンジニアが宇宙に転職する日(前編)

※この「エンビジ!」では、エンジニアに役立つであろうビジネス書をご紹介しつつ、著者の方にもお話を聞いていきます。



さて、今回のテーマは「ITと宇宙」です。ITと宇宙にはどのような繋がりがあるのか、そして私たちの転職先・就職先が宇宙になる日が来るのでしょうか。

『宇宙ビジネスの衝撃』という本の著者でもある、宇宙ビジネスコンサルタントの大貫美鈴さんにお話しを伺っていきます。


「宇宙ビジネスの衝撃」(ダイヤモンド社)


――こんにちは、よろしくお願いします。

はい、よろしくお願いします。大貫美鈴(おおぬきみすず)です。

――最近のニュースを見ているとIT企業の多くが宇宙に携わっているように感じるのですが、各企業は何をやっているんでしょうか?

そうですね、宇宙に群がるIT起業家のプレイヤーは確かにたくさんいます。イーロン・マスク、アマゾン、グーグル、フェイスブック、マイクロソフト…。これらプレイヤーを少しずつ説明していきましょうか。


イーロン・マスクは宇宙で何を?

――じゃあ、まずよく耳にするイーロン・マスクって何をしているんですか?

イーロン・マスクはPayPalを創業した後に売却したわけですが、その後2002年にスペースX社を創りました。スペースX社は、宇宙輸送を担うロケットや宇宙船の開発製造をしていますね。

――「宇宙輸送を担うロケット」ってどういうことなんでしょう?

まあ、荷物を運ぶトラックのようなものですね。NASAのISS(国際宇宙ステーション)へ物資を補給する際にも「ファルコン9」というロケットが使用されたりしていてシェアを拡大していますね。

――へえ、でもなんでスペースXのロケットがそんなに使われるんでしょう?

一番の理由は“高品質・低コスト”ですよ。それを実現するためにスペースX社では通常は他社から購入するエンジンなどの部品もほとんど自社で開発していて、その取り組みがコストダウンに繋がっているわけです。あとは、世界の打ち上げ市場を取ってきたロシアの競合するロケット「プロトン」が打上げに何度も失敗していて、その分が「ファルコン9」に流れているとも言われています。

――なるほど、荷物を運ぶことに特化している、ということですか。

いえ、それだけでなく2015年1月にワシントン州のシアトルで行われたイベントでは「インターネット衛星ネットワークの運用計画」を発表しました。世界中を高速インターネットで漏れなく繋げるという大規模な衛星ネットワークを運用する、ということで非常にインパクトのある発表でしたね。


NASAで会見するイーロン・マスク(提供:NASA)


――インターネット網を宇宙に張り巡らす……、ということですか。

そうです。2016年11月には正式に米連邦通信委員会(FCC)に対して4,425衛星を製造して打ち上げる計画を申請しました。4,425衛星のうちの約800衛星は、米国やプエルトリコ、ヴァージン諸島でのインターネットアクセスを向上させるために打ち上げられるとのことでしたが、これらの衛星が無事に打ちあがりネットワークが全て稼働することになれば、地球上のほとんどの地域がカバーされるといいます。


アマゾンは宇宙で何をしようとしている?

――では、アマゾンは何をしようとしているのでしょう?

Amazon.comの設立者であるジェフ・ベゾスは、2000年に航空宇宙企業であるブルー・オリジン (Blue Origin)も創業しています。

――そのブルー・オリジンは何が狙いなのでしょうか?

将来の有人宇宙飛行を目的とした事業を進めていて、ロケットを動力とした垂直離着陸機 (VTVL) を開発していますね。

――垂直離着陸機、ですか。

そうです。ベゾス氏もまた、宇宙事業を始めた目的について「人類が宇宙に進出し、活動の場とするため」だと語っています。そのためにはまず、安価で安全なロケットが必要になると考えて開発をしているというわけです。


ブルー・オリジンを視察するマイク・ペンス副大統領<左から2人目>(提供:NASA)


――なるほど。実際に打ち上げなどもやっているんですか?

もちろん。具体的には試験機による飛行を何回か行ったのち、2014年には本番機となる「ニュー・シェパード」という名のサブオービタル(弾道)ロケットを開発しました。“垂直離着陸機”ですから、まさに垂直に打ち上げられ、一般的に宇宙とされる高度100kmまで到達します。そしてその後、そのまま垂直に落下して、エンジンを逆噴射させながら地面に着陸するのです。

――ロケットって打ちあがるだけのイメージですが、そのまま着陸もするんですね!

