未来のギークたちに学びの場を提供すること、それが地方創生への第一歩/Geek in Local in TWDW2015【後編】

ギークこそが、地方創生の鍵になるのかもしれません。

2015年11月22日、Tokyo Work Design Week 2015(TWDW2015)内で行われたトークイベント『Geek in Local ギークが地域でおこすイノベーション in TWDW2015』で、「ギークこそが地域で能力を発揮する重要な存在になってくる」と、小林 茂教授 (情報科学芸術大学院大学[IAMAS]産業文化研究センター)は語りました。

小林教授のインスパイヤートークの内容は前編の「地方の課題解決には、ギークたちのイノベーションが不可欠!/Geek in Local in TWDW2015【前編】」をご覧下さい。

【後編】では、『Geek in Local ギークが地域でおこすイノベーション in TWDW2015』の後半、小林教授と3人のゲストスピーカー、古山 隆幸さん(イトナブ石巻代表)、藤井 靖史准教授(会津大学)、寺田 天志さん(3Dクリエイター)を交えたトークセッションから、実際にエンジニア・クリエイターによる地方創生の具体的な動きやプロジェクト、そして地方創生のために彼らに必要なことは何かを紹介します。

遊びから学ぶ「イトナブ」で石巻を究極的な学びの場に

Geek in Local in TWDW2015

一般社団法人イトナブ石巻の代表を務めている古山さんは、宮城県石巻で小学生から大学生にアプリケーションやソフトウェア開発を学んでもらう環境を提供。
震災10年後にあたる2021年までにIT技術者を1000人育成することを目標にしています。

イトナブ」という名前は、「遊ぶ」「学ぶ」「営む」「イノベーション×IT」の造語。
若い世代にテクノロジー、ソフトウェア、アプリケーションを学んでもらおうと思っても、「勉強などを強制して、無理やり学んで欲しくない」「テクノロジーっていうものを使って遊ぶっていうようなところから入っていってもらいたい」という意味が込められています。

古山さんは、“遊ぶ”ということに関しても、最初はルールなどを学び、営むことをくり返していくといいます。
テクノロジーに置き換えると、遊ぶことで「自分も何かおもしろいゲームをつくりたい」という想いにつながり、その時に若い世代の人たちがテクノロジーを学べる場所としてイトナブはあります。

Geek in Local in TWDW2015

古山さん自身も石巻出身。周りが当たり前のように地元の有名な製紙工場や電力会社に就職していくのに違和感を感じ、東京へ出てWeb系の会社を立ち上げました。
しかし、3.11で実家が被災。街全体が変わってしまったことをきっかけに石巻に戻った時、古山さんが高校生のころに感じていた違和感を思い出します。

敷かれたレールを歩むように地元の会社で就職するという選択肢以外にも、いまの高校生や、中学生にテクノロジーを使って何かをやりたいという子たちに場所をつくりたい」という想いからイトナブはスタートしました。

Geek in Local in TWDW2015

古山さんは、イトナブを通して「石巻を究極的な学びの場にしたい」と考えています。

「普通の学校を建てるというわけではなく、本気で学びたいと思う子たちが、自ずと来るような街にしたい。自分の能力を活かすことができる場所にしたい。そういった場所は全国に“市”や“町”単位であってもいい」と語るように、学生がリアルに学べる場づくりを行っています。

また、場所の提供だけでなく、地域の特性を活かして新たなビジネスや若い人たちがチャレンジをするフィールドをつくることも行っており、海外などでチャレンジしたいという学生に対しては、古山さんは以下のようにいいます。

「世界で日本が勝つためには、もっとソフトウェア技術とかをやっていかなければいけないと思っています。あとはやっぱり英語ですね。日本が世界に誇れる技術力や手仕事って天下一品だと思うんですよ。でも何で負け始めているのかっていうのは、これらの壁があるのかなと。壁を取り払うような活動はどんどんしていきたいなと思いますね」。

地域独自の問題をテクノロジーで解決を目指すCODE for AIZU

Geek in Local in TWDW2015

藤井准教授が教鞭をとる会津大学は、1993年に日本の国立大学としては初めてコンピューター専門大学として設置された大学です。
「世界と戦える大学って何かということで、できたのが会津大学。学生は独立心旺盛というか、国を国とも思っていなくて、独立してやろうと虎視眈々と狙っていますね」と、海外のギークのような想いを抱いた学生が多いようです。

