プロダクト

モノづくりとは“縁”である―――国内唯一のエボナイトメーカー、日興エボナイト製造所の挑戦を追う

天然ゴムと硫黄を原料とするエボナイトは、硬さと電気絶縁性という特性を持つ合成樹脂で、万年筆や楽器のマウスピースなどの素材として使われています。以前は広く日常的に使われていましたが、昭和30年代に入ると安価なプラスチックに取って代わられ、多くのエボナイトメーカーが廃業に追い込まれました。

現在、国内に残るエボナイトメーカーは1社だけ。その最後にしてオンリーワンの株式会社日興エボナイト製造所の遠藤智久社長に、モノづくりに携わることの醍醐味を聞きました。

最悪からのスタート

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――遠藤さんは何をきっかけにモノづくりの世界に身を置いたのですか?

遠藤:弊社は私の祖父が1952年に創業しました。私の両親も工場で働いていたので、工場の事務所にベビーベッドを置いて私を育てていたのです。

小学校に上がると、私は「ただいま」と言って工場に帰ってきて、その後、外に遊びに行くか事務所で雑誌などを読んで過ごしたりしました。もう少し大きくなると、バリ取りのアルバイトで小遣い稼ぎをしました。それが私のモノづくりに関する原体験です。

――御社に入ったきっかけは何ですか?

遠藤:大学卒業後、私はダンボールメーカーの営業マンとして4年間働いたのですが、1998年に父親が三代目の社長になったとき、呼び戻されるかたちで弊社に入りました。最初はエボナイト製造の現場仕事に就きまして、12年目の2010年に四代目の社長に就任したのです。

――遠藤さんが御社に入ったころ、業績はいかがでしたか?

遠藤:私が入った1998年の時点で、すでに右肩下がりの状態でした。もう底を打ったかな、と思ったところにリーマンショックが追い打ちをかけました。その段階で「もうどうしようもないね」という状態になって、家族4人と2人の従業員さんだけという最低のところまで行きました。

このままでは先細る一方なので、新たな商品を作って活路を見出そうと考えました。商品をただ作るだけではなく素材も深掘りしていこうということになり、カラーエボナイトの開発に着手しました。それを万年筆の職人さんのところに持って行ったのです。「弊社は万年筆を新しい商品として売っていきたいのでこれを削ってください」と頼みました。磨くのは見よう見まねで自分たちでやって、ペン先の取り付けと調整は別の職人さんにお願いしました。

それが万年筆としてデビューしたのが2009年です。地元の産業展に出品したところ、1本約6万円したのですが5本売れたのです。うれしかった。これはいけるなと思いました。一気に事業化しようということで色々な人に手伝ってもらいました。そのうちの1人は顧問として手伝っていただいたプロダクトデザイナーの方で、自前の展示会を開いてバイヤーさんやお客さんを集めるようにご指導いただきました。

人とのつながりから活路を開く

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▲工場の一画にズラリと並んだエボナイトの生地。これらを押し出し機にかけ、あらゆる製品へと加工・成型していく。

――新しい商品を開発するのには一大決心が必要だったと思いますが、その決心がついたのはなぜですか?

遠藤:当時はやることがなく、時間だけがある状態だったのです。「今日は仕事がないからみんな休んで」という日が週に何日かありました。それは弊社だけではなく、元請け会社のキャスターメーカーも週に3日しか稼働しないような状態でした。注文もなく、本当にモノが動かなかったのです。とにかくやるだけやろうと思い、掃除をするなりビジネスのアイデアを出すなりしました。

――たとえば万年筆のアイデアは誰が出したのですか?

遠藤:みんなで考えたことが形になったのです。とにかく時間はあったので、セミナーに行ったり展示会に行ったりしているなかで、新しいことを始めて経営革新していこうと思いました。セミナーでお世話になった先生が「“脱素材屋”して商品を作りましょう」とおっしゃったこともあり、万年筆だけではなくギターピックや杖などを開発することで、エボナイトの特性を活かすことにしたのです。

――顧問をされたプロダクトデザイナーの方と会ったのもその勉強会などですか?

そうです。さまざまな場所に行くなかですごく良い出会いがありました。弊社が困っていると言うと、いろいろと手助けしてくれる人が出てきたのです。

――それは下町のつながりですか?

遠藤:いや、行政機関(荒川区役所)です。商品開発も、東京都立の産業技術研究センターに教わりました。そのうちの一人の先生に顧問になってもらったのです。

――御社はWebショップの笑暮屋(えぼや)も運営していますが、そちらも顧問の方と一緒に立ち上げたのですか?

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▲笑暮屋で販売されている万年筆。

遠藤:Webショップに関しては、万年筆を始めようと思ったときに、あるペン愛好家のサークルの人たちと交流を持つことになり、そのなかの一人にブロガーでWebサイトの知識があり、文章と写真も得意という人がいて協力してくれることになったのです。

弊社は素材をつくる。それを職人さんに削ってもらう。売り方はプロダクトデザイナーに考えてもらう。Webはブロガーの方にやってもらう。ペン先の取り付けは別の職人さんにやってもらう。そういうチームができたのです。

――人のつながりから活路を見出だしてきたのですね。これまでさまざまな苦労があったと思いますが、エボナイトがまた徐々に注目されつつあります。どんなときにエボナイトを続けてきてよかったと感じますか?

