中小工場・町工場の高い技術!本気で作った文房具製品がすごい!

日本には、高い技術を持った町工場がたくさんあります。しかし、その多くが大手企業の下請けをしており、なかなか自社のPRやブランディングは実現できていないのが現状です。それを実現するには、自社製品を開発することが必要不可欠。しかし、独自に企画やデザインのノウハウを持つ中小製造業は少ないものです。

その状況を変えるため、神奈川県内の町工場3社とデザイナーがコラボレーションしオリジナル文房具ブランドを立ち上げました。その名は「Factionery」。他の文房具にはないハイセンスなデザインと細部まで工夫された実用性。そして、それを可能にした超高水準の製造技術が特徴です。

Factioneryは今、ものづくりの世界にどんな旋風を巻き起こそうとしているのでしょうか。創業メンバーの4人に話を聞きました。

今回の登場人物

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西村拓紀デザイン株式会社
代表取締役・西村拓紀さん
グッドデザイン賞など国内外のデザイン賞を多数受賞。グラフィック、プロダクトなど様々なジャンルのデザインを扱っている。
Factioneryデザイン担当。

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株式会社モールドテック
代表取締役・落合孝明さん
様々な分野の樹脂製品、ダイカスト製品などの製品設計、金型設計を手がける。
factionery運営、設計担当。

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株式会社Qulead
専務取締役・山下祐さん
金属の精密加工を主とし、バイクパーツや、医療機器、半導体向け精密部品を手がける。
Factionery製造担当。

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五光発條株式会社
代表取締役・村井秀敏さん
バネの製造を主とし、医療機器関連や輸送機関連などのバネを手がける。
Factionery製造担当。

デザイナーは町工場を必要とし、町工場はデザイナーを必要としている

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▲西村拓紀デザイン株式会社 代表取締役・西村拓紀さん

――まずは、Factionaryを立ち上げた経緯を聞かせてください。

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西村:私は、もともと大手企業でデザイナーをやっていました。その後に独立したのですが、製造を誰かにお願いしようにも、誰に声をかけたらいいのかわからなかったんです。

そんなときに、町工場の職人が集まるイベントを知り、そこで多くの職人の方々と知り合うことができました。その交流を通して、「デザイナーと町工場の職人は、お互いがお互いの力を必要としているんだ」ということに気づいたんです。

たとえば私はデザイナーなので、ブランドもつくれますし、プロダクトのデザインもできます。でも製造したり、加工したりはできません。一方で、町工場の人たちは、質の高い製品を製造することはできますが、何をつくったらいいのかがわからないケースがあります。つまり、お互いに足りない部分を補い合う関係なんです。

そこで、「町工場の職人たちとコラボレーションしてプロダクトをつくろう」と考えている折に、最初に山下さんと落合さんに出会い、Factioneryが立ち上がりました。

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――西村さんと出会って、2人はどんなことを思いましたか?

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山下:嬉しかったですね。先ほどの西村さんの話で出たように、私たちは製品を自分たちの力でデザインすることは苦手としています。町工場の職人が商品を考えると、どうしても「商品として良質なもの」よりも「職人の目から見て良質なもの(凝った技術のもの)」になってしまいがちなんです。

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落合:他にも、パッケージをどうするとか、売り方をどうするかというノウハウは私たちにはありません。だからこそ、独立したての西村さんが声をかけてくれたのは、私たちにとって本当にありがたいことだったんです。

“超”高精度の定規。寸法の誤差、なんと1000分の1ミリ

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――Factioneryの商品ラインナップについて聞かせてください。まずは、1つ目のプロダクトである金属製定規の「JOHGI」。実はこれには、相当に高い技術が使われているそうですね。

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西村:はい。この定規は本当に精巧に作られていて、寸法の誤差が1000分の1ミリしかないんです。しかも、印刷ではなく金属を削り出して目盛りをつけているため、絶対に消えることはありません。

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さらに、この目盛りの数字はあえて斜めにしているんです。これによって、定規を縦に使っても、横に使っても、目盛りが見やすくなっています。

――一見すると何気ない定規のようですが、細部に職人のこだわりが生きているのですね。しかし、そんな精密な定規をつくるのは大変だったのでは?

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山下:いやー、そのとおりです。とにかく加工が難しいんですよ(笑)。この定規は、表側と裏側の表面も削らなくてはいけない上に、それが100分の1ミリという精度で正確でなければ目盛りが均一に入りません。だからこそ、そう簡単につくることはできない代物なんです。

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――100分の1ミリとはすごい精度ですね! 次に、2つ目のプロダクトである「CARD STAND」について詳しく聞きたいです。バネでできているのが非常に特徴的ですが、よくあるプラスチック製ではないのはどうしてですか?

