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ビジネスチャットの意思疎通、どうしてすれ違う? 精度の高い言語化は、文章を書く前からはじまる

自分の考えていることや解決すべき課題を的確に捉え、相手に伝える。そんな円滑な意思疎通のため、どんな仕事でも必須とされるのが、「言語化」のスキルです。

また、コロナ禍でリモートワークが増えたことにより、言語化とコミュニケーションを巡る新たな問題も。口頭で行っていたコミュニケーションが、チャットなどテキストベースのコミュニケーション手段に置きかわり、コミュニケーション手段への慣れや経験などの差から、ストレスやトラブルの元になっているという一面があります。

正確に情報を言語化し伝達するためには、どのような点に気をつければいいのでしょうか? 今回は、IT技術者としての経験も持つロジック図解コンサルタントとして、複雑な情報を正確に伝えることを研究してきた開米瑞浩さんに、仕事の上での言語化とコミュニケーションについてお聞きしました。


開米 瑞浩(かいまい・みずひろ)さん
アイデアクラフト代表。独自の研修プログラムを通して、ビジネスマンの「読解力」および「図解力」の向上に取り組んでいる。過去にIT技術者の仕事のかたわら技術情報をわかりやすく表現する方法を試行錯誤していたのが、現在の取り組みに繋がっているのだとか。
著書に、『エンジニアを説明上手にする本 ――相手に応じた技術情報や知識の伝え方』(翔泳社)、『図解 大人の「説明力!」』(青春出版社)など多数。
WEBサイト:ideacraft.jp

言語化は、「今、何の話をしているのか」からはじまる

——コロナの影響もあって、チャットなどテキストベースでのコミュニケーションの機会が増えましたよね。これがけっこう大変……という人もいると思うのですが。

開米さん:そうですね。口頭でなら伝わっていた発話の微妙なニュアンスが、テキストだと伝わらないんですよ。「これは怒っているな」とか「あんまり自信がなさそうだな」とか、そういう情報が落ちてしまいます

あと、テキストだと何か情報を投げかけてから返答が戻ってくるまでのサイクルタイムが長いんですよね。「ちょっといいですか?」と話しかければ済むところを、相談前に時間をかけて文章にしないといけませんから。

——「相手がどんな気分でこれを書いたのか」という情報が、どうしても口頭と比べると減ってしまうんですね。

開米さん:もうひとつ大きいのが、口頭だと、話し相手のリアクションを見て「これは伝わっていないな」ということに気づけるし、気づいたその場で修正できるんです。テキストだとこれができないので、読めば一発で、正確に伝わる表現にしないといけない。ただ、普通の人はそんなトレーニングは積んでいないんですよ。それができるように研修するのが私の仕事なんですが。

とはいえ、テキストでも口頭でも「誤解のしやすさ」自体はほとんど変わらないと思います。口頭だと「これは誤解されているな」ということに早く気づけるから、大きな問題にならないだけなんじゃないかと。

——誤解しやすさには違いがないのであれば、口頭だろうが文章だろうが、誤解を生まないためには一定のポイントに気をつけなくてはならないということですね。

開米さん:そうですね。テキストでも口頭でも、まず気をつけた方がいいのは「今、何の話をしているのか」という点を明確にして情報を伝達することです。例えば、仕事の現場で「課題」という単語を使って話をすることがありますよね。

——よくありますね。

開米さん:普段から使う言葉であれば「意味するものは自明」と思ってしまいがちですが、その意味するものがたくさんあるケースは多々あるんですよ。「課題」という言葉でも、「問題」「目標」「原因」「施策」という4種類の意味のどれかで使われていることが多いんです。

だから、同じ文章や状況に対して「何が課題だと思いますか」と聞くと、人によってバラバラになってしまう。4種のうちどの部分の話を「課題」だと捉えているのかが違うので、話しているうちにどんどん誤解が発生してしまうんです。

▲質問に対する1〜4の答えは、「どれも正解」。この回答のブレは、実際に開米さんがマネージャークラスのビジネスマンに同じ質問をして得られた結果なのだとか(図版は、開米さんが講演で使用しているものを記事用にアレンジしたもの。以下同)

——「特定の言葉が意味しているものが、人によって違うかもしれない」という前提に立った上で、どうやって情報を伝えるか考えないといけないんですね。

開米さん:そうです。だから、話す人と聞く人、情報を投げる人と受け取る人の間で「今はこのトピックについて話している」という認識を共通のものにしておくのが、正確な言語化とコミュニケーションのための第一歩なんです。

ただ、それでも誤解が発生するときはあります。そのため、誤解を検出する方法を用意しておくのも大事です。

——どういった方法なんでしょうか?