遠藤:経営が苦しかったとき、従業員が家族4人を含めて計6人でした。今はおかげさまで13人にまで増えています。実はエボナイトメーカーは海外にもドイツに2社あるだけで、世界的に見てもレアなのです。

では需要がないかと言われるとあるのですよ。万年筆や楽器、喫煙具といった需要は海外のほうがむしろ旺盛です。しかしサプライヤーがいない。アリババドットコムという海外向けのWebサイトがありまして、世界中のバイヤーとサプライヤーを結びつけるサービスを展開しているのですが、アメリカやヨーロッパ、アジア、オセアニア、南米からも弊社に注文が入ってきています。

――まさに全世界から注文が来ているのですね。

遠藤:そうです。年間の使用料が60万円くらい(2011年当時)なのですが、初年度の海外向け年間売上は30万円くらいしかありませんでした。ところが続けていくうちに30万円が150万円になり400万円になり、今は1,000万円以上の売上があります。うまく海外市場の掘り起こしができたのです。

世界中のバイヤーがエボナイトを求めて検索すると、弊社のWebサイトに行き着きます。そこでボタンを押せば問い合わせが飛んでくる仕組みができているのです。後はメールで直接やりとりをして商品を送るだけです。本当に小ロットで、1梱包が1万円で送料が5,000円みたいな世界。1,000円の品物に対して2,000円の送料がかかるケースもあります。それだけほしがっている人がいるという状況なのです。用途で見ると、やはり万年筆や喫煙具が中心です。

原動力はお客さんの喜ぶ声

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――実際に買ったお客さんの声が直接、耳に入る機会はありますか?

遠藤:はい。たとえば2018年3月に万年筆のイベントがあります。そこで万年筆を買ってくださるお客様や、エボナイトに魅力を感じるお客様の声が直接聞けます。そのイベントでは、「エボナイトの魅力」というテーマでトークショーも開かれます。雑誌の編集長の方と対談をするのですが、興味のあるお客様にたくさん集まっていただきます。

――ギターの趣味が高じてエボナイト製のピックを作ったそうですが、アイデアを出すために普段から心がけていることはありますか?

遠藤:そのときはいろいろ絞り出したなかでギターピックを商品化しましたが、とにかくまずはやってみることが大事だと思います。やってみて初めてわかることもありますし、やらないことには何も見えないので。

――どういうところにモノづくりの楽しさを感じますか?

やはり自分たちの作ったモノが、目の前にいるお客さんに喜んでもらえることだと思います。

――直営店舗を立ち上げたのも、お客さんと直接コミュニケーションがとりたいからですか?

遠藤:そうです。万年筆は実際に手に取って書いてみないと良さがわかりません。「Web上でワンクリックで買う」という性格の商品ではないので、やはり直接対面できる店舗があったほうがいいと思ったのです。

――モノづくりに対してこだわりや信条はありますか?

遠藤:ご縁ですかね。ご縁に従うことを大事にしています。「どうしよう」と悩んで閉じこもっていないで、外に出てお会いした方々の話を聞いて実際にやってみる、ということの繰り返しだった気がします。やはり外に出て話をしていかないと、「それだったらこういうことができますよ」という提案は誰もしてくれないので。その際に大事なことは「風呂敷(夢)は大きく広げて」話すということです。

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▲工場にある加硫缶。圧力容器ともいう。熱により硬化する性質を持つエボナイトを、この中で約2日間過熱し、形状を固定化する。

――もう一度人生をやり直せるとしても、エボナイトメーカーをやると思いますか?

遠藤:やると思います。面白いですからね、やっぱり。モノをつくれるというのは強いですよ。他でつくれないものを弊社がつくるというだけで、競争優位性が確保できますので。自分たちで考えて作った商品が売れたときは本当に楽しいです。

――モノづくりをやってみたいと思っている若者に対してメッセージをお願いします。

遠藤:何かがしたいと思ったら、今がチャンスです。だって、やる人がどんどん減っているのだから。「今こうやりたい」「どうなるかわからないけれど、とにかくこういうものを作りたい」と声高に言っていれば協力者は必ず来ます。世の中はそういう流れになっているのです。さらに言えば、モノをつくるハードルもどんどん下がってきています。さまざまな工作機械や技術を提供してくれるところもあり、たとえば墨田区にはGarage Sumidaというものづくり支援拠点があります。

「こういう思いはある」「こういうモノをつくりたいのだけれど、つくる手立てがない」という人は、アイデアさえ持っていれば助けてくれる。そういうところを利用すればいいと思います。行政主催の創業セミナーなども色々やっているので、とにかくアンテナを張って行ってみることです。

取材協力:株式会社日興エボナイト製造所

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