批判を受けたQiita運営のアップデート「50万人のコミュニティ」といかに対話するか

プログラマーによる記事投稿サイト『Qiita(キータ)』。プログラマーが自分の経験や知識をブログ記事として投稿し、皆で知識・知見をシェアする場として2011年に公開、2020年7月現在は、50万人の会員によるプログラマーのコミュニティが生まれています。

Qiitaで日々行われているのが、プログラマーによる「インプット」と「アウトプット」のサイクルです。他の誰かの記事を読んで、自分の仕事に役立つ情報を手に入れる。そして、他の記事から学んだことや、自分の仕事での取り組みを発信する……。現在の大規模なコミュニティは、その繰り返しによって形成されました。

一方で、過去にはコミュニティの運営方針や個人情報の取り扱いに不手際があり、Qiita開発チームがユーザーから多数の批判を集める出来事も起きています。ユーザーからの批判やトラブルをもとに、現在はどのような方針のもとで、Qiitaは運営されているのでしょうか。

現在のQiitaの運営方針や、今後開発チームとして目指していくプログラマーコミュニティの在り方を、Qiitaプロダクトマネージャーの清野さんに聞きました。

ベテランから若手プログラマーへ「ネットへの恩返し」

——そもそも、Qiitaはなぜ、「編集部」を設けて情報発信するのではなく、ユーザーが自ら記事を書き、コンテンツを提供する形式となっているのでしょうか?

ITエンジニアリングでは、新しいコードをゼロから作り出すというよりも、すでに誰かが作ったものや誰かが到達した知識を参考にして新しいものを作る、という側面があります。自分が困っていることは他の誰かも困っていることが多く、それを解決したときのノウハウにも価値があるんですよ。

だからこそ、自分の試行錯誤をブログにして発信することで「自分の知識を誰かにも役立ててもらいたい」と考える人が多いのかもしれません。プログラマーは勉強会の資料とか自分のメモとか、皆が見ても損がないものはどんどんシェアしてくれる印象があるんですが、それも同じですよね。

▲ 株式会社エイチーム/Qiita プロダクトマネージャー 清野隼史さん

——どうして、プログラマーは「知識をシェアする」志向が強いのでしょう。

かつて、Qiitaで200本以上の記事を書いているトップコントリビューターの方に、なぜそんなに大量のアウトプットをするのかを聞いたことがあり、その答えがとても印象的に残っています。「インターネットへの恩返し」だとおっしゃっていました。

自分は、これまでインターネットでいろいろな情報を学んで成長してきたから、今はそこに恩返しをしているんだ、と。

そもそも、自分のようなプログラマーがふだん使っている技術やライブラリも、元はといえば誰かが作ったものが少なくありません。それを無償で使わせてもらっているわけです。プログラマーは、「誰かの仕事やアウトプットの上で、自分も仕事ができている」という意識が高いのでしょう。

——清野さんご自身もプログラマーです。「コミュニティの管理人」としてではなく、いち読者としてQiitaの記事を参照することもあるのでしょうか?

記事は毎日のように読んでいますよ! 最近、特に感心したのが、Qiitaの記事検索ができる「Qiigle(キーグル)」という仕組みを実際に作ったユーザーさんの記事でした。

▼【Qiigle】というQiitaの記事を検索するサービスを作りました

Qiitaのユーザーさんって、開発チームに新しい機能要望を出すだけじゃなくって、実際に作って提案してくれるんですよね。「こういうのがあったらいいな」を、本当に作って持ち込んでくれる。それはプログラマーのコミュニティならではなのかな、と。

過去の問題から、コミュニケーションの方法を大きく見直した

——とても興味深いエピソードですね。一方で、Qiitaのコミュニティ運営においては、これまでに数回、運営方針をめぐってユーザーから意見や批判が集まることもありました。2019年の12月には「記事の非表示化の基準」(※)に関して、大きな議論が起きています。

※ 2019年12月、Qiitaに投稿された特定企業のサービスを批判する内容の記事が、開発チームの判断で非表示に。この問題以前から、開発チームによる記事非表示化の基準が曖昧だという指摘が多数あり、改めて開発チーム側へ非表示化を行う明確な基準の提示を求める声が高まった。

はい。このときは我々の判断や意図を十分に説明せず、記事をいきなり非表示化してしまったことが原因でさまざまな憶測を生んでしまい、ユーザーの皆様からの信頼を失う結果になってしまいました。開発チーム内では、「運営側として行動を起こすにあたって、その意図の伝え方や見せ方がなっていなかった」と振り返りを行いました。

▲限定共有化(非表示化)の対応を行ったときのブログ。「① コミュニティガイドライン違反」「② 一定量の通報数」と、限定共有化の説明を行った

——その後、非表示化の基準をどう設定したのでしょうか。

非表示化は、コミュニティガイドライン(※)の違反があったかどうかと、ユーザーからの寄せられた通報数を基準に判断しています。問題が起きる以前は、上記のいずれかに該当した記事は即時、非表示化していました。

