ヒト

エンジニアよ、大海に乗りだせ!水産業×ICTのベンチャー業 「ウミトロン」藤原謙社長の挑戦

 

ピピピ。

コンニチハ!

 

ワタシは宇宙ビジネスコンサルタントの大貫美鈴さんが考案した宇宙ロボ、「みすず3号」です。

ワタシ、宇宙ビジネスに携わるエンジニアや企業たちを世に広めるために開発されたから、“宇宙を舞台に活躍する人”をつかまえて話を聞くのが趣味なの。

 

今回お話を聞くのは、こちらの方よ。

 

「こんにちは、ウミトロンの藤原です」

 


こんにちは。“ウミトロン”ってなんだか可愛らしい名前ね。どういう会社なのかしら?


はい、ウミトロンは水産養殖向けのデータサービスの会社です。


水産養殖! だから“ウミ”ってつくのね。


ええ、水産業は世界的に生産高が伸びているのですが、背景には人口増加があります。また、海外に行くと健康志向で“魚食ブーム”にもなっているんですよ。


ああ、お寿司とかも人気みたいですものね。


そうですね。ただ、水産業においてデータ活用はまだまだこれからなので、データ収集と分析で生産効率を高めるお手伝いをしています。


生産効率を高める……。具体的に何をしているのかしら。

 

水産養殖における2つの課題


はい、養殖生産者の困りごとを解決しようとしているんですが、具体的に2つあります。1つはエサ代が高騰していることと、もう1つは赤潮です。


なるほど、まず1つ目のエサ代ですけど、魚のエサって、そもそも原材料は何なのかしら……


魚粉ですね。エサとなる魚の漁獲量は停滞していまして、エサ代はここ10年で3倍にもなっているんですよ。


うへえ。3倍のコストは痛いわねぇ。


ええ、水産養殖の生産コストのなかでもエサ代は6割から7割を占めますので、このコストを下げないといけません。


でもどうやってコストを下げるのかしら? 単純にエサの量を減らす?


いえ、データを取って、エサの量とタイミングを分析しています。


エサの量とタイミングを分析? ああ、つまり食べていない時にエサをあげてしまっている可能性があるってことかしら。


そのとおりです。生簀の中に魚をモニターするセンサーを入れており、 “エサ食い”の状況を評価しています。そして、エサを食べていないようであればエサやりを止めればいいわけです。

 


生簀の中で常に魚をモニタリングしているという

 


金魚なんかでもエサをやりすぎると無視されてプカプカ浮いているものね。


あと、養殖では魚を太らせたいわけですが、“どういう条件で食べたら太りやすいか”を分析しています。水温や酸素量、海洋条件などによっては食べても太らないことがあるわけです。


なるほど、体を鍛えている人が筋トレ直後にプロテインを飲むようなものよね。


ま、まあそうですね。魚釣りをする人はよく「朝マヅメ」と「夕マヅメ」といいますが、朝や夕方にエサ食いが活発になるゴールデンタイムがあると言われています。それを実際にセンサーで分析しているのです。


なるほどねぇ。で、あと1つが赤潮よね。


はい、赤潮というのはプランクトンの大量発生が起きることですが、これによって魚の死滅に繋がるリスクがあります。

 


これが恐ろしい赤潮だ。

 


なんで赤潮って発生するのかしらねぇ。


赤潮のもとであるプランクトンの発生要因については簡単ではありません。水温や養分のバランスなど条件は色々です。ですから、事後の対応を早くすることが大事なんです。


赤潮が発生したらすぐに分かるようにするってこと?


そうです。発生したことをなるべく早く知ってエサやりを止めるんです。そうして魚の代謝を抑え、酸素が少なくても生き残れるようにするなどの対策をする必要があるわけです。あと、場所によっては生簀ごと移動して避難させる場合もあります。


あれ、私は宇宙を舞台に活躍する人を取材しに来たんだけど、これって宇宙とどういう関係が……


ああ、それで言うと魚の情報は生簀でのセンサーを活用していますが、海の環境や赤潮の情報は衛星データを活用しようとしています。人工衛星ですね。

 

 


なるほど、衛星から海を見渡しているってわけね。藤原さん、人工衛星には何か携わったことあるのかしら。


はい。大学で機械系を専攻していましたが、人工衛星の設計や研究開発をしていました。


あら、まさに作る側の人だったのね! それで、就職はどちらに?


