ヒト

「3Dプリンターは家電感覚で使っていい」生活の幸福度をあげてくれるものづくりをDPZ石川さんに聞いた

「なんでも作れる魔法の箱」として、製造業従事者だけでなく、多くのものづくり好きからの注目を集めた3Dプリンター。多種多様な使い方やその機能に期待が集まりましたが、企業が導入することはあっても、趣味で使いたい場合は使用可能な場所が限られている状態が長く続きました。

しかし近年では、家庭用の3Dプリンターが普及するように。自宅に「魔法の箱」があれば、ものづくりがさらに身近になりそうですが、家に3Dプリンターがある生活とはどのようなものなのでしょうか?

Webサイト「デイリーポータルZ」の編集者・ライターの石川大樹さんは、自宅で3Dプリンターを活用しものづくりを楽しんでいる人のひとり。電子工作やお子さんとのものづくりなどに活用しているとのことです。

今回は、石川さんの思う3Dプリンターの魅力や、それを活用したものづくりの面白さを聞いてみました。

作り直しではなく、「アンドゥ」で試行錯誤ができる

——3Dプリンターの魅力は、ズバリなんでしょうか?

これがあれば、実用的なものに限らず、おもちゃや機械の壊れてしまった部品など、ありとあらゆるものが自宅で作れるところですね。

▲Web サイト「デイリーポータルZ」編集者・ライターの石川大樹(だいじゅ)さん(取材はオンラインで行いました)

——これまでにどのようなものを作ったのでしょう?

記事に使う写真撮影で役立っているのは、ペダルでシャッターが切れるように制作したカメラホルダーです。

僕は「電子工作をしている作業風景の写真」が記事でよく必要になるんですが、左手にもの、右手に道具を持っていたら、どうしてもシャッターが切れないんですよ。タイマーを使ってみたこともあったんですが、タイミングがズレることが多くて。

そこで足でシャッターを切れるように、ペダルと赤外線のリモコンを組み合わせ、カメラの受光部にリモコンを固定しておくためのホルダーを3Dプリンターで作りました

▲3Dプリンターで作成したカメラホルダー(写真中央の白色のパーツ)。

▲モデル作成ソフトで制作された、カメラホルダーの3Dモデル

あとは、自宅で飼っている熱帯魚のための「エサやり器」ですね。オトシンクルスという魚がいるんですが、口がお腹側に付いているので、水槽の上からエサをあげてしまうと他の熱帯魚に全て食べてられてしまうんですよ。そこで、水槽の真ん中にエサを仕込める円盤型の「エサやり器」を3Dプリンターで作りました。

▲3Dプリンターで制作された、エサやり器の3Dモデル

——もはや発明ですね!

ただ、バージョンアップを重ねていくうちに「他の素材で作ったほうがいいだろう」ということになり……。結局、同じ形状のものを別の方法で作ってしまいました(笑)。3Dプリンターで作ったものは使わなくなってしまったんですが、最初からこの形状のものを作るのは不可能なので。3Dプリンターを経由したことは無駄ではなかったと思います。

▲その後、エサやり機はアクリル板を用いて再度制作。オトシンクルスも無事にエサをゲット。よかった!

——なるほど。「とにかく作ってみる」前に、まずは3Dプリンターを使ってプロトタイプを作り様子を見てみる、という使い方もできるんですね。

「エサやり器」だけでなく、3Dプリンターで試作品を作り、改善して新しいなにかを作る。このサイクルは、ものづくりにおいては理想的な流れなんですよね。

——ちなみに、出力する際のモデリングは簡単なのでしょうか?

