「今から始めたところで、もう遅い。」
やってみたいことはあるのに、このように考えてしまい、行動に移せなかった経験を持つ方は多いのではないでしょうか。
「なにかを始めるのに遅すぎることなんてない。」
今回、登場していただく若宮正子さんと山崎大助さんは、そんな言葉を体現しているお二人です。
若宮さんは82歳でiPhoneアプリを開発しており、山崎さんはアパレル業界の販売店店長を退職し、28歳からエンジニアを志すようになったそう。
変化を前向きに楽しむ、お二人の対談をお届けします。
身体を壊したことがきっかけでプログラミングを始めた
若宮:山崎さんは、28歳までアパレル業界で働いていたんですか?
山崎:はい。販売店の店長をしていました。
若宮:そこからどうしてプログラミングをやろうと思ったんですか?
山崎:職場の勤務時間が長かったこともあり、身体を壊してしまったんです。当時は、会社のために必死に働いていたんですが、自分の代わりはいくらでもいるのに気付いて。
▲山崎大助氏。ジーズアカデミー主席講師/デジタルハリウッド大学院 准教授。MicrosoftMVP[2013-2017]受賞。著書に『レスポンシブWebデザイン「超」実践デザイン集中講義』(ソフトバンク クリエイティブ)『jQueryレッスンブックjQuery2.x/1.x対応』(ソシム)『PHPはじめてのフレームワーク Laravel5.5 』(Amazon)『日経ソフトウエア』、『@it』他、雑誌での連載・書籍執筆多数。
山崎:そこから自分にしかできない仕事、手に職をつけられるものを模索し始めました。
その頃、パソコンが流行り出した時期で、これなら手に職をつけられると思い買いました。それがきっかけですね。
若宮さんはいつからパソコンを使い始めたんですか?
若宮:元々は銀行員として働いていたんですが、退職金でパソコンを買いました。私は新しいもの好きなんです。
当時は無線でインターネットに繋げられず、パソコン通信という電話回線が主流でした。パソコンを使う時にキーキーカーカー音が鳴ってましたよ(笑)。
▲若宮正子氏。シニア世代のサイト「メロウ倶楽部」副会長/NPO法人ブロードバンドスクール協会の理事。iPhoneアプリ「hinadan」の開発者。米国アップルによる世界開発者会議「WWDC 2017」や「国連総会の基調講演」に登壇。
若宮:母の介護もしていたんですが、介護をしていると、どうしても他の人と交流する機会が減ってしまうじゃないですか。そんなときに、ネット上の「メロウ倶楽部」に入って、人と接する機会ができ、救われていましたね。
山崎:「hinadan」アプリ開発のきっかけはなんだったんですか?
若宮:友人から「スマホが使いにくい」とか、「アプリがおもしろくない」という話を聞いたんです。じゃあ、お年寄り向けのアプリを誰かに作ってもらおうと、すぐプログラミングに詳しい人に相談しました。
すると「若宮さんが自分で作ればいいんじゃないですか?」と言われて、私も素直なもんで、「ああ、そっか。」と納得して作ることにしました。
▲若宮さんが開発した「hinadan」。雛人形を雛壇の正しい位置に配置するゲームアプリ。
世の中に発信したことで、人生が変わった
山崎:そこからあっという間に、Apple主催のイベントに呼ばれたり、国連での基調講演に繋がっていったのですか?
若宮:そうなんです。普通のおばあさんだったのに、iPhoneアプリを開発したら、有名なおばあさんになっちゃった(笑)。
若宮:国連では英語でスピーチしたんですよ。
山崎:英語は元々学ばれていたのですか?
