未知の領域への挑戦!1→10Roboticsが開拓する、ロボットとのコミュニケーション体験とは?

2014年6月5日、ソフトバンクが発表した、世界初の感情を持ったパーソナルロボット「Pepper(ペッパー)」。
感情を持ち自らの判断で行動する」という機能が最大の特徴。業務効率化や労働用ではなく、人間とのコミュニケーションを目的としたロボットが誕生しました。

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発表の翌日には、ソフトバンクモバイルの販売店にPepperが設置され、来店目的のヒアリング、受付、商品紹介など、お客さんに「はじめてのロボット体験」を提供。その後、家庭向け、法人向けの販売が始まり「人間とコミュニケーションを楽しむロボット」の認知が広がりました。

ソフトバンクを中心に、さまざまな企業が参加して始まった、Pepper開発プロジェクト。その中で、会話やキャラクター設定を中心としたロボット体験の開発を牽引しているのが「1→10Robotics」です。

1→10Robotics は、京都に本社を置く1→10HOLDINGS傘下の企業。1→10HOLDINGSは、「デジタルテクノロジーの可能性を追求するクリエイティブスタジオ」として活動しており、国内外で150以上の賞を受賞。デジタルテクノロジーを駆使したクリエイティブのノウハウを活かし、会話やアプリなどのロボット体験の開発に携わりました。その後、開発チームの増員とともに、2015年9月に1→10Roboticsを設立。ロボット体験開発のパイオニアとして未開の領域を切り拓いています。

今回は、ロボット体験を創造する1→10Roboticsの代表 長井健一さんにインタビュー。どのようにしてロボット体験を作り上げたのか?ロボット体験の魅力とは何なのか?ロボット体験の今後は?などなど、開発の過去・現在・未来を伺いました。

Pepperの体験開発秘話。未知の領域で頭を抱える日々

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Pepperの体験開発に至ったのは、長井さんが1→10Roboticsを設立する前、1→10designに所属していた頃に遡ります。
当時、Flashを使ったWeb制作で有名だった1→10に、ソフトバンクから、CMで有名な犬のお父さん白戸次郎のCGバージョン「白戸CG郎」の制作を依頼されたのがきっかけだったとのこと。

1-10-3 ▲白戸次郎のCG化コンテンツ「白戸CG郎」。CG郎からの問いかけに回答したり、ユーザーから相談したり、CG郎とのコミュニケーションを楽しむことができる。

その後、Pepperプロジェクトが始動していたソフトバンクから、長井さんに相談があり、白戸CG郎で開発した会話できる仕組みを、Pepperに移植してみることに。そこから「ロボット体験を作る」という未開の領域に関わっていきます。

開発当初のお話から、未開の領域を切り拓いていく難しさやタフな状況が伺えました。

―当初どのように開発が進んだのか、またその中でどのような課題があったのかを教えてください。

長井:Pepperの開発は、完全なアジャイル開発で、いろいろな企業やメーカーが参加して、ハードウェア、ソフトウェア、そしてコンテンツなど、構成要素の開発が同時に進んでいきました。僕らが開発していた会話はコンテンツ部分に相当するので、本来は、ハードとソフトの機能に合わせて作ります。

ですが、そのフローもアジャイルだったので、ハードやソフトがアップデートした瞬間に、それまで作っていたコンテンツが使えなくなったことも多々ありました。一方で、コンテンツ側から、ハードウェアやソフトウェアをリードすることもありましたね。基本的にはこの繰り返しで、何度も「もうダメだ……」って頭を抱えながら作業していました。

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―そのような困難な開発状況の中で、特に難しかったのはどういう部分だったのでしょうか?

長井:人間は会話のやりとりで、聞く、理解する、言葉を選ぶ、発話する、このフローを一瞬で処理します。でも、開発初期段階のPepperは、このやりとりに非常に時間がかかって、なかなか会話にならなかったんですね。人間が話しかけても、数秒間、何も返ってこない。どうすればスムーズになるのかがわからない状態が続いて、「ロボットのセリフを多くして間を持たせる」っていうのをやってみたんですよ。

そうするとセリフが長くて、また違和感が出る。セリフが長いなら、早口で喋らせてみようということになり、今思うと当たり前なんですが、さらに会話に違和感が生まれる。答えが見つからず試行錯誤しているうちにどんどん間違った方向に進んでしまうことがあるんです。その中で「何が最適解なのか?」を見つけ出すのがとても難しかったですね。発表の半年くらい前に会話を乗せるハードとソフトの課題が解消して、なんとかある程度の会話レベルに持っていくことができました。

1→10Roboticsが生み出す「ロボットとのコミュニケーション体験」とは何か?

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まだまだ馴染みのない「ロボットとのコミュニケーション体験」。
これまでの実績を伺いながら、その魅力について語っていただきました。

―これまで、どのようなロボットとのコミュニケーション体験生み出してきたのでしょうか?