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西村:プラスチック製のカードスタンドはかさばりますし、カードがナナメ上を向くため置く場所によってはカードが見えづらくなります。この課題を解決してくれるのが、バネ製のカードスタンドなんです。

まず、サイズが小さいためかさばりません。それに、デザインもおしゃれになります。加えて、バネの向きを変えることによってカードの向きをナナメ上や垂直など自由自在に変えることができるんです。

――非常に利便性の高いカードスタンドなのですね。これも、製造は大変だったのでは?

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村井:確かに。これを作るのは、とんでもなく難しかったです。最初はバネがうねってしまったり、カードが挟まらなかったり……。なかなかイメージするような形状にはなってくれませんでした。バネを製造するときによく使われる熱処理方法では、絶対にこの完成形にはならないんです。

――では、どうやってこの形状を実現しているのですか?

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村井:職人の“肌感覚”で調整しているんです。もう少し詳しく説明すると、材料のクセと熱処理の兼ね合いを考慮して、腕の良い職人が1つひとつのバネを手作業で微調整しています。これは絶対にマニュアル化できない世界。まさに職人技だと思いますね。

大切なのは、「自分たちがつくりたいもの」をつくること

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▲株式会社モールドテック 代表取締役・落合孝明さん

――Factioneryのように、町工場が魅力的な自社ブランド製品をつくるには、どのようなことを大切にすればいいのでしょうか?

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西村:一番大切なのは、「自分たちがつくりたいもの」を見つけることです。下手にマーケティング視点を持って「売れそうなものをつくろう」と考えてはいけません。それをやってしまうと、製造者自身が魅力を感じないものが企画として成立してしまうことがあるからです。

そうなってしまうと、製造する過程で困難に直面したときにモチベーションが下がってしまい、プロジェクトがとん挫してしまいます。実際に、そういう経緯で終わったプロジェクトは世の中に山ほどあるんです。だからこそ、自分たちが情熱を持って取り組めるものを見つけることが重要だと考えています。

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▲株式会社Qulead 専務取締役・山下祐さん

――マーケティング視点を“持たない”ことが重要だとは意外です。それ以外にも、こうしたプロジェクトを成功させるためのコツはありますか?

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西村:デザイナーとしての観点でいうと、「職人の持っている最高レベルの技術を出したとき、ギリギリ実現できるような開発難易度にする」ことが大切だと思っています。

例えるなら、作曲家がヴォーカリストの最高音域を理解しておき、その音域をフルに活かして曲をつくるようなイメージです。そうすることで、完成するプロダクトの品質も高いものになりますし、他の人が簡単には真似できないオリジナリティーが生まれます。

――職人の持つ「最高音域」を知るために、デザイナーはどのようなことをすべきですか?

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西村:私は、定期的に町工場へ足を運ぶようにしています。職人の技術を生で見なければ、その人の持つ本当のスキルがわからないからです。

Factioneryが、異業種コラボの成功事例になる

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▲五光発條株式会社 代表取締役・村井秀敏輸さん

――最後になりますが、Factioneryが目指す今後のビジョンについて聞かせてください。

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落合:正直に言うと、Factionery単体で見ればまだ赤字です。まだまだ事業としては弱い面があります。しかし、この取り組みを知って「一緒にやりたい!」と声をかけてくれる人が現れるようになりました。そういった人たちを巻き込んで、今後は事業としての基盤を安定させていきたいです。

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山下:Factioneryの商品は、1アイテムごとにストーリー性をもっているんです。だからこそ、参画する会社が増えればそのストーリーがどんどん膨らみ、ブランドとしての厚みが増していきます。実は、今日はちょうどこれからFactioneryに参画したいと言ってくれた町工場の方々を集めてミーティングを実施するんですよ。どんな企業が集まってくれるのか、本当に楽しみにしています。

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村井:普通は、町工場同士の異業種コラボレーションってなかなか上手くいきません。でも、Factioneryが成功事例になれば、それは日本のものづくりにとって大きな価値があると思うんです。そうなれるように、私たちはこれからも良いプロダクトをつくり続けます。

――こういった取りくみが一般的になることで、町工場の製品開発そのものも多様性が生まれ、より発展していきそうですね。これからが本当に楽しみです。今回はどうもありがとうございました!

取材協力:Factionery

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