地方の課題解決には、ギークたちのイノベーションが不可欠!/Geek in Local in TWDW2015【前編】

日本が抱えている社会問題の最前線は「地方」にあるといわれています。

2040年までに、全国の市町村の半数が消滅するのではないかといわれているほどです。限界集落と呼ばれている過疎化、高齢化が進んでいる地域の未来は、どんな運命にあるのでしょうか。

今後、多くの地域を守るためにも、都市から人材を集め、地域に関わる人を多様化していくことが重要になってきます。

2015年11月18日から24日まで、渋谷ヒカリエで開催されたTokyo Work Design Week 2015(TWDW2015)において、多くの「新しい働き方」「未来の会社」についての様々なアイデアやヒントを交換する場が設けられていました。

その中でも、11月22日に行われたトークイベント『Geek in Local ギークが地域でおこすイノベーション in TWDW2015』では、司会に小林 茂さん(情報科学芸術大学院大学[IAMAS]教授)、ゲストスピーカーとして古山 隆幸さん(イトナブ石巻代表)、藤井 靖史准教授(会津大学)、寺田 天志さん(3Dクリエイター)の3人が登壇。地域に新しい変化をもたらすギークたちについて4人のスピーカーが、それぞれの専門分野を交えてトークセッションを繰り広げました。

本記事では、地場産業とテクノロジーでイノベーション創出に挑戦している小林教授のインスパイヤートークで語られた「コア・ブースター・プロジェクト」と「根尾 IoT Bootcamp」の2つの取り組みから、ギーク(エンジニア・クリエイター)たちが地域でどのように関わることができるのかを中心にお届けします。
【後編】では4人のトークセッションから、具体的な地域プロジェクトの模様をご紹介します。

発明だけではイノベーションとはいえない。ギークがハックする地域の未来

地域の消滅を防ぐためにも、情報科学芸術大学院大学(IAMAS)産業文化研究センターの小林茂教授は様々な取り組みを行い、イノベーションをおこすことで解決の糸口を探っています。

イノベーションといっても、人によってはとらえ方や考え方が異なってきます。例えば、発明であったり、技術革新であったりということをイメージするかもしれませんが、小林教授は「どちらも違う」といいます。

1892年、ドイツ人のルドルフ・ディーゼルによってディーゼルエンジンが発明されましたが、乗用車に搭載されて人々の生活の足になるのは開発から35年後の1927年。当時はクルマという概念が世間に浸透しておらず、世間では「もっと速い馬車をつくって欲しい」という要望にとどまっていたそうです。

他にも、真空管ラジオしかない時代にトランジスタラジオが登場しましたが、当時は性能が低く「雑音がひどい」ということから主流ではありませんでした。しかし、トランジスタラジオの性能が向上したことで音質が上がり、小型で持ち運ぶことができることから需要が拡大し、ラジオの聴き方を大きく変え、価値を上げていきました。

このように、単に発明されただけだと、社会では意味を持たないことが多く存在します。「ビジネスにならない」とされたものでも、幾度となくトライすることで支流だったものが本流になる。これこそがイノベーションだと小林教授は語ります。

地域を再生させるイノベーションをおこすためには、地場産業 × ITの力が必要であり、様々な最先端テクノロジーを自由に使いこなすギークが地域をハックする重要な役割を担うことになります。

1300年の歴史で初!?コア・ブースター・プロジェクト『光枡』

小林教授が実際に行った「地場産業とITを掛け合わせたイノベーション」の1つに「コア・ブースター・プロジェクト」があります。

情報科学芸術大学院大学(IAMAS)のある岐阜県では、全国の8割を占める割合の「枡」を製造。建物や建具で使用した高級木材の檜の残った部分を利用して作られた枡は、1300年以上の歴史があります。

小林教授は、この歴史ある枡に電子回路やセンサーを入れ、スマートフォンと連動して枡を光らせる『光枡(HIKARIMASU)』を製作しました。

製作に取りかかった当初、「枡が光る」ということは、地元で枡を作っている職人さんたちからも「枡は光らないから」と一蹴され相手にされなかったといいます。

しかし、実際に電球を埋め込んだ枡を見せたところ、「枡が光った!これいいじゃん!」と歓声が上がりました。IoT的なアイデアが形になり、本格的にプロジェクトが動き出した瞬間でした。

