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元Googleの両雄が語り合う。日本でプロダクトマネージャーを普及させる秘訣

プロダクトマネージャー。

このポジションの目指す目的はただ1つ。「プロダクトを成功に導くこと」です。

海外のIT企業ではプロダクトマネージャーの重要性が広く認知されており、社内に同ポジションのメンバーを複数人置くことは一般的になっています。一方、日本はそうではありません。その認知度はまだまだ低く、専任のプロダクトマネージャーがいない企業がほとんどです。

では、その原因はどういった部分にあり、どのようにすれば改善していくのでしょうか。

そのテーマについて、GoogleやIncrementsでプロダクトマネージャーを担当し、現在はフリーランスとしてさまざまな企業の技術アドバイザーを務める及川卓也さん(写真右)と、同じくGoogleでプロダクトマネージャーを担当した経験を持つクービック株式会社・代表取締役の倉岡寛さん(写真左)が語り合いました。

そもそも、プロダクトマネージャーがいないデメリットは何か?

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――単刀直入に聞きたいのですが、なぜ日本はプロダクトマネージャーを置く企業が少ないのでしょうか?

及川:たしかに日本では、プロダクトマネージャーを置いている企業はそれほど多くありません。けれど本当は、どの企業でもこのポジションが持つ「プロダクトを成功させる」という役割は誰かがやっているはずなんです。

たとえば、エンジニアのマネージャーが実質プロダクトマネージャーのような業務をしていることもありますし、事業サイドのプロデューサーやディレクターがそれに近しい業務を担っていることもあります。

つまり、日本ではプロダクトマネージャー“的な”業務を、誰か別のポジションの人が担当している、というのが実状なんですね。

――その状態でプロダクトが成功するのであれば、特に問題ないようにも思えます。なぜ、専任のプロダクトマネージャーを置く必要が?

及川:さまざまな理由がありますが、プロダクト成否の「責任の所在」が曖昧になってしまうというのは大きいです。

たとえば日本企業でよくあるのが、プロデューサー(やディレクター)がプロダクトマネージャー的な役割を担っているけれど、テクニカルなことはよくわからないので、その部分の判断をエンジニアに丸投げしてしまう、というケース。

それで成功すればいいのですが、失敗したときが大変です。そうなった場合、プロデューサーは「エンジニアの技術不足のせいで失敗した」と考え、エンジニアは「プロデューサーが技術的なことを理解せず丸投げしたから失敗した」と考えてしまいます。責任を擦りつけ合ってしまい、組織として不健全なわけです。

――なるほど。たしかにその事例は、多くのIT企業でよくある話ですね。

及川:そうした事態を防ぐには、プロダクトマネージャーを置くことが非常に効果的です。プロダクト成功の全責任を負う人間が舵取りをするからこそ、チームが正しい方向を向き、プロジェクトを推進していけるわけです。

日本には情報が少ない。故に、海外の情報に目を向けるべき

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――日本ではプロダクトマネージャー業務の学習をする上で、「教材にできる書籍やWeb記事が少ない」という課題があると聞きました。この課題を解決するには、どうすればいいと思いますか?

倉岡:たしかに現状は、日本国内にあるプロダクトマネージャー向けの情報は本当に少ないです。書店のITコーナーに行っても、エンジニア向けの書籍はたくさんありますがプロダクトマネージャー向けの書籍なんてほとんどありません。

その状態を改善するには、「海外にある(英語の)情報を翻訳し、日本に輸入」していかなければならないと思います。海外はプロダクトマネージャーの文化が浸透しているので、質の高い情報が数多くありますから。

そういう意味では、有志によって海外のドキュメントを翻訳したり、エンジニア自身が英語力を身につけたり、といったことが今後は必要になってくるでしょう。

及川:倉岡さんが言ったとおり、英語の情報を読むのはとても効果的だと思います。それから、「海外の人から話を聞く」というのも同じくらい重要ですね。

私はよく海外のカンファレンスに参加するんですが、その際に各企業が出展しているブースで質問すると、彼らは喜んで色々なことを話してくれます。そこで名刺交換なんかすると、その後メールで頻繁にITの最新情報を共有してくれる方も多いんです。

スキルアップのため海外の情報を定期的にチェックしているエンジニアはたくさんいると思います。プロダクトマネージャーを目指す方にとっても同様に、その勉強法は非常に有益だということなんです。

CEOは、プロダクトマネージャーを兼任するべからず

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――それ以外に、日本企業でプロダクトマネージャーを機能させるために必要なことはありますか?