大学卒業後はJAXAに入って天文衛星の姿勢制御系の開発をしていました。


わあ、ゴリゴリのエンジニアじゃない。それからどうしたの?

 

エンジニアを休職してアメリカの大学へ入った理由


休職をして、アメリカの大学へ行きました。


休職してアメリカの大学? なぜかしら……。


はい。JAXAでの宇宙開発の研究開発サイクルは非常に長くて、天文衛星なんかだと新規開発要素も強いので計画から打上げまで20年から30年とかザラに掛かるわけです。


計画から打上げまで20年から30年……

 


JAXAでの天文衛星「はるか」開発の様子(提供:JAXA)

 


そして周囲には、自分自身の全キャリアを捧げて1つの研究開発に取り組むエンジニアがいるわけです。そんな人たちを見ていて、「自分が何に対して熱量を持っているか」ということを真剣に考えさせられたんです。


確かに、そんなすごい環境にいたら考えさせられそうね……


大学院を出て大学院の延長で仕事をしていたわけですが、もう1回自分のキャリアを見つめ直して、「自分が本当に30年40年あるキャリアをかけて取り組みたいことはなんだろう」と考えました。周りが超一流の研究者だったので刺激を受けたわけです。


考えて、どんな結論を出したのかしら。


研究開発を極めるよりも、技術を世の中に浸透させていくようなお手伝いができないかな、と。それができるなら全キャリアをかけてもいいなと思い直して、「じゃあどうしたらいいか」を考えて、まずはビジネススクールに通おうと思ったんです。


でも、なんでまたアメリカの大学なの?


技術を世の中に浸透させていくということで考えたのが、「ベンチャー企業というのは新しいテクノロジーと社会への浸透には切っても切り離せないだろう」ということ。であれば、ベンチャー企業とテクノロジーの結びつきが強い場所のビジネススクールにしようと思って、カリフォルニア西海岸の大学を選んだのです。


なるほど、確かにベンチャーといえばシリコンバレーよね。


ええ、ちょうど当時もスペースXが有名になりつつあったり、小型衛星のベンチャーも増えたりしていました。そういった現場を直接見てみたいと思って留学したのがきっかけでもあります。


今ある仕事の中で「どうしたらいいか」と考えている人が多い中、よく飛び出したわよね。


JAXAの環境では、完成が30年後だろうが「今日、何をやらないといけないか」と本質的に考えて、真剣に開発しているわけです。やはり、その熱量に大いに刺激を受けましたね。まあ、JAXAのエンジニアとしてはあまり役に立たなかったということかも知れませんが(笑)


いやいや、自分を理解してそう判断するってのも素晴らしいことだと思うわ。で、シリコンバレーに行って何をして何を感じたのかしら。

 


ベンチャーといえば、西海岸のシリコンバレーだ。

 


ビジネスを学びながら、「自分が何をすべきか」を探していました。シリコンバレーで感じたのは、アメリカのベンチャーエコシステムのすごさでしょうか。


“ベンチャーエコシステム”ってのはつまり、企業や投資家や大学などの繋がりからなる共存共栄の仕組みよね。確かにすごそう。それで、日本に戻ってからベンチャー企業に入ったの?


いえ、日本ではまだまだ事業会社が経済への影響力を持っているので、まず事業会社で働いてみようと思ったんです。そんな時に、三井物産という会社の話を聞く機会がありました。


三井物産って有名な会社よね。


はい、その会社でイノベーションというテーマで新事業開発をする部署ができたと聞いたのですが、とても面白い取り組みをしていたんです。


どんな面白い取り組みなの?


世界中の大学を回って研究者とのネットワークを作るとか、とにかく分野横断的なテーマでビジネスを考えてみるとか、先入観なく投資や事業開発を行うような取り組みを行っていました。その話を聞いて、「これは面白そうだな」と思って応募したら採用いただきました。


なるほどねぇ。そんな投資事業を経て、どう今の「ウミトロン」に繋がっていくのかしら。


ええ。三井物産でICT事業本部というところに移り、農業ITの担当をしたことがありました。海外のベンチャー企業の事業開発をお手伝いさせて頂いたのですが、作物の生育の効率化について様々なデータを使ってやっていました。その会社を手伝っていて、「一次産業とITの取り組みはいいなぁ」と思ったのがきっかけです。

 

 


