ヒト

「転職ではお金よりも経験を買った」BASE藤川真一(えふしん)さんに、自身のキャリアと「たられば」を聞いた

変化の激しい環境のなかで、常に市場価値を求められるエンジニア。最新技術にキャッチアップするだけでなく、役割に沿った立ち振る舞いを身につけられるかも、より良いキャリアを築くポイントです。

誰でもネットショップを開設できるサービス「BASE」を運営するBASE株式会社で、EVP of Developmentを努める「えふしん」こと藤川真一さんも、自身のキャリアのなかでさまざまな立場を経験してきました。

あるときは、製造業のエンジニアとして。あるときは、モバイル端末向けTwitterクライアント「モバツイ」の開発者として。あるときは、自身で立ち上げた会社の経営者として。そしてBASEのCTOを経て、現在に至るまで……。

ご自身の経歴を振り返って、「意思決定するタイミング次第ではもっとお金持ちになっていたかも」と話す藤川さん。自分のキャリアにはどのような「たられば」があって、その時々でどのような決断をしたのか。藤川さんに伺いました。

別業種への転身でも、「食っていけるか」は全く考えなかった

——藤川さんは製造業からキャリアをスタートされたと聞きました。

大学卒業後に就職したのがFA(ファクトリーオートメーション)装置メーカーでした。電気側のエンジニアとして入社したんですが、初日からいきなり現場作業でしたね。作業着を着せられて、板金をしたり、溶接をしたり……。電気設計の仕事をする前に、まずは製造の現場を知りなさい、という考え方の会社だったんです。

溶接って、日焼けするんですよ。耳の皮とかがボロボロになっちゃう。当時は「なんでこんなことを」と嘆いたものですが、結果的によかったと思いますね。IT業界に置き換えるなら、コードを書くところから入るようなものじゃないですか。

——「ものづくり」の基礎を現場から知っていったわけですね。

そういう意味では、その後のITエンジニアの仕事にも製造業の経験が生きているな、と感じます。「生産設備を止めてはならない」というミッションクリティカルな部分は、そのまま「サーバを24時間265日止めてはならない」というマインドにつながっていますし

一定のクオリティを保つことが、いかに大切で、いかに大変か。それを身に染みて経験した、貴重な時期だったと今は思います。

▲BASE株式会社 取締役EVP of Development 藤川真一(えふしん)さん(取材はZoomで行いました)

——製造業というハードウェアの世界から、Webというソフトウェアの世界へ転身されましたが、全く別の業界への転職に不安はありませんでしたか?

「食っていけるだろうか」みたいなことは、全く考えませんでしたね。あまりお金に執着がないのかもしれません。

実際に、2006年に当時勤めていたWeb制作会社からpaperboy&co.(現GMOペパボ株式会社)に転職したときも、前の会社で高く評価していただいたぶん、給料がとても下がったんですね。なのですが、それでも別に構わなかったんですよ。お金よりも、そこで得られる経験を買いに行くほうを大切にしました。「モバツイ」を作ったのもペパボにいた頃でしたね。

「モバツイ」開発と売却で身に染みた「経営者としての甘さ」

——「モバツイ」、自分も愛用していました。Twitterのサービス開始当初って、リツイートもリプライもなかったんですよね。

平和な時代でしたよね。最初はみんな何を書いていいかわからなくて……。

——「○○なう」とか、ゆるい書き込みばかりでした。

そもそもTwitter自体が緩くて、「モバツイ」を作ったのもサービスのバグがきっかけなんですよ。「文字数が偶数なら送信できるけど、奇数だと送れない」という謎の不具合があって、投稿前に文字数を調整しないといけなかったんです。そんな話があるかよと(笑)。それで、ツイートの入力時に文字数を調整するプログラムを書いたのが、モバツイのベースになったんです。

——最初からモバイル用途で開発されたわけじゃないんですね。

そうですね。「これならガラケーでどこでもTwitterできるじゃん!」と遊んでいるのがすごく面白くて。「Movable Twitter(ムーバブル・ツイッター)」を略して「モバツイ」という名前にしたんです。

▲「モバツイ」トップ画面。懐かしく感じる人も多いのでは?

その後、Twitter社から「うちからモバツイにリンクを貼ってあげるよ」って言われたんですよね。たぶんTwitter公式で携帯版が出るまでのつなぎだったんでしょう。それは大変ありがたいので了承したら、自宅のサーバにアクセスが集中して大変なことになって……。

——日本中のTwitterユーザーが藤川さんの家に……!

