※この「キニレポ!」は、“気になるテック系イベント”に参加して、ざっくり概要をまとめてレポートしていく企画です。
こんにちは、レポーターのマサです。
皆さんは「イノベーション」と聞いて何を思い浮かべますか?
会社の中でも「イノベーションを起こさなければ」とか「イノベーティブなアイデアを出してくれ」なんて言葉を耳にすることもありますが、ではイノベーションってどうやって起こしたらいいんでしょう?
そんなことを考えるヒントになりそうなイベントがありましたので、参加してまいりました。
視点を変えればイノベーションは起きる
参加したのは、経済メディアNewsPicksが主催する「デジタル時代のイノベーションの起こし方」というタイトルのイベントです。
登壇されていたのは、アバナード株式会社・デジタル最高顧問の松永 エリック・匡史さんと、日本マイクロソフトの業務執行役員である澤円さん。
該当のNewspicksのサイトはこちら
まずは、松永 エリック・匡史さんのお話しからスタートしました。
松永さんは、バークリー音学院出身のプロギタリストという異色の経歴を持つアーティスト。放送・音楽・映画・ゲーム・広告にいたるまで、幅広くメディア業界の未来をリードするメディア戦略コンサルティングのパイオニアです。
松永さんは、現状についていきなり“誰もがイノベーション出来てないから「イノベーションしなきゃ」と言っているが、単に推進する力がないだけではないか”という指摘を口にします。
コンサルタントとして企業を訪問すると、「便利なツールは無いか?」とよく聞かれるそうですが、強い違和感を抱くのだそうです。イノベーションはツールなどで実行するものではない、ということですよね。
じゃあイノベーションというのは何か。
松永さんは「視点を変えればいい」と言います。
例えば丸い影があったとして、その実態は丸とは限らないわけです。
円すいだったり、円柱だったりもする。
つまり、既にあるものでも、視点を変えれば違うものになる。
これについてプロギタリストである松永さんらしく、例として映画『ボヘミアンラプソディ』を挙げていました。
この映画は伝説のバンド「クイーン」のボーカル、フレディ・マーキュリーの人生を描いたものですが、音楽業界の人たちからすると「なんで今さらクイーン?」という感じがしているのだといいます。クイーンはこれまで何度もブームになっているからです。
キーワードは「新しい過去」
こういった現象を踏まえ、イノベーションのキーワードは「新しい過去」ではないか、と松永さんは続けます。過去のものが繰り返されている。つまり、過去にヒントがあるということです。
また、イノベーションを起こすポイントとして「考えるのではなく感じる」ということも仰っていました。アクション俳優、ブルース・リーの映画では「Don't think, feel.」という有名なセリフがありました。
人がイノベーティブなことをやろうとするとき、「事例を元に考えたいので事例をください。そうでないとやれないです」と口にするケースが多いのだそうです。
そんな声を耳にする度に松永さんは、「事例がないからやるんだよ!」と言いたくなる、と嘆きます。
まさに「考えるのではなく感じろ!」で、ワクワクする気持ちを感じながらアイデアを出していくことが重要だということでしょう。自分たちのサービスや売ろうとしているものに対してワクワクしていないと、そのサービスやプロダクトにも魅力が備わらないですからね。
これは経営者も同じで、細かな数字ばかり計算している経営者よりも「それ面白いじゃん!」とワクワクしている経営者のほうが現代では上手くいっているのだそうです。
そう言った意味で、イノベーションを起こすためには“組織の影響もある”と言います。やはりトップがワクワクしていたり、イノベーションにコミットすることも必要なのです。
皆さんの会社のトップは、イノベーションを起こそうとしているでしょうか?
「デジタルフォーメーション」を意識する
さて、続いては澤円さんです。
日本マイクロソフトの業務執行役員でもある澤円さんからは、まず“『時価総額ランキング』の変化”についてお話しがありました。
世界の『時価総額ランキング』が、30年前は下記の通りで、昔からあるビジネスをしている日本企業が並んでいました。
1位 NTT
2位 日本興業銀行
3位 住友銀行
4位 富士銀行
5位 第一勧業銀行
しかし、現在はイノベーティブな米国のテクノロジーカンパニーばかり。
1位 アップル
2位 アマゾン・ドット・コム
3位 アルファベット
4位 マイクロソフト
5位 フェイスブック
※詳しいランキングを知りたい方はダイヤモンドオンラインの記事などをご参考に。
しかも、最近のトップ企業は“ゼロをイチにした”というわけではないのです。これはつまり「時代の流れを表している」と澤さんは言います。
日経XTECHの木村岳史さんの話をもとにされていましたが、80年代~90年代はハードウェアの時代で、それからソフトウェアの時代になり、現代はデジタルの時代になっている。だから、キーワードは『デジタル・トランスフォーメーション』である、と続けます。
そして、デジタルの時代になってきた象徴的な例として「お金」を挙げていました。
日本は遅れていますが、欧州や中国ではお金のデジタル化が進んでいます。香典・ご祝儀・お寺のお賽銭・ホームレスまでもQRコードを使っています。
タクシーももちろんQRコードですが、この点では日本でも観光地を中心に微信支付(WeChatPay)や支付宝(Alipay)に対応する企業が増えているのだとか。
これらの流れに基づいて考えると、これからは“「データ」になってないと商流に乗れない時代になる”ということでした。
自分をタグ付けし、コンテンツ化する
「データ」の時代を生き抜こうとした場合、ポイントは「自分をコンテンツ化する」ことだと澤さんは言います。
さらに、自分をコンテンツ化するうえで大事なのは「ビジネス上のタグ付け」をすることだ、と。
自分自身がサービスを享受するだけの存在になるのか、イノベーションを起こす側になるのか。イノベーションを起こしたいのであれば、まずは自分をタグ付けするべき。
タグを付けたうえで、世の中に価値を出さなければならない、ということです。
価値を提供する、という点に関して澤さんが興味深いお話をされていました。
それは、「シリコンバレーに視察に行く日本企業が現地で嫌われている」という話でした。
企業研修でシリコンバレーに行く日本人は、話を聞くだけ聞いて帰ってしまう。この行動が現地で非常に嫌われているというのです。
具体的には、シリコンバレーの人たちが「我々の話を耳にして、その目で見て、何か気付いたことや提案などは無いですか?」と聞くと、日本人は「自社に持ち帰り、検討します」というのだとか。すると現地のエンジニアや経営者は、「は?」と首をかしげる。
そして、「だったら初めから権限を持った人間に来て欲しい…」などと漏らしているのだとか。確かにそれはもっともな指摘ですよね。
シリコンバレーというのは多くの優秀な人が集まってきて、それぞれが価値を出しながらブラッシュアップしている場所であり、そういった文化が醸成されているわけです。だから、「価値を提供する」という意識が当たり前。
では、皆さんは世の中にどんな価値が提供できるでしょうか。
そのために必要なのは、外からどう見られているかを知ること。
他人が自分をどう検索するのかを考え、発信をすること。
発信をしなければ情報も集まらず、受信の質は上がっていかないのです。
過去のものを新しいものに転換していく
それぞれの講演を終えたら、後半は2人を交えたパネルディスカッションでした。投げかけられる質問をベースにお二人が回答されていました。
質問と回答をそれぞれ書いていきましょう。
――“過去のことを新しいものに転換していく”ために必要なことは何でしょうか?
