現在、政府や民間企業によって、結婚や出産などのライフイベントを経験しても女性が仕事を続けやすい体制の整備が進められています。しかし、第1子の出産を機に女性の過半数が仕事を辞める状況(※)は、まだまだ続いているのが実状です。
こうした状況を変えるため、2015年に「Kaizen Platform, Inc.」「デジタルハリウッドSTUDIO福岡」「株式会社リクルートジョブズ」の3社が福岡市応援のもと協働し、創業特区プロジェクトとして「Growth Hack for Women プロジェクト」をスタートさせました。
本プロジェクトは、働く意欲のあるママが大手企業のWebサイトのUI改善を担う高付加価値な職業「グロースハッカー」になることを支援するものです。ママたちにWebデザインの基本~応用知識までを総合的に学習できる「ママ向けWebグロースハッカー養成講座」を受講してもらい、プロレベルのスキルを身につけてもらうことを目的としています。
今回は、講座の受講を終えた後に、それぞれ異なるキャリアを歩んだ 堀尾さん(写真中央:お子さん10歳)、里川さん(写真右:お子さん3歳)、関屋さん(写真左:お子さん1歳10ヶ月) の3人にインタビューを実施しました。彼女たちはどんな価値観を持ち、“3人3色”のキャリアを歩んだのでしょうか?
※…『第14回出生動向基本調査』国立社会保障・人口問題研究所(2010年6月)
http://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou14/chapter5.html#51
「月曜から金曜まで、在宅でWebデザインの仕事をしています!」 堀尾さんの歩んだキャリア
――堀尾さんは、何をきっかけとしてWebデザインの仕事に興味を持ったのでしょうか?
堀尾:私はもともと、子どもが生まれる前までは営業の仕事をしていました。でも、妊娠した後につわりがひどくて勤務できなくなり、仕事を辞めざるを得なくなったんです。出産後、いざ再就職しようとした時にキャリアを振り返り「手に職をつけておけば、出産のようなライフイベントでキャリアが分断されても仕事を再開しやすいのにな」と強く思いました。
その後、子育てが一段落して仕事を再開したいと考えたので、興味を持っていたWebデザインの職を探しました。けれど、応募してもなかなか採用してもらえなくて……。実務経験がないと、アルバイトとしてですら雇ってくれないケースがほとんどだったんです。
――たしかに、未経験者がいきなりWebデザインの仕事に就くのは難しいかもしれないですね。当時は、代わりにどのような仕事をしていたのですか?
堀尾:未経験でも在宅でできるWebライターやテープ起こしなどの仕事をしていました。でも、クラウドソーシング上で受注できるそういった仕事って単価があまり高くないケースが多くて、それほどお金が稼げなかったんですよね。だから、「いつか何かの形で、Webデザインの仕事をしたいなあ」という思いはずっと持っていました。
――その頃に、Growth Hack for Women プロジェクトの存在を知ったのですか?
堀尾:そうなんです! ママワーク研究所の方や、女性フリーランサーの先輩からこのプロジェクトについて教えていただいて、「この講座を受講すれば、お客様に喜んでいただけるような効果的なWebサイト制作ができるようになるかも」と思い、応募することに決めました。
講義では民間企業のWebサイト改善案制作にチャレンジしたり、課題で作った(プロジェクトを支援してくださっているリクルートジョブズさんの)広告デザインが実際に採用されたりとチャンスも多かったです。それに、授業では実務で要求される水準のスキルをしっかり教えていただきました。おかげさまで、卒業後は念願のWebデザインの仕事も受注できるようになりました。
――おお! 自分の想い描いていた夢を叶えたのですね。今はどういった働き方をしているのですか?
堀尾:Kaizen Platformの案件や、民間企業のWebサイト制作案件などを受託しています。すごく嬉しいなあと思うのが、かつて私にテープ起こしの仕事を依頼してくれていた企業が、今はWebデザインの仕事を依頼してくれているんですよ。
――それは嬉しい! そういったことがあると、自分自身のスキルの幅が広がったことを実感できるでしょうね。
堀尾:そうなんです。今はすごく仕事が楽しくて、月曜日から金曜日までWebデザインの仕事をしています。かつてWebデザイナーのアルバイト選考も落ちていた私が、プロのWebデザイナーさんと同じ土俵に立てている。それは本当に自信になっているし、やりがいにもつながっています。
「ライターとグロースハッカー。2足のわらじが自分のスタイル」 里川さんの歩んだキャリア
――里川さんの経歴を教えてください。
里川:私はもともと、熊本で生活情報紙のライターをしていました。取材や撮影、クライアントのアフターフォロー、校正作業など、さまざまな業務を担当していたんです。けれど、結婚・出産を機に退職することにしました。
その後、子どもが1歳になった頃に「そろそろ働きに出ようかな」と考えたんです。でも、子どもと接する時間が少なくなってしまうので自分の中で迷いがあって。そこでまずは、空いた時間を活用してできるフリーランスのライターとして仕事を再開しました。
――ライターの仕事とWebデザインの仕事は全く系統が違うように思うのですが、どうしてGrowth Hack for Women プロジェクトに興味を持ったのでしょうか?