なるほど、そこで一次産業とITの取り組みに着目したのね。


はい。農業ITの中でも“衛星データを使う”という点が「まさに僕がやりたいのはこういう世界観だ!」と思ったんです。エンジニアの頃は「テクノロジーが大事だ」と思っていたんですけど、テクノロジーってただ存在するだけでは価値はないんですよね。インダストリーのなかに浸透して初めて価値が生まれるものじゃないかな、と。


「テクノロジーはインダストリーのなかで価値が生まれる」ねえ。経験者からの深みのある言葉だわね。


それで、B to Bの産業のなかにデータを入れ込んで事業を効率化するってことが「面白いなぁ」と思うようになっていきました。その時は海外の農場でITの取り組みをやっていましたので、「これは日本でやるなら水産業かなぁ」と考えたんです。


日本は海に囲まれているものね。でも、いきなり水産業なんて入り込めないでしょう?


はい、最初は大学の先生にヒアリングしてまわったり、県の水産研究センターに話を聞いたりしました。そうするうちに、愛媛県が取り組んでいるICTの発表があるというので話を聞きに行ったんです。すると、赤潮の分析への取り組みが非常に興味深かったので、実際に訪問して町の人や研究者へ話を聞いてまわりました。

 


愛媛県愛南町に実際に訪問して話を聞いたという。

 


とにかく話を聞いていったのねぇ、すごい。


そこで意気投合しまして、「実証実験をしてみよう」ということになったんです。

 

エンジニアは常にお客様を意識しよう


でも、今日の話を振り返るとJAXAでエンジニアだったのが事業会社に入って投資をして、実際に会社を興していったわけですよね。ご自身のキャリアについて何を感じます?


そうですね、仕事を変えてみて「テクノロジーとビジネスの間に人が足りていない」ということがよく分かりました。「技術を普及する人が必要だ」とは昔から言われていますが、言われている以上に足りないぞ、と。


エンジニアはみな普及する側に力を入れるべき?


いえ、エンジニアを極めるならエンジニアをやっていけばいいと思います。ただ、エンジニアでない人が同じくらいの熱量で技術の普及をやるべきとは思いますね。


ああ、JAXAの周りのタイプはエンジニアを極める人だったわけですもんね。


はい。エンジニアについて最近思うのは、日本でもベンチャーが増えていて影響力も大きくなっているので、エンジニアが会社を通じて実際に技術を社会に届ける機会も増えていると思うんです。そういった、エンジニアが直接お客さんと対峙するという動きはとても良いと思うんですよ。


エンジニアが直接お客さんと対峙する動きねぇ。


僕もエンジニアの仕事もしてますけど、そのほうが仕事の楽しみも多いですからね。大きな流れとしても、エンジニアと現場が近くなっているように思います。そうやって、自分の技術とか勉強したことを世の中に還元していくという機会は今後増えていくのではないかと思います。


まさに今後はエンジニアが「大海」に乗りだしていく感じなのかも知れないわね。今、仕事をしていて楽しい瞬間はどんな時?


やっぱり、自分のアイデアや作ったものをお客様に喜んでもらった時ですかね。

 

 


なかなか1つの工程の中では達成感が得られないエンジニアも多いって聞くけれどねぇ。


1つの工程だけ担当して「達成感が得られない」というのは、本来そうあるべきではないと思います。ただ、そう思い込んでいるだけで、誰しもが使う人目線になれるはずだと思うんですよね。


エンジニアは誰しもがユーザー目線になれるはずだ、と。


ええ。実際に宇宙開発というのは重厚長大な産業で、開発している時にはエンドユーザーの顔なんて見えないわけです。でもそれで「達成感が得られない」なんて思い込んじゃうと、“技術のための技術”になってしまうんです。誰しもが考え方ひとつでエンドユーザーのための開発ってのはできるんではないかと思います。そのためには、常にお客様を意識しておくべきなんでしょうね。


なるほどね。そんな思いをもった藤原さん率いる「ウミトロン」の今後にも期待できそうね。


はい。ウミトロンとして大きな成果を出すのはこれからです。エンジニアの募集もこれからしていこうと考えているので、興味ある人はご連絡いただきたいですね。


あら、興味ある人はぜひウミトロンまで。

 

藤原さん、今日はありがとうございました!

 

ピピピ。

 

取材協力:ウミトロン・JAXA
取材+文:プラスドライブ/原 正彦
画像制作:Adesign

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