大切なことはみんな本から学んだ!トレタCTO増井雄一郎さんの本棚を覗いてみよう

飲食店向け予約/顧客台帳サービス「トレタ」を提供する株式会社トレタ。同社のCTOを務めるのが、有名ギークであり数多くの講演・執筆活動も行っている増井雄一郎さんです。

増井さんは、書籍から学んだ思想のいくつかが、エンジニアとしてのキャリアの指針になっているといいます。彼はいったいこれまでにどんな本を読み、どのような知見を得てきたのでしょうか。今回は増井さんがおすすめする名著を紹介します。

オープンソースという概念を生んだ『伽藍とバザール』

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E.S.Raymond(著)、山形浩生(訳・解説)
『伽藍とバザール』USP研究所

――最初に挙げていただいた『伽藍とバザール』はどんな本ですか?

増井:「オープンソース」という言葉が世の中に認知されるきっかけとなったエッセイです。この本では、Linuxのように大勢の人たちが協力し合って開発するオープンソースプロジェクトの仕組みを分析して、著者が実際にオープンソースプロジェクトを始める経緯が書かれています。

ちょうど本書を読んだ頃、私は趣味でフリーソフトを作っていたんです。でもオープンソースではなく、1人でコツコツ作っていました。本書を読んで「コミュニティでの協業という開発形態があるんだ」と気付き、自分もやってみたいと思ってオープンソースプロジェクトとして「PukiWiki Project」を始めました。

そして実際に数十万人が使うようなプロダクトができ、プログラミングは個人の職人芸ではなく、コミュニティのメンバーで一緒に作るほうがベターなのだと認識を新たにしました。オープンソースの思想は、僕のエンジニアとしてのキャリアの根底に流れていますし、アイデアの源泉になっています。

Windows NTの開発秘話『闘うプログラマー』

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G・パスカル・ザカリー(著)、山岡洋一(訳)
『闘うプログラマー』日経BP社

――次は『闘うプログラマー』。これはどんな本ですか?

増井:Windows NTというOSの開発設計者は、デビッド・カトラーという有名エンジニアです。この本には彼がどうやってチームを率いてWindows NTを作ったかの開発秘話が書かれています。テクニカルな話はほとんど出てこないのでエンジニア以外にもおススメです。

本書では、カトラーがすごく粗暴な人として描かれています。メンバーが言うことを聞かなければ、ドアを蹴り破って穴を開け、怒鳴りつけ、家に帰るなと言う。暴君です。

Windows 95が出る前後の話なので、すでにMicrosoftは世界一の会社として認知されていました。当時の最先端の大企業である会社が、こんなに人間的で泥くさい事をしながら、これだけ大きなプロダクトを作っていたことに驚きました。

――そんな過酷な開発秘話が書かれた本書が、どうしておすすめなのですか?

増井:カトラーは確かに暴君かもしれないけれど、言っていることは正論です。かつ、プロジェクトの成否を委ねられていたカトラーの立場を考えると、ゆっくりメンバーを説得する時間は彼にはなかったのだと思います。暴力的な方法を用いるしかなかった。でも、彼の決定はWindows NTを開発するうえで必要だったと思えるだけの説得力があります。

世の中にあるプロダクトがなぜ、どういった方法で開発されたのかを理解することは、エンジニアの人生にとってプラスになるはずです。

アジャイル的発想の先駆け『小さなチーム、大きな仕事』

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ジェイソン・フリード(著)、デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン(著)、黒沢健二(訳)
『小さなチーム、大きな仕事』早川書房

――『小さなチーム、大きな仕事』はどんな内容ですか?

増井:Ruby on Railsというフレームワークを作った会社、37シグナルズの社員が書いた本です。この会社は少数精鋭でソフトウェアを開発し、かつ高収益であることで有名です。

この本が出版されるまでは、大きな売上を上げるには大きなチームが必要だというのがコンピューターの世界における常識でした。この本が、その風潮を変えたと思います。

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彼らは顧客からの要望を何でもかんでも聞くのではなく、本当にその機能が必要かどうかを吟味したうえで、本質的に重要なものだけを実装する開発スタイルを採りました。そうして選択と集中をすれば、小さなチームでも大きな仕事ができることを証明したんです。この開発スタイルは、この後のスタートアップの方向性に大きな影響を与えました。

――本書で書かれている思想が、一般的な考え方として浸透したんですね。

Googleの文化はいかにして醸成されたのか『How Google Works』

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アラン・イーグル(著)、ラリー・ペイジ(著)、土方奈美(訳)
『How Google Works』日本経済新聞出版社

――次の『How Google Works』は、題名から察するにGoogleの働き方についての本でしょうか?