倉岡:「権限を持った人がプロダクトマネージャーを担当しないこと」ですかね。

たとえばスタートアップ企業って、初期フェーズにおいてはCEO自身がプロダクトマネージャー的な役割をすることが多いです。そもそも、「こういうものを作りたい」という希望が頭の中にあるからこそ、それを具現化するために起業しているわけですから。

でも、どこかのフェーズでその役割を他のメンバーに委譲しなければ、上手くいかなくなると感じています。

――それはなぜ?

倉岡:CEOの発言ってどの規模の会社であっても良くも悪くも影響力が大きいので、「CEOの言ったことだから、自分は納得いかなくてもとりあえず従っておくしかないか…」となってしまいやすいんですよ。本当はプロダクトマネージャーとエンジニアの間で「健全な議論」が起こるべきなんですが、だんだんとそれが起こりづらくなってしまうんです。

――権限を持っているが故に、メンバーが委縮してしまう、と。

倉岡:そういうことです。クービックでも、それに近しい状況に陥っていた時期がありました。

――その課題を、どのように解決しましたか?

倉岡:知り合いのプロダクトマネージャーに相談したところ、「エンジニアでも営業でもカスタマーサクセスでもいいから、いま社内にいるメンバーにプロダクトマネージャーになってもらうといい」というアドバイスをもらい、実際にそうしたんです。そうすると、徐々に上手くいくようになりました。

プロダクトマネージャーはあくまで、エンジニアと対等の立場であるべきです。だからこそ、お互いに遠慮なく議論ができ、プロダクトが成功しやすくなります。それを自分自身の経験から学びましたね。

何より必要なのは、人間力

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――「社内のメンバーから登用するのがいい」のは、どうしてでしょうか? 外部からプロダクトマネージャー向きの人材を引っ張ってくる方が、手っ取り早そうにも思えるのですが。

及川:社内にいるメンバーは「CEOや企業の持つマインドや理念を理解していることが多いから」です。なぜなら、企業の中で同じ時間を過ごし、一緒にプロジェクトを乗り越えてきていますから。これによってどんな利点があるかというと、「プロダクトマネージャーの判断に迷いがなくなる」んですね。

プロダクトマネージャーは、事業における各フェーズにおいて「ユーザー体験(UX)の向上」と「企業の利益」がトレードオフになり、どちらを取るか判断を迫られるケースが多々あります。そのときに、「CEOや企業は何を目指しているのか?」が理解できていれば、正しい決断を下しやすい、ということなんです。

もしこれが、外部から引っ張ってきたメンバーでありCEOや企業の考えを理解していなければ、決断に時間がかかったり、精度が悪くなったりしてしまうでしょう。それでは、プロダクトマネージャーとして機能するのは難しい、というわけです。

――なるほど。つまり、権限はないけれどCEOのマインドを持つ「ミニCEO」のような人材でなければいけないのですね。最後になりますが、そんなプロダクトマネージャーを務める人間が持っておくべき、最も大切な資質って何でしょうか?

及川:結局は、「人間力」が大事なのかもしれないですね。権限がなくてもメンバーを統率し、プロダクトを成功に導いていく。そのためには、「この人の言うことならば、聞いてみよう」というメンバーからの信頼を得られなければダメですから。周りを巻きこめる気質を持っているというか。

それがあるからこそ、エンジニアとの健全な信頼関係が築けると思うんです。

取材協力:及川卓也、倉岡寛(クービック株式会社)

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