大切なことは本から学んだ!敏腕CTOの知識の宝庫「本棚」をのぞいてみよう[第1回 FiNC南野充則]

エンジニアという職業は、知れば知るほど奥が深い。

デジタルの世界に生きる彼らが、普段の学習や思想を学ぶ術として絶えず紙の本を利用していることがその例として上げられます。

ご紹介したいのは、そんな敏腕エンジニアたちが自分の生き方を形作ってきたといっても過言ではない本の世界。彼らの本棚を一度のぞいてみることで、若手エンジニアやビジネスパーソンにとっての多くの学びとなることもあると思います。

本棚を見ればエンジニアの優劣がわかるという人もいるほど、本選びにはエンジニアのある種の資質が映し出されるのかもしれません。今回、初の試みでもあるこの企画に快く応じていただいたのは、モバイルヘルスケアに特化したテクノロジーベンチャーFiNCの取締役CTO南野さんです。

読書量は月8冊。必然性から生まれた南野さんの“速読術”とは?

11月某日、銀座にあるFiNCのオフィスにお邪魔しました。

—あの、談笑中にすいません。ちょっと本棚を見せていただきたいのですが…

南野:あ、いいですよ。どうぞ。

南野:会社の本棚なので、いつも1冊読み終えたら良かった箇所に付箋をつけて「何章のここが良かったから読んどいて」と、社内のエンジニアに回したりしていますね。

—月何冊ぐらい読まれるんですか?

南野:最近は、だいたい8冊ぐらいは読みます。

—週2冊のペース、かなりの速読ですよね。1冊あたり、どれくらいで読み終わりますか?

南野:2時間ぐらいですかね。会う人に会う人に薦められた本は絶対買うようにしてるんですよ。だからすぐに何冊も溜まっていくので、読む時間はいつも確保しています。

全ページをしっかり読むんじゃなくて、まず目次を見て、どこをまず重点的に読もうかとある程度の目星を決めるんですよ。だから基本的に章単位で読みます。すべての章に興味があったらそのときは全部ですけど、基本的には大事なところだけを抽出するような読み方をしています。

その方がサッと読めたりしますね。そんな感じなので、特に速読という意識はしていません。

—こちらは、今回ご紹介いただく書籍でしょうか?

南野:はい、5冊ほど紹介させてもらいます。エンジニアに成り立ての頃からはじまり、弊社のCTOになるまでの変遷がこれでちょっと理解していただけると思います。

コードの癖を正す!チームワークで開発を進める上で必須の名著


【概要】「コードは理解しやすくなければならない」という原則を日々のコーディングの様々な場面に当てはめて紹介。名前の付け方、コメントの書き方など表面上の改善について。コードを動かすための制御フロー、論理式、変数などループとロジックについてを解説。

—1冊目は『リーダブルコード』。これはコードを書くためのテクニック集でしょうか?

南野:『リーダブルコード』は、僕が最初にエンジニアになった大学3年の時に読みました。プログラマーって自分の好きなようにコードを書くので、複数人で開発する時も名称や数値などがバラバラになってしまうときがあって。

そうすると、人の書いたコードには癖があるので、読みにくい思いをしたり、自分も読みやすくしてないと一緒にプロジェクトをする仲間とはできないじゃないですか。

この本は、こういった理念で名前や数値をつけたほうが良いとか、コードはこういう方が見やすいとか、テクニックの標準化がベースになっているので、当時はこれを指針にして開発を進めていましたね。

—そうなんですね。読んで独りよがりにならずに、チームワークで開発する上では必須だと。

南野:そうです。当時、大学で電力システムの研究室にいて開発補佐と2、3人でベンチャーを立ち上げました。そこで、例えばプロジェクトに新しい人が入ってきた時に、「a」っていう変数に何か入れる時に、aなので次に「b」を予測するじゃないですか。それを「a1」とかやる人もいるんですよ。

こういったチームプレイを円滑に進めたいという課題を解決してくれたのがこの本ですね。

職種の枠をこえて意思統一を図る。高速でPDCAをまわす方法論をこの1冊から学ぶ


【概要】「コードを実行するのはコンピュータかもしれないが、そのコードを生み出し、保守するのは私たち人間なんだ」という主旨のもと、アジャイル開発手法をユーモアを交えてわかりやすく解説。

—2冊目が『アジャイルサムライ』。

南野:これは、プロジェクトどう進めていくと良いかという話が主題になっている本です。特に、僕の大学時代の会社は自作開発をしていたのでプロジェクトの大小がさまざまでした。

小さなプロジェクトは僕たちの自由にできることが多いけれど、大きなプロジェクトだと、いろいろな影響範囲の人が出てきて作ること自体が目的になり、最後作り終わった後に、これ実際に使えるのか?という結果になってしまう案件もあったりしたんです。