そこで慌ててAWS(Amazon Web Service)を契約して、運用費をまかなうためにGoogleアドセンスを貼って。そうしたら、だんだん収益の方が大きくなってきたんです。そして、「これを維持し続けたら生きていけるわ」と、そのまま起業してしまいました。

目の前に収入源があると甘えちゃうんですよね。後から考えると、怖い選択をしたなと思います。

——2010年にはユーザー数が100万人を突破した「モバツイ」ですが、2012年にサービスを売却し、それに伴って会社を譲渡されています。今の立場から当時の自分を振り返ってみると、どんな思いがあるでしょうか。

「たられば」は山ほどありますけど、生々しい話をするなら「モバツイを手放すタイミング次第では、もっとお金持ちになっていたかもな」とは思うんですよ(笑)

当時は「経営者というポジションを経験する」という戦略を取り続けていました。マーケティングやサービスの拡充などを通じて、ビジネスに取り組むことに興味があったんです。だから何回かあった買収のタイミングでも首を縦に振らなかった。

しかし、もっとエンジニア寄りの人間だったら「早めにサービスを売却して、グロースは別の人に任せる」みたいな、違う道に行っていたかもしれません。結局サービスを手放す適切なタイミングを逃してしまうことになってしまい、経営者としての覚悟や決断、意志の持ち方のようなものは、今よりもはるかに幼稚だったと思います

——どういう部分が「幼稚だった」と感じられますか?

周りに相談しなかったことでしょうね。全て自分でなんとかしようとしていたんです。

もっといろんな人に「この話ってどう思いますか?」と聞いていれば、より良い選択肢を見つけられたかもしれないなと。自分だけで決めようとすると、自分の見識の範囲でしか物事を考えられないんですよね。それが経営者としての考えの甘さにつながったと思っています。

若い方にアドバイスするとしたら、「信頼できる人に相談した方が、絶対にいい」と伝えたいですね。しかし、大事なのは「相談したうえで、自分で決める」こと。相手の話に流されてしまうとずっと後悔するので、あくまで自分の責任で決断しないといけないんです。

足元の「やるべきこと」をやりながら、期待値をはみ出る

——製造業、エンジニア、経営者とさまざまな立場を経験されたあと、藤川さんは40歳でBASE社のCTOに就かれています。ご自身のキャリアを描くうえで、意識されていたことはありますか?

自分で手を動かしたり、チームで仕事をしたり、いろいろ経験してきましたが、「常に意志決定に近いところにいたい」という意識は、ずっとあったと思います。

受託案件に携わっていたころは、クライアントの要件を自分の耳で聞いて整理してきましたし、自社のWebサービスも自分たちで決めながら運営してきました。BASEのCTOも、社長や役員と話し合う立ち位置です。自分にとって、それが一番楽しいんです。

「社内の誰かが言ったから」みたいなのが、すごく嫌いなんですよね。違うものは違う、という議論ができる立ち位置にいたかっただけで、計算してキャリアを描いたというより、そういう行動原理で動いてきた、という表現が近いかもしれません。

――同じ行動原理でも、キャリアのステージによって動き方も変わってくるのではと思います。

そうですね。動くにあたっては、「この先どこにいたいか」より「自分が今どこにいるか」を認識しているかが重要だと思っています。たとえば、自分を高めるために自己啓発本や成功者のビジネス本を読む人がいますよね。でも、自分とは立場の違う人に向けたビジネス本ばかり読んでいたら、「本当に自分がやらないといけないこと」に手を抜いて、足元がおろそかになってしまうんですよ

それでも高い目標に向かって駆け上がる優秀な人もいますが、自分は「まずは、足元のやるべきことをしっかりやる」「その場における役割を最大限に活かす」みたいなことを、すごく意識していました。

――まずは、「自分に求められていること」や「課せられている役割」をきちんと果たそう、と。

そうです。でも管理職になって思うのは、目の前の仕事をちゃんとこなしつつ、「ちょっとはみ出る人」は期待値が上がるんですよ。よりクオリティの高いものを作る、期限より早く終わらせる、周りより気を利かせる……なんでもいいんですが、人よりちょっと良いところにはみ出すと、周囲から期待されることが増えていきます。

自分の役割を果たしつつ、さらにそこからはみ出る。すると期待値が上がる……を繰り返していけば、どんどん高みに登っていく。

――「足元」も、立場や役割によってどんどん変わっていくわけですね。

現場のエンジニアとマネージャーでは、視座の高さも違いますからね。「自分が周りから何を期待されているか」をきちんと把握していないと、期待以上のアウトプットを出すこともできません。

