苦手な家事、いかに“楽して”やるか? ビジネス的ノウハウで、家庭の課題を解決する方法

料理のレシピで使われている、「適量」や「ひとつまみ」、「さっと茹でる」などの表現。日頃から料理をしている人であれば感覚的に理解できる表現ですが、「適量って、具体的にどのくらい?」と戸惑ってしまう人も少なくないかと思います。

そういった人のため、料理の工程やあいまいな表現の1つずつをきちんと定義して、「感覚的な表現」を言語化し、理屈に落とし込んだ料理本があります。それが『チューブ生姜 適量ではなく1cmがいい人の理系の料理』(秀和システム)。著者の五藤隆介さんも、もともと料理について右も左もわからず、既存のレシピを見ては理解に苦しんでいた料理ができない1人でした。

「家事をしなければいけない」状況になった五藤さんが行ったのが、「用語の定義」や「手順のフローチャート化」といったビジネス的ノウハウを家事に取り入れること。「『ひと口大』は3cm」のように曖昧な表現を定量化したり、調理工程を図にまとめたりするなど、自分にあった方法で料理を会得していきました。

同書のあとに書かれた『フルオートでしか洗濯できない人の男の家事』では、料理に取り入れたノウハウを家事全般に応用。フローチャートやチェックリスト、さらにはITガジェットを駆使することで、毎日の家事をよりスムーズに行う方法を考案し、そのメソッドを伝えています。

一般的に「課題解決に向けた思考」が求められるビジネスマン的な方法論は、料理や洗濯といった「家庭内の課題解決」にどのように役立てられるのでしょうか。五藤さんに、家事へのアプローチ方法を聞いてみました。

五藤 隆介(ごとう りゅうすけ)さん
Podcaster及び著述家。著書として、『たった一度の人生を記録しなさい 自分を整理・再発見するライフログ入門』(ダイヤモンド社)など。
・知識の整理とこれからの働き方を考えるニュースレター「ナレッジスタック
・1冊の本を触媒としてどんどん面白い本を見つけていくPodcast「ブックカタリスト
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家事は「無理してやらなくてもいい」?

――私は家事全般が不得意なんですが、五藤さんの本は「苦手な人向け」の説明が多くてとても参考になりました。料理にも興味が湧いてきたのですが……自分のような独身男性の場合、まずはなにから着手すれば良いと思いますか?

今は結婚して子どももいますが、過去の自分に同じことを質問されたら「電気圧力鍋を買え」というと思います。


――電気圧力鍋……?

食材を切って調味料と一緒にいれておけばほったらかしでカレーや肉じゃがが作れる、あれです。失敗しないですし、テクノロジーに任せれば自分で作るよりもおいしくできますから。今なら、2万円ほどで大手メーカーのものが買えますよ。

――本では丁寧に自炊レシピを解説されていたので、てっきり初心者でも間違えずにおいしい料理を作るコツやテクニックを教えていただけるものかと思っていました。

本を書きながら「牛丼フローチャート」を作ったのは2015年だったので、当時はそんな便利なものがなかったんですよ(笑)。初期投資はかかりますが、料理をやることのメリットとデメリットを考えてそれが理にかなっているなら家電に頼ってもいいし、あるいは「やらない」という判断をしてもいい。「毎食コンビニで買う」決断をするのも全然ありです

▲『理系の料理』内で掲載された、「牛丼を作成するフローチャート」(上記画像はWeb用に作成したもの)。この他にも「牛肉のサイズは定規で測って切る」など、料理が全くわからない人でも同じものが作れるよう、およそ10ページにわたる長尺で作り方がまとめられている

小野さんのように引け目を感じてしまうのは、そもそも「家事はやらないといけないもの」という家庭信仰が未だに根強いからだと思うんですよね。そのせいで「やらない」という判断ができないんですよ。

――自炊していると「偉いね!」と周りの人に言われたりしますもんね。

そうですね。少なくとも私にとっての目的は、「家事をやること」ではなくて「毎日の生活をよりよくすること」なんです。そのために、まずは料理に限らず「家事は、やらないといけないもの」という考え方から離れてもいいのかな、と。そうすれば「面倒な家事は家電に任せて、自分ではやらない」という考え方ができるようになると思っています。

家事に苦手意識があるのは「興味を持てていない」から?

