大切なことはみんな本から学んだ!凄腕CTOの「本棚」をのぞいてみよう[第2回 VASILY今村雅幸]

Apple「App Store Best」、Google Play「ベスト オブ 2015」双方のベストアプリに選出。
ユーザーレビューの平均点でも4.5点を獲得するなど国内外で高い評価を得ているソーシャル・ファッションコーディネートアプリ『iQON』。

その開発・運営を手がけるVASILYのCTOとしてすべての開発に携わり、エンジニアの組織づくりを行う今村雅幸さんに、今回エンジニアチームの本棚を見せていただきました。


▲iQONを運営をされているVASILYの本棚。ファッション誌も多く見受けられました。

本のメリットは気軽に共有できることという今村さん。

「自分で読んでいいと思った本は、エンジニアの全体ミーティングで紹介したりとか、特に新卒の子たちに向けてその子に足りてないようなスキルを補ったりとかして共有しています」

そんなVASILYのすべてのテクノロジーを担い、今村さんの知識を形成しているといっても過言ではない名著5冊を今回紹介いただきました。

ベンチャー企業で働く意義を問われ、エンジニアとしての自信を鼓舞した一冊


【概要】著者Paul GrahamはLISPプログラミングの達人であると同時に、後のYahoo!Storeとなるソフトウェアを作り、ベンチャー創業者として大きな成功を収めたことで知られる。本書ではコンピュータが大きな役割を担う時代において、いかに発想を広げ、美しいものを設計し作り上げるかを、さまざまな切り口から大胆に考察。

—1冊目は『ハッカーと画家』。まずどのように出会ったのでしょうか?

今村:これはまだ僕が23歳でYahoo!にいたときの話ですね。会社で輪読会みたいなものをやっているときに、当時の先輩エンジニアの方がこういう本あると紹介してくれたのがきっかけです。

これはLISPプログラミングの達人ポール・グレアムという人のエッセイ集なんですけど、まず僕らエンジニアのことをハッカーというふうに表現していることと、エンジニアっていうのはカッコいい職業というか、社会で意義のある職業なんだなっていうのに再度気付かされたっていうところが大きなところですかね。

1番いいなと思ったのは、実は『ハッカーと画家』ってタイトル通り、「ハッカーと画家っていうものは似ていますよ」というところ。

仕事に終わりがないところだったりとか、実際に手を動かしながら学んでいくところなどは安易に思い浮かべるところなんですが、実はその先に良いことが書いてあって、ベンチャー企業で働く意義みたいなことが書いてあるんですね。

大企業と同じことやってても勝てませんよとか、技術を武器にして大企業ができないようなことをやるべき、と。そういうところは当時Yahoo!にいた自分に、まさに大企業辞めてベンチャーをやるぞっていうときの気持ちとシンクロして、自分に刺さったというのはあります。


▲普段の読書量としては、技術書も含めて月4〜5冊という今村さん。

—いいですね。自分の思いと重なる瞬間が読書の醍醐味ともいえます。

今村:そうですね。自分ごとにできるタイミングでその本を読むと、やっぱり全然本の価値は変わるなって思っていて、そういうタイミングでちょうど刺さったっていうのが大きいですね。

若い世代に「基本」をどうやって効率的に伝えるか。そのすべてがここにまとまっていた


【概要】ソフトウェア開発に不可欠な3つの基礎知識―バージョン管理/ユニットテスト/プロジェクトの自動化―をまとめた一冊。このセットには、チームの始動や生産性の大幅な向上を計るためのプラクティス、ツール、理念が網羅されている。

—次は『達人プログラマー』。タイトルだけ見ると実践書のような雰囲気がしますが。

今村:これはもうその名の通りなんです。どちらかというといわゆるWebエンジニアとしての心構えがただひたすら書いてあるという感じですね。

毎日毎日コードを書いていたり、プロダクトをつくってるときに起きていること、気をつけないといけないことなどが、ものすごく明確に文章化されているっていうイメージなんです。

—”気をつけないといけないこと”とは、具体的にはどんな事例になるのでしょうか?

今村:例えば「割れ窓理論」ですね。作業中、一部に悪いソースコードであったり、悪い実装がされてるとそれがだんだん広がっていって、「こう書いてあるから、こんな感じでここも同じように書いていいんだ」みたいな感じで、1カ所悪いところがあると、それがチーム全体に瞬く間に広がっていくんですね。

あとは、よく言われるようなDRY(Don’t Repeat Yourself)原則だったり、どういうツールを使うとよいかが事細かに書いてあったりするので、エンジニアとして特に新卒向けという気がします。

だから何年か働いてから読むと、まあ確かにそうだなって思えるようなことばかり書いてあって、1人のエンジニアとしても共感できることしか書いてないです。


▲取材当日に同席いただいたVASILYエンジニアチームのみなさん。

—この本はいつごろ読まれたのですか?