今は自分でもCAD(PCで使用する設計ソフト)を使ってモデリングしますが、初めは「Thingiverse(シンギバース)」というWebサイトの無料素材を利用していました。キャラクターのフィギュアをはじめ、オシャレな置物や実用的なアイテムなどが豊富に揃っているので重宝していましたよ。

Thingverseは、ユーザーが作成したデジタルデザインファイルを共有するWebサービス。フィギュアだけでなく最近はマスクストラップなど、さまざまなグッズの3Dモデルの入手が可能

その中でも、円柱の真ん中を見つける「センターファインダー」はすごく便利でした。他にもThingiverseではブームが起きる前からハンドスピナーは人気でしたし、最近だと「インポッシブルテーブル」という、浮いているように見えるテーブルが流行っています。

▲Thingiverseで入手し、3Dプリンターで出力したキーホルダー

——3Dモデリングができなくても、面白いデータを入手する方法は別にあるんですね。

今も欲しいものがあればダウンロードしますが、なければ自分でモデリングしています。3Dプリンターを使うときって、最終的に完成するのは立体物なのですが、僕が作るものは「データ」なんですよ

たとえば木工工作の場合、一度失敗してしまったら最初からやり直しじゃないですか? 電子工作も、一度基板を作り上げてしまったら、直すのが大変です。しかし、3Dプリンタはアンドゥ(undo)が効く。失敗を恐れず、色々と試すことができるんです。これが他のものづくりとは違う、3Dプリンターならではの特徴じゃないでしょうか。

クラファンで買った機種を触り「もっとちゃんとしたのが欲しい」

——石川さんは最初の機種を2017年に購入されていますが、もともと3Dプリンターに興味はあったのでしょうか?

いえ、正直そこまでの興味はなかったです。すごい機械があるな〜とは思っていましたが、わりと他人事でしたね。

——たとえば、電子工作や記事で使ってみよう、と考えたりは……。

いえ、それよりも当時は「家に置くには大きい」「値段が高い」という印象の方が強かったですね。3Dプリンタは出力に時間がかかるという話も聞いていたので、「締め切り直前に、出力でそんな長時間は待ってられないな」と(笑)

▲2012年、3Dプリンター購入前の石川さんによる記事「3Dプリンタでゴミを作る」(デイリーポータルZ)では、「3Dプリンターですごくないものを作る」というコンセプトのもと、丸めたティッシュを3Dモデル化しようとした苦労が綴られている

▲2014年の「3Dプリンタでゴミができた!!」は先の記事の続編。こちらは大学のFabスペースをフル活用して紙くずを3Dスキャン、より再現性の高い「3Dゴミ」を出力した

——では、1台目の3Dプリンターはどういった経緯で購入したのでしょうか。

たまたま「一定額を出資すると3Dプリンターが手に入る」というクラウドファンディングを見つけて。なんとなく買い物がしたい気分だったので、冗談半分で出資してみたんですよね。

——3Dプリンターを「なんとなく」購入してしまうとは……。

いえ、その3Dプリンターがキット式(※)ということもあり、79ドル(約1万円)で購入できるかなり安い機種だったんですよ。

※ メーカーからは3Dプリンターのパーツが届き、それを購入者が自身の手元で組み立てて完成させる方式。

その後しばらくしてから実機とパーツが届いたのですが、3Dプリンターの使い方云々の前に、使えるかどうかの問題でしたね(笑)。自分より早く届いた人のレビュー見ると「高確率で初期不良がある」と書かれていたり、「説明書通りに作ると壊れがち」という情報で溢れていましたから。

▲無事に組み立てた、1台目の3Dプリンター。出力方式がxyzの3軸で座標計測する一般的な3Dプリンターとは異なり、平行に動く3つのモーターによる「デルタ式」を採用していた

——使うまでのハードルが高すぎますね……。

ただ、大変でしたけど、作るのは好きだったので、そこも含めて楽しかったですよ。おそらく相場よりも安かったからこそ、そういうポジティブな気持ちでいられたんでしょうけど……。

——今ご自宅にあるのは2台目とのことですが、それはいつ頃に購入されたのでしょうか?