そこから、3ヵ月間かけてレーザーカッターや3Dプリンターでプロトタイプの作成にとりかかります。

枡をどのように光らせるのか?センサーには何を使うのか?液体を入れる枡に電子回路を組み込んでもトラブルが発生しないようにするにはどうすればいいのか? 試行錯誤の末に完成したプロトタイプの枡は、傾けるとほのかに温かく光り、「日本酒を飲む」という体験を豊かに演出する枡になりました。

プロトタイプの作成から1年半ほどの時間をかけ、製品化も試みています。枡は液体を入れるため、時間の経過でどうしても漏れてきてしまいます。材料や製造方法の見直しを行い、量産のためには3Dプリンターでは追いつかず、新たなパートナーを探すなど、製品化の実現に向けて動いてきました。

そして、2015年7月からクラウドファンディングで出資者を募り、約3ヵ月で87名から161万3500円の目標額を見事に集め、『光枡』は、2015年中に届けられるように日夜製造をしています。

このように、「地場産業とITを掛け合わせたイノベーションを創出した経験を持つギークたち」が増えていけば、新しいビジネスモデルを模索している地方銀行などからも依頼が入るようになり、県外などの外部からもギークやクリエイターが多く地域に訪れるようになります。

さらに、地域の中に後から来る人をサポートしようという動きが出れば、地域の特徴を活かした持続可能な社会システムを作ることに繋がります。このような流れが、地方創生の本来のあり方なのかもしれません。

限界集落の問題をギークの視点で解決する『根尾 IoT Bootcamp』

小林教授がもう1つ携わっているプロジェクトに、『根尾 IoT Bootcamp』があります。

岐阜県の西部にある根尾は、淡墨桜という樹齢1500年以上の桜が有名な集落です。しかし、近年限界集落として消滅の危機に瀕していおり、その課題を解決するためにIoTの分野がどのように活用できるかをテーマにしたワークショップ『根尾 IoT Bootcamp』を開催。様々なアイデアを提出し、解決の道を探っています。

『根尾 IoT Bootcamp』は、限界集落のような資源がない中でも、山積した問題を解決するためにIT系のエンジニアやデザイナー、半導体やCT事業者、IAMASの学生など県外から色々な人が集まり、実際にフィールドに出て地元の人から問題をヒアリングして、解決を目指すワークショップとして開催されました。

「やはりギークは視点が違う」と小林教授がいうように、現場から問題を汲み取り、実際に解決するためには「こういうテクノロジーが使える」と、アイデアが次から次へと溢れだし、アイデアを書いたメモやスケッチはすぐに机の上いっぱいに広がりました。

また、単に机上の空論で終わるのではなく、「実現するにはどうすべきか」をディスカッションし、実際にプロトタイプの作成を行うまでが『根尾 IoT Bootcamp』の一連の流れです。

限界集落の問題を解決するためには、エンジニアやクリエーターのテクノロジーに関する知識や柔軟な発想で生みだされるアイデアにこそ、突破口があるのかもしれません。

エンジニアこそが地方で能力を発揮する重要な存在

今後、エンジニアをはじめとするギークという人たちは、あらゆる分野で重要な存在になることが予想されています。特に、地方では都会にない問題を解決するためにITの技術と発想力が必要不可欠になりつつあります。

最近では、自分の能力を活かすには都会よりも地域にあると感じている人も増えています。

小林教授は、「地域をおもしろくしていくために、ギークが発揮できる能力の中でも、デジタルファブリケーションやオープンソースのソフトウェア、ハードウェアを扱うことができる人たちは重要な役割を果たすことになるはずであり、そういった可能性を持った人たちとディスカッションをしていきたい」とトークの最後にゲストスピーカーの3人に視線を送りました。

小林教授とゲストスピーカーの3人を交えたトークセッションは後編に続きます。

未来のギークたちに学びの場を提供すること、それが地方創生への第一歩/Geek in Local in TWDW2015【後編】

この記事が気に入ったらいいね!しよう

いいね!するとi:Engineerの最新情報をお届けします

プライバシーマーク