それだけではありません。燃料の補給や機体の整備を行った後、再び打ち上げて再利用できるのです。

――ええ! 飛行機みたいな感じなんですね……

まさに、そうなんですよ。その他にアマゾンは衛星を打ち上げる大型ロケットや月面輸送システムとなる月着陸船を開発しましたし、さらに最近はアマゾンウェブサービス(AWS)が衛星通信事業に参入しましたね。


グーグルは宇宙で何をしようとしている?

――では続いて、グーグルは何をやろうとしているんでしょうか?

グーグルの宇宙への取り組みとして外せないのが、「グーグルX」ですね。

――「グーグルX」?

グーグルXというのは、グーグル社内で新しいことに取り組むプロジェクトの総称で、「秘密の研究所」などと呼ばれることもあります。現在は4つの正式プロジェクトが進められているそうです。

――その4つとは?

自動運転車の「グーグル Car」、メガネ型情報端末の「グーグル Glass」、糖尿病患者が使う医療用の「スマートコンタクトレンズ」、そして気球を使ったインターネット接続網「Project Loon」の4つです。この4つ目の気球を使ったインターネット接続網というのが、まさに宇宙を情報の一つとして捉えている取り組みなんです。

――実は色々と進んでいるんですね。

ええ、グーグルでは「1日1社、会社ができる」といわれるほど創業や買収が盛んですが、宇宙関連のビジネスでも同様なんです。衛星画像サービス会社を買収したほか、経営トップらもポケットマネーを投じて民間宇宙企業に巨額の出資をしたりしています。投資に関してはアマゾンとの激突は必至で、まさに宇宙が企業の戦いの場になっていますね。


NASAで行われたGoogleのイベント(提供:NASA)


――う、宇宙が企業の戦いの場になっているとは! 具体的にどんな投資をしているんですか?

グーグルは米資産運用大手フィデリティとともにイーロン・マスクのスペースX社へ10億ドルの出資を行っています。グーグルからの出資金は多数の小型衛星を束ねる通信ネットワークの「スターリンク」などにあてられ、スペースXが追求する宇宙開発の低コスト化に一役買うことになるわけです。

――へえ、そんな繋がりがあったんですね。

スペースXに出資するグーグルの狙いは、もちろんインターネット環境の拡大です。回線を敷設しようとすると膨大な設備投資がかかるため、グーグルはこれまでも気球や無人機を利用したネット環境の拡大を模索していました。広大な宇宙空間の人工衛星をうまく活用できれば、「ネットに接続できる地域を一気に拡大できる」という思惑があるわけです。

――なるほど、やはりインターネットを使う人を増やそうというわけですね。

そう、グーグルのドン・ハリソン副社長も「宇宙をベースとしたアプリケーションができれば、人々が重要な情報にもっとアクセスしやすくなる」と強い口調で言っていました。


フェイスブックは何をしようとしている?

――では、フェイスブックは何をしようとしているのでしょうか?

フェイスブック社もまた、インターネットインフラ普及への取り組みとして宇宙ビジネスに参入してきたインターネット企業の1つです。


――どのような取り組みをしているんでしょうか。

2013年8月に半導体大手のQualcomm、スマートフォン大手のサムソン電子、通信機器大手のNokiaやEricssonとともに非営利団体「Internet.org」を立ち上げました。この団体は世界のインターネット普及促進を目指しており、マーク・ザッカーバーグCEOによれば、「インターネットインフラが十分ではない人々は地球上に40億人いる」とのことで、そういった人々を対象として長期的な問題解決を行おうという考えのもと作られたそうです。

――「Internet.org」、ですか。

ええ。そして翌年、Internet.orgの取り組みとしてフェイスブック社内に「Connectivity Lab」というチームが立ち上がります。これは衛星やドローンを活用してインターネット接続を実現するための研究チームです。このチームには、NASA出身のメンバーなども参画していました。

――へえ、NASA出身の人も。

2015年7月にはその「Connectivity Lab」の取り組みとして、「Aquila」(アキラ)という名のインターネット接続計画を発表しました。これによると高度1万8000メートルを最大6カ月間飛行可能なドローンを使ってインターネット接続を実現するとのことでした。

――ドローンを使ったインターネット接続ですか。

実はこの時期、フェイスブック社はTitan Aerospaceという有名なドローンメーカーの買収を試みました。Titanでは、高度約2万メートルを5年間飛行し続けることが可能なドローンを開発していました。どうしてもこの技術が欲しかったのですが、結果としてグーグルが同社を買収することになったのです。

――うわあ、ここでも宇宙のネット網の奪い合いですね。

まさにその通りです。それと、2016年2月22日、フェイスブック社は、人工衛星から撮像した画像とAI(人工知能技術)の力を活用して、「世界の正確な地図作成」に乗り出していくと発表しました。

――「正確な地図」?

