ヒト

PS4のUXを作った男、ネオマデザインの河野道成に聞く、“最高の体験”を作るエンジニアリング

近年、UX(ユーザー・エクスペリエンス)という言葉が、非常に流行しています。日本語では“ユーザー体験”と訳されるこの概念。その意味は、どうやったらシステムのユーザーに“楽しい”とか“心地いい”と感じてもらえるかを考える、というものです。

そのUXデザインの分野において、PlayStation 4の音声認識機能のコンセプトデザイン、フィットネススタジオRico心斎橋のバイクスタジオの空間プロデュースなど、数えきれないほどの実績を残しているのが今回の主人公。ネオマデザイン株式会社の河野道成さんです。

日本国内のみならず、世界的にも評価される河野さんのUXデザイン。その圧倒的なスキルを身につけるために、河野さんは何を学び、どんなことを考えてキャリアを積み重ねてきたのでしょうか?

UXは新しい概念ではない

―UXというキーワードは、ここ数年の間で急に流行し始めましたよね?これはどういう背景があっての事なのでしょうか?

河野: UXという言葉そのものは、最近バズワードとしてものすごく流行しています。けれど、実は目新しい概念ではないと私は思っているんです。というのも、成功している会社やビジネス、クリエイターなどを見ていると、実は昔から同じようなことを考えていたと思うんですよ。商品やサービスのコンセプトを練る際に、「どうやったらユーザーは幸せになってくれるだろう」とか、「もっと便利になるだろう」とか。だから、UXという“言葉”が近年登場しただけで、本当は元々、みんなやっていたことだと思うんですよね。

―なるほど。そう言われてみれば確かにそうですね。では、なぜ近年になってUXという言葉が、これほど注目を浴びているのでしょうか?

河野:これは私の考えですが、昔はサービスが局地的だったと思うんです。つまり、モノが単機能だったり、シンプルな機能だったりして、作る側は限られた機能だけで、どうユーザーを満足させるかを考えればよかった。けれど、現代はだんだんと、モノの多機能化が進んできました。スマートフォンなんて良い例ですよね。あの機器の中に、無限とも言える機能が詰まっています。だからこそ、モノが持つ複数の機能を横断的に捉えて、「トータルのユーザー体験」を考える必要が出てきたんだと思うんです。

PlayStation 4のUXデザインから学んだ、「ユーザー目線に立つこと」の重要性

image2

―モノの多機能化により、昔とは状況が変わってきているわけですね。ちなみに河野さんが携わったプロジェクトの中で、トータルのユーザー体験の重要性が分かるようなエピソード、ありますか?

河野: PlayStation 4に音声認識機能を持たせたプロジェクトが、とても示唆的だと思います。PlayStation 4には、「ゲームを始める」や「ゲームのタイトル」と音声で入力すると、その通りのアクションを取ってくれる機能があるんです。

元々、プロジェクトがスタートした際に、「NUI(ナチュラル・ユーザー・インターフェース 人間の自然行動によるインターフェース)を持たせたい。もし可能であれば、コントローラー無しでもプレイできるようにしたい」という要望が、ソニー・コンピュータエンタテインメント(現SIE)の担当者から挙がっていました。当時は自然言語処理を行う“Siri”も登場し始めていた時期で、世界的に音声認識への熱がかなり高まってきていたんです。

けれど、それを聞いて私が考えたのは、「本当に音声認識を前面に打ち出すことが、ユーザーにとって快適なのだろうか。実はそうではないんじゃないか」ということでした。

―それは、どうしてでしょうか?

河野:人間って、ゲームを遊ぶときにコントローラーからフィードバックを得ていますよね。ボタンを押した感触があるとか、バイブレーションが振動するとか。考えてみてください。もし、釣りのゲームを音声認識だけで遊んだら、それって面白いですか?

―うわっ、つまらなそう!全く手ごたえが無いですもんね。

河野:そう、まさにその“手ごたえ”が大事なんです。人間にとっての体験の中で、触覚が占める割合ってかなり大きい。コントローラー無しでも操作できるというコンセプトにしてしまうと、その重要なインターフェースを大幅に削ってしまうと考えました。結果、「コントローラーは絶対に持たせるべき」という考えに至ったんです。

―なるほど。それではPlayStation 4において、音声認識の機能はどう再デザインされることになったのでしょうか?

