クラウド人事労務ソフト「SmartHR」はなぜ6,000社以上に選ばれるのか? 開発を加速させるカルチャーに迫る

サービス開始から18か月で利用企業数が6,000社を突破。サービス利用継続率99.2%。そして毎月400社以上が新規で導入。この驚異的な数字を叩き出している人気サービスが、シェアNo.1のクラウド人事労務ソフト「SmartHR」。

フォームに入力するだけで必要書類を自動作成できる、ハローワークや年金事務所への申請もWebで完結できるなど、ユーザーの利便性にこだわリ抜いた機能が特長です。

SmartHRはいかにして誕生し、どのような開発体制に支えられているのでしょうか。その秘密を、同サービスを開発・運営する株式会社SmartHRの取締役副社長 兼 CPO(最高プロダクト責任者)である内藤研介さんに聞きました。

「ユーザーの声を聞く」ことで、SmartHRは生まれた

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――SmartHRはどのような経緯で生まれたサービスなのですか?

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内藤:時系列順に話すと、SmartHRは当社の開発した3番目の自社サービスなんです。1番目と2番目のサービスは、リリースしたもののなかなか軌道に乗りませんでした。

「どうすれば多くの方に使ってもらえるサービスを生み出せるだろう」と考えていたとき、Open Network Labというアクセラレータープログラムがあることを知ったんです。

そのプログラムに参加してサービスのつくり方を学ぶ過程で生まれたのがSmartHRでした。

――1番目と2番目の自社サービスは、なぜヒットしなかったのでしょうか?

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内藤:「自分たちがつくりたいもの」をつくっていたことに問題があったと思います。課題を持つ人たちの意見をあまり聞いていなかったんです。

Open Network Labでは「サービスのアイデアを考える際には、とにかくユーザーの声を聞くこと」を教えられました。ハッとしましたね。それがきっかけとなり、知り合いの経営者や友人に「普段の業務で困っていることはある?」とヒアリングするようになったんです。

――そこで挙がってきた意見がSmartHRのコンセプトにつながっている?

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内藤:そうなんです。多く挙がった意見が「人事や労務などバックオフィスの業務が煩雑で困っている」というものでした。具体的に何が煩雑かというと、とにかく作成すべき書類の種類が多いんです。

たとえば企業が新しく社員を雇うときには、雇用保険の資格取得届、社会保険の資格取得届、お子さんがいらっしゃる場合は被扶養者(異動)届など、最低でも5種類ぐらいの書類を作成する必要があります。

ここからさらに、企業で管理するための書類を追加で作成するため、枚数はさらに多くなっていきます。

――想像しただけで面倒くさくなってきました……。

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内藤:そう、とても面倒な作業なんです。それを効率化すれば多くの企業が助かるだろうと考えたことが、サービス開発のきっかけになりました。

――実際に、SmartHRが多くの方々の業務負荷を軽減してくれたことは、「6,000社」という利用企業数の多さが物語っていますね。

機能はリッチに。UIはシンプルに

――SmartHRを使いやすいソフトにするため、開発ではどのようなことに気をつけていますか?

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内藤:「どんな機能があるのか一目でわかるUIにすること」を常に心がけています。

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とはいえ、口にするのは簡単ですが、システムに落としこむのは非常に難しいです。なぜなら、バージョンが進むにつれソフトウェアは機能がどんどん増えてくるため、「わかりやすさ」と「多機能」を両立させることが困難になってくるからです。

そのバランスを上手く取りながらベストなUIを保つことが、使いやすいソフトウェアを実現するカギになってきます。

――UIのわかりやすさを保つため、どういった工夫を?