1台目を使い始めてから本当にすぐで、購入から1カ月も経ってなかったと思います。なんだかんだありつつも、1台目で3Dプリンターの面白さがわかったんですよ。その時に「もっとちゃんとしたものを買えば色々とできるんじゃないか」って思いました。

▲1台目の3Dプリンターで最初に出力したフィギュア。出力中に不具合があり、積層が乱れてしまっている

2台目は「JGAurora A3」という製品で、自作3Dプリンターキットの一種です。樹脂製でネジが良いなどのポジティブなレビューが多かったのでこれを選びました。

▲現在使用されている3Dプリンター。上部のパネルは、シンプルな本体を飾るため石川さんが設置した

——ある程度使いこなせるようになるまで、苦労はありましたか?

3Dモデリングは、慣れるまでに時間がかかりました。写真の編集とは違い、3Dモデリングってゼロから始める人が多いじゃないですか。決してめちゃくちゃ難しいわけではないのですが、「新しいことを始めるぞ!」という気合いが必要ですね。

——石川さんはモデリングの技術をどのように身につけていったのでしょう?

子どもに毎日「なにか作って!」とおねだりされて、夜な夜なCADを触っている時期があったんですよ(笑)。もう、作りながら慣れていくしかなかったです。今思うと、試練の日々でしたね。

▲お子さんのイラストを3Dモデル化して作成したキーホルダー

オリジナルのパーツや機械修理も。家にあるだけで、幸福度は上がる

——これまでは諦めていたけど、3Dプリンターを活用してできるようになったようなことはありますか?

たとえば、イベントで販売する電子工作キットの電池ボックスを3Dプリンターで作ったことがありました。これほど細かい部品を手作りするのは難しいのですが、3Dプリンターなら一度データを作ってしまえば、いくらでもきれいなものを大量生産できますから。

▲3Dプリンターで制作された、電子工作キットの電池ボックス

もちろん市販されている電池ボックスもあるにはあるんですが、自分が求めているちょうど良いサイズのものを見つけるのって大変じゃないですか? だったら、自分で作ってしまった方が早いと思ったんですよね。

——たしかに。探す労力やコストもバカにならなそうです。

僕が売っているキットは部品点数が多いため、ネジ1本5円でも積もり積もると、そこそこの値段になります。そこに150円の電池ボックスを詰め込もうものなら、値段が一気に上がってしまう。自作すれば、低コストで抑えられるメリットもあるんです。

▲電池ボックスを利用した、電子工作キットの完成品。振るとブザーが鳴る仕組み

なので、僕の用途では「諦めていたことができた」というよりも、「自分で苦労して作ったり探したりしていたものを、より簡単にクオリティ高く作れる」ことが嬉しかったですね。自分の手ではどうしてもうまくできなかったものが、3Dプリンターを使えばきれいな見た目のものが一度にたくさん作れるんですよ。

——ほかにはどんな部品を作りましたか?

あとは、子どものおもちゃのACアダプタでしょうか。コネクタが変わった形で、しかも別売りだったんですよね。「こんなものは死んでも買いたくない」と思っていたんですけど、自作したいがために結局購入しました(笑)。サイズを測り、形を考え、なんとか動くところまではいきましたよ。

▲純正のACアダプタ(下)と石川さんが作ったACアダプタ(上)

——なるほど。これができるようになれば、メーカーが販売中止したものも復刻したりすることもできますね。

そうですね。それに、市販されている機械やおもちゃって、パーツが1つ壊れたりするとどうしようもないですよね? そういう時に自分で直すこともできます。以前、うちの食洗機の金具が折れてしまったのですが、そこに入れるサポーターを作りました。そういった、いざという時の安心感は大きいですよ。

——自宅にある機械や道具の機能性を高めて、もの自体の寿命も伸ばしてくれるわけですね。ものづくりが好きな人以外にもオススメできそうです。

3Dプリンターの魅力って、ほかの趣味と組み合わせられるところなんですよ。たとえば、先ほどの熱帯魚もそうですし、ギターを弾くのに使うオリジナルのピックなども簡単にできます。釣りが趣味の人なんかは、ルアーなどの仕掛けを3Dプリンターで作っているそうですよ。

家にあるだけで、幸福度は上がると思いますよ。モデリングの最初の壁を越えなければならないのはネックですが、凝り性の人であればオススメです。

3Dプリンターに「つまらない使い道」は、ない

——ここまでの話で実際に3Dプリンターが欲しくなっている人もいるかと思うのですが、購入を検討するにあたって、注目したほうがいいポイントなどはありますか?

