【お前の母ちゃんデベロッパー】 倒産・転職・再就職・保活をママエンジニアはどう乗り越えた? / 大村 亀子さん

この記事では、子育てをしながらソフトウェア開発をしている「ママエンジニア」に話を聞いていきます。


ゲーム会社のバイトから始まり、早い決断で企業を渡り歩く

――いまどういったお仕事をされていますか?

はい、ビープラウドという会社で「PyQ」というサービスの企画立案から開発、営業までを担当しています。

――PyQとはどういったサービスですか?

Pythonをオンラインで学べるサービスです。ブラウザ上で実際にプログラムを書きながら学べる問題を1000問以上用意しています。分野もWebや機械学習など様々ですが、Pythonに特化しているのが特徴ですね。




――面白そうですね。PyQのことは後でまた聞くとして、まずは大村さんのことをお聞かせください。プログラミングは昔から馴染みがあったんですか?

学生時代にWindows95が出たのでHTMLを書いてホームページ作ったり、アルバイト先で、AccessとExcelのVBAとかを触ったりしていました。会社に勤めてから実際に社内開発や講師をやりました。

――どういった会社に勤めたのですか?

学生時代からアルバイトしていたゲーム会社です。ただ、プログラミングの講師の仕事をする機会も多かったのですが、開発経験がほとんどないのに講師をやるのもどうかと思っていて、2年働いてからすぐ転職しました。

――あら、決断が早いですね。次はどんな会社でしょうか。

ちょうどJavaが流行っている時だったのでJavaのミドルウェアを開発している会社に第二新卒という形で入りました。

――なるほど、そこでデベロッパーになったわけですね。

ええ、デベロッパーらしい働き方でしたね。毎日22時くらいまで残業で、出張も多くて。協力会社の人をたくさん付けられて皆さんに教えなきゃいけなかったりして。

――うわあ、大変ですね。


ロールモデルの不在、そして会社が倒産

でも一番の悩みはロールモデルがいなかったことですね。そもそも女性のデベロッパーが全然いなかった。1人だけシステム開発されている10歳上の人がいたんですが、いわゆるDINKSで子供を作らない主義だったんです。私はいずれ結婚して子どもが欲しいと思っていたので理想像ではなくて。

――なかなか理想の働き方をしている人がいなかったんですね。

そして2年後にその会社は倒産してしまうことになりまして。

――ええ!

名古屋のとあるメーカーが部署ごと引き取ってくれることになったんですが、私は当時お付き合いしている人がいたので名古屋に移ることはせず、家の近所のSIerに転職することにしました。

――またしても転職。今度はどんな会社でしょうか?

それが焦って転職してしまったのでよく吟味もせず、少し古風な会社に入ってしまいました。女性は全員制服を着なきゃいけない、とか。しかもその分、給料から1万円引かれている、とか。あと、出産して復職したら時短勤務での6時間になるのですが、給料は半分になってしまう、とか。

――な…。それ、ひどくないですか?

これは女性の立場としてちょっと働きづらいなあ、と思っていたんです。でその時、お付き合いしていた人がまだ大学院生だったんですが、卒業したタイミングで結婚しようということになりまして。

――おお、そうですか。

その旦那さんが働きだしたので、私は会社を辞めてフリーになろう、と。当時はSES(準委任契約)の案件が引く手あまただったので仕事には困りませんでしたし。

――なるほど、早くからフリーの開発エンジニアになったんですね。

ええ、Javaが書けたので色んな企業に常駐させてもらい、収入も大幅に上がりました。その頃は裕福でしたねえ、旦那さんも働いていましたし。それで2年後に子どももできて出産しました。


働くママに立ちはだかる、「保育園問題」

――わあ、すべて順調じゃないですか。

いや、でも妊娠した時に「失敗した」と思ったのは、会社に所属していると育児手当とか手厚いんですよね(笑)まあ、それまで稼いでいたのでトントンですかね。あとは、保育園問題です。

――保育園問題、というと世の中でも話題になっている「保活」ですね。

そう、住んでいた地域では「企業に所属していないと点数が低くて保育園に入れない」なんて言われていて。

――うーん、やはりその壁が立ちはだかるんですね。で、どうしたんですか?

当時、懇意にしていただいていた会社の社長さんが積極的に在宅のお仕事をくださったので、労働し続けて保育園の点数を上げました。フリーのママって働きづらいんだなあと思いました。

――それで、仕事をしながら子育てをしていくわけですね。

ええ、ギリギリまで働いて、産んだ後もすぐに働いていましたね。夫婦で保育園まで送り迎えしたりして。それで2人目もできたんですが、その時は車で通勤していたので妊娠9か月のギリギリまで働かせてもらってました。

――二人目を産んだ後はどのような仕事を?

産んだ後はドイツ人が社長の国際色豊かな会社で働きました。PHPを使うんですが、アメリカ人とかフランス人のエンジニアをサポートする仕事で。最初の2週間だけ出社して、あとは在宅で働いていましたが良い会社でしたね。

――育児のためにしばらく働くのはやめよう、とはならないんですね。

やっぱり保育園的に勤務実績を途切れさせてはいけないですから。住んでいた地域が激戦区だったので、1点でも死活問題でした。

――1点というのは、いわゆる保育園に入れる合否の「ポイント」のことですよね。

そう、育休の人とフリーの人では点差があるんです。この点差が重くのしかかるんですよ。

――うーん。それで何とか保育園には入って、お子さんを育てたと。

ええ、でもムスメが3歳の時、旦那が会社を辞めることになりまして。

――え!なぜですか?