※ Qiitaのコミュニティガイドラインでは、投稿される記事は「プログラミングに関する知識を記録・共有している」「HRT(H…Humility/謙虚、R…Respect/尊敬、T…Trust/信頼)を大切にしている」「嬉しい体験を共有するのが目的である」の3点を満たしていることが望ましい、とされている。

2020の2月以降は、ユーザーから一定数の通報が入ったら、「非表示化する前に、記事を投稿したユーザーへ警告を出す」という方針へ切り替え、対処しています。

多くの通報が集まる記事でも、一部の表現を直してもらえば問題がクリアできる、という場合も少なくありません。「あなたが投稿した記事に関して、このような通報が入っているので、対処をお願いしたい」とユーザーへ連絡を入れて編集をお願いする、というやり方です。

実際に、我々からのコンタクトを受けて、「確かに、この書き方はちょっと厳しかったです」と記事を直してくださる方も多いです。難しいコミュニケーションですが、ここは丁寧にやっていきたいです。

——また、2020年の3月にはマイページを発端としたユーザーの個人情報の取り扱い(※)についても多くの批判が集まりました。そもそも、問題となった「ユーザーの閲覧傾向を表示する」機能は、どういった経緯で実装されたのでしょうか。

※ 2020年3月、Qiitaはマイページをリニューアルし、記事閲覧の傾向が全ユーザー向けに公開される仕様になった。これについて、利用者が承認していない情報開示であるとして批判的な意見が集まり、当該機能は即日取り下げられた。さらに後日のプレスリリースでは、Qiitaによる転職サービス「Qiita Jobs」利用企業へ向けてQiitaユーザーの推定居住エリア情報を提供していた事実を報告。開発チームの個人情報の取り扱いについて、再び苦言を呈する声が多く挙がった。

そもそも、Qiitaには大きく3つの思想があります。それは、「汎用性の高い情報を発信する場所である」「人と繋がれる場所である」「アイデンティティの確立ができる場所である」です。ユーザーページは、これを満たすことを意識して作成しています。

新しい機能は、自分の閲覧傾向を見返したり、他ユーザーの閲覧傾向と比較したりすることで、ユーザーが自身の興味関心やその傾向を改めて意識できるのでは、という仮説によるものです。

閲覧傾向を表示することでアイデンティティの確立に繋げられればと考え、実装したものでしたが、事前告知もなくこの機能を公開し、その結果として起きる混乱やユーザーの反応を十分に想像できていませんでした。

——その後のプレスリリースでは、Qiita Jobsにて、ユーザーのエリア情報の取り扱いにも不備があったことが報告されました。「ユーザーの推定エリア情報を企業に提供する」のは、どういった経緯で行われたのでしょうか?

Qiita Jobsは、プログラマーが自分で履歴書をたくさん書いたり、企業を回ったりしなくても、Qiitaで良い活動をしていれば企業から声がかかるようになる、というコンセプトの転職支援サービスです。

▲Qiita Jobsは、ユーザーが各企業のチームが掲載している求人に応募するだけでなく、企業側からユーザーにアクションを取ることができる転職サービスとして、2019年10月にローンチした

問題が起きたものは、企業側からのアプローチもしやすくなり、ユーザーにいい出会いが提供できるだろうと思って実装した機能でした。しかし、この情報はどういったものなのか、どのように扱わなければいけないのか、という個人情報の取り扱いに関する意識が甘く、ユーザーの皆様には本当にご迷惑をおかけしてしまったと反省しています。

一連の出来事を受け、内部の体制を改めて整備するだけでなく、新しい機能をリリースする際に、我々はユーザーとどのようなコミュニケーションを取るべきなのか、といった体外的な姿勢も改善しなければいけない、と開発チーム内で意識を改めました。

先日の新機能リリースからは、機能の発表やその実装にいたるまで、これまでのやり方を見直し、一からコミュニケーションの方法を考えなおしています。

Qiita初心者の「アウトプットまでのハードル」を下げるために

——その、新しくリリースされた「質問機能」について教えてください。記事の非表示化時のコミュニケーションやマイページ機能に関連する反省から、どのような段取りで公開されたのでしょうか。

新しい機能を実装するにあたって、いきなり全ユーザー向けに公開するのではなく、まずは有志にむけて「β版」としてリリースするようにしました。

▲質問機能β版リリース時の開発チームによるブログ。「調べても正解が出てこないようなことや議論が必要そうなことを発見し、それを明らかにする」ため、質問機能がリリースされた

最初は希望した800人ほどのユーザーに使ってもらい、どんな使用感で、どういった改善が必要なのか検証したうえで公開する、という考え方ですね。本当にユーザーに価値がある機能なのか、まずは一部のユーザーさんに使ってもらって判断しようと思ったんです。

——この質問機能はどういった目的のものなのでしょうか?