今村:VASILYに入ってからですね。新卒採用だったり自分より下の若い世代の人たちが入ってくるときに読みました。

要は自分としてはある程度経験があるけれど、それを若手にどう伝えようかとなったときに、やっぱり本にある程度まとまっているものを紹介したほうが効率的と思ったんです。

自分のエゴよりもチームの生産性を最大限に考えるのが真のリーダー像


【概要】複数のプログラマが関わる場合、優れたコードを書くだけではプロジェクトは成功しない。本書は、たくさんのフリーソフトウェア開発に関わり、その後Googleでプログラマを経てリーダーを務めるようになった著者が、「エンジニアが他人とうまくやる」コツを紹介・解説する。

—『チームギーク』は、やはりCTOになられてからの組織づくりの際に読まれたのでしょうか?

今村:そうですね。これはGoogleの組織論について書かれています。例えば、HRTという言葉があるんですね。謙虚(Humility)・尊敬(Respect)・信頼(Trust)、この3本柱がないといいチームはつくれないというところがあって、本当にあらゆる人間関係の衝突は謙虚・尊敬・信頼の欠如だと書いてあるんです。

まさにそうだなと思っていて、やっぱりエンジニアっていろんな人がいますし、性格もさまざまだったり、いろんなタイプの人がいる中で共通して何を大事にしたら、お互いにうまく仕事ができるチームメンバーを育てられるのかなと思い、とても参考になりました。


▲「最近では、だいぶ電子書籍化が進んできていて紙のスペースも減りました」

その通りだと思うことが多くて、特に謙虚さを持ちましょうと。「人は全知全能ではありません、絶対に正しいわけありませんよ」とか、「一緒に働く人を尊敬しましょう」だったりとか。これは今自分がいわゆるリーダー的なポジションでいろんなエンジニアにどういうふうに仕事を任せるかという場面で効果を発揮しました。

例えば、支配型の引っ張っていくようなタイプのリーダーもあれば、サーバントリーダー、つまりメンバーに奉仕してうまく結果を出せるように周りを支えるリーダーのようなタイプがあると

みんなを引っ張っていくだけがリーダーではないところと、みんなの生産性が最大になるように照準を動かせるようなリーダー像であるべきみたいなことが、やはり今の自分にとっても参考になりますね。

—それはエゴをなくすということでしょうか。

今村:エゴをなくすというのは、めちゃめちゃ難しいことだと思っています。当時はマネージメントの経験がなく、ずっとエンジニアをやっていただけに、どうしても自分が引っ張っていかないとと思っていました。

そんな状況だと、自分が何でもかんでも全部知ってないとダメで、自分が1番詳しい存在になろうとしていたので、それがエゴなんですよね。そうしたことへの気づきも含めて、自分にとってこの本の影響は大きいです

エンジニアの意思統一には欠かせないマニフェスト制作の参考になった一冊


【概要】グーグルはこの方法で成功した!グーグル会長がビジネスの真髄を初公開。著者エリック・シュミットは、2001年グーグル入社。同社がシリコンバレーのベンチャー企業からハイテク業界の世界的リーダーへ成長するのに貢献。

—Googleの組織論ということで共通していますが、先ほどの『チームギーク』から、この『How Google Works』につながる部分はあるのですか?

今村:先ほどはチームが増えてきて、どう組織をつくるかというフェーズだったんですけど、今度は人をどう採用するかということですね。

どういうチームがいいチームかっていうのを言ってくれている本が『チームギーク』で、そのチームをどうやって成長させていくかとか、そもそもその人たちをどうやって採用するかというところが『How Google Works』の主旨ですね。

これを読んで採用方針を改めて見直した部分もありますし、新しく評価制度をつくったりとか、VASILYの目指すエンジニア像を記したエンジニアリングマニフェストもつくったりしました。

VASILY エンジニアリングマニフェスト
1.技術でユーザーの問題を解決する
2.技術的チャレンジをし続ける
3.品質に責任をもつ
4.誰にも負けない分野を持つ
5.インターネットに貢献する

今村:エンジニアリングマニフェストは非公開なんですが、これをもとにエンジニアの評価基準をすべて決めています

—なるほど。すべての基準が一貫されてるのですね。

そうですね。やはり僕らがやってるのはユーザーのための開発なので、よりユーザーの課題を技術で解決できるように心がけることだったりとか。エンジニアって技術的チャレンジをし続けるっていうのもやっぱり意味があって、ある程度実力ついたら同じ仕事だったら何も考えずにこなせるようになっちゃうじゃないですか。

そうすると多分エンジニアって伸びないなと思ってるのと、そういう人にならないように、常に新しいチャレンジをするところは結構『How Google Works』からの影響を受けていたりしますね

「実は理由があって、本当はこれ2回読んでるんですよ」良書は何度も気づきを与えてくれる!