里川:「在宅 仕事」とか「家で仕事」のようなキーワードでネットを検索していたある日、偶然このプロジェクトを見つけたんです。そのWebサイトに書かれていた「子育てママ」「在宅」「Webデザイン」といった文字にすごく興味が沸いて、じっくり情報を読みこんでみました。
在宅で働けるし面白そうだったことやWebデザインに興味があったこと、支払う学費が20万円なので金銭的にそれほど大きな負担がかからないことなどが決め手となり、申し込みを決めました。講座を卒業した後はすぐに夫の仕事の都合で急な引越しが決まって保育園を退園することになり、仕事に使える時間が激減。現在はまだライター業をメーンにやっていますが、この春から子どもが幼稚園に入るのでグロースハッカーとしても本格的に活動します。
――Web上での偶然の出会いが、里川さんの人生を変えたのですね。ライターとグロースハッカーという“2足のわらじ”で働くことは、どのような利点があると思いますか?
里川:フリーランスのライターなので、仕事が継続的にある訳ではないことはもちろんですが、時期によって案件の増減も激しく常に自分のペースで働くことは難しいんです。
でも、グロースハッカーは仕事をする時期や種類、量などをフレキシブルに調整できます。だから、両方の仕事をすることでライフスタイルに合わせて働きやすくなると考えています。母親として、子どものことを最優先にしなければいけない場面はたくさんあるので、このような働き方を選択できて本当に良かったと思っています。これまでのキャリア(ライターとしての強み)をグロースハックに生かすことができるのも嬉しいですね。
「スキルを身につけたからこそ、Webデザイナーとして“勤務する”道を切り開いた」 関屋さんの歩んだキャリア
――関屋さんは、なぜGrowth Hack for Women プロジェクトに参加しようと思ったのですか?
関屋:私は子どもが生まれる1か月前まで福岡の官公庁観光課で通訳翻訳の仕事をしていたのですが、出産を機に仕事を辞めました。子どもが生まれて3週間ほどで偶然、このプロジェクトが福岡で開催されることを新聞で知ったんです。
子どもが小さいと病気にかかってしまうことも多いので、「家で仕事ができたら、子どもの体調が悪くなってもそばにいてあげられるし安心だなあ」と思って、受講することにしました。
どこにいてもパソコン1つで仕事ができるスキルが身につけられて、育児優先で仕事ができそうだと思ったのが大きな理由です。また、創業特区プロジェクトという信頼感や、ずっと興味のあった分野だったことも決め手になりました。
講座でCSSやJavaScriptなどのコーディングについて学び始めたころは、難しくてくじけそうになったこともありましたけど(笑)、トレーナーの方や同期の受講生の助けもあって乗り越えることができました。自分がちゃんとコーディングできるようになったときは嬉しかったですね。
――難易度が高かった分、それを乗り越えた達成感はすごく大きかったでしょうね。卒業した後は、どんな働き方を選んだのですか?
関屋:最初の2ヶ月間はKaizen Platformの案件を受託していました。でも、子どもが成長してアクティブになると、在宅で仕事ができる状態ではなくなってしまって。その頃から、育児を優先できる時短勤務先を探し始めました。Kaizen Platformでのグロースハッカーの経験のおかげで、すぐに就職先が見つかり、今はWebデザイナーとして企業に勤めています。時期が悪く近所の保育施設はいっぱいでしたが、私は実家にいるので、勤務中は親に子供を預けられるという環境も恵まれていました。
その企業は勤務時間や勤務日にかなり融通が利くので「この日に子どもの○○があるので、お休みをとって別の日に出勤させてください」ということが柔軟にできます。だからこそ、子どもを保育施設に預けたとしても負担無く働くことが可能なんです。職業柄もあるのかもしれませんが、子育てと仕事の両立がしやすくて、本当に助かっています。
――講座を受けたことで、自分自身のキャリアの幅は広がったと思いますか?
関屋:はい、もちろんです! 今は、多くの企業がコーポレートサイトを制作したりWebサービスを展開したりしているので、Webデザイナーが売り手市場になっています。Webデザインのスキルに加えて、サイト改善をすることに特化したグロースハッカーの経験がある人は、より幅広い働き方ができると思います。子育ての状況に合わせて、在宅や企業でさまざまな働き方が実現可能になるんです。
ITスキルが、ママの“生き方”の幅を広げてくれる
――みなさんが、それぞれ異なった働き方を選び、育児と仕事を両立しながら生き生きと生活していることが伝わってきました。一方で、こうした働き方は一般的にはまだあまり認知されていないですよね。
関屋:はい。こういうキャリアの歩み方もあるということを、もっと多くの方々に知ってもらいたいです。だって、「出産を機に仕事をいったん辞めた後、どのようにして再び働くか」は女性にとってすごく重要なテーマですから。
里川:ITスキルを身につけることで、自分のライフスタイルに合わせて働き方を選択できるようになるのは魅力だと思います。手に職をつけて、理想とする働き方を選べるようになっていければ、ママがより自分らしく輝ける社会になるはず!
堀尾:それに、ママって本当に“いい仕事”するんですよ! 子育てを経験しているから忍耐力もあるし、家事や育児などをベースとした知恵や柔軟性もある。プロフェッショナルとしての意見はないかもしれませんが、生活に根差した意見をきっとたくさん出せると思います。
それによって、会社員では思いつかないような斬新なサービスやプロダクトが生まれるかもしれません。ママが働きやすい環境を実現することで、社会にもきっとプラスの影響があるんじゃないでしょうか。
――なるほど! みなさんが自分自身の努力によって道を切り開いたからこそ、その言葉は大きな説得力を持っていますね。今回のインタビューは「出産や育児を経験した後にも働きたい」と考える多くのママにとって、大きな励みになると思います。本当にどうもありがとうございました!