会津大学で教鞭をとる以外にも、 CODE for AIZU というコミュニティを主催。
CODE for AIZUは、会津大学の学生やプログラマー、IT系ベンチャーの社長などのギークはもちろん、会津若松市の議長や職員など様々な職種の人が集まり、それぞれの立場やスキルで地域を良くしようという活動をしています。

「以前、CODE for AIZUで、ITとは全然関係なさそうですが、空き家問題をやったんですよ。その時、建築系の方がいて、『空き家問題は、ちゃんと条例をつくれば、空き家を活用できるようになる』という話しをされたら、議長が『やりましょう!』という流れになったんです。その時、学生が『条例とか法律ってコードに似てませんか?』といったんです」

確かに、条件や例外処理があるなどはコードに通じているものがあります。

「今度、市議会議長や法律の専門家を呼んで、空き家問題の条例をプログラミングみたいにしてつくってみませんか? という話しになったんです。空き家問題という課題があって、課題を解決するために色々な人が混ざり合うことで流れから、構造ができる。地域独自の課題に対して、ギークの人たちがテクノロジーを付与してアウトプットをしていく。これがCODE for AIZUでやっていることです」

Geek in Local in TWDW2015

いまではITは情報産業だけでなく、農業などと融合して様々な利用方法があります。
こうしたテクノロジーやイノベーションのおかげで地域が経済的な独立をしていくことが、地方創生には必要不可欠なのかもしれません。

子ども達にテクノロジーのおもしろさを伝える神山メーカーズ・スクール

Geek in Local in TWDW2015

CGでクルマをモデリングし、形状を作成するデジタルカーモデラーの寺田さんは、徳島県北部にある人口6000人ほどの神山町で、子ども達にデジタルファブリケーションの教育を行う神山メーカーズ・スクールの事業に関わっています。

「3Dプリンターなどを教育用に使って、エンジニアなどの移住者が新しい地域貢献の形として、子どもたちのデジタルファブリケーションの教育やプログラミングなどで、市民権得られたらいいなっていうふうに思っています」

Geek in Local in TWDW2015

寺田さん自身も移住者ということで、神山町を訪れた際は、家賃1万円の古民家を2015年の4月に借り住むようになります。

古民家ということもあって、大々的に補修などをしないと住めないような状態だったため、神山から出た廃材や間伐材などを使い、少しずつ改修を進め何とか住める状態していきました。

補修が完了した古民家をCGでレクタリングして、ハコスコを使った『 VR古民家大改修ツアー』を作成。
また、360度撮影できるカメラのTHETAで、子ども達に自分の家を撮影してもらい、ハコスコを使って「自分の家の将来はこうなる」という未来軸を見せることといったVR体験をするという企画を神山メーカーズ・スクールで行うなど、子ども達にテクノロジーのおもしろさや魅力を伝えています

他にも神山メーカーズ・スクールも利用しているコワーキングスペースの神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス(KVSOC)は、多くのエンジニアが在籍しているため、彼らを巻き込んでバイノーラル録音や重要文化財をCG化しデジタルアーカイブにするなど、様々な活動をしています。

ギークならではの方法でテクノロジーのおもしろさを伝えていくことも、地域の活性化や子ども達の教育に必要なのかもしれません。

エンジニアやクリエーターが地域でイノベーションをおこすには?

『Geek in Local ギークが地域でおこすイノベーション in TWDW2015』の後半では、司会進行役をしていた小林教授も3人のゲストスピーカーのトークを踏まえつつ、ギーク(エンジニア・クリエーター)の活動で市民権を得るためには、「いろんなスキルを持っている人が常にあるフォーマットでそこに関わらなきゃいけないっていうんじゃなくって、ほかのチャンネルがもっと増えてもいいと思う」と地域で、テクノロジーにあまり馴染みのない人たちにも分かりやすく伝えることが重要だと説きました。

地方創生のためにも、ギークが地域でイノベーションをおこすために必要なのは、スキルや技術などはもちろんですが、人とひとの付き合いである「コミュニケーション」にあるのではないでしょうか。

もし、エンジニアやプログラマーなど、ギークとしての自分の能力を試すことができそうだと感じたなら、地域でイノベーションを起こすために、多くの課題を抱えている地域に飛び込んでみるといいのではないでしょうか。



▼『Geek in Local ギークが地域でおこすイノベーション in TWDW2015』前編の模様はこちら
地方の課題解決には、ギークたちのイノベーションが不可欠!/Geek in Local in TWDW2015【前編】

この記事が気に入ったらいいね!しよう

いいね!するとi:Engineerの最新情報をお届けします

プライバシーマーク