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事故状況を自動レポートするAIドラレコ……先進技術を取り入れる損害保険会社が求めるエンジニア像とは

電気自動車や自動運転技術などのテクノロジーによって、モビリティ分野にさまざまな変革が起きています。その目的は、快適で安全な移動を提供すること。自動車メーカーのみならず、自動車保険などを提供する損害保険会社も同様の思いを持っており、各社がテクノロジーを活用したさまざまな保険商品を展開しています。今回は、三井住友海上火災保険が提供する、AIを使って事故状況を文章や図で自動生成してくれる、賢いドライブレコーダーなどを取材。同社の損害サポート業務部の山本さんに、お客さまや社員へ安心をもたらすテクノロジーとそれを実現するエンジニアの重要性についてお聞きしました。


三井住友海上火災保険「進化する損害サポート TECH FOR HEART」イメージビデオ集

自動車事故の状況を自動的にレポートし、お客さまと社員の負担を軽減

――損害保険会社でもデジタル技術を活用したオペレーション改革が進んでいると聞きます。山本さんは、普段はどのような業務を担当されていますか?

山本さん:私は金融機関のシステムエンジニア等を経て2020年4月にこの損害保険業界に入りました。転職前には、海外駐在の機会があり、フィンテックの領域を調査していた時期も。弊社に入社したのは、DX人材のニーズと私の経歴がマッチしたからです。そういった背景があるので、主に保険金支払業務にかかるデジタル・トランスフォーメーション(DX)施策や、海外ベンダーとの協業プロジェクト等を担当しています。


三井住友海上火災保険 損害サポート業務部 事務プロセスチーム兼企画チーム 山本 恒 さん

――ドラレコ型AI事故状況説明システム「Ai’s」は、事故の状況をすぐにレポートできるようになる仕組みだと聞いています。そのようなAI技術採用の背景となった自動車保険における保険金支払業務の課題をお聞かせください。

山本さん:今までは、事故が起こった際、お客さまと社員との間で、電話でのやりとりをして事故の状況を細かくヒアリングし、責任割合をどうするかなどを決めていくという手続きになっていました。お客さまからのヒアリングに基づいて地図を見て、事故の場所を調べる必要もありました。それらの時間を少しでも短縮し、お客さまに対してスムーズな事故対応をすることが課題でした。

また、事故の受付の際は、お客さまはまずコールセンターに電話をして、事故について説明します。そこで一旦状況をお話ししているのに、次は事案担当者に対しても、より詳細な状況を伝えなければなりません。やはりお客さまにとって事故というのは嫌な経験ですから、2回も同じ話をしないといけないのはストレスになります。そういったお客さまの負担を減らすのも課題でした。

――それらの課題を解消する「Ai’s」について、その仕組みやできることをお教えください。

山本さん:「Ai’s」は「GK 見守るクルマの保険(ドラレコ型)」にご加入のお客さまが事故に遭われた際、専用ドライブレコーダーの映像データから、AIが事故状況を文章や図で的確に自動生成するシステムです。

先ほどもお話しした通り、今まではお客さまが口頭で事故の状況を説明し、弊社担当者が地図を調べて事故現場を確認していました。しかし、お客さまからドラレコの映像データを提供いただければ、それを見てすぐにどこでどんな事故が起こったのかということがわかります。お客さまも、同じことを何度も説明しなくてもよくなります。ドラレコの登場によって、状況説明や調査の負担が改善されているのです。「Ai’s」はさらにそれを効率化しています。

――これまでのドラレコと「Ai’s」で使われているドラレコの違いはどういったところですか?

山本さん:弊社の専用ドラレコがなくても、お客さまから録画データを送っていただければ情報を確認することはできます。ただ、「Ai’s」はネットワーク上でつながっていて、お客さまが操作しなくても自動的に弊社にデータを提供することができるのです(状況によっては、手動での送信が必要な場合もある)。

また、映像だけではなく、ドラレコのセンサーからデータをとることができます。一定の時間内で衝突前にどういう走行をしていたのか、衝突後どういう走行になったのかというところも全て記録したデータが送られます。「Ai’s」はそれらを自動的に分析し、走行時の速度や加速度、衝突時の衝撃の大きさや、どこで衝突したかなども可視化します。


ドライブレコーダーが衝撃を検知した後、AIが数分で事故状況を自動作図する

この他にも、簡易的なテキスト文に事故状況を書き起こす機能もあります。事故前の走行速度や、ぶつかった瞬間の衝撃の大きさを分析したテキストを、時系列で出力してくれるのです。このおかげで、事案担当者はヒアリングしなくても、それを見るだけで客観的な状況を把握できるようになりました。

――すごいですね。普通に走行しているときにもデータを取得しているのですね。ぶつかったとか、事故が起きたと認識したときだけデータが送られるんですか?