そういった、大きなプロジェクトに対して、チームをそんなに大きくせず、小さなチームをいくつも組み合わせてプロジェクトを柔軟にまわして短期に納品し、常にプロジェクトやプロダクトを進化させていく思想を学びましたね。

ビジネスって目的がその都度で変わるじゃないですか。だから、そこをズラさずにプロジェクトを成長させていけるんです。

—よりミニマムに事業を進めていく時に必要なのですね。

南野:そうですね。例えば、リーンで開発していく手法をチームとしてどう受け止めていくかというとき、デザイナーやプランナー、エンジニアがいて、その目的を統一しないとバラバラになってしまいます。

エンジニアは効率的に開発をしたい、プランナーは企画を面白くしたい、デザイナーは良いデザインをしたいとか。そんな思いをひとつにまとめながら、短期間でどんどん提案していき、みんなが本当の目的に沿ってプロジェクトを成長させられるということを記した理想的な本です。

—いつの時代でも読み継がれていきそうな普遍性がありますね。

南野:発行から数年経ってますけど、今の時代にも通じるものがありますよ。

特にスタートアップだとビジネスも変化するし、ニーズも変化する、ユーザーの気持ちも変わってしまうなど、実際に開発して出してみないとわからないという部分があると思うので、それを高速で仮説をPDCAを作ってまわしていくことを可能にしてくれたのもこの本の凄みですね。

データベースの整理・移行を徹底的に論理化した、著者奥野氏の思想に惚れ込んだ1冊


【概要】データベースを使ったアプリケーション開発経験があるエンジニアを対象に、リレーショナルモデルを理解し、より効率的にデータベース設計を行い、適切にSQLを使いこなすために必要な知識をまとめています。

南野:これ、今回の中で一番好きです。

—『理論から学ぶデータベース実践入門』ですね。

南野:著者の奥野幹也さんは、データベースにおける日本の権威だと僕は思っています。経験値が高く、トップ・オブ・ザ・トップのデータベースエンジニアなんです。リレーショナルデータベースっていう、MySQLというデータベースがあるんですけど、まずここから説明しますね。

一般的にwebとかアプリを使ってる時にみんなの使うデータベースが、このリレーショナルデータベースなんです。なぜ使われているのかというと整合性を保ちやすいんですよ。

銀行のATMとかにも使われてますけど、たくさんのデータが集まるとデータの配列がズレたりするんですね。そのズレを無くす仕組みが、リレーショナルデータベースです。それを具体的にどう運用するのかを1冊にまとめてくれているのがこの奥野幹也さんの名著なんです。


▲南野さんとFiNCエンジニアチームのみなさん

ある時、たまたま弊社の社員に奥野さんの友人がいて、一度来社いただいたことがあるんです。そのときにデータベースの講義をしていただき、僕は本にサインももらって、それをエンジニアチームで輪読したことがあります。

—本書の中で、具体的に業務の参考になったのはどの部分でしょうか?

南野:この本には、リレーショナルデータベースを扱う上で困難とされることがすべて解決に向かって書かれているんですよね。その中で最も参考になったのが、「キャッシュテーブル」ですね。

例えば、売上などが全部入ってるデータがあったときに、合計したり平均化したり計算をしたいところじゃないですか。会社を数値分析する時など特に。もし、それを毎回手動で計算していたら結構時間がかかりますよね。その時にどうするかという話です。

そもそも「キャッシュテーブル」というのは何かというと、計算式を入れておくデータベースなんですけど、作りすぎると保守が大変なんですね。どこに何が入ってるのか分からなくなる。

その際に最小限のキャッシュの作り方とか、キャッシュとどう向き合うかみたいな話は、もう眉唾ですね。また、エンジニアにとって面倒な「データベースの移行」の話もあります。特にサイトのリニューアル時など、デザインは変わってもデータは変わらないのでどう影響するのかが心配になります。

例えば、Facebookだと写真1枚の掲載だったのが複数に変更されると、そもそもデータコードが変わるんです。すると全く違う入れ物になるんで、それをどう移行させるかが問題になってきます。写真データやソーシャルデータは消せないじゃないですか。

そんな時に役立つ手順が、ここには書いてあるんですよ。

マネジメント視点でGoogleを見ると、より多くの学びが得られる


【概要】Googleの人事トップが採用・育成・評価のすべてを初めて語った1冊。創造性を生み出す、新しい「働き方」の原理を全公開。

—こちらはまだ記憶に新しい1冊ですね。

南野:これも好きですね。『How Google Works』とすごく似てるんですけど。エンジニアの実務というより、CTOになって採用とか組織作りの方にも注力しなければいけないので、その学習の一環です。

—マネジメント側に移ってからは、読む本も変わったということでしょうか?