松永氏:自分で全部やらないこと。多くの人で進めていくといいでしょう。
澤氏:プラットフォームとキーワードを提供したら、あとは皆にゆだねてしまうことが大事。
松永氏:確かに、そうすれば新しいものに転換されやすいかも知れません。
澤氏:あと、欲求がベースにあるべきで、“適当パンチ”では当たらない。自分がやりたいことを言語化してアウトプットすると良いですね。アウトプットすると反応も来るが、批判や罵詈雑言は全部無視していい。ただ、具体的な指摘は受け入れてみることが大事です。
――他に“新しいものに転換するために必要なこと”は何かありますか?
澤氏:「組み合わせ」を意識すると良いのでは。
松永氏:その昔、携帯にカメラを付けたというのもイノベーションでした。開発者の方は「何が起こるか分からないから面白そう」という考えだったそうです。
澤氏:そのためにも「広くアンテナを張っておく」というのは大事ですね。
松永氏:「まずやってみることが大事」という話もありますが、これはミュージシャンでいえば「音を出してみよう」って話だから当たり前のことなんですよね。
澤氏:あと日本人は「怒られないようにする」というのを気にし過ぎです。日本企業の特徴は“クビにならない”こと。だったら、やりたいことをやって「あの人は別次元の人だ」と思われてしまえばいい。
情報発信以外に必要なこととは
――自分をコンテンツ化するうえで、情報発信以外に必要なことはありますか?
澤氏:“エントリーポイントが低くて誰もやってないこと”を掛け合わせると良いのでは。例えば、髪を伸ばす、髭を伸ばす、日焼けする、白いメガネをかけるとか。知り合いでも水玉模様しか着ない人とかペイズリー柄しか着ない人とかいます。
松永氏:私はジムキャリーの「イエスマン」が好きなんですが、仕事の依頼が来たらまさに「イエス」と言って断らずに請けまくってみる、というのは良かったです。専門外のクラウドコンピューティングの本を頼まれて書いたり、恋愛本を書いたりもしました。自分では思いもよらない力が出せたので、“頼まれたらやってみる”というのはオススメです。
澤氏:何かについて200文字以上書いてみる、とかでいいかも。あと、ひたすら続けると言うのも大事です。マイクロソフトに「ちょまど」という女の子がいます。彼女は松屋が大好きで松屋のことを発信しまくっていて、その結果「松屋の人」と覚えられているんです。
会社に届いてるたくさんの年賀状、ありがとうございます??嬉しいです!
— ちょまどMadoka@エンジニア兼マンガ家 (@chomado) 2019年1月15日
全て楽しく拝読しています??
今年も松屋関係のコメントが多いですね?? pic.twitter.com/VbpXFS7BdN
――所属している会社がイノベーションをしない場合にどうしたらいいか。また社内で嫉妬がある場合は?
松永氏:イノベーションをしないトップは問題ですよね。暗殺するしかない!…というのは冗談ですが(笑)、イノベーションを起こしたいならその会社に固執することはないのでは?
澤氏:社内で嫉妬がある場合でも、固執するほど尽くす価値のある会社は少ないですよね。過去と他人は変えられないのだから会社の人も変えることができない。自分に出来ることをするしかないでしょう。
――イノベーティブなアイデアを出す根本的な方法はありますか?
松永氏:とにかく致命傷を負わないレベルでチャレンジを繰り返すことです。
澤氏:「相手が喜ぶことをやる」ということから離れない、というのは大事です。そこをやっていれば収益も必ず出てくる。どんなプロジェクトでも、誰をどう幸せにするかをしっかりと考えましょう。
――行動を続けるモチベーションはどう醸成すべきでしょうか。
澤氏:自分に正直になるべきではないでしょうか。やりたくもないことをやる必要はない。本当にやりたいことだったら続くはずですからね。
ということで、「イノベーションの起こし方」のイベントレポートをお届けしました。
なんだか自分にも何かができそうな気がしてきましたね。
まずはアクションしてみましょう。
それではまた!
取材+文:プラスドライブ