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内藤:デザイン方針を全エンジニア・デザイナー間で標準化できるよう、サイトで使用する文言や色、レイアウトなどのルールを決めガイドラインを作成しています。

たとえば、各画面の見た目を統一するために「一覧表示画面では表をこういうデザインにしましょう」とか「ボタンはこの場所に配置しましょう」といった内容を網羅的に記載しているんです。

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▲デザインガイドラインの一部。サイトデザインを標準化するためのノウハウが山ほど詰まっている。

本当にちょっとしたことなんですが、こういう細かい努力の積み重ねがわかりやすいUIを実現する秘訣なんです。それに、ガイドラインがあることで新しくジョインしたメンバーがすぐに標準ルールを把握できるため、学習効率が向上するというメリットもあります。

安心して発言できる雰囲気が、強いチームをつくる

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――良いエンジニアチームをつくるために、どのようなことを意識していますか?

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内藤:なるべく、さまざまな意思決定を各エンジニアの判断に任せるようにしています。メンバー全員が自分の力で考えて仕事をした方が、絶対にいいサービスになると思うので。

――業務の中で、各エンジニアが自発的にアイデアを考えた事例はありますか?

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内藤:先日実施した「設計の社内コンペ」が良い例だと思います。これは何かというと、ある大きな機能を設計するにあたって「みんなでアイデアを考え、コンペをして一番いいものを選ぼう」という方針になったんです。

――設計の社内コンペとは珍しい! ユニークな取り組みですね。

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内藤:みんな積極的に参加してアイデアを出してくれて、すごく盛り上がりました。ちなみに私も参加したんですが、残念ながら私の案は落選でした(笑)。

――(笑)。「各エンジニアがアイデアを出し合って最善案を決める」ということは、普段からよくやっているんですか?

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内藤:そうですね。SmartHRは民主主義的なカルチャーがあります。技術的な課題をどう解決するか、どういう機能を実装するかなどを、みんなで話し合って決めています。

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▲不具合が見つかった際のメンバー同士のチャットのやり取り。各人が意見を出し合い、迅速な課題解決に繋がっていることが伝わってくる。

――エンジニアが自分の意見を言いやすい雰囲気があるんですね。

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内藤:誰かの意見を頭から否定しない、自由な発言を推奨するといったことを、各メンバーが心掛けているんです。それを徹底しているからこそ、意見を言いやすい雰囲気が醸成できているんだと思います。

少し前にGoogleが「チームの生産性を高めるには、チーム内に『心理的安全性』を保つことが大事だ」と発表していましたが、それに共感しているメンバーが多いことが影響しているのかもしれないですね。

テクノロジーで、人事労務の仕組みそのものを変えたい

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――今後、実現したいビジョンはありますか?

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内藤:SmartHRを他社のサービスと連携させて、ユーザーの利便性を高めていくのは1つの大きな目標です。

SmartHRでは入社手続きをする際に詳細な社員情報をユーザーから入力してもらうので、データとしての価値が非常に高いんです。そのため、お客さまから「従業員を管理するためのマスタデータとして使いたい」という意見がたくさん挙がっています。

それを実現するため、当社はSmartHRに登録された社員情報を扱うためのAPIを公開しているんです。これを使えば、他社サービスともデータを自由に連携できるようになります。この機能を、今後はどんどん拡張していきたいですね。

――そうなれば、各サービスでいちいち個人情報を入力し直す必要はなくなりますし、社員が転職した際もデータ移行が楽になりそうですね。最後に聞きたいのですが、人事労務をテクノロジーで改善することに、内藤さんはどういったやりがいを感じていますか?

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内藤:人事労務って、すごくわかりやすく結果が出る領域なんです。

会計や税務は、既にそれに特化したソフトウェアが数多く普及しているのでレッドオーシャンになっていますし、劇的に改善できる余地がそれほど残っていません。

でも、人事労務の場合は、これまで社会保険労務士の方が扱う専門のツールしかなかったので、企業の人事労務業務をシステム化によって改善できる部分はたくさん残っているんです。

だから、私たちの努力によって、日本の人事労務の仕組みそのものを大きく変えられる可能性が高い。その担い手になれるのは、非常に意義のあることだと私は思っています。

――人事労務の領域においてトップランナーである内藤さんの言葉、心に響きます。今回はどうもありがとうございました!

取材協力:株式会社SmartHR

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