注目すべきは、3Dプリンターに壁があること。本体が箱状になっていて、出力をその内側で行う機種が使いやすいと思います。というのも、3Dプリンタは樹脂を溶かして出す機械なので、温かい環境であることが大事なんです。そのため、うちのプリンタのように壁がないと、冬場にうまく出力できなかったりするんですよ。

もちろん、ハイグレードの機種を買えば、ある程度必要な機能は付いていると思います。ただ、安くても高性能のプリンターを狙うならば、自分の欲しい機能を考えた方が良いかな、と。

——3Dプリンターも、ただ電源をいれれば動く、というわけではないんですね。

樹脂の温度だけじゃなく、ノズルの動く速さ、一層の幅など、意外と細かい設定が必要なところが多いんですよ。あとは、樹脂をしっかり定着させるためのノズル位置の調整ですね。これは紙のプリンタよりも繊細かと思います。

僕が使っている機種も機嫌を取りながら使わないといけないのが大変なので、ぶっちゃけると最近はちょっと放置気味なんですよね(笑)。今は紙のプリンターと同じような、家電感覚で気軽に使える新しい機種が欲しいな、と思っています。

▲デイリーポータルZのライター松本圭司さんは、3Dプリンターで手に装着してスマホを支えるためのガジェット「孫指」を制作して話題に。「普段はものづくりをやらない人でも、アイデアさえあれば3Dプリンターは使いこなせるのでは」(石川さん)

——これから3Dプリンターの購入を考えている人にアドバイスはありますか?

今なら、5万〜6万円の完成品がオススメです。自分でいろいろと調整する必要もなく、便利な機能を搭載していますから。組み立て式は節約したい、かつ根性のある人はチャレンジしてもいいかもしれません。経験上、多少の苦労はあると思いますが……(笑)。

他にも、3Dプリンターにはさまざまな方式があることを知っておいたほうがいいかもしれないですね。FDM(熱溶解積層法)方式とSLA(光造形)方式の2種類が一般的で、前者はランニングコストを抑えられ扱いやすいですが、後者はフィギュアのような細かい造形が得意です。

出力するものにこだわりがなく、とにかく使ってみたいという人はFDM方式を選ぶのが間違いないと思います。我が家の3Dプリンターは両方ともFDM方式のものです。

——そして、まずはThingverseからなにか出力してみる、と。

最初はThingiverseのものを片っ端から出力するだけでも感動すると思いますよ。

「3Dプリンターに、つまらない使い道はない」と僕は思っているんです。もちろん人から見たら「こんなもの作ってどうするの?」と思われるかもしれません。けど、変なものや極めてパーソナルなものを出力しても許されるんですよ。だって、みんなが価値を感じるものだったら、とっくに製品化して売られているはずですから。

自分が作りたい、欲しいと思うものには自分だけが感じられる価値がある。それを簡単に体現してくれるのが3Dプリンターの魅力でしょうね。

【取材協力】石川大樹さん
Webサイト「デイリーポータルZ」の編集者・ライター。「しょうゆを自動でかけすぎる機械」「メガネに指紋をつける機械」など、嫌がらせ分野を中心として雑な電子工作を制作。DIYギャグ作家。 2014年7月にイベント「技術力の低い人 限定ロボコン(通称:ヘボコン)」を開催、以降ヘボコンマスターとしても活躍。現在25カ国にて130以上の大会が開催されています。趣味はワールドミュージック収集。
デイリーポータルZ:https://dailyportalz.jp/

(取材・文:小野洋平(やじろべえ)/編集:ノオト

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