家族や友達のように「なんとなく察する」が通じない仕事での人間関係は、自分の思いを相手にわかりやすく伝えるコミュニケーションスキルが求められます。Chatwork や Slack のようなオンラインのチャットツールを使いこなすエンジニアは対面してやり取りをするコミュニケーションの機会が少ないように思われているかもしれません。
しかし開発工程にはディレクターやデザイナーなどさまざまな職種の人たちが関わっているため、自分がつくったプロダクトを技術的観点で説明するスキルがエンジニアには必要なのです。今回は立場や考え方のちがう人と意思疎通する際にエンジニアが使っているコミュニケーション術をお教えします。
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組織でのナレッジ共有を円滑にするのは「共通言語」
共通言語とは、日本語や英語といった広義の言葉ではなく業界やチームのように同じコミュニティに属する人たちのあいだで共通する認識をもつための言葉をさします。
例えば「シナジー」という言葉の直接的な意味あいは「共同作用」ですが、IT業界では多くの人が「他の事業とシナジーを生む」など相乗効果を意味して使います。つまり共通言語は定義を統一した言葉を使って組織内でのナレッジ共有を円滑にする組織マネジメント手法のひとつです。
Material Design と HIG、ガイドラインという軸が開発フェーズでのブレをなくす
Googleが開発・提供しているスマートデバイス向けの開発OS、Androidには「Material Design(マテリアルデザイン)」というガイドラインがアプリケーション開発で推奨されています。一方でAppleの製品であるiPhoneやiPadに搭載されているOS、iOSでは「Human Interface Guideline」というガイドラインが公式に配布されています。
アプリ開発においてこのガイドラインは、しばしば「共通言語」として使用されます。ここにある言葉や思想をアプリ開発の軸として現場に取り入れているということです。時にはデザイナーや外部スタッフとの打合せの際も、円滑なコミュニケーションのために必要な環境は、共通言語をつくることだといわれています。
共通の正しさをもち、同じ目線で、同じ場で作ること。そうして軸をつくることで、もしアイディアに迷ったときや制作が滞ったときも一旦そのガイドラインに立ち戻ることができ、職種によって異なる認識の差も解消できるため、エンジニアにとっては必須のアイテムとなっています。
認識のズレをなくすために、コミュニケーションを密にする
アプリ開発の現場で共通言語が最も必要になるのは、アプリのデザイン設計段階です。どんなUIが適切なのか、エンジニアとデザイナーは Material Design や HIG をもとにプロダクトが出来上がるイメージを相互に議論します。
デザイン設計においては、「ユーザーの声や行動に耳を傾ける」「ユーザーのニーズに合わせた提案や設計をする」ことはよく聞きますが、これはユーザーだけでなく、一緒に仕事をするエンジニアとデザイナーにも適応できます。すぐ側にいる相手のことを考慮した上で提案ができないのであれば、その先のユーザー相手にはもっと難しいという考えからです。
だからこそ、設計段階からエンジニアとデザイナー間でこうした密なコミュニケーションをとることによって、開発チーム内での意識のギャップをなくし、結果的にそれが開発のアウトプットやスピードアップにもつながります。生じる認識のズレで大きな時間とコストがかかってしまうよりは、設計段階からエンジニアとデザイナー間でコミュニケーションに手間を惜しまないことが重要です。
エンジニアは常に客観的に議論できる場を整備している
円滑なコミュニケーションに必要なのは、上手な会話テクニックよりも共通認識を持ちやすいコミュニケーション環境を整えること。エンジニアはアプリ開発のガイドラインを共通言語に、デザイナーと話しあうことでプロダクトの正しさを客観的に議論できる環境を整備しています。職場で立場のちがう人とコミュニケーションをとるこのようなテクニック、一度取り入れてみてはいかがでしょうか。
(執筆:小田直美)