――一方で、家事について「苦手で、やりたくない」と感じつつ、無理してやっている人も多いと思います。そういった苦手意識を持ってしまうのはどうしてだと思いますか?

これはあくまでも私の想像ですが、理由は3つあると思っていて。まずは「情報が共有されていないから」。そして「マイナスをゼロにする作業で、終わりが見えないから」。最後に、「家事に興味を持てていないから」

――それぞれ詳しく教えてください。

たとえば料理の無料レシピサイトの内容って、初心者向けではなく「ある程度、料理ができる人向け」に書かれていることが多いんですよ。「野菜に火が通ったら」と当たり前のように書かれても、料理初心者にとってはどんな状態が正解なのか、よくわからないじゃないですか。

料理ができない人はそもそもレシピに書かれていることが理解できないので、置いてけぼりになってしまう。「本当の料理ビギナー」向けの情報が少ないように、他の家事でも「こうやるのがいい」という情報を手に入れにくいんですよね。はじめての人が失敗してしまって、苦手意識を持ってしまうのかな、というのがひとつ。

それに加えてほとんどの家事って、「悪くなったものをまともに戻す」作業なんですよね。しかも、それが毎日のように繰り返されます。これが2つ目の理由です。果てしないし、創造性が発揮しにくい仕事って、モチベーションをもってやり続けるのが大変じゃないですか

――確かに、「工夫の仕方がわからない」というのは人にとっては苦しいかもしれません。最後の「家事に興味を持てないから」というのは?

これは僕の経験によるものが大きいのですが……人間、興味がないことは覚えられないじゃないですか? 興味がないからやらない。やらないから上手くならない。上手くできないから苦手になる。これらが家事を苦手と感じてしまう原因だと思います。

――ご自身の経験ということは、五藤さんもそうだったんですか?

僕も興味がなかったんですよ。結婚していなければ、今も料理は覚えてなかったと思います。

▲学生時代の五藤さんが作った「鶏の香味焼き」。火加減がわからず強火で加熱した結果、黒焦げになってしまったそう

さらに言えば、妻の料理のやり方は感覚的だったので、同じようにやってみると必ず失敗していました。だから、『理系の料理』で書いたみたいに、自分で料理を学んで言語化する必要があったんです。

――実際に家事をやってみて、いかがでしたか?

本質的には効率的に仕事をするのと一緒だなと思いました。

仕事をするときは課題解決のためにPDCAを回したり、複雑な業務のフローチャートを作ったりするじゃないですか。これはビジネスの思考法だと思われがちなんですが、家事においても役に立つ方法ばかりなんですよ。

最初に作ったときはいまいちだった料理でも、課題とそれに対するアプローチ方法がわかれば改善していくことができる。衣類を洗う前の複雑な段取りも、妻の作業をフローチャート化すれば僕がやっても同じようにすることができる。「ビジネスの視点は家事に生かせる」ことに気づけば、自然と苦手に対するアプローチ方法も見えてくると思います。

機械でできそうなことは、アプリやガジェットに頼ればいい

――しかし「ビジネスの方法で家事をやろう」と決断しても、一緒に住んでいる人の協力が得られないことには難しいですよね。五藤さんの場合、ご夫婦でそういった目標は共有できていたんですか?

そこはおおむね一致していると思いますね。私も妻もフリーランスなので、そもそも家事と仕事を区別していないんですよ。2人とも仕事と同じように効率化を考えるし、結婚当初から便利なものはどんどん使っていく方針でした。

ただ、それでもズレが生じることはあると思うので、話し合いの時間を確保することは大事です。その上で、スマホのアプリなど便利なツールを使いながら家事を共有できたらいいのかなと。

――ちなみに、夫婦間でどのようなアプリを使っていますか?

今は「メモ帳」と「カレンダー」と「リマインダー」のアプリを夫婦で共有しています。どれも有料アプリではなく、スマホの標準機能なので誰でもすぐに実践できると思いますよ。

――意外とシンプルですね。それぞれどのように使われているのでしょう?