山本さん:はい。「見守るクルマの保険」の専用ドラレコを搭載して走行していると、走行データが当社のサーバに送信されます。走行データは速度や加速度、位置情報といったもので、映像は含まれません。万一、一定以上の衝撃を検知した場合、自動的に「事故」と判定をし、その前後の映像データも送られ、専用安否確認デスクのオペレータと通話も可能となります。


ドライブレコーダーが一定の衝撃を検知すると、三井住友海上に自動で通報し、オペレータが応答する

事故が起こってから5分から20分ぐらいの間に、どういう事故が起こったかというデータが上がってきます。そのため、お客さまから連絡をいただく前に、我々の方で事故があったと知ることができるのです。先回りしてお客さまの状況を把握して適切な対応ができるので、お客さまからも「え、もうわかってるんですか?」といった驚きの声をいただいています。

国内外の先進技術を積極的に採用し、事故対応を高度化

――「Ai’s」のシステム構成や開発の経緯、使われている技術と提供サービスについてお聞かせいただけますか?

山本さん:「Ai’s」はNexar社という海外企業とのコラボレーションからスタートしました。弊社のニーズとマッチしたので、同社の技術を使ってどんなことができるのかというPoC(概念実証)を進めました。

Nexarもドライブレコーダーを自社の製品として持っており、それを活用したソリューションも海外で展開していました。一方、弊社で使っているドラレコはJVCケンウッドのものでした。違うドラレコだと画質やフレームレートなどが異なるため、弊社のドラレコで撮った映像がNexarで正しく解析できるのかという検証も行いました。

弊社製品のデータが、Nexarが求めているフォーマットと合うのか、合わない場合はどんなデータをさらに付け加える必要があるか、フォーマットを揃えるにはどうしたらいいのかといったところを検証しながら商品化を進めていったのです。

――御社も含め、自動車保険における損害調査ではドラコレやIoTへの取り組みがトレンドとなっていますか?

山本さん:はい、今はそういう流れがトレンドとなっています。「Ai’s」に関しては、元々は前方のカメラだけでしたが、2022年1月から360度の撮影が可能な『見守るクルマの保険(プレミアム ドラレコ型)」の販売を開始しました。360度の撮影と駐車監視機能により、従来型では対応できなかった駐車中の当て逃げ被害等の撮影も可能となります。


「プレミアム ドラレコ型」の保険では2カメラ一体端末で車両の側方・後方も録画可能。
インカメラで眠気やわき見運転等も検知する

また、コネクティッドカーならではの常時接続性のメリットを最大限に活用した、コネクティッドカー専用保険『GK クルマの保険 コネクティッド』でもセンサーデータのみから事故状況を再現する仕組みも開発しています。これは車自体についているセンサーの情報と連携するもので、今後増えていくと予想されます。自動車メーカーさんが車にカメラを搭載するようになれば、ドラレコではなくて自動車メーカーで準備したカメラで状況を分析できるようになるということも可能性としてはありますね。

――損害保険会社として、損害状況の見積や保険金の不正請求防止といった課題もあると思います。「Ai’s」以外にも、AIなどの先進テクノロジーを使った取り組みがあれば、今後の方針についてお教えください。

山本さん:AIを活用したサービスとして、画像をいかに分析するかにも注力しています。風災で被害に遭った建物の写真をお客さまが撮り、その画像を分析して損害額を自動算出する仕組みを、2021年10月から試行的に導入しています。これによって現場に出向いて写真を撮ることが不要になりますし、修理見積書を待つことなく損害額の算出が可能となるため、保険金をお支払いするまでの期間も短くなります。最短のケースでは写真を提供いただいてから数時間以内には、もうお支払する保険金はいくらですと出るのです。

水災においては、ドローンで撮影した画像とAIを活用したデータ分析により浸水高を算定、被害に遭われたご自宅等の調査なく、全損(建物の大半が水没してご契約の保険金額全額をお支払いする場合)として判断できる地域を正確に特定し、早期にお客さまへ保険金をお支払いする取組も行っています。


AIドローンによる撮影の様子

また、画像ではなくて音声データを活用してできることもあると考えています。今はお客さまとオペレータとのやりとりを品質担保のために録音しています。これをAIがテキスト化して、事故当時のお客さまの状況を自動的に要約・整理できるようになればいいなと思っています。そうすると事実関係の間違いもなくなるでしょうし、担当者側もタイピングの手間がなくなり、業務が効率化されます。

エンジニアの活躍によって、便利で安全な社会をつくる

――すごく便利になりそうですね。保険業界でも今後ますます先端テクノロジーが使われていくと思います。この分野にエンジニアがチャレンジしていく意義はどんなところにあるとお考えですか?