博士号を取りたいということで、話し合った末に大学院に行くことに。でも収入が減りますから、家も売って旦那の実家の近くに引っ越して、私も再び就活をすることになりました。


フリーでいくら実績があっても書類上は「子持ちの主婦」

――何だか激動ですね。再就職は上手くいったんでしょうか。

いやあ、厳しかったですね。8年間個人事業主で36歳の子持ちでしたから、厳しい。40社は落ちました。

――これだけフリーで実績があるのに40社も……。

面接に進めることができれば良かったんですが、ほとんど書類で落ちました。ツラかったですね、面接に呼んでもらえるまでは。何も紹介してくれないエージェントもいましたから。


――なにがそこまでダメなんでしょうかね?

SE職に応募していたんですが、年齢的にもプロマネが求められるんですよね。でも書類だけみたら「なんだ、主婦か」みたいな感じに見られたのではないかと。まあ書類上のアピールも良くなかったかも知れませんが、落とされても「既に締め切りました」とか言われるので具体的な不採用理由は分かりませんでしたね。

――ご自身では他にどのような理由があると思ってます?

3歳の子供がいる、というのもネックだったのではないかと思います。だから、30歳までに環境の整った会社で子育てをしておくのがいいのかなあ、なんて思っちゃいました。

――うーん、企業側の見る目がおかしいと思いますけどねえ。で、再就職先はどのような会社に?

100人くらいのSIerに入れてもらいましたが、Rubyを書いたことがあるという経験が評価されました。英語が使えたほうが良かったので、夜に大学の英語クラスに通って勉強もして。

――夜に大学にも!子育ては大変ではなかったですか?

旦那さんの実家のそばに移ったこともあって、義理の母が面倒をみてくれたり、旦那さんもご飯は作れないけどそれ以外はやってくれたりして、夜も22時くらいまでは仕事ができました。でも、問題もあって。

――どんな問題ですか?

まだ小さかった下の娘がなついてくれなくて大変でした。

――あらら、母になつかない娘……

外資系の会社に出向していたのですが、出向期間が終わって戻るとなった時に、もう帰りが遅くなるのは嫌だなと思って転職を考えました。今度は在宅で働ける会社で、通勤する際も30分以内くらいがいいなあと。

――なかなかの条件ですね。合致する会社はあったんでしょうか。

それが今の会社ですね。ちょうど役員の方とご縁があって仕事の話をしたら「うち、ちょうどリモートワークをしようとしてるんだよね」と言っていただいて。


今の時代、言語別のコミュニティで悩みを相談すべし

――それで転職を決めて今に至る、と。働いてみていかがですか?

働いて丸3年なんですけど、希望通りリモートワーク中心にさせてもらって助かっています。子どもと触れあう時間も増えたので娘も冷たくなくなりましたし(笑) 私はたまに出社しますけど、完全リモートの社員もいますし、男性社員も育休取ってガンガン休んでます。本当にありがたい環境ですね。


――働きやすい環境が見つかって良かったですね。特にどんな時に働きやすさを感じますか?

子どもがいるとちょっとした用事が増えるんですよね。病院やらPTAやら習い事やら。普通の会社だと、子どものこういった用事のために有給をまるごと使うとか半休を使うなんてことをするわけです。

――ああ、よく聞く不満ですよね。保育園に通わせているママさんなんかも「なんで昼間に集まりがあるのよ……」とか愚痴をこぼしてますよね。

そうそう。でも、今の会社だとリモートワークはもちろん、「時間休」という制度があるんです。

――時間休? 1時間単位で休暇を取れるってことですか?

そうです。1時間だけ休んで戻る、という感じで年40時間まで休めるんですね。だから13時から15時までお休みをとって病院の送り迎えに行ったりとかできるわけです。

――それはいいですね。柔軟な制度で。

会社に全く行かなくても仕事ができる制度と環境が整っているので、もう日本中の企業が在宅制度を進めればいいのになあ、と思いますね。

――なるほど。では同じようにエンジニアを目指す女性の方になにかアドバイスがあればお願いします。

そうですね、「何かを作れる人」になると強いと思うので、ぜひそこを意識すると良いのではないかと思います。あと、今だったら女性エンジニアのコミュニティもたくさんあります。そこに行くと皆さん色んなことに悩んでいたり、先輩がいたりするので一人で悩んでいないでどんどん参加して話をすると良いと思いますね。

――あ、そんなコミュニティがあるんですね。

ええ、Pythonだったら「PyLadies Tokyo」とか、言語ごとに女子の集まりがあるんです。子連れOKのイベントも多いですし、私も娘と一緒に参加したことがあります。


PyLadies Tokyoの集まり(Twitterより)一番左が大村さん


――なるほど、そんな大村さん、今はPythonを学べる「PyQ」を担当されているわけですが、これお値段はいくらぐらいなんでしょうか?

ライトプランが2,980円/月で、スタンダードプランが7,980円/月です。スタンダードプランというのは「ビープラウドの社員が質問に答えます」というものですね。

――先ほど仰っていたように、オンライン上でPythonが学べるわけですよね。

ええ、画面は動画を見ていただくと分かりますが、左側に問題が出て、右側にコードを書いていく感じです。




――ユーザー数はどのくらいですか?

ユーザー数は公開しておりませんが、お陰様で右肩上がりに増えています。

――なるほど、それじゃあ今後も忙しくなりますね。

まあ、働きやすい環境なので大丈夫です(笑) あ、でも女性エンジニアも募集中なので良かったら来てくれると嬉しいですね。

https://www.beproud.jp/careers/

――分かりました。大村さん、ありがとうございました! オンラインでPythonを学んでみたい方はぜひ「PyQ」をのぞいてみては!

https://pyq.jp/



取材協力:ビープラウド
取材+文:プラスドライブ/原 正彦

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