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物語は人工知能が作る!クロスリバが開発する「PENDONA」が生み出す未来のクリエイティブ

「すべての創作物にストーリーをあたえる」ことをミッションとするクロスリバ。創作のセオリーを学習した人工知能が、クリエイターに適切なアドバイスを送り、"あらゆる人が物語を作れる世界"を実現するサービス『PENDONA』とは果たしてどんなものなのか?

クリエイションという形なき領域にテクノロジーを武器に攻め込む。まさに荒唐無稽なチャレンジに挑むのは、クロスリバ代表取締役にして、自ら開発に携わる川合雅寛氏です。氏にPENDONAのベースともなった、ハリウッド映画もこぞって取り入れているという”神話理論”から、PENDONAの構想、そしてこれからの物語の生み出し方についてまでの熱い"物語"をうかがってきました。

スター・ウォーズやハリウッドで使われているロジックを人工知能に落とし込む

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―そもそも、なぜ『PENDONA』というサービスを作ろうと思ったのでしょうか。

川合:子どもの頃から、小説やマンガを書きたいとずっと思っていたんです。でも、途中で筆が止まる。構成が書けないんです。その後社会人になって、ストーリー開発コンサルタントのクリストファー・ボグラーが書いた『物語の法則』を読み、そこで”神話理論“というストーリーテリングのロジックに出会いました。『スター・ウォーズ』や『アイアンマン』といった大ヒット作も取り入れているロジックです。

ではロジックがあるということは、当然ツールがあるだろうと探したら、いいものがない。じゃあ作ってみるか、というのが『PENDONA』の始まりです。

―そもそも神話理論はどういうものなのですか。起承転結みたいなものなんでしょうか。

川合:起承転結というのは非常に粗い。神話理論にのっとっている海外の映画は三幕、12の段階で構成されています。第一幕から第二幕へ移るときに、「戸口の番人」という敵や葛藤があり、それを乗り越えることによって、次の場面に転換していきます。

そして、突破するために主人公をメンターが導く。ここでいうメンターとは、スター・ウォーズでいえば、オビ=ワン・ケノービやヨーダのような存在で、導く者です。そのあとの山場で最大の試練が訪れる。そして、最後に”エリクサー“、つまり宝を持っての帰還となります。

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▲クリストファー・ボグラーによる神話理論の各段階を示した概念図。3幕構成がさらに12の段階に分割され、物語が必要とする要素を示す。

川合:本来はもっと詳細なセオリーがありますが、こういった”物語に必要な要素”を定型化したものが神話理論です。これはジョーゼフ・キャンベルが、世界中にある神話や英雄譚といった物語を全部足して因数分解したものを神話理論としてまとめています。それを映画に応用したのが、クリストファー・ボグラーやシド・フィールドです。こういったロジックが人のノウハウの中にだけ閉じているので、それをテクノロジーで一般化する、というのが、『PENDONA』の目的です。

―なんとなくわかってきました。では、『PENDONA』はどのようなシステムになっているんでしょう。

川合:まずは見てもらうのが、話が早いと思います。色々な方にリサーチしてみたところ、みんなスマホを使って、アイデアを書き留めていたんです。いわゆる”神が下りてきた“という状態のとき、とっさにメモをとるにはスマホです。

ただ、思いついたものは大体がエッセンスだけで、メモアプリだと、抜けや漏れが発生する欠点がある。そこで、神話理論のロジックをきちんと読み解いて、まずはスマホアプリとしてフォーム化しようとしています。

『PENDONA』のプロトタイプを大公開!

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▲キャラクター作成画面
フィジカル設定や、ファミリー、卒業した学校などが入力可。パーソナリティを決める項目では、“エニアグラム”と“テオプラストス”など4つの属性を選び、キャラクターの人間性を決める。『アーキタイプ』の項目では、主人公とシャドウ(ライバル)、メンター(師匠)、アレイ(仲間)、場面転換のときに通知をくれるヘラルド(使者)、門番などが決められる。将来的には作ったキャラクターがどれだけ他のユーザーや物語に使われているのかを可視化させていく予定。

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▲プロット
シリーズ名、タイトル、概要を表すログライン、シナプシス(要約)がある。ハリウッドの映画と同様に、第一幕、第二幕前半、後半、第三幕などに区切られている。

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▲世界観
地球といった大もとの世界のほか、国や文化などが設定できる。例えばGDPを設定すると、「100人の村なのに、1兆円のGDPはおかしい」といった具合に、AIがより精緻な世界観を提案してくれる。

―キャラクターを作るのにもガイドラインがあり、神話理論に基づきフィットするものをテクノロジーで提案していくというわけですね。で、プロットをはめていき、たとえば侍の話であれば、世界観を入力して、項目ごとにサジェストしてくれると。