開米さん:例えば、「自分の言った話を、逆に相手に説明してもらう」というのは簡単で効果的ですね。正確に理解していないと説明はできませんから。

また、取引先などが相手の場合は自分の説明に対して、「AかBどちらがいいですか?」という簡単な二択の判断をしてもらう。その答えを受けて、「こちらを選んだということは、こういうふうに理解しているな」と自分の方で相手の理解度をチェックできるようにしておくんです。誤解されていないかどうかは、適宜確認するべきですね。

——なるほど。話しているトピックを整理して共有することと、チェックをかけることで誤解はある程度防げるわけですね。

開米さん:ただ、言語化ってあくまで最終的なアウトプットなんですよね。そのアウトプットの前に「思考の整理」を行う必要があるんです。ここを飛ばしてしまうと、そもそも自分の考えを言語化して相手に投げかけるということ自体がうまくできません。

フレームに落とし込むことで、思考を整理する

——「思考の整理」の方法には、どのようなものがあるんでしょうか?

開米さん:例えば、先ほど「課題」というのは「問題・目標・原因・施策」という4種の意味で使われることがあると言いましたが、これはそのまま起こっている問題を解体して整理するために使えます。

困っていること自体が「問題」。その問題をどうしたいかという「目標」があり、問題自体の「原因」を突き止めて、そこに対して「施策」を打つ。発生した課題を分解してそれぞれの要素に当てはめていくと、現状分析とその言語化に役立つわけです。ただ、この「原因」と「施策」は複数のパターンが想定される場合があるので、他人に伝える時には気をつけるべきですね。

整理されていない思考はモヤモヤして説明しにくいものですが、こういったフレームに落とし込めば、状況も整理できるし、言語化前の準備に役立つんですよ

▲問題に対して目標、原因に対して施策を関連付けて考える。もちろん問題に対する原因と施策のパターンはひとつではなく、複数の場合もある

——他にも、想定外のトラブルが起きたとき等でも役に立ちそうですね。慌てていても、出来事をこのフレームに落とし込んでいけば、客観的に分析して対処方法を考えられそうです。他にはどんなフレームがあるんでしょうか。

開米さん:例えば、アイデアを練る時に使えるパターンが「目的・目標・戦略・戦術」のレイヤーに分けて考えるというものです。

「休日に楽しい時間を過ごしたい」という「目的」があるとして、ではその目的をどうやったら実現できるかを「目標」のレイヤーで考えるんですよ。「楽しい時間を過ごしたい」と思ったら、例えば「友達と山でバーベキューをしよう」という「目標」が決定されるわけです。

——なるほど、「目的」から順番に考えて埋めていくんですね。

開米さん:では具体的にどうするか、というのが「戦略」です。バーベキューをやるとしたら、車をレンタルして友達と一緒に行くのか、それとも道具は現地で借りることにして各自現地集合にするのか、というような実際の行動の方針を決めるわけです。

「戦略」が決まって初めて、「どこのレンタカーを使おうか」「食べ物は誰がどれだけどうやって用意しようか」という具体的な「戦術」が決められるわけです。

——バーベキューに行こう、という部分が決まっていない状態でレンタカーの話をしてもしょうがないですもんね。

開米さんこれでいうと、「目的」は替えが効かないんですよ。「休日を楽しく過ごしたい」という点は、もうそれしか考えられないですよね。でも楽しく過ごすのが目的なら、山でバーベキューをせずに海に出かけてもいいかもしれない。

一方で、「目標」以下のレイヤーは替えが効くんです。だからこそ、一度「目標」や「戦略」を決定したら、それより上層のレイヤーを思いつきで変更すると話が前に進まなくなります。

▲ どんなプロジェクトでも「目的」は固定だが、「戦術」レベルは可変的。状況に応じて柔軟に見直しを行うべきだが、「目的」がコロコロ変わってはそれ以降を考えるにも考えようがない

——要件が固まって「戦術」レベルの話をしていたのに、偉い人の鶴の一声で「目標」レベルで見直しが必要になる、なんて話も良く聞きますね。「今、自分たちがどの段階にいるのか」は関係者同士できちんと共有しておいたほうが齟齬もなくなりそうです。

開米さん:言語化にあたって、という点でももちろんですが、フレームワークに当てはめることは関係者の思考の整理についても役に立つんです。ある目的に向けたプロジェクトを進めているとして、「今は目標の話をしている」「ここは戦略レベルの話に該当する」と意識するだけで、何の話をしているかよくわからずに会議が進むというような状態は避けられます。

——他にも、大きなプロジェクトに参加すると、考えが支離滅裂で全然まとまってなくて、何の話をしても話題がズレていく人っていますよね。そういった人の相手をする場合、どうしたらいいんでしょうか。