南野:そうですね。要するに採用やプランニング、社内の活性化などを意識している今は、この本に書かれているGoogleがどういう困難にぶち当たったのかがとても気になります。

もちろんGoogleはエンジニアの憧れなので、僕は弊社のエンジニアにもそのぐらいの人になってほしいと思いながら、どういう制度取り入れようとかを考えながら読んでました。案外お金を使ってるようでGoogleって全然使ってないんですよ(笑)

会社のコストではなくて、制度を取り入れるという文化なんですよね。

—採用の思想や制度づくりも素晴らしいですよね。

南野:弊社にいない優秀な人をどう引っ張ってくるかとか、そのために人事のホスピタリティはどうあるべきだとか。

でも、それで採ってきた人でさえも、採用のフィルタリングがしっかりかかっていて優秀な人しか入れない。そういった上手い仕組みづくりは本当に勉強になります。

面白いビジョンやストーリーがあればみんな楽しく働ける!


【概要】驚異的な頭脳と集中力、激しすぎる情熱とパワーで宇宙ロケットから超高性能の電気自動車まで「不可能」を次々と実現させてきた男、イーロン・マスクのすべてを描いた1冊。

—こちらもまたタイムリーな1冊ですね。『イーロン・マスク 未来を創る男』

南野:これ実は嫁に勧められたんです(笑)。以前から嫁は、スタートアップとかベンチャーが好きではなかったんですけど、最近ちょっとベンチャー思考になったきたんですよ。それって、この本がきっかけなんです。

そこからいろんなものを読み出して勉強して、最近ベンチャーへの理解を得たのはいいんですが、その代わり「なんでイーロン・マスクみたいなことやってないの?」とかハードルの高いこと言われてかなり参ってます(笑)

—では、ご夫婦共通の1冊ということですね(笑)。

南野:はい。なのでこの本は今の興味関心から面白く読んでいます。例えばイーロン・マスクって遊ぶ時は遊ぶんですけど、仕事する時はがむしゃらに働くんですよ。そういったことがとても面白い。例えばパーティーの時は、古城を借りしきってスケール大きく遊びつくしたりとか。

それぐらい、遊びと仕事の強弱って大事だと思います。今だと、スペースXは土曜日も働いてる人って結構いるらしいんですよ。イーロン・マスクが土曜日に本書の取材だったんですけど、オフィスに行ったら人がいてインタビュアーが「すごい働いてますね」と言ったら、「いや甘い、これじゃまだ稼げていないよ」と言うんですよ。

—成功する人はストイックだと思います。

南野:結局、面白いビジョンであったり、ストーリーがあれば、みんな楽しく働けるじゃないですか。もちろんつらくてやめちゃう人もいるかもしれないんですけど、そういった夢中になれることをつくり出せる人ってすごいなと思いました。

結局プロダクトも一緒で、これが開発できたらどれだけ世界を変えられるかなどのイメージがあるからこそ、エンジニアって一生懸命にコーディングも頑張れるし、つらいバグとも戦えると思っています。そういう仕組みを作れる人になりたいと、この本を読んで改めて思いました。

読んでも使わないと意味がない!読書後はアクションプランを5つ作る

—最後になりますが、ネット媒体と紙の本との違いってどのように感じてますか?

南野:どうですかね。ネットの方が小分けになってまとまってたりするんですけど、結局、原本は紙にあったりするので本に頼ってしまいますね。あまりエンジニア系の本で実際にしっかりまとまっているものは、今回紹介したものを含めてあまり多くはないと思います。だからこそ貴重と言えますね。

あと、人に紹介しやすいのが本の良いところですね。社内で回し読みするとか。

—テーマを共有するには、本としてのものがあると良いですね。

南野:はい。さらにそれから読んだ後は、僕は5つぐらいアクションアイテム(行動プラン)出すようにしています。結局、読んでも使わないと意味がないと思っているので、チャットでチームメンバーに報告するんです。

例えば、人事の内容なら人事部の仲間に、プログラムだったらエンジニア部に、この辺りをやっていこうぜ、みたいなメッセージを送ります。そうやって、読んだらパスするように行動に移していきます。

—そうやってチーム間や社内全体にまで、意識の共有とアクションプランの提案をされているんですね。今回は本を通して南野さんの仕事観から人柄まで伺えました。本日は貴重なお話をありがとうございました。


南野充則(なんの みつのり)
株式会社FiNC取締役CTO

1989年生まれ。東京大学工学部卒。大学在学中に株式会社MEDICAなど2社を創業する。また株式会社イトクロより出資を受けソーシャル就活サイト「JOBOOK」開発。東京大学在籍中に「再生エネルギー蓄電池導入シミュレーションの開発&研究」というテーマで国際学会で世界一の座を争い「BEST STUDENT AWARD」を受賞。その他にも薬価検索サイト「MEDICA大手コンビニチェーンに導入されているOTCレコメンドシステム「ANZOO」、無電化地域向け電力管理アプリ等の開発も手がける。

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