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農業と無縁のソフト会社が最先端の農業支援ツールを開発。エンジニアの技術を駆使した「アグリーフ」誕生物語

データプロセス株式会社は1968年に創業。以来、50年もの間企業のITの現場を支えてきました。主な活躍の場は、製造業や金融、化学、情報サービスといった約8つの業種。これらの業界でソフトウェアの開発のほか、大手企業のITに関するインフラサポート、様々なデバイスを活用した新しいシステム開発などを手掛けてきました。


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▲「アグリーフ」は2017年、2018年連続で「関西次世代農業EXPO」に出展

そして2015年からは農業の分野にも進出し、SNS型の営農支援クラウドサービス「アグリーフ -agrLeaf-」をスタート。これまで「勘」や「経験値」に頼ってきた農業を、センサーを駆使し、土壌や気候などを「数値化」。それにより生産性や効率が向上するとあって、農業関係者から注目を集めています。

今回は、このサービスを担う主要メンバーにインタビュー。農業とは全く縁のなかったIT企業が、なぜ最先端の農業に携わることになったのか。その深層に迫ります。




IoTを活用して“効率的な農業”へ。農場を「見える化」する「アグリーフ」

畑を見てまわり土壌を確認し、作物に水をやり、農作業を管理する――農作物を育てて収穫するには、それなりに手間暇がかかります。しかも毎年一定の品質で収穫するためには、農業従事者の知識や経験が必要です。

それは極端に言うなら、農業に関わる人の「主観」で成り立っているようなもの。しかし高齢化が急速に進むこの業界において、後継者が不足したり、1人あたりの作業量が増加しつつある現状をふまえると、主観だけに頼らない新たな農業を必要とする時代に突入したといえます。

そこで関心を集めているのが新サービス「アグリーフ」です。大きな特長は4つ。


1 農場の環境を数値で「見える化」
様々なセンサーを使って、土壌の水分や土壌温度、土壌栄養(EC)、気温、湿度、照度、日射量などを数値化。作物の収穫日程を予測できる「積算温度」の計算も可能です。


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▲データを取りたい場所に、このセンサーを埋め込むと土壌水分、土壌温度、土壌栄養(EC)を測定ができる


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▲基本的な動作は全てスマートフォンの中で操作ができる


2 農場の水やりを自動化
予め水管を畑に這わせておき、指定した時間に好みの水量を自動的に与えることができます。


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▲水やり設定では、好みの名称をつけたり、リピート設定も可能


3 作業管理の自動記録
指定の場所に設置した発信機(ビーコン)を、作業者のスマホが検知。いつ誰がどれだけ作業したかを自動的に記録できます。また、この画面にはセンサーの測定値が警戒レベルに達した場合の警告も表示されます。


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▲チャット画面のように細かく記録化される


4 1~3の作業やデータを手元で確認できる
1、3で記録されたデータは、センサーと同じく畑に設置された「IoTゲートウェイ」のインターネット回線を介して、クラウドサーバへ集約され、スマートフォンへ届きます。また2の水やりは、スマートフォンからの水やりの指示をインターネット経由で畑に設置された「通信ユニット」へ伝えることができます。

現場へ行かなければできなかった作業を遠隔操作できたり、農作物の生育環境や作業管理を数値化し、データとして手元に残せること。
これらの大きな魅力には、データプロセスが培ってきた、プログラム開発の技術が大いに活用されています。
※始めにアグリーフのアプリをスマートフォンへダウンロードしておくことが必要です。




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▲IoT技術を活用し、作業を自動化したり省略化できる

また、自動首振りカメラを使って、畑に現れる動物を追尾撮影する獣害対策にも取り組み始めています。


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▲自動首振りカメラの追尾機能で、畑に侵入した動物を撮影


このシステムについて、専務取締役の奥田任克さん、アグリーフの実務を担当しているシステムエンジニアの新美崇宏さん、アグリーフの収益などビジネス面を担う、新美さんの上司の林文章さんに伺いました。