河野:音声のメリットは、コントローラーを持ちながらでも使える点。それから、一覧の中から一言で目的のものを選択できるという点です。そのため、「ゲームを起動・停止する」「ゲームのタイトルを選ぶ」など、コントローラーの操作だと「面倒だな」と感じるようなポイントに、音声認識を注力させることにしたんです。

UXデザイナーに必要なのは、感覚を裏づけるためのロジック

▲PlayStation 4に実装されているボイスコマンド機能。ノンストレスな動作と同時に、「コントローラーを持った状態」を想定して作られていることが感じられる。

―ズバリ聞きたいのですが、UXデザインに携わる方が一番知りたいことって、「何を学べば、UXデザインのスキルが向上するのか」という部分だと思います。河野さんの考えをお聞かせください。

河野:UXデザインって、感覚が重要なものだと思われがちですよね。なんというか、すごくセンスのある人が、アーティスティックな感性をフルに活用して、UXの正解を導き出していく、そんな分野だと。けれど、その考え方って間違っていると思うんです。

―えっ!? 感覚や感性がものを言う世界のように感じていました。UXデザイナーとはどうあるべきなのでしょうか?

河野:もちろん感覚も大事なのですが、そこにロジックがベースになければいけないと思うんです。私は元々、アカデミックな勉強も大好きなので、学会に提出されている様々な論文だって読みますし、特許に関する文献だって読みます。認知心理学、行動心理学も勉強しますし、もちろん、システムの基礎になるIT技術も日々学んでいます。元々エンジニアですから。

そういった知識があることで、アイデアに説得力が加わってくると思うんです。スタートアップ企業の若い人たちが作る製品やサービスって、造形や技術がまだまだ浅いなと感じるものが多かったりしますが、その原因ってきっと、ロジックに裏打ちされたコクのようなものが足りていないからだと思うんですよ。

様々な知識を学び、自分のアイデアに対して「過去の研究でこういうデータが出ているから、きっとユーザーはこう動き考えてくれるはずだ」という根拠を付け加えていく。そういった姿勢が、説得力のあるUXデザインに必要になってくると思っています。

これからのエンジニアに求められること。それは、アナログとデジタルのタッチポイントを作り出すこと

image2

―そういった「ユーザー目線でものごとを考える」という習慣は、一朝一夕ではなかなか身につかないですよね。河野さんはどうして、そういった視点が身についたのでしょうか?

河野:実は幼少の頃から、「人間はどういう風にものを考えるのか」にすごく興味があったんですよ。色々な人の意見を受け入れるのが好きというか。

具体的なエピソードを言うと…、コンビニに置いてある雑誌がありますよね。学生時代にあれを、入り口にあるものから奥の方にあるものまで全部立ち読みするということをやっていました(笑)。

―すごいエネルギーですね!それによって、何を得ようとしていたのでしょうか?

河野:雑誌って、いろんな年齢、性別、趣味嗜好の人に向けて書かれています。その中には、自分が知らなかった分野、興味が無かった分野もありますよね。それを読んで、「こんな世界もあるんだ!これを読む人たちの考え方を知りたい!」という、好奇心のようなものがあったんだと思います。

現代って、色々な製品やサービスが、IT技術ありきになってきている危機感を覚えています。けれど、人間の感覚というインターフェースって究極のアナログですから、誰かが上手にIT技術と人間の感覚のタッチポイントを作ってあげないと、うまく交わりません。一番大切なのって、ユーザーに喜んでもらうことですから、それがブレてはいけないと思うんです。

―納得です。では、その役割を担うエンジニアは、どのようにしてユーザーの喜びに貢献していくべきなのでしょうか?

河野:大きく分けて、道は2つあると思います。ひとつは、技術のスペシャリストになることです。それも、並大抵のスペシャリストではなく、世界に通用するようなレベル。当然、学会の発表や、世界的に話題になっている技術に目を光らせておく必要があります。そうすることで、「この分野だったら○○さんに任せれば大丈夫」と言われるくらいになっていく。

そしてもうひとつは、製品やサービスに対して信念を持てる人間になるということです。自分のものさしで、ユーザーにとってどんな製品やサービスがベストなのか判断できるようになる。そのためには、先ほど話したように、感覚だけではなく学習や研究に基づいたロジックも必要ですし、人間への好奇心も必要です。UXデザインに携わる人たちは、こういった能力を身につけていく必要があります。これができる人がきっと、ユーザーにとっての最高の体験を生み出していけるのではないでしょうか。

「人のキモチに寄り添う」というマインドが、最高のUXを創造する

一流のUXデザイナーとして、数多くの実績を残してきた河野さん。その根底にあるのは、人間の感情や行動そのものに向ける、深い関心と愛情でした。

毎年のように新しいテクノロジーが登場し、流行の移り変わるIT業界。その最先端にある技術を学ぶことはもちろん大事です。けれど、もっと大事なのは、システムを使う人たちの気持ちに寄り添うこと。そんなことを、河野さんの言葉は示唆してくれます。

取材協力:ネオマデザイン株式会社

この記事が気に入ったらいいね!しよう

いいね!するとi:Engineerの最新情報をお届けします

プライバシーマーク 優良派遣事業者認定マーク