メモ帳は、家族で相談したいトピックを、それぞれがメモしておく場所になっています。加えて、子どもの学校から配られたプリントをシェアしたり、iPhoneで撮影したものを保存したりもしていますね。

――これは一人暮らしでも使えそうですね。

一人暮らしで相談する相手がいない場合は、考えたことをSNSに投稿してしまうのもアリかもしれません。外部の目に触れると自分の意識も変わりますし、相手に伝わるようにまとめないといけないから、結果的に思考が整理されます。

▲使用するアプリについては「スマホについている純正アプリで十分」(五藤さん)とのこと。他にも、「育児記録」アプリを使って授乳時間を記録していたことも

――こうやって見てみると、家事や育児に便利なアプリってすごく多いんですね。

調べてみると、人が経験する大体のジャンルや悩みに対しては、便利なアプリやツール、サービスがなにかしらあるものなんですよ。正直、家事って機械に任せられる部分もすごく多いんですよね。

「これ、機械に任せられそうだな」と思うことがあったら、まず検索してみて、便利なツールがないか調べてみる。その導入も検討しつつ、どこまで任せて、どこから自分でやるのかを適切にジャッジすることが大事なんじゃないでしょうか。

――先ほどの料理を「やらない」という判断もそうですもんね。負担に感じることや苦手なことを無理やり自分でやらなくてもいいと。

仕事に置き換えたら、外部に委託する考えに近いです。あと、機械を導入することで、結果的に家事のモチベーションが上がることもあるんですよね。

例えば、ロボット掃除機を動かす時に部屋が散らかっていて“障害物”が多いと、ちゃんと機能しません。だから結果的に、部屋を片付ける習慣がつく。また、私の場合は常に部屋が片付いた状態だと、仕事のモチベーションも上がるんですよね。こういった成功体験を積み重ねていくことで、一つひとつの家事が定着すると思います。

「家事に経営者視点を持ち込む」ことの意義

――お話を聞いていると、「効率的にやる」「いかに楽をするか」という視点が自分には足りなかったと感じました。

これは結局「お金で時間を買う」という考え方なんです。電気圧力鍋をはじめ、ロボット掃除機や食洗機もそう。ビジネスでは当たり前にやっているはずなのに、なぜか家事になると、そういった判断ができなくなってしまう。つまり「経営者目線をもって、家事ができていない」状態なのかな、と。

――経営者目線ですか?

基本的にみなさん、家事を労働者目線でやってしまうんだと思うんです。だから初期投資に怯んで「便利な家電を買う」決断ができないし、「コスパが悪いことはやらない」という判断も難しい。

ビジネスの現場だったら、「短時間でより多くの仕事をやらないといけない」という資本主義の論理が働くので、インターネットやビジネス本でなど、「作業効率化のノウハウ」が簡単に手に入るようになっていますよね。しかし、家事には同じ論理が入らないこともあって、そういった作業効率化のノウハウがなかなかシェアされないんです。

――確かに。家事って何も対価を生まないのに、そこにコストをかけるのはもったいない気がしていました。

でも、初期投資と引き換えに手間や時間が削減できれば、そのぶんプライベートが充実しませんか? それは十分に「対価」と言えますよね。

――お金以上に貴重な対価かもしれませんね。その対価を得るために、まずは課題を設定し、最も効果的なアプローチを考えていくような経営者視点が大事だと。

例えば、洗濯が苦手だとします。その課題に対して、なぜ苦手なのか原因を究明し、解決方法を考えるのが経営者です。結果、「洗濯物がすぐ溜まってしまうこと」にうんざりしているなら、そもそも溜まらないよう大きな洗濯機に買い換える、洗濯の回数を減らすために服を増やす、といったアプローチが考えられますよね。

――まずは苦手な家事とその理由を書き出してみるのが、第一歩かもしれませんね。

そう思います。もっと言えば、苦手な家事の「時間」を記録してみるといいですよ。そこで、「ムダだからやめたほうがいい」と思うか、逆に「意外と2〜3分で片付く作業だから、まあやるか」と思えるのか。数値化することは、とてもいい判断材料になりますから。

――様々なヒントをありがとうございます。なんだか前向きに取り組めそうな気がしてきました。

家事は仕事と違って、フィードバックが早いので、すぐに改善点が見つけられます。そうやって少しずつ進歩を感じられれば、少しずつ家事を楽しめるようになるはずです

友達限定のSNSなどで家事の様子をシェアすれば、フォロワーの反応で上達具合も実感しやすいと思いますよ。僕も料理を覚えたての頃はFacebookに失敗した料理をアップしていました。友達なら失敗しても笑ってくれますからね。ぜひ、自分なりのアプローチで挑戦してみてほしいですね。

文=小野洋平(やじろべえ)/編集:伊藤 駿(ノオト

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