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▲左から新美崇宏さん、奥田任克さん、林文章さん




きっかけは「自分たちにしかできないことをやろう」だった

―「アグリーフ」は、御社のこれまでの業務とは全く別の分野ですが、開発に至った経緯を教えてください。

奥田さん「当社はソフトウェアの開発などを仕事にしてきました。しかしそれだけでは他社との違いを出しにくい現状があったため、今我々が持っている技術を駆使して『面白いことをできないか』と。競合他社とはちょっと違うことをやってみたい、というのが始まりでした。
その中でなぜアグリーフだったのか、というと、事の発端は私の家族にあります。私と妻の実家はともに農家ですが、妻の実家は、奈良県の「針」に近い海抜約600メートルの山間部で、野菜を露地栽培しています。周辺の地域よりも気温が低いので、時期をずらして出荷しています。つまり他の地域とは環境が違うので、妻と『今日は寒いな。針は今頃何度くらいやろな』と話していたとき、知りたい場所の気温が手元で分かればいいのに、と思ったんです。
我が社の仕事柄、センサーはいっぱいあるし、もともと僕自身は若い時分に自動車の生産ラインのシステム開発を担当していたこともあって、気軽な気持ちで始めました。」



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―始まりは農業問題ありきのプロダクトではなかった、ということでしょうか。

奥田さん「その通りです。『こんなんあったらええんちゃうか』という、攻めの姿勢からのスタートでした。ですから、2017年に農業関係者向けの展示会「関西次世代農業EXPO」に初出展した時は、来場者からすればまだまだ未完成のようなもので『積算温度は計れないのか』『〇〇はシステムに入っていないのか』などと、たくさんご意見をいただきましたね。僕も当時は農業のことをよく知らなかったので、『積算温度って何ですか』と、お客様から逆に説明していただく、という場面もありました。そして今年は昨年のご要望を反映し、バージョンアップさせた最新版を出展しました。
『農業問題ありきではない』とはいえど、明日は我が身の気持ちもあります。というのも僕の両親も高齢化しているので、いつかは畑を引き継がなければならない。しかし、今のままでは両親がどのように農業をしていたか、情報の詳細がないんです。もし農業を教えてくれる人がいなくなってしまったら、後継者の僕は何もできなくなる。
農作業の日誌もありますが、その内容は備忘録程度で素人目には分かりにくい。そこで農業のデータがあれば、いつ何をやるかといった具体的な作業を把握することができますよね。」



自然が相手の開発は思いがけない苦労の連続

―アグリーフが商品化されるまで、どれくらい時間がかかりましたか?

新美さん「2015年に方針を固めて、約1年で商品化にこぎつけた感じです。」

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―1年程度だと商品化まですごく速いイメージです。

新美さん「これまでの技術を活用しているので、ものを作ること自体の期間はそんな長くかからないんですよ。」

奥田さん「ただ、あれをしたい、これをしたいといった要望を反映させたり、トラブル対策を考えるのに時間がかかりました。でも技術者からすると、そのプロセスが意外と楽しいんです。『こういう風にしたらできるんちゃうの』とか、お酒をのみながらわいわい話したりしてね。」

新美さん「社内外のいろんな人と会話をしていく中で、いろんなアイディアが生まれたり、コラボレーションができたり。この仕事をしていると、人と人とのつながりの中で生まれてくるものがあるんですよ。」



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―自然が相手の商品ということは、予測不可能なトラブルに見舞われたこともあるのでは?

奥田さん「兵庫県丹波地方の農家さんで実際に起こった事例ですが、水やりのパイプが凍ってしまったことがありましたね。水やりの機能自体は正常に動くのですが、バルブを開いてもパイプの中が凍ってしまって水が出ないっていう。丹波地方は寒暖の差が激しい土地なので、パイプが気温の変化についていけなかったんです。」

―他にも、例えば北海道と沖縄のように環境が極端に違うところや、台風が来やすい地域、水害が起こりやすい場所といった、自然のトラブルはどのように対応しているのでしょうか。

奥田さん「設置前に、自然による懸念事項があることをお客様にご説明しています。もう一つは、そのようなトラブルが発生した際の一つひとつの対応事例が、解決例として蓄積されていく。解決策が増えていくほど『こういった条件の時は装置を高めに設置してください』など、こちらからご提案できるようになるということ。例えば葉が成長しすぎたことが原因で電波が飛ばなくなった時は、誰にも原因がわかりませんでした。『昨日まで動いていたのになんでやねん』、と。『電池が悪いんちゃうか』から始まって、あれでもない、これでもない、と丁寧に原因を探っていって。この解決策を見つけるのに大分時間がかかりましたね。」