逆に周囲から自分に向けられた期待を高く見積りすぎると、いわゆる“意識高い系”になりかねない……。自分の役割のなかで何を期待されているか、それに対して適切な発言ができるかは、組織で働くうえで大事なポイントかと思います。

自ら変化を乗りこなせば、もっと楽しく働ける

――これまでのキャリアを振り返って、「あのときこれをやって良かった」と思えることを教えていただけますか。

「モバツイ」を作り始めたとき、諦めなかったことでしょうか。作る前は「こんなサービス、もう1000人くらい作ってそうだな」と思ったんですよ。そこで「誰かがやるからいいか」ではなく、「かぶってもいいか」と突き進めて、手を緩めなかったのが結果的に良かったんです。

――誰でも思いつくようなことでも、実際にサービスとして形にする人は少ないですよね。

実際にやるにしても、自分が本当にやりたいこと、興味があることじゃないと続きませんから。「モバツイ」も「儲かるから」という理由で開発していたら、早々に諦めていたと思います。実際、2年以上は全く儲からず、自腹でサーバー代を払っていましたからね。それでも、いろんな人に喜んでもらえましたし、会社員とほどよく両立できるくらいのユーザー数でいられた。だから楽しく続けられたんです。

――仮に、はじめたばかりの頃からTwitter公式にリンクを張られていたら……。

とても追いつけなくて、速攻で売ったと思います(笑)。結局「モバツイ」は手放すことになるんですが、そこでいくつかの選択をしたことが、今BASEという会社でやっていることにつながっていると思うんです。

BASEでは幸運にも上場を経験しましたし、現在は(CTOを退任し)EVP of Developmentとして引き続きコミットしています。これはとても幸運なことですし、結果として正解だったんでしょうね。

――改めて、Webの仕事の面白さはどこにあると感じていらっしゃいますか?

「たくさんの人たちに影響を与えられること」に尽きると思います。特にコロナ禍の状況では、ネットの価値が相対的に高まっていますよね。

インターネットという言葉が流行ったのは25年ほど前で、当初は夢物語として語られていたことを思うと、こんなにダイナミックな変化に携われる仕事は他にないのではと感じます。

――変化そのものを楽しむ……といったイメージでしょうか。

自ら変化を乗りこなしたほうが楽しく働けるでしょうね。会社が決めた技術方針にただ従うだけなのは、楽しくないじゃないですか。

普段からトレンドに目を向けて、この技術はこういう理由で流行っていて、導入するとこういうメリットがある、としっかり勉強していれば、新たな動きがあったときに「お、うちの会社もようやくここまできたな」と思えます。それならこれも取り入れましょう、という提案もできるでしょう。

――まさに藤川さんが意識されていた「常に意志決定に近いところに」の実践ですよね。

そうですね。自分が20代30代だったころに比べると、キャリアやプログラミングの技術まで、今はネットのあちこちに情報が転がっていますし、環境としてはすごく整っていますよね。自分でサービスを作ったり、それこそ起業したり、やりたいことがやれる条件が揃っていると感じます。

ただ一方で、情報がたくさんありすぎるのも大変なんですよね。頭でっかちになったり、変に恐怖心を煽られたりもすると思います。繰り返しになりますが、信頼できる人に相談するなどして、情報を乗りこなしてもらえればいいですね。

——藤川さんご自身は、今後取り組んでいきたいことなどありますでしょうか。

一番興味があるのは、今のBASEという会社がもっと成長することです。そのなかで「エンジニア経営者」みたいなポジションを獲得できればと考えています。

正直、自分は経営者としては全然まだまだなんです。技術系の意志決定者って、技術の制約にとらわれしまうことがあるんですよ。技術的に無理だと「無理」と言ってしまいがちなんですけど、経営者としては制約に立ち向かい、あがいて、どうにか問題解決をしないといけない場面がある。それこそ、足元をしっかり固めて、引き続きBASEの成長を支えられたらと思います。

藤川 真一(えふしん)
FA装置メーカー、Web制作のベンチャーを経て、2006年にGMOペパボへ。2007年から携帯向けTwitterクライアント『モバツイ』の開発・運営を個人で開始。モバツイ譲渡後、2012年11月6日に想創社設立。モイ株式会社にてツイキャスに携わった後にBASE株式会社のCTOとしてジョイン。2019年7月からEVP of Developmentに就任。2017年9月に慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科博士課程を単位取得満期退学、2018年1月博士(メディアデザイン学)取得、同学科研究員。

(文=井上マサキ/編集=ノオト

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