増井:この本には、Googleのエンジニア文化がどうやって醸成されてきたのかという変遷が描かれています。Googleって、いくつも特徴的な文化があるじゃないですか。例えば、業務時間の20%までを自分の担当ではない仕事に割ける「20%ルール」とか、採用面接にフェルミ推定(※)を取り入れるとか。

なぜそんなことをしているのかという背景や経緯がわかるのが本書です。そして、それを知ることで「Googleが今後どこに向かおうとしているのか」のビジョンも理解できます。

※…調査するのが難しいとらえどころのない量を、いくつかの手掛かりを元に論理的に推論し、短時間で概算すること。「ニューヨークに床屋の数がいくつあるか」といった問題をヒントなしで推測するなど。

――それに関連して聞きたいのですが、増井さんの考える「トレタの開発チームが目指す姿」は何ですか?

増井:少し話が飛びますが、サービス開発とは、企業の各メンバーでバトンを受け渡しゴールまで走りぬく“リレー”のようなものだと思っています。誰かがプロダクトのアイデアを考え、そのバトンを受けた人が事業として成り立つかを検討し、次にバトンを受けた人がどうやって開発するかを考える。つまり、最後の走者がエンジニアなんです。

テクノロジー主体の会社の場合、後半の走者が走る距離が長くなります。逆にプロダクト主体の会社の場合、前半の走者が走る距離が長くなるわけです。トレタは、テクノロジー主体ではなくプロダクト主体の会社。でもトレタのエンジニアは、「前半走者の手助けができるような後半走者」を目指していきたいと思っています。

例えば、データ分析をすることで「こういう解決策もあるよ」と事業のアイデアを考えている人たちをサポートするなどです。実際に、トレタでは最近そういった業務を担うデータソリューション部という部署ができました。

「プロダクト主体の会社をいかにしてエンジニアリングで支えていくか」は、トレタの開発チームが担う重要なテーマなんです。

夢のために働く意義『自由であり続けるために、僕らは夢で飯を喰う―自分の店』

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高橋歩(著)
『自由であり続けるために、僕らは夢で飯を喰う―自分の店』サンクチュアリ出版

――『自由であり続けるために、僕らは夢で飯を喰う―自分の店』はどんな本ですか?

増井:これは僕が高校生か大学生のときに読んだ本です。本書がユニークなのは、「自分の好きなことだけをしてお金を稼ぐにはどうすればいいか考えた結果、飲食店を経営することにしました」という、飲食店開業についての赤裸々な思いやエピソードが語られている点。著者はとにかく自分の欲望に忠実に生きているんですよ。

当時、この本を読んで衝撃を受けました。そして同時に、この本は自由な生き方を僕に提示してくれたんです。自分の夢を実現するために仕事をしてもいいんだ。会社を立ち上げることは、そのための手段のひとつだと考えればいいんだと思えた1冊です。

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――夢を実現するために仕事をする。そんな働き方をしたいですね。最後に聞きたいのですが、増井さんがトレタに入ったのは、どんな夢を叶えたかったからですか?

増井:私がトレタに入ったのは代表取締役の中村仁と出会ったことがきっかけなのですが、最初に彼からプロダクトのアイデアを聞いたときには、その価値が全くわかりませんでした。でも、詳しく話を聞いていくうちに、飲食業界にはデータの管理や共有において課題があり、それを解決することに大きな価値があると思うようになりました。

さらに言えば、僕はコンピューターやプログラムが世の中に存在している意義は“身体性の拡張”だと思っています。そして、トレタが目指す「紙の予約台帳をデジタルな予約台帳に置きかえる」というコンセプトは、店舗という垣根を超えて人間の「目」や「脳」などを拡張する行為だからこそ、ITを有効活用できるものだと考えているんです。

そして、中村のアイデアと僕の技術を組み合わせるプロダクトで実現できるビジョンが見えていた。だからこそトレタに参画しました。そういう意味では、自分の夢やワクワクすることを追い求めたからこそ、この会社で働くことを選んだわけですね。

――数々の書籍。トレタで働く意義。どの言葉もとても勉強になりました。どうもありがとうございました!

取材協力:株式会社トレタ

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