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新美さん「自然といえば動物も然りで、『畑にイノシシが出る』という声も出てきたので、『どれだけ来ているかわかれば対策ができるよね』ということで、カメラを設置して撮影しましょう、と。でも電源がなかったら撮影はできないので、電源も用意しましょう……といった形で、『あれがあればいいよね』と言われたり、自分たちで気づきがあれば、それに対して問題を解決していく。
実際、奈良でセンサーを置かせてもらっているところは電源を引っ張ってこれない地域なので、それが大きな難関になりました。電源が取れないなら、ソーラーパネルとバッテリーを置いて使える装置を探そうよ、と。装置がないなら、自分たちで組み合わせて作ろう、と。
作って設置してはみたものの、『バッテリーが切れました』とか『電波が届かない』とか、稼働してからもトラブルはいくらでも発生するんですね。『じゃあ電波を強くするために設置場所を変えましょう』と提案したり、ソーラー発電していても日当たりが悪いと発電力が少なくなるので『向きを変えよう』とか。実はブースにあった獣害対策のカメラは、いろんな製品を組み合わせて作ったものなんです。」

奥田さん「Wi-Fiをとばせるように設置場所を何度も変更したり、バッテリーやソーラーパネル自体を何度も交換してね。使う製品をそのまま組み合わせるのではなく、カスタマイズしてセッティングしています。センサーを設置した当初はバッテリーを交換したり、装置の線が外れてしまって『直しに来て』と言われたり。僕はメンテナンス要員ですよ(笑)。」




自分たちの技術を活かした、新しい分野への挑戦がやりがいにつながる

―アグリーフを開発されて、よかったこと。達成感を感じたことは?

林さん「エンジニアとして楽しい、おもしろいと感じる技術であれば、それを何とかして活かしたいし、それを会社がやらせてくれているのが大きいですね。そうやってやっていくと、社内のモチベーションも上がるし、エンジニアとしての心をくすぐるような企画だと思っています。」


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―システムエンジニアのモチベーションや、自分がやってきたことの仕事のイメージが変わりましたか?

林さん「エンジニアとして、というよりは、全然違う要素に対して今までやってこなかったことに携われるのはすごく新鮮に感じていますね。」

新美さん「エンジニアにとっては、最先端の技術に携われるということだけでテンションが上がるんですよ(笑)。やはり企業の中でシステムの一部をゴリゴリ作るだけではなくて、最新のものに触れられることは楽しいですね。」

奥田さん「『アグリーフはほんまに動くのか』というゼロからのスタートなので、動くはずなのに動かないトラブルに直面した時、その状況を楽しいと思うか、しんどいと思うかは人による。面白いと思える人間がどんどんやればいいのではないでしょうか。」



農業従事者の後継者育成や、AIと連携させたさらなるブラッシュアップを目指す

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―アグリーフを農業の分野でいかしていくための、今後の展望を教えてください。

新美さん「アグリーフは後継者育成につながると思っています。農業の担い手が少なくなるのが見えている業界なので、できるだけ省力化していくことを推し進めていかなければなりません。自動化できることは自動化して、農家さんが手をかけないといけないところに集中できるように、引き続きお手伝いしていきたいですね。」

奥田さん「僕はそろそろ会社をリタイアして、米作りをしたいと思っている。そうするには、自分がラクをして農業ができるようにしたい。『今日は草引きをしてきなさい』と指示されたり、『あと1週間待って』とお願いしたら『ダメです』と叱られるとか、AI的な農業。そういうのも面白いんじゃないか、と考えています。



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先に問題解決があったのではなく、「自分たちの技術を活かしてもっと面白いことをやってやろう」というチャレンジングなマインドがあったからこそ、アグリーフが誕生したと言えます。その前向きな姿勢が、奥田さんをはじめ皆さんの言葉の端々から感じ取ることができました。

ソフト会社が始めた最先端の農業支援技術は、将来の日本の農業を担う大きな一助となるに違いありません。


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