Qiitaの課題として、新しく登録したユーザーが「コンテンツを生み出す側」になかなか移行していかない、というのがありました。誰かの記事を読むことがメインになっているユーザーが多く、そんな方には「インプットとアウトプットのサイクルを回す」というQiitaによる本来の体験が提供できていないな、と。

そこで「特定の記事に関して、質問してみる」という方法で、「記事を書く」までのハードルを下げ、初心者ユーザーが最初にアウトプットするきっかけにしてもらおうとしました。これも、β版を公開した時点では開発チームの仮説に過ぎなかったのですが。

機能自体は先日に本番リリースしたところ、質問投稿はかなり活発に使っていただいています。ひとまず仮説は間違いではなかったのかな、と安心しました。

▲「質問機能」使用時の画面。「◯◯時にエラーが発生してしまう」といった具体的なものから、「これからのプログラマーはどうなると思う?」といったものまで、様々な質問が集まる

——逆に、仮説が覆されたことはありましたか?

ありました。この機能は、誰かの疑問に誰かが答える「質問」と、特定のテーマをベースにした「意見交換」の2つのフォーマットでコミュニケーションできます。普段からQiitaを使っているユーザーは、後者の機能を利用したディスカッションのほうが好きだろうというのが、β版リリース段階での仮説でした。

しかし、機能を全体へ向けリリースしたら、圧倒的に「質問」のほうが使われているんです。おそらく、コミュニティに入ったばかりの人にはこちらが好まれたのでしょう。仮説は裏切られましたが、うれしい誤算でした。

ユーザーと一緒に、プログラマーのコミュニティを盛り上げていきたい

——これまでに投稿された記事で、特に読まれている記事や、印象に残っている記事はありますか?

「ロシアの天才ハッカーによる【新人エンジニアサバイバルガイド】」は、何度でも読み返したくなりますね。そもそも記事として面白いですし、各エンジニアとそれぞれの業種で取り組んだこと、やったほうがいいことが、すごくきれいにまとめられているんです。

▲「ロシア人の同僚が退職時に残していったメール」を元にまとめられたエントリー。「壊れてる箇所を見つけたら、pull requestを送れ。そうすればお前もイカした奴の仲間入りだ」等、パンチライン多数

自分も今はマネジャーの立場なのですが、これを読むと「確かにこれをやらないといけないよな」と参考になることが少なくありません。「こんなことができるんだ!」という新しい発見があるというよりも、自分がぼんやり考えていたことを確認するというイメージでしょうか。

他にLGTM(※)を集めている記事としては、「開発での使用頻度が高い英単語まとめ」や「GitHub用のチートシート」のような、定期的に参照したくなる情報がまとまっているものもよく読まれています。必要になったタイミングで検索して、目を通す人が多いのではないかな、と。

※ 「Looks good to me」の略称。Qiita内では、ボタンを押すことで記事へ「いいね!」を送る感覚で利用される機能。

——専門性が強くて技術に詳しい記事よりも、比較的カジュアルな記事のほうが多く読まれているのは意外でした。

プログラマーは人によってそれぞれ専門分野や使用している言語が違うので、「特定のグループ内で支持を集める記事」ももちろんあります。「多くの人に読まれる記事」が、イコール「技術の悩みを解決してくれる記事」とは必ずしも言えません。

専門に特化した記事を取り上げて、評価する仕組みも作っていきたいと思っているのですが……これはまだ試行錯誤中です。

——実際に、Qiitaユーザーとコミュニケーションを取ったり直接話をしたりする機会はあるのでしょうか?

先日、オンラインイベント(Qiita夏祭り2020オンライン)を実施しました。そこで「Qiita運営に切り込む」というテーマで、Qiitaのトップコントリビューターの方を中心にユーザーと意見交換をする場を設けたんです。先の問題もあったので、ユーザーさんからかなり辛口な質問もいただきました。

しかし、同時にうれしいこともあって。イベントを開くにあたって、Qiitaのトップコントリビューターの方へご登壇をお願いするのですが、今回に限らず、皆さん本当に好意的にご協力いただけるんですよ。

他にも、Qiitaで初心者向けの記事をたくさん書いているベテランユーザーさんも多くいらっしゃいます。「自分が居心地の良いコミュニティを作りたい」のではなく、「参加者同士でコミュニケーションをとりながら、新しく入ってくる人をどんどん育てていきたい」という気持ちが強いのかもしれません。

——開発チームが主導するのではなく、ユーザー全員と皆がスキルアップしていく場を作っていくんだ、と。

Qiitaには「編集リクエスト」という機能があります。すでに公開されている記事に関して、内容が間違えていたり古くなっていたり、あるいは「自分のほうがもう少し詳しく説明できる」といったりしたら、読んだ側が記事の投稿者に向けて記事の加筆編集を提案できる機能です。

この記事はダメだから皆で批判するのではなく、ダメだったら皆で改善していく。古くなってもう使い物にならない知識なら、自分たちで新しくバージョンアップしていく。これからのQiitaは、ユーザー全員が記事の質の向上に貢献しながら、エンジニアコミュニティの盛り上がりにつなげていけるような、そんなサービスにしていきたいですね。

(文・編集=ノオト

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