川合:それ以外にも、前に読み込んだユーザーの文献を参照し、矛盾を指摘することもAIでできることが最近わかってきました。その人が作った言葉の意味を辞書化しておけば、「あなたの言っていることは、昔と今ではこれだけ矛盾があるので気を付けて」とサポートができるようになります。

―時代考証などもAIが検証してくれるんですか!?これなら誰でも作品が書けてしまいそうですね。

川合:実際に僕が神話理論を使ってエンタメ作品のプロジェクト・マネージメントをやった際、もともと原作があったのも大きいですが、思ったより短い時間で書けました。ノウハウさえ知っていれば、素人でも書くことができる。

僕が作ろうとしているものは、今10点しかとれないものを55点に引き上げようという考え方。つまり、テンプレートにあてはめることによって、まったく書けなかった人が50点、平均点のものが書けるようになるサービスです。

それを、さらにブラッシュアップしていきたい場合は、AIがサポートします。人工知能に携わっている方たちと話して、辞書データベースさえあれば、言葉をマッピングして、AIでも言語の善し悪しを判断することは可能だということがわかりました。ただ、そのアルゴリズムを作らなければいけないので、まずはそのためのデータを集める必要があります。

ストーリーを作るのに才能は要らない!?

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―人工知能がストーリーを作るというということは、具体的にはユーザーはどのようにサポートを受けられるんでしょうか。

川合:このサービスの根底は、「ストーリーを作るのに特別な才能は要らない」ということ。つまり、エントリーユーザー向けですよと言ってます。

調べてみると、映画やドラマのような総合芸術作品は、才能よりもみんなでどれだけコンセンサスをとって作っていくようなインテグレーション(統合・集積)能力の方がずっと重要なんです。僕も実際に経験していて、きれいな文章を書けることより、きちんと骨組みを作って、最初から最後までを定義することの方がずっと大切だということがわかりました。

見てもらったように、『PENDONA』の構成要素は4つあります。ひとつは”キャラクター“、もうひとつが”プロット”、話の流れです。そして”世界観“と”ステージ”。ステージは舞台装置という意味で、建物や街の名前、宗教といった要素をまとめています。これらがデータベースを作るためのシステムで、ユーザーはPENDONAを使い、作品の骨組みを簡単に作っていくことができます。

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▲川合さんが他にバイブルとして挙げるジョーゼフ・キャンベルの『千の顔を持つ英雄』は神話理論を具体的な創作に落とし込んだ一冊。ジョージ・ルーカスはこの本から着想を得て、スター・ウォーズを創作したと言われている。

―つまり、小説界の『Unity』みたいなものと考えてよいんでしょうか。

川合:まさにそうです。キャラクターの属性も細かくデータ化しようと思っていて、目の色やパターンもある程度決まっているんですよ。ゲームのアバターを作るのと同様に、データをもとにキャラクターが生成できるようになります。

今考えているのは非常にシンプルで、とりあえずスマホで作って、クラウドに上げる。バックエンドの仕組みのほうがむしろ複雑で、最初のベータ版はニフティの『mBaas』にどんどん上げようと思っています。

スケールが見えてきたら、最新のサーバーレスアーキテクチャーの方にシフトする予定です。開発はアシアルの『Monaca』を使い、Java ScriptとHTML5とcss3で作っています。結構な速度が出るので、UIとしては十分かと思っています。

マンガ編集者が熱望する『エディターズAI』とは?

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―AIはどのようなものになるんでしょうか?

川合:AIは今データを貯めなければいけない段階です。マシーンラーニング使って解析した結果をエキスパートシステム、ワトソンを使って跳ね返らせるという方法を考えています。『エディターズAI』という名称で、いわば『ドラゴン桜』や『宇宙兄弟』などを世に送り出した名編集者である佐渡島さんのようなAIを目指しています(笑)。

書く人は自分が書いたものを客観視できないから、編集者の需要は大きいんです。でも、1人1人に編集者なんてつけられないので、だったらある程度まではAI化する。大手出版社のマンガ誌編集者にエディターズAIの話をしたら、「今すぐ作って」と言われました(笑)。

―確かに物語に整合性を貫くのは簡単ではないですよね。

川合:「ググる」とか調べるという行為には、結構センスが必要で、検索の人的コストが現在は高すぎると思うんです。だから、『PENDONA』で物語と情報をマッチングできれば、と。正しいデータを一定の水準で貯めて、保っていくことが、このサービスの源泉にあると思っています。

将来的には、『PENDONA』のマッチングのログが貯まって個別最適化されていくので、アダプティブラーニングという次のステージにいけるかなと思っています。その他にも、マーケティング分析、作品に対する分析は絶対必要です。「あなたの作品は独りよがりだから、もっと世の中で流行っている○○のようなエッセンスはどうでしょうか」という提案機能を入れていきたいですね。