【概要】人々の心を捉えるにはどうすればよいのか?長年にわたりインタフェースデザインに携わってきた心理学者が「よりよいデザインに役立つポイント」を科学的な研究によって明らかにされた事実とともにウェブやアプリのデザインに応用できる形でわかりやすく解説。

—最後は『インターフェイスデザインの心理学』。こちらは最近読まれたということでしょうか?

今村:2012年のちょうどiQON(アイコン)が資金調達してアプリをつくり始めた時ですね。このときに軽く1回読んだという感じですね。そのときはあんまり中身を覚えていないんですよね、すごく失礼ですね(笑)

これ、ちなみに何が書かれているかというと、こういうUIがいいですよっていう単なる紹介ではなくて、人間がどういう心理でPCやスマホの画面だったり、プロダクトを使いますかっていうところを深層心理にフォーカスしているんですね。

—Webデザインの事例集でなないんですね。

今村:結局、UIって時代によって要は表現方法のトレンドが変わると思うんですけど、いつの時代も共通しているのは人間の心理ってそんなに早々変わるものではないと

見せ方はもちろん変わるかも知れないですし、それこそ昔はパソコンだったものが、iPhone、Androidだったり、画面が小さくなったりしてる中で、いろんなUIの表現は年々変わっていくんですけど、変わらないものって何だろうみたいなところで、そういうのを紹介されているっていう感じですね。

それは僕も本当にその通りだと思っていて、絶対にここに書かれてあるUIの紹介は多分5年後、10年後なくなっていると思ってるんですけど。ここに書かれている人間の心理、行動の仕方、行動は多分ある程度普遍のものはあるなと思っていて、そこが参考になりました。

でも、こんなふうに読み込んだのはつい昨年の話なんです。


▲Web・バックエンド・インフラ・アドテクなど様々なプロが集まるエンジニアチーム

—2回読んでいるんですね。

今村:昨年、久々に10年ぶりぐらいに大学でIT関連の学問を教わった教授と再会して、今アプリをつくってるんですと言ったら、これから5年後10年後どんなものが大事になるかということをディスカッションしたんです。

そのときに「今村くん、これからはUI・UXじゃない。心理学だよ」ということを言われて、確かに僕自身UI・UXの本質ってなんだろうと考える機会が多く、僕らは誰のためにものをつくってるか、まぎれもなく人間のためにつくっていることを最近強く意識していました

どういうレイアウトがいいかとか、どういうボタンの大きさがいいかとかっていうのじゃなくて、もっと人間の本質的な心理のほうを、ものをつくる側としては理解しておかないと、やはりデバイスが変わったときに対応できなくなる。そう思いながら再度この本を読んでみたら納得っていう感じですね

—具体的に腑に落ちた箇所を教えて下さい。

今村:それこそ「人間は同時に4つしか記憶できない」ですね。だから、画面を4つを区切って見せてあげることによって、割とスムーズに情報を覚えてもらえたり。単純にこういうやり方がいいですよ、というよりは、なんでそうなのか、人間の脳がどうなって記憶するのかが書いてあったりします。

こうことをしっかり押さえておくと、全く新しいデバイスを来年Appleが出しましたっていうときにも、活かせるポイントがあるかなと思います。

技術や理論をきちんとカラダで体得するために必要なこと


▲Rubyの父、まつもとゆきひろ氏の直筆サインがあるVASILYのエントランス。

—最後にお聞きします。最近本の読み方が変わってきたと思うことはありますか?

今村:ありますね。エンジニアってもちろん本を読むのも大事なんですけど、でも自分で触って動かしてみてみないと、やっぱりしっくりこないという部分があるんです

その技術のどこが今までの技術と違うのか、どこが良いのか、便利なのかっていうのは、たとえ本で納得してもやっぱり試さないといけないというのは実感として持っているので、読書のあとに、そういう手を動かす時間を意図的に取っているっていうのは最近よくあります。

—そのようにして理論をきちんとカラダで体得するために工夫されているのですね。今回は本を通して今村さんの仕事観が伺えました。本日は貴重なお話をありがとうございました。


今村雅幸さん
株式会社VASILY 取締役CTO

2006年 Yahoo!JAPANに入社、Yahoo!FASHIONやXBRANDなどのサービスの立ち上げの開発を担当。リコメンデーションの特許などを取得後2009年に独立、VASILYを創業、取締役CTOに就任。

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