これはどういうことかと言うと、山や川といった地形だけでなく、人工建造物などを識別してどこにどれだけの人が住んでいるのか、どのようなコミュニティーが形成されるのかを分析するというものです。フェイスブックを使っている人なら分かりますが、顔写真を載せると顔だと認識されタグ付けを促されたりしますよね。

――あれ、スゴイですよね。

あの顔認識技術を応用して人口分布図を作成するということです。すでに合計156億枚の衛星データをAIに解析させたといい、この人口分布図はエネルギーインフラ、輸送インフラなど多岐に渡る活用がなされそうです。


マイクロソフトは何をしようとしている?

――では、マイクロソフトは何をしようとしているのでしょうか。

マイクロソフトといえば、1975年4月4日にビル・ゲイツとポール・アレンらによって設立され、同社が開発したWindowsは全世界で利用されているソフトウェアとして有名ですよね。そんなマイクロソフトも、様々な面で宇宙ビジネスと繋がりを持つ企業です。

――意外ですね。

まず1つは、AR(拡張現実)分野での繋がりです。NASAと共同でARゴーグル「HoloLens」を開発し、ISS(国際宇宙ステーション)のさまざまな活動場面で使用するためのプロジェクトに取り組んでいます。

――ARとISSがどう結びつくんですか?

具体的には、HoloLensを利用して宇宙飛行士に対し地球上の管制官から指示を出したり、宇宙飛行士が見ているものについて管制官がリアルタイムでフィードバックを提供したりするのです。


HoloLensを付けた地球上の管制官(提供:NASA)


――なるほど、視点を同じにするということですか。

現状では宇宙飛行士が何かを修理したり実験したりする際、ISSから文字もしくは音声で指示を出しています。そうすると伝達でミスをしたり正確に伝わらないこともあるわけです。しかし、HoloLensとSkypeを使うことによって、実際に宇宙飛行士が目にしているものを地球上で再現しやすくなるわけです。

――そうか、そうすると専門家がリアルタイムに正確な指示を出せる、と。

そういうことです。さらに、「オンサイト(OnSight)」と呼ばれるソフトウェアもNASAと共同で開発しましたね。

――それはどういうソフトウェアですか?

火星上を探査中である探査機「キュリオシティローバー」が取得するデータの解析に使われるソフトですが、火星表面が3D環境で表示され、科学者達が直接見るような形で様々な検証をすることができるというものです。

――火星表面が3D環境で表示されるんですか。面白そう。

ですよね。あともう1つの宇宙ビジネスとの繋がりは、創業者である2人の動きですね。共同創業者の1人、ビル・ゲイツは宇宙ビジネスに投資をする投資家として積極的に活動をしています。

――あ、ビル・ゲイツは宇宙ビジネスに投資もしているんですね。

ええ、そしてもう1人のポール・アレンは、ジェフ・ベゾスやイーロン・マスクと同様、航空宇宙事業を展開しはじめました。2011年には「ストラトロンチシステムズ」という会社を設立して、巨大な航空機からロケットを空中発射して小型衛星を打ち上げる宇宙輸送サービスを目指して活動しています。スケールドコンポジッツ創業者で機体開発の天才と言われたバート・ルータンに委託して開発した航空機の翼幅は117mもあるんですが、その世界一大きな航空機にロケットを搭載するんです。

――へえ、もう1人の創業者はロケット開発をしたんですね。

さらにもう一つ、これは宇宙ビジネスというわけではありませんが、マイクロソフトの元社員は宇宙を旅行していたんですよね。

――え、そうなんですか?

私たちが普段使っているExcelやWordを開発したマイクロソフトの元ソフトウエア開発者、チャールズ・シモニー氏は、2007年4月7日にロシアの宇宙船「ソユーズ」で宇宙へ向かい、ISSで滞在した後に帰還したのです。ISSを訪れた民間宇宙旅行者としては5人目ですね。

――ExcelやWordを開発したエンジニアが宇宙旅行をしていたなんて!

そうなんですよ。しかも、2009年3月26日にも2度目の宇宙旅行を行い、2回の宇宙旅行を経験した唯一の人物となったんです。

――2回も! ちなみに旅行代金ってどのくらい掛かったんでしょうか……?

一度目は2100万ドル(およそ23億円)、二度目は3500万ドル(およそ38億円)だったそうですよ。合計すると60億円以上も宇宙旅行に使ったというわけですね。

――ろ、60億円……。


宇宙旅行に向けて訓練をするチャールズ・シモニー(提供:NASA)


ちょっと最後は圧倒されてしまいましたが、次回の後編では私たちエンジニアが巨額のお金を払わずに宇宙に行ける可能性はあるのか、聞いていきたいと思います。

大貫さん、ありがとうございました!



取材協力:大貫美鈴・NASA
取材+文:プラスドライブ

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