開米さん:そういうときは、もうこちらの方で、相手の思考をフレームに落とし込んでいくしかないです。あちらが考えていることをどんどん言語化してあげて、「あなたも同意しましたね」というエビデンスを積み上げていくという方法がいいんじゃないですかね。向こうに「それ、俺が言いたかったことだよ!」って言わせればみんなハッピーですから。

多様化の時代は、言語化の必要性も高まる

——対面で喋っている時は普通に愛想がいいのに、メールとかになると突然よそよそしくなって「怒ってるのかな?」って思うような人っているじゃないですか。もしかしたら自分もそんな印象を与えていないかちょっと不安な時があるんですが……。

開米さん:テキストのコミュニケーション、特にメールは紙に字を書いていた手紙の頃からのスタイルを引きずってますからね。文章として回答する時に、くだけた表現を使うことって昔はまずありませんでしたから。

テキストでもカジュアルなコミュニケーションを好む人もいる一方で、あらたまった温度感が心地よく感じる人や、「仕事で受け取ったメールの表現が軽いと、舐められているように感じる」という人もいるんですよ。これはもう、コミュニケーションの文化を普段やりとりしている人の間で作るのが一番いいと思います。関係者間で「こういう温度感でやる」という共通認識を地道に作っていくしかない。

——なるほど……。ビジネスになると、やり取りをする相手の世代や立場も様々ですからね。

開米さん:「どういう温度感のコミュニケーションがちょうどいいか」というのは、会社ごと、部署ごと、もっというとチームごとに異なるんですよね。長年リモートワークをやっている会社では、いつでも「ちょっといいですか」と会話できるようカメラを切った通話ツールを仕事中は繋ぎっぱなしにしているという例もありますし。

——「ちょっといいですか」と声をかけられる気軽さはテキストにはないですからね。そうなっちゃうと、やはり感情を乗せたコミュニケーションをする場合、口頭のほうが優れている、ということになるんでしょうか。

開米さん:う~ん、そうとも言い切れないと思うんですよ。確かにテキストだと抜け落ちるニュアンスがあるのは間違い無いんですが、そもそも喋るのが苦手という人もいますよね。参加者全員でアイデアを出していくブレインストーミングにしても、そもそも会話が苦手ということだと参加しづらい。

——確かに。話しながら考えをまとめるよりも、「文章にして自分のペースで要点をまとめられるほうが、意思疎通が楽」という場合もありますし。

開米さん:会話ってかなり即興性の高いコミュニケーションなんで、その即興性の高さでカバーされてしまう部分もかなりあるんですよ。

例えば何かの問題に対して、「じっくり考えて解決策が3つ思いつく人」と、「思いつくのは早いけど1つしか思いつかない人」がいたとします。でも、3つ全部を細かく説明すると、会話の流れの中では時間がかかってしまう。その場合は後者の、「1つしか思いついていないけど、発言が早く、それに対して自信たっぷりに話す人」の方が説得力があったりするわけです。

▲即興性のある会話が得意でない人でもアイデア出しに参加しやすくなるための工夫として、「付箋に思いついたことを書いてもらう」方法もあるのだとか

——そっちのほうが頭良さそうに見えちゃうわけですね。

開米さん:ただ難しいのが、「じゃあ3つ全部に気がつく人に仕事を振った方がいいか」というと、そういうわけでもない。1つしか気がつかない人に仕事を振って、話を進めながら他のポイントに対処した方が効率がいいこともある。会議のファシリテーターは、参加者がどういうタイプか考えて、ポテンシャルを引き出す必要があるんです。

——何が正解かが場面によって違うからこそ、話を取りまとめる役割が大事になる、と。

開米さん:そもそも、言語化が必要であるというのは説明が必要であるということで、それがなぜ必要なのかといえば、きちんと説明しなければいけないほど社会が多様化・高度化したからです。

昔は、どんな商品であってもそれがひとつあれば事足りました。例えば洗濯機にしても、そもそも手で洗濯をしていた場所に持ち込むならどんな洗濯機でも歓迎されるわけで、細かく機能や利点を言語化して説明する必要がなかった。

でも今は、洗濯機なんかどの家にもあって、そこに売り込むのなら機能や大きさを言語化してアピールする必要があるし、買う側にしても「自分の家ではどのような洗濯機が必要なのか」を説明できないと店の人にも伝わらない。多様化が進むと違いを説明する必要が出てくるんです。

——つまり、現代はかつてないほど言語化の必要度が高い社会、ということになりますね。

開米さん言語化の必要性が高まっているからこそ、言語化の前に対話する相手と足並みを揃えること、言語化する前の準備を充分やっておくことの重要性も高くなっていると思います。こういった準備や気遣いをすることで、仕事でもプライベートでもより良いコミュニケーションを取れるようになってほしいですね。

文=しげる/図版とイラスト=藤田倫央/編集=伊藤 駿(ノオト

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