若宮:素人です。でもそれがいいって国連の人に言われました。
国連で演説する人の中には、発展途上国からきて、学校に通ったことのない人たちだっている。日本人は義務教育で習っているのに気にしすぎだって。
山崎:たしかに、完璧に喋れないと恥ずかしい、という固定観念を多くの人が持っている気がします。
山崎:その話で思い出したことなんですけど。
35歳くらいになって、「AIR NOTE!」というスケジュール管理ができるフリーソフトを作って、Adobeギャラリーというところで公開しました。するとそのサイトのダウンロードランキングで3位にランクインしたんです。
若宮:おお。
山崎:その反響のおかげで、出版社から記事執筆の依頼が来ました。
ソフトを出すまで、注目されることはなかったのに、自ら発信した途端、次に繋がった。そして記事が公開されたことで、書籍の執筆依頼をいただき、今ではジーズアカデミーズTOKYO、他大学、デジタルハリウッド大学院での教員の仕事に携わっています。
発信したことによって、人生が変わっていったんです。
若宮:完璧じゃなかったとしても、世の中に発信することは大事ですよね。
パソコンがあればなんでも作れる
若宮:プログラミングの魅力ってなんですかね。
山崎:「こんなものが欲しい」と思ったときに、パソコンひとつで作れるところじゃないでしょうか。作るために必要な知識が足りなくても、その部分を勉強すれば実現できます。
若宮:うんうん。
山崎:それにプログラミングってコードを覚えて、書けば、その通りに動いてくれますよね。
山崎:僕がアパレルの販売店で働いていたときは、一日にたくさんのお客さんが来て、それぞれに合わせた声掛けをする必要があった。10人いれば10人違う説明で接客するという結構大変なんですよね。
プログラミングは、一つの言語、方法だけ学べば動いてくれます。そこがプログラミングの良さだと感じてます。
若宮: コードを書く作業って、余計な解釈は入らないですもんね。「こういうつもりで、伝えていたのに」という誤解が生まれづらい。
山崎:そうなんです。
若宮:論理的な考え方が身につくのも魅力の一つですよね。
プログラミングは、筋道を通して書かないと絶対に動かない。筋道通りにやれば動く。論理的に考える習慣を持てるから、お年寄りも学んでおけば、オレオレ詐欺にも引っ掛からなくなると思う(笑)。
トライ&エラーを繰り返していけば、なんとかなることが学べる
若宮:年齢を理由に、「プログラミングを始めるのは遅い」と思ってしまう人もいますよね。
山崎:慎重に調べすぎて、身動きが取れないのかもしれません。僕もプログラミングを始める前はそのタイプでした。
ですが、トライ&エラーを繰り返せば、なんとかなることをプログラミングで経験しました。やっていくうちに性格も変わった気がします。
若宮:プログラミングを学ぶコツは、トライ&エラーをなんども繰り返すことですよね。
山崎:はい。正解だけを出し続けて学習していくよりも、エラーを経験した方が学習スピードは圧倒的に早い。
僕は、28歳からこの業界に関わりはじめましたけど、プログラミングに関しては、「今更始めるのは遅い」ということはない。少なくとも能力や年齢の問題ではないですよね。
若宮:私も「80過ぎてから、プログラミングを始めるなんて、勇気ありましたね。」としょっちゅう言われるんですけど、別に勇気いらないですからね(笑)。
そりゃあ、バンジージャンプとか、スキューバダイビングをやるなら、お医者さんに止められるかもしれないですけど、プログラミングは止められないですよね。
山崎:その通りですね。
若宮:お金がかかると思い込んでいる人もいますけど、パソコンがあれば、どうとでもなる。そもそも、とりあえずやってみて飽きたらやめればいいんですよ。
専門学校で勉強しても、いいアプリを作れるとは限らない
山崎:僕は、いいアプリを開発するには、普段の経験が大事だと思っています。いい大学に通っていたり、専門学校で勉強したからといって、必ずいいアプリを作れるわけではない。
「こういうものがあったらいいのに」と思う経験が多い人ほど、使われるアプリを作る。
だから、いろんな経験をしている人にこそプログラミングは学んで欲しい。
若宮:その通りだと思います。イノシシを捕獲するシステムを作って、有名になった猟師の谷川さんという方がいらっしゃるんですけど。
若宮:谷川さんが住んでいる福井県の勝山市は、イノシシが農作物を荒らして、対策に困っていたんです。そこで谷川さんは3週間プログラミングを学んで、有効な罠を作った。
プログラミング歴は長くなかったけれど、イノシシに関する知識と経験を誰よりも持っていたから、いいものを作ることができた。
山崎:アプリを作る上で身近な問題を解決したいという思いは大事ですよね。
若宮:はい。『よくわかるiPhoneアプリ開発の教科書』著者の森巧尚先生も「作りたいものが見つかれば、半分できたも同じ」と言っていました。
山崎:プログラミングを学ぶ上でも、体系的に基礎を学ぶのではなく、作りたいものに対して必要なものだけを覚えていく方が成長は早い。
若宮:私も「hinadan」を作ったとき、「基礎はいいから、これを作るのに必要なことだけ教えて」と詳しい人に相談してましたよ。
山崎:これからは自分が欲しいものや、解決したい課題がある人といった「作りたいものがある人」がいいアプリを作れるのかもしれませんね。
若宮:たとえスキルがなくても、スキルを持った人を見つけてペアを組んでもいいかもしれない。
山崎:そうですね。どんな形でもいいから、一度やってみる。
若宮:ええ。「とりあえずやってみろ」を、モットーにしたらいい。
山崎:これで、記事のタイトルは決まりましたね、「とりあえずやってみろ」(笑)。
若宮:それがいいかどうかはまた別ですけどね(笑)。