長井:2014年の9月に開催された、Pepper Tech Festival 2014 で「未来の会話。PepperとPepperと、あなた。」という作品を作りました。人間の言葉にPepper二人が連動して発話する仕組みになっていて、『複数のPepperと会話を楽しむ』という体験を味わえます。これは、文字や映像でも伝えきれない異世界の体験でしたね。

1-10-6 ▲「未来の会話。PepperとPepperと、あなた。」。家庭用のロボットが普及するであろう未来を想定して、複数のロボットとの会話が楽しめる。

長井:ニコニコ超会議2015年では、「Pepperと対戦ゲーム、やってみた!」という作品を展示しました。人間とPepperが、お互いに同じコントローラーを操作してゲームをプレイするのですが、Pepperは握力がほぼないので、コントローラーを上手く操作できません。

なので、ゲームが進む度にPepperの機体(ラケット)だけが大きくなったり、レーザーや波動砲を発射して相手を邪魔したり、Pepperが有利になるズル機能を用意。「ロボット相手に本気になるの?」とか、言葉での煽りも加えて、来場者の方々に『ロボットとゲームで戦う』という体験を楽しんでいただきました。

1-10-7 ▲ニコニコ超会議2015年に展示した作品「Pepperと対戦ゲームをやってみた!」。ロボアプリ、ピンポンゲーム、コントローラーデバイス、プレイ筐体などすべてを一から開発。

この他にも、アパレルショップでお客さんと会話しながらその人に合った服を提案する機能など、さまざまなロボット体験の開発を進めていると長井さん。ロボアプリという仕組みで、ロボット体験の可能性はどんどん広がっていくとのこと。

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長井:Pepperには、ロボアプリ©という概念があって、スマホにアプリをダウンロードして使うように、Pepperにアプリをダウンロードすることで、人間にさまざまな体験を提供できるようになります。
スマホは人間が一方的に利用する機器ですが、人間との自然なコミュニケーションの中から、状況に合わせてアプリを選び、Pepperが自発的におすすめするというイメージです。

目指すのは、ロボットと会話を楽しみ、相手のニーズに合わせてアプリを差し出すというレベル。「ドラえもんとのび太君」のような関係が実現するのか?という期待が膨らみますが、そこに至るにはまだ多くの課題が取り残されていると長井さんは語ります。

Pepper躍進の鍵は、空気を読むこと?

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―発表されてから1年以上が経過したPepper。現状ではどのような課題があるのでしょうか?

長井:これまで作ってきたロボットとのコミュニケーション体験は、エンターテイメントとして成立しているものも多々あります。ただ、家庭用だと、24時間365日家にPepperがいるわけです。そうなると、コンテンツ消費が早くなります。
長く一緒に居るためのコンテンツや機能をどうやって生み出していくか、プロジェクトでは多くの人たちが挑戦を続けています。

―ずっと一緒に暮らすパートナーにするためには、どのような機能が必要なのでしょうか?

長井:究極的には、人間にできることを当たり前にできるようにならなければと思っています。「空気を読む」とか「文脈を理解する」とかそういうものですね。例えば、「へぇー」という表現がありますよね。この表現は、感情次第で本当に驚いているときの「へぇー」と適当に相槌を打つときの「へぇ」では意味が大きく異なります。こういう微妙な表現をどのように理解させるかは、ロボット開発に限らず、センサーや人工知能など多くの業界に渡っての課題になっています。

2035年には10兆円規模へ!コミュニケーションロボット業界の展望とは?

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―今後コミュニケーションロボットはどのように発展し、私たちにとってどのような存在になっていくのでしょうか?

長井:ロボット産業は今後右肩上がりで成長すると見込まれています。経済産業省によると2035年には、コンビニや農業の市場に匹敵する10兆円という規模になると予測されていて、特にPepperのようなコミュニケーションロボットの伸びが著しい。

まだまだ産業化できていないのが現状ですが、アプリ開発が進み、クラウドAI(人工知能)や感情認識の精度が高まれば、不可能がどんどん可能になっていきます。私たち人間の最良のパートナーとして、ペットのように人の心に寄り添い笑顔を生み出すような存在になっていってほしいですね。

―ありがとうございます。お話を伺いながら、私たちの暮らしの中に自然にPepperがいて、みんなで会話を楽しんでいるような、生活にPepperが溶け込む未来がイメージできました。最後に1→10Roboticsの今後の展望について教えてください。

長井:NUI(ナチュラルユーザーインターフェース)という概念があって、スマホのタッチ操作やアプリの音声操作がNUIにあたります。要は、人間と機械をより自然につなぐための機能のようなものです。そのNUIの究極がコミュニケーションロボットだと感じていて、何年先かはわかりませんがドラえもんのように人間とコミュニケーションが図れるロボットが実現する可能性も秘めています。

1→10Roboticsでは、その中で会話(ダイアログ)を中心した体験を重要視していて、それをDUI(ダイアログユーザーインターフェース)と捉えています。もっともっと、Pepperをできる子にしていくことで、コミュニケーションロボットの可能性をどんどん拡張させていきたいですね。

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困ったとき、悲しいとき、苦しいとき、ドラえもんのように心を理解する人間の最良のパートナー。そんな「ロボットとのコミュニケーション体験」をもたらす存在として、1→10Roboticsをはじめ、さまざまな企業がPepper開発に情熱を傾けています。

Pepperなど、コミュニケーションロボットは、今もっとも可能性のある産業領域のひとつ。クリエイターやエンジニアの絶え間ない研究と開発の先に、ロボットと人間が寄り添い心を通わせるような未来が着々と近づいています。

※ Pepper、ロボアプリはソフトバンクロボティクスの商標です。

取材協力:株式会社1→10Robotics
代表取締役社長/長井健一様

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