山本さん:大手損害保険会社は特に、長い歴史の中で醸成されたカルチャーがあり、堅牢なシステムと改善を繰り返してきた業務フローが存在します。その中で新しいテクノロジーをどうやって入れていくか、また、そのテクノロジーをどう活用するかがポイントだと思います。

その上で、APIの開発は欠かせないと考えています。欧米や新興国では、モバイルファーストやクラウドネイティブなソフトウェアサービスが広がりつつあります。しかし日本の保険業界ではまだ広がっておらず、クラウドというとセキュリティ面が心配だという印象を持たれる方も多いです。さまざまな要求に柔軟に応えていくためにも、APIの開発はとても重要になってくるでしょう。時間はかかるかもしれませんが、これを確実にやっていくことで、他社との差別化につながり、他社に先んじてソリューションを展開できるのではないかと思います。

もう1つ、スマートシティについては、IoTが重要となります。情報をとってくるというところでは、我々自身が何かセンサーを設置するという方法ももちろんあります。しかしそれよりも、既にセンサーをあちこちに持っているベンダーと連携して、さまざまなデータを集めて活用するということも大事だと思っています。

――保険業界がエンジニアに求めている姿勢や考え方についてもお話を伺いたいです。

山本さん:いろいろなデータやテクノロジーがある中で、それらをどう活用するかは難しい課題です。先日聞いた話ですが、オートバイ向けに開発されたセンサーのソリューションがあり、車両に何か近づいてきたら音で知らせる設計でした。ただ、オートバイのライダーはミラーも確認できますし、常に周囲に気を配っているため、そこまでのニーズはないかもしれないと感じました。一方、同じ技術をオートバイではなく視覚障害者向けに提供し、歩行中に周囲の状況を認識させることができれば有用かもしれません。このように、本来の意図とは別の要件に応用するような柔軟な発想が求められると思います。

「ソリューションとしてこんなことができます」と言われていても、必ずしもそれだけではなく、違う活用方法を考えることによって、社会に貢献できることがあるかもしれません。エンジニアの皆さんにとって、このように情報と情報を結びつける能力も重要になってくると思っています。

エンジニアと現場で働く人たちとのコミュニケーションも重要ですね。自動車保険の場合、事案担当をされる方などは、マニュアルに従ってオペレーションするのが一般的なスタイルなので、必ずしもエンジニアのようにITリテラシーの高い人ばかりではありません。新しいものができたので使いましょうとなったときに、今までの操作方法が変わると、現場では戸惑いが発生してしまうのです。そういう現場サイドのオペレーションを理解した上で説明しないと、なかなか伝わらないのです。自分は何気なくできたことでも、使う人の学習コストは考慮すべきだと思います。

――損害保険の業界において、テクノロジーがとても重視されていることがよくわかりました。この分野に挑戦したいというエンジニアのみなさんにメッセージをいただきたいです。

山本さん:私が入社する際、DXに着手したばかりと聞かされていました。でも、実はここ数年の間に、先進的な取り組みをどんどん取り入れています。

ただ、そういった中でもデジタルのことがわかる人間は本当に一握りというのが現状です。一昔前の欧米の金融機関は、自社の中にエンジニアを抱えて内製する体制を敷いていたのですが、これが今後損保業界でも広がっていくようにしたいなと個人的には思っています。そうすることによって会社の文化そのものも変わってくると思いますし、何よりもスピード感が大きく変わっていくでしょう。

そういった意味で、ITスキルを持った人材は我々の業界から非常に求められていますので、よりよい社会を作るという大きなミッションのもと、目を向けていただけると嬉しいです。

自動運転のその先は、「事故ゼロ」の世界です。海外の保険会社も同じ発想を持っていますが、将来的には自動車保険というものがなくなってしまうくらい、事故のない社会が実現できればいいなと考えています。

――事故ゼロの社会の実現には、エンジニアのみなさんの活躍が不可欠ですね。山本さん、ありがとうございました!

企画・取材・文:森 英信アンジー)/写真:大金 彰/編集:プレスラボ

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