―現状で技術的な困難というのは、サジェストのための人工知能でしょうか。

川合:いえ、意外と課題はフロントエンドの方ですね。アプリを記述するときに、AngularJSを使っていますが、結構癖がある(笑)。あとはUIもGoogleのマテリアルデザインで全部コーディングし直しているので、新しいものを適応すると、どうしても衝突が発生するというところですかね。

―意外と難しいところは表側なんですね。

川合:表側というか、気難しい人たちを相手にするので、一番良いUXを作っていかなくてはいけない。最良のものにどんどん変えていかなければいけないのかなと思っています。

生み出された物語が共有され、その物語がデータベースとなる世界

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―『PENDONA』を使って物語を作って、そこで終わり、という世界だけではないですよね?

川合:サービス名のPENDONAの「PEN」は書く、「DONA」は韻を踏みたかったので、実際は「DNA」です。書いた作品やキャラクターが遺伝子のように継承されていくという意味があります。たとえば僕が作った作品のキャラクターを、誰かが使ってスピンオフを書くといった世界観を作りたいんです。データベースを作ることにより、すべての世界がつながるようなシステムを作ろうとしています。

このサービスが提供しようとしているのは「創作物の設計図」、これを僕はプロットと呼んでいますが、最近では「創作のレシピサービス」という言い方もしています。

今ある小説投稿サービスのほとんどは、書き手にアウトプットして外に出させることを目的としています。一方『PENDONA』は頭の中にある物語を整理する手伝いをする、いわばフレームワークです。『カクヨム』などと似たサービスかと聞かれることがありますが、むしろ提供先です。

そして『PENDONA』を使って生み出された物語は他のユーザーにシェアされていく。そういった意味では、『クックパッド』なんかに非常に近いサービスかな、と。

人をジャンプさせる。それがAIのアイデンティティ

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―では、『PENDONA』で生み出された物語は、どう人の心を打つと思いますか? 定番の手法だから響くはずということでしょうか。

川合:響くためには、何回も作らないといけないと思っています。僕は物語を書ききれない人に対して、書ききらせたかった。僕はあくまで0から1を突破させたいだけなので、誰かを感動させる以前にまずは「自分で書いた」という達成感をもってほしい。そうしたら次に行ける。そこが今回のサービスのポイントです。

感動させるというのは120点のロジックです。このサービスはあくまで「10点を55点にする」もので、120点に上げるためには、自分で何度も書いたりするしかない。

―最終的にデータベースができて、今のクリエイションを一歩ジャンプするのが人のマインド。そのマインドをサポートするのが『PENDONA』と。

川合:まさにその通りです。AI、人工知能は、「人をサポートする」ものだと思っています。もっとすごいところに人間がチャレンジするために、やらなくていいことは人工知能がやってくれる。だから、人間としてもっと進化できるかもしれない。あくまで人をサポートするものだから、『エディターズAI』なんです。

―つまり、『PENDONA』を作る根底で、人の可能性を信じているということですよね。

川合:もちろんです。人間しか作れないと思っています。最終目標としては、”ポスト宮崎駿“となる、次の本当のクリエイターを探さなきゃいけないと思っています。

―クリエイションという分野で、テクノロジーやエンジニアはどう関わっていくと思いますか?

川合:これまでSIerとしてずっと作ってきた立場でしたが、ITはインフラで道路や建物と一緒で目立たないものだと思っています。その上で活躍する人たちが目立てばいいと。昔から変わらないと思うのですが、橋を作った人は知られないけれど、自分の子どもに「あの橋を作ったんだ」というだけで満足すると思うんです。

エンジニアとしてのアプトプットが物語であれば、もっと分かりやすい。「あの作品は自分のエンジニアリングでできているんだ!」と言えたら、すごく誇らしいじゃないですか。そこにクリエイティブに関わるエンジニアとしての喜びがあるはずです。

―将来的には『PENDONA』発のヒット作が生まれるかもしれませんね。ありがとうございました。

テクノロジーが、ヒトに進化を促す

最初は想像もつかなかった『PENDONA』の概要が、話を聞くにつれ、どんどん輪郭が明らかになってきました。誰しもが心のなかに持っていた、「作りたい・書きたい」という思いが、今クロスリバの構想とAIというテクノロジーによって可能になろうとしています。

「コンピュータは人を支えるもの、地道に一個一個積み重ねていくことが、クリエイターを支えていくことになる」と話す川合さん。『PENDONA』発の作品が生み出されていくことも、そう遠い未来のことではないのかもしれません。

取材協力:クロスリバ株式会社

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